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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)59号 判決

茨城県水戸市大工町一丁目二番三〇号

控訴人

株式会社 田園

右代表者代表取締役

李晃子

右訴訟代理人弁護士

佐藤義弥

上田誠吉

岡部保男

茨城県水戸市北見町一番一七号

被控訴人

水戸税務署長

右指定代理人

瀬戸正義

新村雄治

阿島丈夫

藤田亘

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一双方の申立て

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  控訴人は原判決二丁表六行目から同丁裏一〇行目までと同丁一二行目から三丁表三行目までに記載のとおりの判決を求めたので、これをここに引用する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次のとおり付加したほか、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これをここに引用する(但し、六丁裏三行目の「当時」の次に「の」を加入する)。

控訴人

(甲事件について)

一  仮名預金の帰属について

1 佐藤繁名義(その後大山鉄男、沼尾猛名義に変わる。)の普通預金は、李三奎が昭和三五年九月一二日に常盤相互銀行宇都宮支店から借受けた五〇〇万円(給付貸付金)の一部によって同月一五日開設したものであるから、李三奎に帰属するものである。

2 佐藤繁名義の普通預金と同じ日に開設された控訴人の当座預金は、栃木相互銀行本店にあった控訴人の当座預金の残一一三万四八三九円全額が解約されて、そのままその日に常盤相互銀行宇都宮支店に預入されて開設されたものであって、その資金は、李三奎の前記借入金ではない。

遠山謙二名義の別段預金と李三奎貸付金利息ほかの支払、また同預金と控訴人の当座預金の開設は、銀行の伝票番号は続いているが、これは預入れや支払が相次いで処理されたことを示しているに過ぎず、資金の流れを示しているものではなく、また銀行の出納番号のつながりもない。

3 控訴人の当座預金から控訴人振出しの小切手によって佐藤繁名義の普通預金口座に預入された金は、会社経理と個人経理とが峻別されていないため、李三奎個人が自己の金員をもって控訴人の諸経費を支払った立替払金に対する支払であり、この支払の受入れを李三奎の仮名預金のうち専ら佐藤繁、大山鉄男、沼尾猛名義の普通預金口座に限ったのは、他と混同することなく合理的に処理するためからであった。

4 本件仮名預金への入金の多くが控訴人の公表売上げと一定の割合をなしているのは、李三奎が常盤相互銀行から融資を受けるため、営業の信用を得る目的で故意に仮装したものである。

控訴人の右主張を更に事実にもとづいて詳述すれば、次のとおりである。

(一) 李三奎は、昭和三五年九月一五日、それまで取引のあった栃木相互銀行からは金融を受けうる見込みがないので、常盤相互銀行からこれを受ける目的で、控訴人の栃木相互銀行の当座預金の残金全額を払戻し、これをもって同日常盤相互銀行宇都宮支店に新たに当座預金口座を開設し、同時に前示個人の借入金をもって佐藤繁名義の普通預金口座を開設した。

(二) 李三奎は、常盤相互銀行から融資を受けるためには、喫茶店等を営業とする控訴人がふさわしいものと考え、李三奎個人の資金を控訴人の隠し預金であるものの如く仮装して、本件の毎日の預金を佐藤繁名義預金口座の開設と同時に始めたのである。したがって、控訴人の売上げと一定の割合をもつように毎日の預金の額を調整したもので、これは、銀行をして、この仮名預金は控訴人の日々の売上除外にもとづく税務署に対しては秘匿された預金であると思わしめ、貸付の問題が禀議されたときにこれが無条件で控訴人の預金と認定され、異議が生じないことを期待してなされた深慮にもとづくからくりであって、途中で仮名を佐藤繁から大山鉄男へ、同人から沼尾猛へと変更したのも、この手のこんだ策の一環である。

(三) 仮名預金が控訴人に帰属するものの如く銀行に信用させるために、控訴人の当座預金の取引銀行と同一の常盤銀行宇都宮支店にこれを開設し預金した。

(四) 現実に仮名預金に入金された割合は、昭和三七年四月から六月までは、控訴人の売上げとは三分七分でこの間毎月の売上げが下降してきたので、これに対応して安定収入があるように見せるため、七月四日から売上げとは四分六分に変更し、更に売上げが下降していったため、八月一日から売上げとは五分五分に変更し、売上げが減少した月であっても、なんとか仮名預金への入金額を増し、合計が一ケ月二〇〇万円を下廻ることがないように苦心し、控訴人が安定した収入を得ているように仮装し、その旨銀行に信用されるように、仮名預金への入金を運用した。もし控訴人が売上げを除外して預金したものとすれば、売上げが多い時には除外預金が多くなり、売上げが少い時には、除外預金は少くなる筋合いである。

(五) 公表帳簿売上げを一〇とし、これに対し、仮名預金の預金額が一定の割合を保つようにするよりは、公表帳簿売上げと仮名預金の合計を一〇としこれに対し一定の割合を保つようにすることが計算上困難であるといっても、後者も公表帳簿売上げに〈省略〉、〈省略〉等を乗ずれば良く、必ずしも複雑な計算を要しない。公表帳簿売上げと仮名預金との割合が、両者の合算額に対し一定の割合になっていれば、まず合計額があって、それを一定の割合で配分したものと見られ易いのであって、控訴人は、若干計算が複雑になるにせよ、わざわざそのように見られることを欲して、即ち銀行にそのような錯覚を抱いてもらうために、この方法をとったのである。

(六) 仮名預金(沼尾猛名義の普通預金)は、昭和三九年二月八日をもって入金が終り、三月一九日をもって払戻しも終っており、その後被控訴人のいう「裏預金」はその片鱗をも見出しえない。これは李三奎の立場からいえば、当時既に水戸への進出が本格化し、宇都宮の資金は全て処分する方針が決められ、宇都宮に於て融資を受ける必要がなくなり、かつ後述のように同一銀行である常盤相互銀行水戸支店から融資を受けうる見通しがついたことから、「裏預金」とみせかけて、李三奎の個人預金を出し入れしていた「工作」の必要が消滅したからである。

(七) 控訴人の売上除外ではなく、李三奎の個人資金による本件融資工作により、同人の信用が高まった効果として、昭和三七年二月六日、宇都宮でなく水戸に於て李三奎、朴奇花連名で常盤相互銀行水戸支店より一〇〇〇万円の融資を受け、控訴人が水戸に移転した昭和四〇年には、控訴人が保証人兼担保提供者となって、右同様に、合計九〇〇〇万円の融資を受けられるまでに至った。

(八) 沼尾猛名義の普通預金が解約された後においても、控訴人の売上げは、第一、第二事業年度の同期のそれに比して変化がない。被控訴人は、控訴人が何らかの方法で売上除外をしているものと主張するが、如何なる方法でこれをしたかの推定すらできないのであり、これはむしろ本件預金への入金それ自体が売上除外の入金ではないことを示すものである。

(九) 本件融資工作の資金源

李三奎は、その昭和三六年の所得は二三八万円で、控訴人会社のほかに、多数の個人営業を持っていて、資金はそれぞれに動いており、仮名預金に入金する資金にはこと欠かなかった。日々仮名預金に入金する資金は、通常は、四、五〇万円の金をたらい回しすることによって優に可能であり、毎日の預金について一定の時に適宜払出しをしているので毎月末の残をみると、せいぜい一〇〇万程度の金があればこの運用ができ、時に一ケ月の残が二〇〇万円を超える時期があるのも、それに見合う個人資金の入金があったことが預金元帳により明白である。また、被控訴人も個人預金であることを争わない松本稔、西沢敏雄名義の預金口座にも毎日のように頻繁な入出金がある。これらの事情を併せ考えると、入金に見合う預金源が他に存在することは明らかである。

二  売上計上もれ加算について

1 第三事業年度の二月から九月までの所得について

第三事業年度には、仮名預金もなく、簿外仕入もない。どこから簿外仕入をし、売上除外した金員をどこに持って行ったか、その片鱗すらない。しかも同年度の一〇月一日以降の公表売上げについては、従前とほぼ同一であるのに、売上除外の認定がなされていない。三九年一〇月以後に売上除外がないとすれば、同年九月以前も売上除外がないと認めるのが相当である。

