大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(う)84号 判決

被告人 高井博

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用の全部は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人及び被告人が提出した各控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官が提出した答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

弁護人の控訴趣意について

所論は、道路交通法四条五項の規定を受けて定められている昭和三五年一二月七日総理府・建設省令第三号道路標識・区画線及び道路標示に関する命令二条によると、一時停止を表示する規制標識は、「車両及び路面電車が一時停止すべきことを指定する交差点又はその手前の直近の必要な地点における路端」に設置すべき旨規定されているのに、本件現場の一時停止の規制標識は、交差点から約一〇メートル以上離れた道路左側端に設置されていて、右命令の定める直近の地点に当たらず、また、停止線の道路標示は指示標示で規制の効力を有しないものであるから、交通規制は無効であり、本件現場は、道路標識等により一時停止すべきことが指定されている場所とはいえないのに、これを肯定した原判決は事実を誤認するものである、というのである。

所論指摘の命令二条は、その別表第一の中で、一時停止の規制標識の設置場所を、所論引用のとおり、「車両及び路面電車が一時停止すべきことを指定する交差点又はその手前の直近の必要な地点における路端」と定めるとともに、同表の備考二で、「道路の形状その他の理由により、道路標識(高速道路等に設置する警戒標識を除く。以下この号において同じ。)をこの表の設置場所の欄に定める位置に設置することができない場合又はこれらの位置に設置することにより道路標識が著しく見えにくくなるおそれがある場合においては、これらの位置以外の位置に設置することができる。」としているのである。

ところで、一時停止の規制標識を設置する理由は、車両等の運転者に、一時停止すべきことが指定されている交差点であることを的確に知らせ、過誤なく一時停止させるためであるから、そのことを念頭において右命令二条を考察すると、交差点の入口の手前の「直近の必要な地点」というのは、文字どおり、すぐそばであることを絶対的な要件としているわけではなく、交差点の入口付近の路端の状況、交差点の入口に向かう車両等の運転者から見た、交差点の入口の路端及びその手前付近の見とおしの状況、他の交差点の有無等を考慮して、車両等を運転している運転者からよく見え、かつ、その一時停止の規制標識が一時停止すべきことを指定されている交差点のものであることが一見してわかるほどに近い場所であることを必要とし、かつ、それで足りるものと解するのが相当である。

そして、当審における事実取調の結果によると、原判示交差点は、各交差道路がそれぞれ幅員を異にしているうえに、すみ切りの施された部分もあつて、被告人の進行した道路からの交差点の入口は、その進行方向の左寄りがより手前になり、右寄りがより向こうになつている変形交差点であること、被告人が進行した道路から、交差点の入口の左端方向を望見すると、その左端の位置の手前六・二メートルの所にコンクリート製の電力柱が立つているため、その向う側付近の見とおしが悪いこと、一時停止の規制標識は、右電力柱に設置されていたこと、規制標識が電力柱に設置されたのは、電力柱の向う側に標識柱を建植して、これに規制標識を設置すると、電力柱の陰になつてよく見えないと判断されたためであること、右の電力柱の付近には、原判示交差点以外の交差点はないことが認められるものであつて、これらの事実関係からすると、本件一時停止の規制標識は、被告人が進行した道路を車両等を運転して進行する運転者からよく見え、かつ、原判示交差点のものであることが一見してわかる位置に設置されていたものということができ、この位置は、右命令二条にいう「直近の必要な地点」に当たるものというべきである。

なお、関谷平吉の検察官に対する供述調書には、本件一時停止の規制標識は交差点の手前一〇メートルの位置に設置されていた旨の記載があるが、これは、一時停止の指定の適否等が問題になつていなかつた当時に、交差点の入口の位置などを厳格に決定することなく、おおよその関係位置を供述しているに過ぎないもので、当審における事実取消の結果に対比して、にわかに信用できない。

論旨は理由がない。

被告人の控訴趣意について

所論は、被告人は一時停止しているのに、一時停止しなかつたと認定した原判決は事実を誤認するものである、というのである。

しかし、原判決が掲記する関係証拠によると、原判示事実は優に認められ、誤認があるとは思われない。

論旨は理由がない。

そこで、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、同法一八一条一項本文に従い、当審における訴訟費用の全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本武志 門馬良夫 小田健司)

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