大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)5号 判決

原告

(オハイオ州)

アドレソグラフ・マルテイグラフ・コーポレーション

代理人弁護士

仲村昭

復代理人弁護士

山野一郎

同弁理士

市東市之介

被告

特許庁長官

井土武久

指定代理人

斉藤昌己

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実《省略》

理由

(争いのない事実)

一  〈略〉

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二原告は、その主張の二点において、本件審決が認定判断を誤つた違法がある旨主張するが、いずれも理由がない。

(一)  「PHOTO―DIRECT」は写真製版の一方法をあらわす文字か否かについて。

〈書証〉によると、昭和四三年六月一〇日発行の引用文献には、写真製版技術としての平版製版法には一般的分類として五つの方法、すなわちダイレクトイメージトランスファー法、フォトケミカルトランスファー法、フォトダイレクト法、電子写真法およびフォトリソ法(普通写真平版法)があり、そのうちフォトダイレクト法に関する説明として、本件審決認定のとおりの記載があることを認めることができ、また、〈書証〉を総合検討すれば、昭和四三年一〇月ごろには、わが国の軽印刷工業界において、フォト・ダイレクト・プロセス(略称PDP)の語が、版材に直接写真を撮る写真製版法を意味する言葉として一般に用いられていたことを認めることができる。〈反証排斥略〉

そして、本願商標「「PHOTO―DIRECT」が英語の「PHOTO」と「DIRECT」とを結合した造語であることは、原告の主張に徴しても明らかであり、本願商標の指定商品である写真製版機械器具その他の印刷機械器具の取引者、需要者においてこれを「フォト・ダイレクト」と音読諒解しうるものであることは、我々の常識上も明らかである。したがつて、前認定の諸事実を総合すれば、本件審決が、引用文献の記載を根拠として、本願商標を構成する「PHOTO―DIRECT」の文字が写真を製版する場合の一方法をあらわすものと認定したことは相当であり、本願商標を右方法による写真製版機械器具について用いた場合に、取引者、需要者が単にその商品の構造、用途、使用方法等を示すものとして認識するにすぎないと判断したことに、過誤はないといわなければならない。

右の点につき、原告は、まず、商標法第三条第一項第三号の適用判断の基準時は、商標登録の出願時であるから、本願商標の登録出願の後に刊行された引用文献を判断の資料とすることは許されない旨主張するが、同条項の適用判断の基準時は、査定または審決の時と解するのが相当である。けだし、商標法第三条第一項は、商標の登録に関する積極的な要件ないしは商標の一般的登録要件に関する規定、換言すれば、登録を出願している商標がそれ自体取引上自他の商品を識別する機能を有すべきことを登録の要件とする趣旨の規定であつて、同項各号にかかる識別的機能を有しないものを列挙し、このようなものについては登録を拒絶すべきことを法定したものというべく、したがつて、このような要件の存否の判断は、行政処分(商標登録の許否が一の行政処分であることはいうまでもない。)の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合におけると同じく、特別の規定の存しない限り、行政処分時、すなわち査定時または審決時を基準としてすべきものと解するのが相当であるからである(この理は、登録阻却要件を定めた商標法第四条第一項についても同様であつて、同条第三項がこれについての例外的規定を設けていることも、このように解することによつてその合理性を首肯することができるとともに、同条におけるこのような例外的規定の設定の事実は、第三条について前叙のごとき解釈をすることの相当な所以を裏づけるものともいうことができよう。)もつとも、このように解した場合、かりに特許庁が不当に査定ないし審決を遷延することがあつたとすると、その間に出願人が登録出願をしている商標について登録要件が欠けるに至り、その結果出願人が不当な不利益をこうむるという事態の発生が絶無であることを保しがたいが、このような不当な不利益は別途にこれが救済を受けうべく、かかる事態の発生のおそれがあることを理由に、法律上何ら特別規定がないにもかかわらず、商標登録に関する処分に限り、通常一般の場合と例を異にし、行政処分すなわち商標登録についての要件の存否を行政処分の申請時すなわち商標登録の出願時を基準として判断決定するというごとき解釈は、当裁判所の到底採用しがたいところである。したがつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。

次に、原告は、引用文献の記載は、原告の子会社である日本アドレソグラフが日本において販売した写真製版機械であるフォト・ダイレクト・カメラ・プロセッサーまたはフォト・ダイレクト・プロセス・エクイップを使用しての写真製版法をフォトダイレクト法と名づけ、右機械について紹介したものにすぎない旨主張するが、引用文献の記載は一般的な写真製版法の説明にすぎず、原告の製造にかかる写真製版機械とは直接関連もないものであることは、さきの認定事実から明らかであるから、原告の右主張も採用することができない。

(二)  本願商標は使用による顕著性を有するか否かについて。〈証拠〉を総合すれば、原告の子会社である日本アドレソグラフは、昭和三八年頃から、原告会社の製品である写真製版機械AM七〇五フォト・ダイレクト・カメラ・プロセッサー、AM七〇六フォト・ダイレクト・カメラ・プロセッサー、ロバートソン・メテオライト・カメラ・モデルMTD―一〇、ローダー・プロセッサー・モデル一四二五を輸入して版売しはじめ、昭和四五年までに合計一四二セットを販売したこと、これらの機械には、たとえば、「PHOTO―DIRECT CAMERA PROCESSOR」とその名称を表示してあり、また、これらの機械を使用する写真製版方法を「A―M Photo Direct Process」(AMフォート・ダイレクト・プロセス)と称して広告宣伝したことを認めることはできるけれども、さらに右認定の写真製版機械に本願商標を構成する「PHOTO―DIRECT」の文字を商標としての態様において使用して宣伝販売したことについては、証人辻美通の証言中これと同趣旨の部分は、右認定の事実に照らし、採用することができず、他にこれを認めるに十分な証拠がない。

したがつて、本願商標が使用による顕著性を具備するにいたつた旨の原告の主張は、すでにその前提において理由がなく、採用しえないといわざるをえない。

(むすび)

三以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。よつて、これを棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して、主文のとおり判決する。

(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

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