右によれば、第三事業年度の二月から九月については、所得の推計の根拠はない。

2 前項に徴してみれば、第一、第二の各事業年度の売上除外の認定、ひいては仮名預金の帰属に関する認定について再検討がなされるべきである。

3 控訴人の所得の推計について

(一) 通常の客の回転率を基礎として控訴人の所得を推計し、これが公表帳簿の売上げに合致するか、仮名預金を合算したものに合致するかを検討する。

(二) 控訴人の喫茶部は、その頃の一般の音楽喫茶と同様に、レコード演奏室と音楽鑑賞席を設け、顧客の要望に応じ音楽を流すいわゆる音楽喫茶で、うす暗い音楽鑑賞席は、若い男女の絶好のあいびきの場所であったから、椅子の回転率(一日平均の来客数を常時使用される椅子の数で割った数)はおのずから低く、昭和三八年、三九年当時の音楽喫茶の回転率は三ないし四であった。

(三) この回転率を昭和三八年一〇月一日からの事業年度を例にとって次のとおり試算すると、控訴人の申告によった場合が、三・五五で常識的なものであるのに、被控訴人の更正によった場合は、五・七六で現実性に乏しい。

(1) 昭和三八年一〇月一日からの事業年度の売上高

控訴人の申告 二一六七万二一八七円

被控訴人の更正 二五一五万二三四六円

(2) 同事業年度の営業日数 三六三日

(3) 客単価 八四円

コーヒー七〇円×一・二(甲第二四号証)=八四円

(4) 椅子の脚数 二〇〇脚

建物の構造上、一階から三階への階段はあったが二階から三階への階段がなく、一、二階が満席にならないうちは客を三階に昇らせないでいたことから三階の常時使用椅子は八一脚のうち四九脚とみて、一階六六脚、二階八五脚との合計二〇〇脚

(5) 算式

回転率=(1)÷(2)÷(3)÷(4)

4 李三奎が仮名預金に入金する資金にはこと欠かず、この入金に見合う預金源が他にあったことは、既述のとおりである。

三  簿外仕入の推計について

1 売上除外があれば、当然それに対応する簿外仕入が存在することは経験則の示すところであり、従って簿外仕入の存否が売上除外の認定の前提となるが、本訴上、簿外仕入の存在を裏付ける具体的、合理的根拠はない。被控訴人主張の仕入認容額は調査売上金額から逆算した単なる計算上の数額であり、これは調査売上金額の正当性が否定されれば被控訴人の簿外仕入の推計は否定され、かつ、簿外仕入の推計が調査売上金額の正当性を根拠づけず、逆に、調査売上金額は仕入額によっては何ら裏付けられていない。

2 被控訴人が、係争年度について簿外仕入として主張しているのは、虎屋本店の昭和三九年九月分のみであり、これ以外には一切なく、かつその証拠関係は、控訴人の裏取引を証明する何らの信憑性をも有しないし、簿外仕入が昭和三九年九月にあったとすれば、同月分の公表及び簿外を総合した売上げが他の月に比べて相当額増加していなければならないが、そのような事実はない。虎屋本店の現金取引帳簿に記載の現金売上分は、控訴人従業員の個人消費分で、ある時期、従業員の中で横流しをする者がいてかなりの額になったので注意してやめさせたいということに過ぎず、これが仮に同年九月のこととしても乙第一四二号証の摘示するものすべてを含むものではなく、控訴人従業員以外の他の業者との取引分が含まれているものである。

3 渡辺商店関係についても、被控訴人提出の証拠は信憑性がないばかりか、昭和三五年一月から三六年一月までの本件係争年度とは全く何の関係もない時期のものであって、これをもって、本件簿外仕入の推計資料とはできない。

四  馬山会名義の李三奎貸付金に対する支払利息について

1 本件借入金は、昭和三二年一〇月三〇日、控訴人設立の直後に、店舗の建築資金として、控訴人が当時馬山会(馬山会出身の在日朝鮮人の無尽の集り)代表であった李奎振から、金銭消費貸借公正証書により、借受けた形になっているが、その実質は李三奎から借受けたものである。

2 本件借入金は、昭和三七年九月二六日、債務弁済契約公正証書により弁済期日を変更し、昭和四三年三月、控訴人が朝銀茨城信用組合から一〇〇〇万円の融資を受けた際、李三奎に対し弁済された。

3 本件係争事業年度以降に、本件原処分と同時に更正処分をすることが可能な事業年度が少くとも二つあったにも拘わらず、損金否認の更正処分が行われていないのは、税務当局も借入金の存在を認めていた証左である。

4 李三奎よりの馬山会名義の借入金の存在は、事実であり、従ってこれに対する利息の支払も架空のものではない。この李三奎に対する利息の支払が、本件仮名預金に払込まれている事実は、この預金が李三奎個人に帰属することを示すものである。

五  交際費について

1 否認された交際費のうち、佐藤ら仮名預金に預入されたものは、第一事業年度につき一八回の支払のうち五回だけであり、第二事業年度につき一二回の支払のうち、六回にすぎず、その他の支払はすべて、現金で社長らに支払われている。さらに佐藤ら仮名預金に預入された交際費は、その一部はそのまま、直接に預入されており、他の一部は被控訴人主張のとおり、別途の諸経費支払と合算されて預入されたものである。つまり、これらの事実はすべて李三奎個人が立替払をした交際費について、のちに弁済のために預入されたことを示している。したがって、むしろ、これらの事実は社長らに真実交際費として支払われた事実があることを示しているのである。

2 本件交際費のような、いわゆる渡し切り交際費については、当時の旧所得税基本通達一一八により、第一に「事業のためで且つ事績の明らかなもの」は、交際費として損金となり、第二に、前者以外の、いわゆる使途不明金については、その支給を受けた者の給与となり、その支給を受けた者が使用人であれば給与として損金とすることに取扱われている。したがって、本件交際費の支出を受けた者が、その使途を明らかにできず、いわゆる使途不明金と認定され、交際費としての損金は否認されても、従業員給与としての損金性を有するのである。

3 なお、第三事業年度においては、同じ交際費が否認されていない。

(乙事件について、なお、甲事件のうち源泉徴収所得税に関する部分を含む。)

一  源泉徴収告知処分について

1 第一次納税告知処分が昭和四二年一一月一〇日になされ、これに対する不服審査に対する裁決が昭和四三年一〇月二五日になされたので、控訴人は、昭和四四年二月二八日、この裁決を経た後の右処分について取消訴訟を提起したところ、被控訴人は同年九月二九日、裁決にある昭和三七年一二月分のみを残してすべての告知処分を取消す旨の訂正通知をなした。したがって、控訴人が昭和三七年一二月分以外の告知処分がなくなったものと考えるには、それなりの理由があったのである。しかるに被控訴人は、同日付で第二次納税告知処分として、昭和三九年一一月の課税分と全く同一内容の納税告知処分をした。この間の合理的理由は何ら説明されていない。この第二次納税告知処分について再び異議申立、審査請求をはじめから行なわなければならない合理的理由はない。

2 控訴人は、昭和三九年一一月分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課処分が、昭和四四年九月二九日付の第二次納税告知処分において従来の処分を取消しのうえなされたものであることを発見して、従前の取消訴訟を取下げて、新たに無効確認訴訟を追加的に併合した。これは、控訴人が、被控訴人のした第二次処分の内容を従来の処分の訂正であると誤認して不服審査の手段をとっていなかったため、やむなく無効確認訴訟を提起して併合したものである。

3 以上の事実経過のもとにおいては、本件の無効確認訴訟は、その実質において取消訴訟の継続と見るべきものであるから、「重大かつ明白な瑕疵」の制約に拘束されるべきものではない。何故ならば、不服審査に関する厳重な規定を設けたのは紛争がすべて司法審査の場に移るのを防ぎ、可及的に行政の内部において処理しようとする趣旨に他ならないから、本件のように、既に裁判所に出訴されているものについてまで、行政内部における不服審査の手続を再度強要したり、また、本来の無効確認訴訟と同一の厳格な制約を課するのは相当でない。

4 朴奇花が認定賞与の更正処分について、これを争わず確定したとしても、その違法を他の訴訟の前提として主張することは許される。

5 納税告知処分は、納税義務の存否、範囲に関する形式的確定力を持つものではなく、本件無効確認訴訟は、源泉徴収義務不存在を確認する訴訟であるから、徴収手続としての告知処分が形式的に確定したとしても、実体たる源泉徴収義務の存否、範囲に関する争点においては「重大かつ明白な瑕疵」の制約は受けない。

二  社外流出金の帰属者について

1 認定賞与の受給者が誰かは告知処分の要素である。

使途不明の社外流出金については、これを会社の主宰者に帰属したものとして、その賞与と認定し、右賞与に対する源泉徴収義務者としての会社に対し、納税告知処分がなされるのであるから、認定賞与が誰に帰属したかは、右告知処分の基礎たる源泉徴収義務の相手方を特定することになるので、告知処分の要素である。

