大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)489号 決定

抗告人

三成イーエンドエム株式会社

右代表者

石本博巳

右代理人

菅野谷純正

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二記録によれば、次の事実が認められる。

1  本件競売の対象物件は、千葉市松波一丁目一番一宅地62.14平方メートルほか六筆の山林(いずれも現況宅地)又は宅地(以上七筆の合計面積は3085.66平方メートル)及びその地上にある鉄筋コンクリート造陸屋根八階建遊技場兼駐車場一棟(床面積合計1万4462.81平方メートル)であり、その最低競売価額(一括)は、当初、一六億〇六〇三万六〇〇〇円と定められたが、数回実施された競売期日において競買人が出頭しなかつたため、最低競売価額は逐次減額され、昭和五四年四月一一日午前一〇時と指定された競売期日の公告においては、五億二七三六万円と定められた。

2  右競売期日においては、最初の競買申出価額五億七〇三〇万円から逐次せり上げられ、三〇数番目に競買の申出をしたミツマ商事株式会社(以下ミツマ商事という。)から六億五六〇〇万円の競買申出があつた段階で、競買人の中から保証金の点検を促す声があつたため、執行官において、ミツマ商事提供の保証金が入つていた包を明けたところ、現金一〇〇〇万円とともに、株式会社埼玉銀行所沢支店長が、同支店を支払人として振出した金額五〇〇〇万円の小切手一通、金額一〇〇〇万円の小切手二通(金額合計七〇〇〇万円)が出てきたので、競売場内は騒然となつた。

3  そこで、執行官は、休憩を宣して退場したが、約一時間後に再開した競売において、ミツマ商事は競買人として資格がない旨述べ、改めて前記最低競売価額からの競買申出の催告をしたうえ、五億三六〇〇万円の競買申出をした抗告人を最高価競買人、同金額を最高価競買価額と呼上げて、競売期日の終局を告知した。

4  これに対し、債務者兼物件所有者基和産業株式会社、ミツマ商事(事務所所在地は埼玉県所沢市)及び利害関係人島藤建設工業株式会社の三社から、それぞれ原裁判所に対し、競落許可に対する異議申立があつたが、その申立理由の要旨は、いずれも、民事訴訟法第六六四条所定の有価証券に関する執行官の見解は不当であるというものである。そして、原裁判所は、右異議申立を認容して、原決定をした。

三当裁判所の判断

1 民事訴訟法第六六四条にいう有価証券とは、すべての有価証券をさすのではなく、同法第一一二条所定の有価証券と同様、現金に代るものとして相当と認められる有価証券をいうものと解するのが相当であり、その相当性の判断は執行官の裁量に任されているものというべきである。

しかしながら、競買の申出人から提供された有価証券が競買の保証として相当であるかどうかを判断するに際しては、執行官はその有価証券に現金と同視しうるほどの信用性及び確実性が存在するかどうかという観点から判断すべきである。したがつて、提供された有価証券に右信用性及び確実性の存在することが明らかに認められるような場合には、同法第六六四条にいう有価証券に該当すると判断すべきであり、右のような場合において、当該有価証券についてこれと異なる判断をすることは、前記裁量の範囲を逸脱し、許されないものと解するのが相当である。

2 ところで、本件の場合には、競買申出人であるミツマ商事が競買の保証として提供した有価証券は、前記埼玉銀行所沢支店長振出の小切手であるところ、現代社会においては、いわゆる預手と呼ばれる市中銀行振出の小切手は、現金と同視しうる程度に価値があり、その変動性もほとんどなく、換価も確実かつ容易なものと一般に評価されており、また、国税徴収法第一〇〇条第一項においても、公売財産の入札又はせり売に係る買受の申込者が納付すべき公売保証金について、銀行振出の小切手を現金と同視する旨規定されていることにかんがみ、前記埼玉銀行所沢支店長振出の小切手は、同法第六六四条にいう有価証券に該当するものと解するのが相当である。

