大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(く)1号 決定

申立人 大石守男

決  定

(抗告申立人氏名略)

右抗告申立人は東京地方裁判所裁判官渡部吉隆を被疑者とする公務員職権濫用被疑事件について昭和四十六年十二月二十七日東京地方裁判所が為した付審判請求棄却決定に対し抗告の申立をしたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は申立人大石守男作成提出の抗告申立書記載のとおりであるからここにこれを引用する。

所論の要旨は、原審には法律に従つて判決裁判所を構成せず、請求人に対し一言の審尋すら為さず、口頭弁論の機会を付与することもなく、審判の公開に関する憲法の規定に違反し、審判の請求を受けた事件について判決をしなかつた違法があるばかりでなく、原決定には事実誤認の違法があるから、右決定が無効であるとの確認判決を求める、というにある。

本件抗告の当否を判定するに当つては、まず刑事訴訟法第二百六十二条に基く付審判請求に対する裁判所の審理手続の性格等を明らかにする要があると認められるので、この点について検討するに、右同法同条第一項の審判請求についての審理及び裁判は、同条同項に掲げる罪に付ての告訴又は告発事件に対する検察官の不起訴処分の存在を前提とし、右事件について告訴又は告発をした者が、右不起訴処分に不服があるため、当該事件を裁判所の審判に付せられたい旨の請求をした場合に為されるものではあるが、元来公訴権は検察官に専属し、被疑事件について公訴を提起すると否とは検察官の自由裁量処分に委ねられ(同法第二百四十七条、第二百四十八条、第二百五十七条参照)、裁判所は、検察官が公訴を提起しないことの当否については判断を為し得ないのであり(昭和二十五年四月二十四日東京高等裁判所判決、高裁民事判例集三巻一号五八頁以下参照)、従つて、右審判請求についての審理及び裁判は、検察官の不起訴処分の当否を判断することを直接の目的とする事後審的性質のものではなく、検察官がそれまでに為した捜査の続行として、検察官から刑事訴訟規則第百七十一条により送付を受けた書類及び証拠物を検討し、必要があるときは更に事実の取調をしたうえ(刑事訴訟法第二百六十五条第二項参照)、右請求そのものとして理由があるかどうか、即ち事件を、裁判所の審判に付するに足るべき犯罪の嫌疑があるかどうかを、裁判所独自の見地より判断する公訴提起前の手続であつて(昭和三十二年二月二十二日東京高等裁判所決定、高裁刑事判例集一〇巻一号八七頁以下参照)、その審理手続の実質は、検察官の捜査に続行する裁判所による捜査に外ならないものと解すべく、抗告人の主張する如く、検察官の不起訴処分を審理及び裁判の対象とし、右処分の不当を主張して裁判所に提訴した請求人と右不起訴処分をした検察官とを対立当事者となし、その双方を手続に関与させ、公開の法廷において互いに主張及び立証を尽させ、その結果に基づいて裁判所が不起訴処分の当否を審査し公訴権の行使を是正するという本来の訴訟手続ではないのである。かように、右審判請求についての審理手続は、対立当事者の存在を前提とする本来の訴訟手続ではなくて、公訴提起前の捜査手続に外ならないものと解せられる以上、その手続を公開し、請求人又はその代理人を手続に関与させるというが如き、公訴の提起によつて両当事者が対立する本来の訴訟関係の存在を前提とする諸規定は本件の審理手続にはこれを適用し若しくは準用すべきものでないことはいうまでもない。

所論中、原審における訴訟手続の違背を主張する点は、いずれも通常の刑事訴訟手続における違法を主張するものであるから、いずれもこれを採用することはできない。

次に論旨中、原決定には事実誤認があるとの点については、一件記録に依るも東京地方裁判所裁判官渡部吉隆が申立人の提訴した訴訟の審理に当つて職権を濫用して申立人の権利の行使を妨害したというが如き事実は認められず、検察官の為した本件不起訴処分は洵に正当であるというべきであるから、この事実を認定した原決定に事実誤認の廉はなく、所論は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第四百二十六条第一項に則り本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

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