2 控訴人会社の事実上の主宰者は李三奎であり、従って、使途不明の社外流出金たる認定賞与の帰属者は李三奎である。李三奎は、商法上控訴人会社の役員ではないが、控訴人代表者の委任を受け、同人に代わり、事実上会社代表者として会社の業務経営一切を行なってきたもので、法人税法上は、まさに役員であって、実質所得者課税の原則からしても、本件認定賞与の帰属者は李三奎以外にはあり得ないのであり、名義上代表者の地位にありながら会社の経営に事実上は関与していない朴奇花が使途不明金を自らの手中に収めることは想定すらできない。

3 本件の認定賞与は、朴奇花を受給者としている。しかし、右述のとおり、李三奎がその受給者であり、そうだとすれば、控訴人が負担する源泉徴収義務は別個のものとなり、したがってこれに基づく納税義務も亦別個のものにならざるを得ない。このように受給者を誤まった源泉徴収義務は重大かつ明白な瑕疵というべきであり、納税告知処分それ自体の無効をきたすものである。

4 源泉徴収義務者の源泉徴収義務は、本来の納税義務者ごとに給与等の支払の都度税金相当額について発生し、このように既に発生した個々の源泉徴収義務の存在を前提として、その支払を督促する手続としての告知の処分がなされるのである。したがって、告知処分は督促上の手続にすぎず、源泉徴収義務の存否、範囲を確定するものではないため、その通知の内容において手続の便宜上個々の受給者の明示を省略することが許されることになる。

しかし、告知処分は、右のとおり、既に発生している源泉徴収義務の存在を前提としその支払の督促のためになすものであるから、控訴人において朴奇花に対する源泉徴収義務がないにも拘わらず、これがあるものと誤認して朴奇花に対する源泉徴収義務の支払のためになされた本件告知処分は、重大かつ明白な瑕疵があり無効である。この理は、朴奇花の納税義務額と李三奎のそれが仮に同じであっても変らず、受給者が誰であろうと源泉徴収義務の金額が大きく変らなければ、受給者の認定の誤まりは問わないという考え方は、所得税法の定めた源泉徴収の構造を根底から覆えすものである。

被控訴人

(甲事件について)

一  仮名預金の帰属について

1 佐藤繁、大山鉄男、沼尾猛名義の普通預金は控訴人に帰属するものである。

佐藤繁等名義はいわゆる架空名義預金であって、架空名義預金は租税回避等を目的としてその実質的な帰属が容易に判明し得ないような形で設定され取引されるものであるから、預金者の表面的な名義、住所、届出印鑑等のみでは、いずれの者に帰属するものか判断し得ないものであり、したがってかかる預金がいずれの者に帰属するかは、当該預金の設定経路、預金入出金額の内容と他の預金取引との関係、預入金の取引形態、性格等を総合的に検討して実質的に判断する必要がある。

2 控訴人は、その代表者城山奇花(本名 朴奇花)と夫城山三奎(本名 李三奎)が事実上経営するいわゆる個人会社であり、会社経理と個人経理も峻別されない状況も認められるのであって、まして架空名義預金のように本来秘とくを目的として設定する預金について、控訴人自体の預金口座であることが明瞭に判明するような取引を行うことはあり得ないのであり、また口座開設後の預入金が控訴人の売上除外によるものであると推認しうるのに、口座開設時の資金が個人の借入金の一部より成っているという一事をもって、右預金が控訴人に帰属するものでないと判断しなければならない理由は全くない。

3 控訴人は、李三奎の個人会社で、売上除外が行われていたことは明らかであって、かかる会社は、常時幾ばくかの簿外資金を保有していることが常であって、会社帳簿上の資金が支払に不足する場合にこれをもって支払をしたうえ、帳簿上の資金残が支払可能な状態になった時点で支払をしたことに経理して、その資金を再び簿外資金とすることは、往々にして行われる不正経理の手口であるから、控訴人が主張するごとく、李三奎が控訴人の支払うべきものを立替払したものと断ずるのは早計であり、会社経理の実態から綜合的に判断すべきである。本件において控訴人の当座預金口座から振出された(控訴人が立替金の弁済分と主張する)小切手が数百円というような少額な経費にまで及んでいることを勘案すれば、取引先がかかる少額な金員まで控訴人の実質社長である李三奎の自宅へ集金に出向くということは極めて不自然であり、かえって右述のように、控訴人の簿外資金により立替払していたものを公表帳簿に経理するに際して精算し、その小切手を控訴人の簿外預金に預入したものとみるのが極めて自然である。そして当時常盤相互銀行宇都宮支店には、李三奎本人名義預金口座のほか、李三奎個人グループに帰属するものと判断した松本稔名義のほか二口の架空名義預金が存在し、毎日のように取引が行われていたにもかかわらず、控訴人当座預金口座から振出された小切手がこれらの架空名義預金には預入されず、専ら控訴人に帰属すると判断した佐藤繁名義ほか二口の架空名義預金に預入されている事実は、右金員が李三奎の立替払によるものではなく、控訴人の簿外資金による立替払の精算であることを端的に物語っている。

4 本件架空名義預金に毎日のように預入された金額は、控訴人の毎日の公表売上金額しかも喫茶部と洋酒部に区別されたそれぞれの売上金額と一定の割合をもっている。売上総額の三割又は四割に該る金額を算出するには、売上総額に〇・三又は〇・四を掛ければ容易に計算しうるのに対し、売上総額を七割又は六割に該る金額とし残る三割又は四割に該る金額を算出するには、売上総額を七又は六で除しこれに三又は四を掛ける計算を行わなければならず、しかも仮名預金に預入された売上除外金額は、公表売上に対する六対四又は七対三の割合で計算した金額(すなわち公表売上と除外売上の合計額の四割又は三割に該る金額)と対照して、一〇円未満の端数を調整するだけで符合するが、仮に控訴人主張のごとく、売上金額(公表売上金額)に一定の比率を掛けて仮装すべき預入額(売上除外金額)を算出するとすれば、その金額を一〇円単位まで符合させるためには小数点以下四位までの係数、すなわち六対四の比率であれば〇・六六六六を、七対三の比率であれば〇・四二八五を掛けなければならない。単に安定収入のあることを仮装するためのものであるならば右のような煩雑な計算をあえて行う必要は全くなく、売上金額にスライドした形で預入額を計算するにしても単純に公表売上金額の六割又は四割というような簡易な計算をすれば足りたのである。まして当時は、卓上電子計算機もほとんど普及していなかった。

5 李三奎は、昭和四〇年六月中旬における調査時においても、更にその後の審査請求時においても、本件仮名預金が同人に帰属するものとは主張せず、控訴人は原審において被控訴人の課税の根拠が明らかにされるに及び、これが同人に帰属するものと主張するに至った。

6 預金名義を佐藤、大山、沼尾と順次変更することなどは、常盤相互銀行から融資を受ける目的で工作したとする控訴人の目的とは明らかに反するもので、これは税務署の目をくらますためにしたと解してこそ初めて理解できることである。なお控訴人が常盤相互銀行水戸支店から融資を受けたことはなく、李三奎、朴奇花が不動産に根抵当権を設定して借入をしたもので、融資工作が成功し、控訴人自体の信用が高まった結果とはみれない。

7 佐藤繁名義の普通預金の設定に関連し、同日付で開設された控訴人名義当座預金の入金額が栃木相互銀行本店の控訴人口座の小切手の払戻額と金額が一致しているからといっても、売上隠ぺいを図る者であれば、そのように見せかけの操作をすることも十分あり得ることであるから、このことをもって、本件架空名義預金の帰属者が李三奎であるとはなしえない。

昭和三五年九月一五日の取引についてみると、遠山謙二名義別段預金の支払額一六一万五一六一円(出納番号一七九)から、控訴人名義当座預金に三五万円入金(出納番号一八〇)、佐藤繁名義普通預金に六四万〇一〇二円入金(出納番号一八一)李三奎貸付用紙印紙代二〇〇円入金(出納番号一八二)、李三奎手形貸付金利息二八八〇円入金(出納番号一八三)、松本稔名義普通預金に六二万一九七九円入金(出納番号一八四)と順次入金されている。銀行の出納番号は、預金者等が銀行の窓口で預金等の出納をなしたとき、その処理順に従って順次通し番号が付されるのであるから、同一人の取引は取りまとめて取扱われる結果、番号が続くものであり、右番号のつながりは取引の一連性を示す重要な証拠である。右取引の出納番号一七九から一八四までの一連番号が示すように、遠山謙二名義別段預金から控訴人名義当座預金へ三五万円流入したのであるから、個人と控訴人会社の資金の流れは峻別されていたとはいえない。そして、控訴人名義当座預金口座開設のための一一三万四八三九円(出納番号一五三)と遠山謙二名義別段預金への入金八六万五一六一円(出納番号一五四)の合計二〇〇万円の入金については、その出納番号のつながりから預金者の同一性が推認される。