とくに、本件においては、ミツマ商事が用意した競買保証金の額は、前記小切手の分をも含めると、八〇〇〇万円にも達し、その事務所も埼玉県所沢市に所在するのであるから、仮に、現金八〇〇〇万円を携帯して本件競売の実施された千葉市まで行き、最高価競買人とならなかつたときはそれを再び持帰るものとすれば、その間に非常な危険を伴い、また、日本銀行振出の小切手を入手するには、時間的制約その他の都合で不便である場合もあるから、本件のような場合には、信用性及び確実性の点で前記のような高い評価をうけている市中銀行の支店長振出の小切手を右競買の保証として認めるのが相当である。

3  以上の理由により、本件競買期日において、執行官がミツマ商事から競買の保証として提供された前記小切手を同法第六六四条の有価証券に該当しないものと判断したことは、前記裁量の範囲を逸脱したものというべきであり、右判断を前提としてミツマ商事に競買人としての資格がないものとした措置は不相当であるから、前記三社からの異議申立を認容して本件競落を許可しなかつた原決定は、相当というべきである。

4  その他本件記録を精査しても、原決定を取消すべき違法の点は発見できない。

四よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(枡田文郎 日野原昌 佐藤栄一)

〔抗告の趣旨〕 千葉地方裁判所が同庁昭和四九年(ケ)第一一八号不動産任意競売事件につき、昭和五四年四月一六日言渡した競落不許可決定を取消し、さらに相当の裁判をもとめる。

〔抗告の理由〕 一、抗告人は、債権者株式会社千葉相互銀行、債務者兼所有者基和産業株式会社間の千葉地方裁判所昭和四九年(ケ)第一一八号不動産競売事件につき、別紙不動産に対し昭和五四年四月一一日同裁判所における競売期日に最高価の競買申出をしたものであり、競落不許可の決定に因り損失を被むるものである。

二、しかして、右競買申出に対し、債務者兼所有者東京都千代田区麹町二丁目三番一号、基和産業株式会社、所沢市日吉町一一番一九号、ミツマ商事株式会社、東京都港区赤坂八丁目五番三四号、島藤建設工業株式会社から異議申立がなされ、前記裁判所は「当裁判所は申立人等の申立を正当と認め、つぎのとおり決定する。本件競落を許可しない。」との決定をした。

三、原審の前項の判断は、異議申立人等の如何なる申立をとりあげて、その申立を正当と判断したかは決定書に記載なく不明であるが、抗告人は異議申立はいずれも正当な理由がないと考える。前記競売手続は、全て適法に行なわれ競売法第三〇条、第三二条に準用される民事訴訟法第六七二条、第六七四条、第六七五条、第六七八条による不許可の事由は何ら存しない。

四、前記異議申立人らの異議申立の理由は、担当執行官に対するいわれなき誹謗や、あたかも談合行為があつたかの如き記載は全く理由のないとるに足りないものである。

異議申立人らが、その主たる理由にしていると思われる競買申出人が競買申出をする場合の保証金についての民事訴訟法第六六四条に定める有価証券は、如何なる範囲のものをいい、また、有価証券をもつて保証金とする場合に事前に執行官の許可を得ておく必要があるのではないかという問題である。

異議申立人らの申立が事実とすれば、競買申出のために所謂セリに参加していた異議申立人の一人であるミツマ商事株式会社は、保証金として現金一〇〇〇万円の外、株式会社埼玉銀行所沢支店長振出の小切手三枚(額面合計金七〇〇〇万円)を執行官に預けていたとのことである。

(中略)

法的にも、実際の競売における取扱においても、民訴法第六六四条の有価証券の範囲の問題は執行官に委されており、執行官の判断を尊重すべきものである。有価証券といつてもその種類は多く、裁判所の保証金の性質から最も信用性のある日本銀行の振出す小切手以外は認められないという判断解釈は、まさに正当なものと言わねばならない。

銀行振出の小切手を認めると地方銀行、相互銀行、信用金庫、信用組合、農協とその他の金融機関となつて、その限界は極めて不明確であり、これらが一般私企業であることを考えると、その小切手が不渡になる可能性は十分考えられるところである。また、これらの小切手を有効とするとこれらと信用度において差がない一般私企業、特に上場会社等の小切手も同様有効となつてその歯止めがなくなることになる。

従つて、私企業振出の有価証券の場合は事前に執行官の許可を得たもの以外は無効であつて、本件の如く事前に許可のない場合無効とした執行官の判断に何らの誤りはない。

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