大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(く)237号 決定

被告人 木村泰子

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告の趣意は、千葉地方検察庁検察官検事河野芳雄作成名義の抗告及び裁判の執行停止申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

所論は、原裁判所は、被告人の申立に基づき、被告人の保釈制限住居の変更を許可したけれども、本件の罪質、保釈が許可された経緯、変更後の住居の性質などに鑑みると、右変更許可決定は失当であつて、取り消されるべきであるというのである。

よつて、記録を調査して検討すると、本件公訴事実は、被告人が、新東京国際空港開港阻止闘争の一環として、多数の者と共謀のうえ、航空法に違反する鉄塔を設置し、火炎びん等を準備して集合し、警察官らにこれを投げつけるなどして公務を妨害し、警察官らを傷害したというもので、罪証隠滅のおそれの多い事案であるところ、原裁判所は、昭和五四年二月一九日、制限住居を兵庫県明石市所在の肩書住居と定めて保釈を許可したものであるが、右保釈許可に至るまでの経緯に徴しても、右は、同所に住む被告人の実父木村長泰を身柄引受人として、被告人を同人の監督に服させ、被告人が罪証隠滅、逃亡等の行動に出ないことを担保するものと認めたことによるものと解される。

ところで、変更を許可された新たな制限住居は、三里塚・芝山連合空港反対同盟婦人行動隊員である柳川初枝方で、同女方には同女の息子柳川秀夫も同居しているところ、右柳川秀夫は、公務執行妨害、傷害、傷害致死被告事件(いわゆる東峯十字路事件)で起訴され、審理中の身であつて、被告人は、同女方に居住してこれらの者と接触することにより、同種犯行に陥り、逃亡し、あるいは罪証を隠滅するなどのおそれが高まるものと憂慮される。また、被告人は、昭和五四年二月二三日、釈放されてから、当初の保釈制限住居である明石市の実父方に居住していなかつた疑いが濃く、これが保釈取消事由に当るか否かの点はともかく、被告人が右のとおり当初の約束を守らなかつたものと思われる以上、被告人が今後新たな保釈制限住居に居住を続けるか否かも疑わしく、約束に背いて団結小舎等に居住するおそれもなしとしない。なお、被告人が保釈されてから現在まで、本案事件の審理は、被告人らの意見陳述のみで、証拠調は一切行なわれていないから、保釈許可当時と現在とで、罪証隠滅のおそれに変りはない。

そうだとすれば、被告人が明石市より公判期日に出頭する時間的、経済的負担などの点を斟酌するとしても、被告人の保釈制限住居の変更を許可した原決定は、裁量の範囲を超えたものであつて、失当であり、取消を免れない。

よつて、刑事訴訟法四二六条二項により原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 綿引紳郎 藤野豊 三好清一)

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