8 本件架空名義預金口座について、沼尾猛名義預金の昭和三九年三月一七日の払戻しが最終となっているが、控訴人の売上除外資金が、昭和三八年から三九に水戸市内で開店した店舗等の設備資金や開店資金に流れたか、控訴人のいわゆる裏預金も水戸市の銀行へ移行されたものと推認される。そうでなければ沼尾猛名義預金の解約後の時期に控訴人の売上が急減したことになるところ、そのような特段の理由は全く認められない。

二  売上計上もれ加算について

1 本件において売上計上もれの算定基礎とした額は、佐藤繁、大山鉄男、沼尾猛名義の普通預金口座への預入額のうち、公表売上金額と一定割合で対応する金額を抽出したものであり、その入金額は、公表売上金額に比例して反覆干満性を示しており、しかも仮名預金の入金源については、他に合理的なものは見当らず、控訴人の売上金をもって預入れたものと認められる。本件架空名義預金の経常残高は、五〇万円から一〇〇万円の間を上下し、時には一五〇万円ないし二〇〇万円を超えることもあり、李三奎の個人営業の所得が他にあったとしても、常に相当程度の金額を現金のまま手元に置いたということは考えられない。更に昭和三七年七月から三八年七月までを例にとれば、大山鉄男名義の普通預金のほかに西沢敏雄名義の架空名義普通預金の残高も存在し、この預入高は、売上除外金の預入である疑いは残るものの原処分では、松本稔名義普通預金とともに課税計算対象から除外しているが、各月の残高は数百万円に達することもあり、李三奎の個人所得で運用できたとする控訴人の主張は、この点からも破綻している。このように控訴人に合理的な源資が認められず、預金の入金状況も公表売上金額に対する一定割合であることからすれば、本件仮名預金は、営業預金としての性格を持ち、普通預金通帳を現金出納帳の二重帳簿代りに使用していたものである。したがって、仮名預金の入金額中売上金額を除外したと認められるものと抽出した金額は、推定額というよりむしろ売上げの実額であるといえる。

2 第三事業年度の所得について

第三事業年度の売上げについては、沼尾猛名義の普通預金口座に昭和三九年二月九日以降預入された事実はないが、第一、第二事業年度の公表売上額に対する売上除外割合によって、昭和三九年二月から九月までの売上除外金額を一二三五万〇六八八円と推計した。もっとも、右推計売上除外金額に対応する仕入認容額三九三万九八六九円〔推計売上除外金額×(一-差益率六八・一%)〕を減算しているから、差引推計分に対応する総利益額は八四一万〇八一九円を益金に加算したものである。控訴人の同年二月から九月までの公表売上額は、第一、第二事業年度のそれぞれ二月から九月までの各月の売上額に比べて売上除外を取り止めたと認められるような顕著な増加はなく、また売上額が急激に減少すべき特別な事情もなく、まして年間を通じての売上額は確定申告額の比較によっても、第一、第二事業年度を上廻っている。したがって、控訴人は、沼尾猛名義の普通預金口座への売上除外金の預入を停止した後も、従前と同様に売上除外を継続していたと認めるべきで、税務調査による発見を困難ならしめるため、佐藤繁等の架空名義を次々と使用してきた経緯からしても、常盤相互銀行宇都宮支店のみならず、他の銀行なかんずく水戸市の銀行を使用したものと推認しうる。

なお、右述のとおり推定の基礎となる事実が明らかである以上、控訴人が主張する売上除外の金員が行方不明であるということは、何ら前記推計の合理性を損なうものではなく、昭和三九年一〇月一日以降の事業年度の公表売上金額について売上除外の認定がなされなかったからといって、当該事業年度にその金額以上の売上がないことまで確定したものではなく、またそのことは第三事業年度についての売上除外の認定の合理性に何ら影響を及ぼさない。

3 控訴人の所得の推計について

(一) 控訴人が経営していた喫茶店は、レコード音楽を流していただけで演奏家による生演奏を行っていたわけではないから、分類としては一般の喫茶店並みであったのであり、一般の喫茶店の回転率は六から八回転が普通であるから、更正額の回転率約六回は、普通の数値であって、更正の売上認定額が適正であり、かつ第三事業年度の売上推計額の合理性を裏づけるものである。

(二) 控訴人主張の回転率についての計算方式により、昭和三七年四月から同年九月までを対象として、検討すると、公表売上金額のみの回転率は、四月から七月が平均三・三回転であるのに比べ、八月は二・六回転、九月は二・五回転と減少し、売上金額の数値は不自然な減少をきたしているのに対し、公表売上金額と売上除外金額の合計(更正額)の回転率は、四月から七月まで平均四・九回転で、八月は五・二回転、九月は五・〇回転で大差はなく安定した数値を示している。ちなみに、昭和三八年四月から九月における更正額の回転率も昭和三七年のそれと近似(平均五・一回転)しており、更正額の妥当性を裏付けている。椅子回転率は、年末、年始等繁忙期は別として特別な営業条件の変化がない限り、月別によって大きな変化をみせるものではないから、本件公表売上金額に基づく椅子回転率が昭和三七年八月、九月において低下していることは、売上除外割合を八月から五〇パーセントに増加させ売上の隠匿を多くしたことを裏付けている。

(三) 第三事業年度の売上のうち、昭和三九年二月から九月までの金額については推計額によっているが、当該期間だけの回転率を、右期間の公表売上金額一四六六万八六九〇円及び売上除外金額七九九万五八四四円計二二六六万四五三四円について計算すると五・六回転となり、昭和三七年及び三八年の場合と大差なく、推計が正当であることをこの点からも示している。

(四) 以上の計算は、控訴人主張の客単価及び椅子の脚数を前提としたもので、控訴人のいわゆる二階とは中二階で、三階とは二階のことであるから、右いわゆる三階部分は平日ほとんど活用されずその使用状況を五〇パーセント以下であるとし、椅子の有効脚数を二〇〇脚とすることには合理性がない。

三  簿外仕入の推計について

1 被控訴人は、簿外仕入の存在から売上除外を認定しているものではなく、調査売上金額に申告(記帳)原価率を乗じて仕入認容額を推計した。したがって、仮に控訴人主張のごとく、簿外仕入が存在しないとしたならば、控訴人の所得金額の計算上、損金を過大に認容し、結果的に所得金額を過少に課税した結果を招来するに過ぎない。喫茶部の原材料の数量面の受払い調査は困難であるから、仕入除外が発見されないことが、直ちに売上除外のないことを示すものではなく、仮名預金分を加算した後の差益率、回転率等からみても売上除外があったと認めうる。

2 株式会社虎屋本店からの酒類仕入については、被控訴人の調査によってもその全容を確定し得なかったが、少くとも昭和三九年九月分の現金取引の簿外仕入が存在した。乙第一四二号証は、田園の簿外仕入を抽出したもので、ビールの価格について同数量でありながら決済金額に相異があるのは、ビール及び炭酸水のびん代を相殺しているからである。

3 株式会社渡辺商店からの酒類仕入について、昭和三五年一月から同三六年一月の間において簿外仕入が存在したもので、乙第一四一号証の二に昭和三五年二月四日以降同年八月一四日までの記録が脱落しているのは、渡辺商店が提出以前に紛失していたものと推認される。李三奎は当審で昭和三四年から三五年に経営していた酒場「大番」が渡辺商店から酒類を仕入れており、乙第一四号証の二はその取引分であったかのように証言しているが、酒場「大番」は昭和三九年以後に開店したものである。

4 控訴人は本件各係争年度において虎屋本店から仕入を行っていたが、控訴人の総勘定元帳(当座預金勘定)について虎屋本店に対する仕入代金の決済方法をみると、各月ともおおむね二回支払がなされ、毎月一五日前後と各月末が定期的な仕入代金の支払日であったことが窺えるところ、右支払日(定期的な支払日と認められる。)と全く同一の日に、虎屋本店に対する支払額とほぼ同額か又はそれ以上の金額が軌を同じくして、控訴人に帰属すると認められる仮名普通預金から払戻されていることが認められる。これによれば、右仮名普通預金から定期的な支払日と目される日に払戻された金額の一部は、支払先及び支払金額は特定しえないが、虎屋本店若しくはその他の仕入先に対する簿外仕入の代金の支払に充当されていたものといえる。そして渡辺商店からの仕入について昭和三五年一月から三六年一月までの簿外取引があり、虎屋本店からの仕入について昭和三九年九月分で約三五パーセントの仕入計上漏れがあったことと、右事実とを併せてみれば、控訴人が本件係争年度においても簿外仕入を行っていたと推認しうる。

四  馬山会名義借入金の支払利息について

1 一般的に経済取引においては、貸付金に対して相当額の利息を徴することは通例ではあるが、貸付けを業としない者にあっては、無利息のこともあるから、借入金の存在が即支払利息の存在に結びつくものではなく、支払利息の損金性を否認するためには、借入金そのものの不存在を立証することが前提となるものではない。

2 借入金の存在自体も、次のとおり否定されるべきである。

(一) 借入先は公表帳簿では馬山会、本件訴訟では李三奎、当審において初めて提出された公正証書上は李奎振と帰一するところがなく、公正証書の作成自体に作為が感ぜられ、李奎振を債権者とする公正証書があるからといって、別人である李三奎に対して利息が支払われることにはならない。

(二) 馬山会宛に支払われたとする利息が控訴人に帰属すると認められる架空(佐藤繁及び大山鉄男)名義の口座に入金されている。

(三) 控訴人の昭和三二年一〇月二二日から同三三年九月三〇日までの事業年度(第一期)の中間申告書に添付された第一期中間決算報告書の財産目録には、控訴人が昭和三二年一〇月三〇日に借入れたと主張する馬山会名義の借入金八〇〇万円は、昭和三三年四月二一日現在で七二八万一〇〇〇円としか表示されておらず、一方、第一期確定決算報告書の財産目録には右事業年度末現在で八〇〇万円と記載されている。これは本件借入金が単に各決算時における貸借対照表の借方、貸方のバランスを調整するために計上されたことを推認させる。

(四) 右第一期においては、本件借入金についての利息が支払われた形跡がなく、また未払費用としても計上されていない。

(五) 本件借入金の返済時期は、公表帳簿上、昭和四三年三月で、本件更正処分に対する異議申立てに対する決定の日である同年同月二日、控訴人が審査請求をした同月二九日と時期を同じくするのであるが、これは、馬山会名義借入金が更正処分で問題とされたので帳簿上なくしてしまおうという操作の意図が窺われ、その返済資金についての各証拠は、くい違いがあり、合理的な説明になっていない。

五  交際費について

1 本件交際費は、社長交際費であると従業員交際費であるとを問わず、支出したこととしてその金員が控訴人に帰属する簿外預金に預入されている事実があり、その経理の手口が同一であることからしても、これが実際に支出されたとは認められない。

2 本件交際費は支出した金員が相手方に渡されず控訴人の簿外預金に預入されているのであるから、交際費に名をかりた使途不明金というべきであり、損金とはならない。

3 交際費は、その決算申告額だけでも係争第一事業年度分五六万五三一二円、第二事業年度分四七万五四二二円、第三事業年度分五六万一六七四円が記載されており、このうち明細のあるものが数多くあったのに、本件渡し切り交際費のみは、その具体的な使途が不明なのである。しかも、既述のとおり、交際費として支出された筈の金員が仮名預金に預入されていることは、右渡し切り交際費が架空のものであることの証左である。

(乙事件について、甲事件のうち源泉所得税部分も含む。)

一  源泉徴収所得税の納税等告知処分について

1 源泉徴収所得税の納税告知処分については、当初昭和四二年一二月一〇日第一次処分がなされたが、これに対する審査請求に対する裁決において「認定賞与の権利確定の時期を三七年一二月、三八年一二月及び三九年一二月としているが法人の決算確定の日又は事業年度終了の日から二ケ月を経過する日を権利確定の日とすることが相当である。」と判断されたので、昭和四四年九月二九日訂正通知により、右裁決により維持された昭和三七年一二月分の渡し切り交際費(給与所得支払認定額)一万三〇〇〇円、所得税額五五九〇円、不納付加算税五〇〇〇円を残し、その余は全部取消し、第一次納税告知処分を訂正した。そして改めて第二次納税告知処分をするについて、三七年分及び三八年分は、国税の徴収権の消滅時効にかかっていたため、三九年一二月分のみ三九年一一月分と改め前同日第二次納税告知処分をなし、三九年一一月決算確定分として給与所得支払認定額(認定賞与)一五二〇万八〇〇四円に対する所得税額六九六万七〇八〇円の納税告知及び不納付加算税六九万六七〇〇円の賦課決定を行った。控訴人は、右第二次処分について、異議申立て及び審査請求の手続をなさなかった。

2 行政処分が無効であるというためには、単に処分に瑕疵があるというだけでは足りず、この瑕疵が重大かつ明白でなければならないところ、行政処分の瑕疵が明白であるというためには、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが処分成立の当初から、外形上、客観的に明白であることをさすものであり、課税要件の不存在を理由に課税処分の無効を主張するには、違法処分の是正について納税義務者の行政上の不服申立てが果たすべき役割を重視して、慎重な行政上の不服申立手続が定められた趣旨およびこの種処分が迅速に確定されるべき要請等を考慮しても、なお、行政上の不服手段を尽さないことにより、もしくは出訴期間を徒過したことにより出訴を許さないとすることが納税義務者にとって著しく酷であると認められるような重大の瑕疵の存在することが、処分の外形上客観的に明らかであることを具体的な事実に基づき主張することを要するものである。

3 源泉所得税に係る納税告知は、納税義務の存否範囲に関する税務署長の意見(認定判断)が初めて明らかにされるものであるから、徴収義務者は納税告知の前提となる納税義務の存否、範囲を争って当該納税告知処分の取消しを求めるため、不服申立てのほか、抗告訴訟をも提起しうるものとされている。したがって、この反面として少くとも税務署長(国)と徴収義務者との間においては、当該納税告知処分について、不服申立てがなされず、出訴期間を経過している以上、納税義務の存否、範囲に関する税務署長の認定判断に形式的確定力(不可争力)が認められるべきである。

源泉徴収による所得税は、特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであっても、支払者から国に対し任意に支払われるならば格別、そうでないときは、国は支払者から強制的に徴収することになるが、この場合、その税額を具体的に確認する手続(国税債権の観念的形成)をまって初めてその強制実現(事実的形成=滞納処分)に着手するのである。納税告知は、「納付すべき税額の確定」の意味はもたないが、徴収の前段階である国税債権の観念的形成の機能を有している。したがって、支払者の源泉徴収義務の存否、範囲についての不服は、専ら納税告知処分を対象とする抗告訴訟の方法によってのみ解決されるべきであり、このように解さないと、租税の徴収が法的に不安定な状態におかれることとなる。

納税告知処分については、抗告訴訟の対象として、単に徴収手続の違法のみでなく、この機をとらえて、納税告知の前提要件たる納税義務の存否又は範囲を争って違法を主張しうるものとし、行政上の救済を図っている。したがって、適法な取消訴訟を提起することなく、出訴期間を徒過しても、支払者はいつでも納税告知処分の効力を否定することができるとしたのでは、取消訴訟を提起する利益自体も認められないし、抗告訴訟の制度の趣旨、目的をも没却することとなってしまう。

4 本件において、第一次処分と第二次処分とが別個の処分であることは今更いうまでもなく、第二次処分の無効確認訴訟が実質において、第一次処分の取消訴訟の継続とみるべきものであるから、「重大かつ明白な瑕疵」の制約に拘束されないなどということはない。また、第二次処分がなされた当時、弁護士や税理士が関与していたのであるから、これについて出訴期間を徒過したことについては、何ら宥恕すべき余地はない。

二  認定賞与の帰属者について

1 およそ代表者の個人会社ないし同族会社と目される法人の簿外資産から生じた使途不明金については、首肯するに足りる合理的な使途の説明がない限り、原則として、当該使途不明金は、これを代表者個人に対する臨時的給与即ち賞与金と推認するを妨げない。

2 控訴人の代表取締役朴奇花は、名目上の代表取締役であって、事実上控訴人の経営をしていたわけではなかったが、役員報酬は支払われており、一方、李三奎は、朴奇花の夫として事実上控訴人の経営の実権を掌握していたが、李三奎の控訴人における地位は取締役ではなく、控訴人からは給料の支給も受けていなかったものである。そうすると、実質的には李三奎が費消したものと認められる本件使途不明の社外流出金は、一旦代表取締役である朴奇花に支払われ、同人から更にその夫である李三奎に流れたものと認めざるを得ない。そして、当該金員が朴奇花から更にその夫李三奎に流れたことは、単に事後の内部的な事情にすぎないから、当該金員の帰属主体が朴奇花であると認めて源泉所得税の算定をしたのは当然で、何らの違法もない。

3 また、仮に右流出金が朴奇花を経由することなく、直接李三奎が費消したものであるとしても、次のとおり、李三奎の行為は朴奇花の行為と同視されるべきものであって、李三奎が費消した本件社外流出金について、税法上、代表取締役としての権限のある朴奇花に対する役員賞与と評価すべきものである。

(一) 李三奎は、同族会社の株主たる地位と代表取締役朴奇花が自己の妻であるという関係から、妻である朴奇花が代表者という地位にあることに乗じその承認のもとに、事実上控訴人を支配していたもので、朴奇花は李三奎が本件社外流出金を処分することを容認していたものといわざるを得ない。

(二) 代表取締役である朴奇花は、商法二五四条の二の義務を負っていたのに、本件社外流出金を李三奎に費消させ控訴人に損害を与えたことになり、取締役の会社に対する責任を追及するのは、李三奎ら株主であるべきところ、李三奎は、妻である朴奇花の容認のもとに自ら本件社外流出金を費消したことになる。

4 本件社外流出金が李三奎に対する認定賞与であったとしても、本件納税告知処分は違法とはならない。

(一) 源泉徴収所得税の納税告知処分は、税額の確定した国税債権につき納税義務者等に履行を請求する徴収処分であることにかんがみ、納付すべき税額、納付期限及び納付場所を記載した納税告知書を徴収義務者に送達して行うものであって(国税通則法三六条二項)、給与等の受給者を明示して告知するものではないし、また、告知に係る源泉徴収所得税は、受給者からではなく徴収義務者たる給与等の支払者から徴収される(昭和三九年当時の所得税法四三条一項)。

(二) 李三奎は、事実上控訴人の経営に従事していたが、使用人としての職務に従事していたのではないから、法人税法における役員賞与の取扱い上は、みなす役員であるところから、本件社外流出金が同人に対する役員賞与とみられる余地がないではないが、右述によれば、仮に本件納税告知処分が、認定賞与の帰属者について異なった判断をしてなされたとしても、その異なった判断が直ちに右処分を違法たらしめるものではない。

なお、給与等の支払者は、その所得税額に相当する金員の支払いを給与等の受給者に請求することができ、一方受給者はこれに対し支給者を相手に争うことができるが、これは控訴人内部の問題であって、本件とは無関係である。

(三) 李三奎は、控訴人から毎月の給与を受けておらず、給与所得者等の源泉徴収に関する申告書を提出していなかったものであり、本件社外流出金を同人に対する賞与とした場合の源泉徴収税額は、八三四万九五八八円となって、本件納税告知処分にかかる源泉徴収税額六九六万七〇八〇円を上回ることとなり、このように所得税額を下回る金額についてなされたこととなる本件納税告知処分は、これによって控訴人に何ら不利益を与えることにはならず、これが重大な瑕疵に該るということはない。

納税告知処分における利益不利益は、源泉徴収義務者について判断すべきで、受給者について判断すべきものではないので、李奇花と李三奎とをそれぞれ受給者とした場合の源泉徴収税額を比較する場合には、給与等の支給時に自動的に確定する税額について比較すべきものである。

4 源泉徴収における法律関係は、国、支払者及び受給者の三者であるが、国と直接の法律関係に立つものは、支払者だけで、受給者は国とは直接何ら法律関係をもたないのであって、給与等の受給者は、国税通則法三六条に基づく納税告知の明示すべき要件とはなっていない。

所得税法一二条の実質所得者課税の原則は、所得税の課税における収益の帰属に関する規定であって、朴奇花ないし李三奎に対する更正処分に関してならばともかく、控訴人に対する源泉徴収税に関しては無関係であって、実質所得者が朴奇花であれ、李三奎であれ、賞与の支給の事実があれば源泉徴収義務は存在する。

第三  当事者双方の証拠の関係は、当審における証拠について当審記録中の各証拠関係目録の記載のとおりであるほかは、原判決事実摘示中「証拠」欄記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

第一  当裁判所も、控訴人の本訴各請求はいずれも理由がないものと判断する。そしてその理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

第二甲事件について

1  原判決四四丁裏三行目の「第一二五号証の二」の次に「第一五二号証」を加入し、六行目の「同北平光男」から七行目の「同李三奎(第二回)」までを「原審証人荒井一夫(第一、二回)、同福富達夫、原審及び当審証人北平光雄、同李三奎(原審は第二回)」と訂正する。

2  同四五丁裏一〇行目の「昭和三五年九月一三日」から四六丁表一行目の「うち」まで及び二行目の「残」を削除し、同丁表一行目及び二行目の各「は」を「が」に訂正する。

3  同四六丁裏一行目から七行目までを削除し、次のとおり付加する。

(ヘ) 控訴人の栃木相互銀行本店における当座勘定元帳には、昭和三五年九月一五日、小切手番号が記帳されている中では一番最後の、したがって振出日は証拠上不明であるが、一番最後に振出されたものと推認される額面一一三万四八三九円の小切手が決済され、それより若い番号の小切手三通が同日以後決済され、同月二二日差引残高が零となり解約となった旨の記録がある。

(ト) 常盤相互銀行宇都宮支店の各種伝票の中には、右肩上に出納番号が打たれているものがあり、前掲(ロ)の支払いと小切手取組についての伝票のそれは、一五七、一五八と連続し、(二)の一一三万四八三九円についての伝票のそれは一五三、八六万五一六三円についての伝票のそれは、一五四と連続し、(ホ)の六件の払戻し、預入及び支払についての伝票のそれは、一七九から一八四と連続している。

(チ) 李三奎は、控訴人(会社)を事実上経営すると共に、当時、宇都宮市内及び水戸市内において個人ないし共同で経営をしていたパチンコ店、映画館、喫茶店等の所得税の申告に際しては、自己名義で申告するもののほか、朴奇花や朴奎成との共同経営の形式にして分散申告をしたり、営業許可を他人名義で受けて、その他人名義で申告するなどして、税の軽減化を図っていた。

(リ) 控訴人は、昭和三二年に設立され、本店を宇都宮市江野町においていたが、李三奎が昭和三九年ころから宇都宮市から水戸市への進出を計画し宇都宮市内で経営していた控訴人をはじめ、パチンコ店等を売却し、水戸市内で経営していたパチンコ店、喫茶店等の営業を中心としたことに伴い、後記、税務署による調査直後の昭和四〇年六月三〇日、控訴人の本店を水戸市鳥見町へ移し、更に同四一年一月一〇日同市大工町に移し、控訴人の営業場所も事務所も水戸市内に移転した。

(ヌ) 宇都宮税務署は、昭和四〇年二月中旬、控訴人を脱税容疑で調査し、取引銀行である常盤相互銀行宇都宮支店に、前掲控訴人名義の当座預金、城山三奎名義の別段預金、遠山謙二(これは朴奎成が昭和三一年ころまで使用していた日本人名である。)名義の普通預金のほか、控訴人又は控訴人代表者ないしその家族の預金と目される前掲、松本稔、後述の佐藤繁、大山鉄男、沼尾猛、西沢敏雄(昭和三七年七月五日開設)、中野哲夫(同年一〇月一〇日開設)名義の普通預金を発見したことから本格的な調査となり、控訴人が本店を水戸市へ移したことに伴い、昭和四〇年一一月ころ、調査資料が水戸税務署に引継がれ、同税務署によって、本件各処分が行われた。

以上の事実によれば、栃木相互銀行本店の当座預金の解約時ないしその直前における一一三万四八三九円という半端な取引残高が控訴人の常盤相互銀行宇都宮支店の当座預金開設時の預入金額と一致するところ、控訴人は、前者を解約して後者に預入したものであると主張し、被控訴人の、昭和三五年九月一三日に現金で保留されていた一五〇万三五七〇円と同月一四日に現金で支払われた四九万円に入金経路不明な六四三〇円計二〇〇万円が一一三万四八三九円と八六万五一六一円に分けられて預入されたものであるとの主張と対立している。成程、原審証人荒井一夫(第二回)の証言によれば、宇都宮税務署は、当時栃木相互銀行を調査したことはなく、したがってその解約時ないしその直前の残金が常盤相互銀行宇都宮支店の当座預金の開設時における預入金額と合致するものであることは知らなかったものと窺え、かつ、前記認定のとおり、各種伝票の出納番号の連続があるものはともかく、被控訴人主張の右保留ないし支払われた現金の動きについては、そもそも確証はあり得ず、単なる推則に過ぎないが、他方原審証人李三奎(第二回)の証言中には、栃木相互銀行本店には、控訴人名義の当座預金、城山三奎名義の預金のほか、松本、佐藤、大山、沼尾、西沢等の仮名預金があり、これらをすべて解約して常盤相互銀行宇都宮支店に移した旨の部分があり、前掲のとおり、佐藤繁、松本稔、遠山謙二各名義の当初の開設預金額がいずれも端数であることからすれば、この間の事情が右証言の通りであることを窺わせなくもないが、同証人は当審においては、栃木相互銀行本店における仮名預金については記憶がないと述べるほか、果して原審証人李三奎の証言のとおりとするならば、控訴人において甲第七号証の一、二と同様、他の預金、仮名預金について栃木相互銀行本店におけるその存在と解約の事実を容易に反証として立証しうるにも拘わらず何らこれをなしていないことからすれば、前掲証言を直ちに措信しえないほか、前掲のとおり、一一三万四八三九円と八六万五一六一円との伝票の出納番号が連続していること、これらがいずれも端数でありながら、その合計が奇しくも丁度二〇〇万円になっていること、これらが処理された九月一五日の直前の一三日及び一四日に保留され及び支払われた現金の合計額が二〇〇万円に六四三〇円が足りないのみであり、これを加えることにより、昭和三五年九月一二日から一五日までの城山李三奎給付貸付金五〇〇万円に端を発する収支の動きが前後矛盾なく一応説明できること、前掲控訴人の反証がないことにより何故に遠山謙二の別段預金額が、二〇〇万円から一一三万四八三九円を差引いた数字にあたる八六万五一六一円という端数であるのかは理解し難く、その合計が二〇〇万円であるということは単なる偶然の一致として片づけ難いところがあることに照らし、被控訴人のこの点に関する主張の方をより相当と認め、原審及び当審証人李三奎の証言中、五〇〇万円の使途に関する部分も、措信し難く、他に以上の各認定を覆えすに足りる証拠はない。

4  同四七丁表二行目の「証人」の前に「原審」を、三行目の「証人」の前に、「原審及び当審」を各加入し、四行目の「各証言によると」を「各証言中には」と、六行目から七行目にかけての「事実が窺われないではないが」を「との部分があるが」と、一一行目の「一事をもって」を「各証言部分は直ちに措信できず」と各訂正する。

5  同四七丁裏五行目の「同」を「原審及び当審証人」と、九行目の「一二六」を「一三六」と各訂正し、一二行目の「金額であること」の次に「、右佐藤繁名義の普通預金口座には、前掲(2)の小切手による預入のほか、他の預入も散見されるが、公表売上金額と一定割合で対応する預入の金額は、一〇円単位まで合致し、そうでなくともこれに極めて近似した金額であり、しかも右期間中一つの例外を除いて、公表売上げの預入のないときは、これに対応すべき佐藤繁名義預金口座にも預入がなく、洋酒部のみについて公表売上げの預入のあるときは、佐藤繁名義預金口座にも右洋酒部の預入に対応する一定割合の預入があるといった具合に両者は必ず対応していること」を付加する。

6  同四八丁表九行目の「証人」の前に「原審及び当審」を加入し、一〇行目のかっこ内を「原審は第一、二回」と訂正し、四八丁裏二行目の「また」から四九丁表二行目までを削除し、そのあとに次のとおり付加する。

さらに右証人の証言中、佐藤繁名義の預金に預入した前示一定割合の金員の源資に関する部分は具体性に乏しくにわかに措信しえないほか、多額の多数回にのぼる預入であるから、仮に個人利益金の操作であれば、それなりの金員の移動について明確な資料に基づく反証を容易になしうると思われるにもかかわらず、前示証言部分のほか、これが一切なされていないことに照らしても、右主張は採用できない。

次に、控訴人は、佐藤繁名義(その後、大山鉄男、更に沼尾猛名義に変わる)の預金は、李三奎が常盤相互銀行宇都宮支店から借受けた五〇〇万円の一部によって開設されたのであるから、李三奎に帰属するものであると主張する。右に認定したところによれば、佐藤繁名義の預金は、李三奎名義の右借受金五〇〇万円の一部によって開設されたことになるのであるから、右借受金が名義どおり李三奎の借受金であることを前提とする限り、佐藤繁名義の預金口座の開設にあたり預入れられた六四万〇一〇二円は李三奎に帰属するものといわざるを得ないが、既に認定したところから明らかなとおり、控訴人の当座預金口座も右李三奎名義の借受金の一部によって開設されているなど、控訴人は実質上は李三奎が経営する個人会社であって、個人と会社とが必ずしも峻別されていないこと、公表売上金額に対し一定割合をもって佐藤繁名義の預金口座に預入された金員は、控訴人の簿外の売上げであること、佐藤繁名義の預金は、後記のとおり、大山鉄男及び沼尾猛名義の預金と順次連続しており、同一の性格を有していると認められること、前掲証人荒井一夫、同福富達夫の各証言によれば、右連続性があると認められる三つの仮名預金と前示松本稔、西村敏雄、中野哲夫名義の預金とはその預入、支出の状況からみても別種のものと認められること、前示(2)の小切手による預入は、李三奎の立替払金の清算金とは認め難い以上、その費目は控訴人の主張によるも控訴人の経費等であるから、これらは被控訴人の主張するとおり、控訴人の簿外資金による立替払の精算であると認めるほかないこと、後記のとおり、馬山会に対する利息や社長及び従業員交際費の全部及び一部が佐藤繁、大山鉄男名義の預金口座に預入されており、これらがいずれも控訴人の架空支出と認められることに照らし、佐藤繁名義の預金口座及びこれとその源資において連続し同一性格を有する大山鉄男及び沼尾猛の預金口座は、控訴人の簿外資産の収入支出を行うために開設された仮名預金口座であると認めることができる。通常預金口座の開設資金の帰属が、その後、その預金口座に預入され、支出された金員の帰属を決定するものではあるが、本件の如く、預入された金員の動きそれ自体が既に控訴人の簿外売上げの預入であることを極めて高度に推測せしめ、かつこれについて控訴人が十分な反証を挙げ得ないようなときは、右の預入が、その預金口座の性質、帰属を決定し、そのように決定された性質、帰属が更にまたその預金口座にその後預入され、支出された他の金員の帰属を推測せしめるという関係にあるものというべきである。したがって佐藤繁他二口の預金口座は、控訴人に帰属するものと認めることができる。

なお、本件事業年度の簿外売上げに対応する簿外仕入の存在については、被控訴人の全立証によるもこれを直接認めるに足るものとするには多少躊躇せざるを得ないわけではないけれども、既述のとおり、仮名預金口座への預入の事実自体から簿外売上げを極めて高度に推認することができ、これについての控訴人の弁疏がなりたたない本件においては、右に述べたところは簿外売上げの認定を左右する事由とはなし難いものというべきである。

7  同五〇丁表三行目の「証人」の前に「原審」を、四行目の「証人」の前に「原審及び当審」を各加入し、同行の「各証言によれば」を「各証言中には」と、七行目の「事実が窺われないではないが」を「との部分があるが、右各証言部分は直ちに措信できず」と、一二行目の「同北平光雄」を「原審及び当審証人北平光雄」と各訂正する。

8  同五一丁裏六行目の「証人」の前に「原審」を、八行目の「証人」の前に「原審及び当審」を各加入し、同行の「各証言によると」を「各証言中には」と、一一行目の「事実が窺われないではないが」を「との部分があるが右各証言部分は直ちに措信できず」と、五二丁表四行目の「同北平光雄」を「原審及び当審証人北平光雄」と各訂正する。

9  同五三丁裏一〇行目の次に、次のとおり付加する。

控訴人は、喫茶店の回転率により試算した売上額から推しても、仮名預金に預入された売上除外金とみなされている金額は売上除外金とは認められないと主張し、甲第二四号証の記載、当審証人北平光雄、同李三奎の証言部分はこれにそうようでもあるが、右試算の前提としての椅子の数の設定に疑念があるほかこれを前提としても被控訴人が当審において付加した(甲事件)二3(二)で主張するような結果となることに照らし、控訴人の右主張ないし立証は、いまだ右認定を左右するに足りるものではない。

10  同五三丁裏一二行目の「前掲乙第一二〇号証」及び五四丁表三行目の「第一一九号証」の次に「原審証人荒井一夫(第一回)の証言」を各加入し、五四丁表六行目の次に、「右各証拠によれば、佐藤繁名義及び大山鉄男名義の各預金口座には、右各利息の預入日前に、具体的に控訴人の金員の預入であるとは裏付けられていない預入が散見されるが、前判示のとおり右各預金口座が控訴人に帰属するものであること、仮に右の預入が別異のものであっても、これが前記控訴人の売上除外預入額に比し少額であることに照らし、右各受取利息は、全額控訴人に帰属するものと認める。」を付加する。

11  同五四丁裏七行目の「証人」の前に「原審及び当審」を加入し、一二行目の「その他」の前に「また、控訴人は、当審において、李奎振が昭和三二年一〇月三〇日控訴人に対し八〇〇万円を貸与した旨記載のある同日付公正証書(甲第一五号証)及びその弁済日の変更に関する公正証書を提出し、李奎振即ち馬山会即ち李三奎であると主張するが、右のような公正証書を作成しながら、なお、なぜ控訴人の各帳簿上ないし決算報告書上、馬山会なるものと貸主としなければならないかについて吾人を首肯させるに足りる理由は見出せないうえに、成立に争いのない乙第一三七、第一三八号証によれば、控訴人の馬山会からの借入金は、昭和三三年四月二一日現在七二八万一〇〇〇円、同年九月三〇日現在八〇〇万円となっていることが認められ、これは当審証人李三奎の証言中の右借受金は少しずつ借りていって最後に合計が八〇〇万円となったとの部分にそうかの如くであるが、もしそうだとすれば、既に昭和三二年一〇月三〇日に八〇〇万円を借受けていたとの前記公正証書の記帳と矛盾することになること」を加入する。

12  同五五丁裏四行目の「証人荒井一夫(第一回)」の次から一一行目までを削除し、そのあとに「の証言によれば、社長交際費九万五〇〇〇円はすべて前示佐藤繁又は大山鉄男名義の預金口座に入金されていることが認められることが認められるところ、控訴人は、右は事実上の社長である李三奎の立替払金の精算であると主張し、原審及び当審証人北平光雄、同李三奎の証言中には、これにそう部分もあるが、本件全証拠によるも控訴人の帳簿上、右立替金処理のなされた形跡は認められないのであるから右証言部分はたやすく措信できず、また、副社長交際費一万円、従業員交際費一一万円、高橋ら交際費二万六〇〇〇円についての支出先、支出目的に関する前掲証人及び原審証人朴奎成、当審証人刑部信之の各証言は区々にわかれていてにわかに措信し難い。なお、控訴人は、右従業員交際費の一部が他の経費の支払と合算されて仮名預金に預入されたと主張するが、右合算額とされる金額の預入があることはともかく、これに控訴人主張の交際費が合算されているものであることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、仮名預金に預入された社長交際費は架空経費であり、その余のものは交際費として使用したものとはいえず、使途不明金と認めるほかないから、被控訴人がこれらを否認したのは理由があるというべきである。」を付加する。

13  同五七丁裏一二行目の「前掲乙第一二〇号証」及び五八丁表二行目の「乙第一一九号証」の次に「原審証人荒井一夫(第一回)の証言」を各加入し、六行目の「認められ、」の次に「前記2(二)(引用にかかる原判決五三丁裏一二行目から五四丁表六行目及び付加した前示10項)に説示したと同様の理由により、これらは控訴人に帰属するものと認めるのが相当であるから、」を付加する。

14  同五九丁表六行目の「、同朴奎成」から七行目にかけての「総合すると」までを削除し「の証言によると」を加入し、九行目の「その支出先」から一一行目の「なく、」までを削除する。なお五九丁裏三行目の「前記2(四)に説示した」とあるのは、前示12項を含む。

15  同六一丁表一一行目の「荒井一夫」の前に「原審証人」を加入し、同丁裏九行目の次に「なお、第一、第二事業年度の各月及び第三事業年度の昭和三八年一〇月から翌年二月一日までの仮名預金に預入された売上除外額として抽出された金額は、これまでの説示で明らかなとおりで被控訴人主張のとおり、単なる推定額というよりもむしろ売上げそのものであるというべきであるから右推認は合理的なものといえる。」を付加する。

16  同六二丁表六行目の次に「ちなみに、前記被控訴人の主張(四)(1)(ロ)の(a)及び(b)で求めた第一、第二事業年度の一〇月から一月まで、二月から九月まで、第三事業年度の一〇月から一月までの各公表売上げに対する除外売上げの割合から単純に比例計算で第三事業年度の二月から九月までのそれを求めると、喫茶部は六四・三%(77.1×52.5÷62.9)、洋酒部は五七・七%(61.0×53.0÷56.0)であり、第三事業年度の二月から九月までの公表売上は、前掲乙第一二七号証の三によれば喫茶部が(A)一四六六万八九九〇円、洋酒部は(B)七九〇万四四一〇円であるから、右期間の売上除外額は喫茶部が九四三万二〇三一円((A)×64.3%)、洋酒部が四五六万〇八四四円((B)×57.7%)となり、これらは、被控訴人が修正率を加味して算出した売上除外額より高額であり、前示被控訴人主張の売上除外額の推計は、控訴人に有利なものとなっている。」を付加する。

17  同六二丁裏一一行目の「第一一八号証」の次に「原審証人荒井一夫(第一回)の証言」を加入し、六三丁表三行目の「認定することができ」の次に「前記2(二)(引用にかかる原判決五三丁裏一二行目から五四丁表六行目及び付加した前示10項)に説示したと同様の理由により、これらは控訴人に帰属するものと認めるのが相当であるから」を付加する。

18  同六五丁表二行目冒頭から七行目末尾までを削除し、そのあとに「支出された右交際費の損金性が否認された結果増加した所得分は、社外に流出しているものといわざるを得ないところ、被控訴人が右金員を控訴人の代表者朴奇花に対する認定賞与とし、これに対してなした源泉所得税の納付告知額金五五九〇円及び不納付加算税金五〇〇円の賦課処分を取消すべき事由のないことは、次に乙事件について説示するとおりである。」を付加する。

第三乙事件について

1  原判決六五丁裏一二行目の「原告会社」から六六丁表三行目までを削除し、そのあとに「右金員は社外に流出したものといわざるを得ない。」を付加する。

2  朴奇花が当時の控訴人の形式的な代表者であって、その夫李三奎が、控訴人の実質的な経営者であることは、既に原判決理由を引用して説示したとおりであるが、成立に争いのない甲第一七、第一八、第二六号証、原審証人李三奎の証言により成立を認めうる乙第八号証の一ないし六、前掲乙第一五二号証によれば、朴奇花は控訴人から役員報酬を受けていて、税法上の「役員」であり、李三奎は控訴人の取締役でもなく、控訴人から給料の支給も受けていない税法上の「役員とみなされるもの」であると認められることと控訴人会社が李三奎の個人会社であることを併せ考えると、前記社外流出金は、代表者の朴奇花か事実上経営者の李三奎のいずれかに帰属したものであって、それ以外にはあり得ないものと認めざるを得ないところ、前掲甲第二六号証および弁論の全趣旨によれば、朴奇花は同人に対する認定賞与として課税されたものすべてについて格別不服申立てをなさず、これを承認していることが認められ、他方控訴人は、本件各認定賞与(甲乙事件を含む)は李三奎に帰属したものと主張しているが、原審及び当審証人李三奎自身は、そのような事実を認める供述をなしているものでもなく、また、右社外流出金ないしその変形物が李三奎の所有として存在していることを立証しているものでもない。これらによれば、前示社外流出金は朴奇花に帰属したものであると認めてよく、これを同人に対する認定賞与としてなした被控訴人の処分には違法はない。

第四  以上によれば、控訴人の甲事件及び乙事件の各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条により、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎健二 裁判長裁判官川上泉は退官のため、裁判官橘勝治は転官のためいずれも署名捺印することができない。裁判官 山崎健二)

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