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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)81号 判決

原告

クラリオン株式会社

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告は、「特許庁が昭和56年1月21日に同庁昭和54年審判第7225号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

2  被告は、主文同旨の判決を求めた。

第2原告主張の請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和44年4月9日、特許庁に対し、名称を「カセツト式テーププレイヤにおけるオートリバース装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和44年特許願第27103号)をし、昭和50年12月23日に出願公告されたが、特許異議の申立があり、昭和54年4月16日拒絶査定を受けたので、同年7月5日審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第7225号事件として審理した上、昭和56年1月21日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年2月23日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

互いに逆方向に回転するように設定された左右一対のキヤプスタンと、これら各キヤプスタンに接離自在に構成された一対のピンチローラとを有し、これらの各ピンチローラを各キヤプスタンに交互に圧接してテープの走行方向を転換するようにした2リール式磁気録音再生装置において、ピンチローラの取付板に関連して、横方向に摺動自在とし前記各ピンチローラを交互にキヤプスタンに圧接させるスライド板と、このスライド板と関着しテーププレイヤ本体に回動自在にとりつけられたカムと、該カムに係合するピンを先端に設けた連杆をプランジヤの作動杆に枢支させ、かつその枢支点を中心として前記ピン及び連杆を一体にしたまま左右に回動させるようにしてなるプランジヤとを具備させ、前記カムには連杆におけるピンが嵌合してかつ前記プランジヤの摺動中心軸線に対し左右に振り分けられた一対の端部を有する溝を形成し、前記連杆におけるピンが前記溝の端部を交互に引くことによつて前記カムを交互に首振運動させるようにしたことを特徴とするカセツト式テーププレイヤにおけるオートリバース装置(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項に記載されたとおりのものであると認める。

これに対し、特公昭43-26253号公報(以下「引用例1」という。)には、テープ送りを反転せしめて往復録音再生を行うテープ送り反転機構を備えた磁気録音再生装置において、一方のピンチローラが一方のキヤプスタンから離れると同時に他方のピンチローラが他方のキヤプスタンに圧接してテープ送りを反転せしめる、ということが、また、実公昭42-17813号公報(以下「引用例2」という。)には、自動反転式の磁気録音機において切換装置に連係する連結レバーを2つの切換方向に安定位置をもつようになし、連結レバーの一部にピンを設けたプランジヤの運動によつて2つの方向に交互に回転力を受ける回動選択カムを設け、プランジヤのもつ電磁石に切換時のみ制御信号を加えるようにし、切換ロツドの左右の摺動によつてテープの進行方向を切り換えるということ(別紙図面(2)参照)が、それぞれ記載されている。

本願発明と引用例2に記載のものと比較すると、両者ともに磁気録音再生装置のオートリバース装置すなわち自動反転装置である点で同一であり、以下①~④の点で相違していることが認められる。

①  本願発明はカセツト式のものに特定しているのに対し、引用例2に記載のものはカセツト式又はオープンリール式のいずれにも特定していない点。

②  本願発明は磁気テープの駆動方式として互いに逆方向に回転するように設定された左右一対のキヤプスタンを用いることに特定しているのに対し、引用例2に記載のものは磁気テープの駆動に際し何らかの駆動方式を採用するものではあるが特に明記していない点。

③  本願発明はスライド板を横方向に摺動自在としてピンチローラを交互にキヤプスタンに圧接させる構成に特定しているのに対し、引用例2のものはロツドすなわちスライド板を横方向に摺動自在とすることまで記載しているがピンチローラとキヤプスタンとの関連までは明記していない点。

④  本願発明はカムに係合するピンを先端に設けた連杆をプランジヤの作動杆に枢支させ、その枢支点を中心としてピン及び連杆を一体にしたまま左右に廻動させるものであるのに対し、引用例2に記載のものはピンを設けたプランジヤすなわち作動杆を回動自在としているものである点。

そこで、前記①~④の相違点について検討する。

①の相違点について

引用例2に記載のものはカセツト式及びオープンリール式のいずれにも適用可能なものであり、また、以前より磁気録音再生装置においてオープンリール式自動反転技術とカセツト式自動反転技術とは互いに転用しうる関係にあり、かつ、本願発明はカセツト式のものに特有の構成と作用効果とを有していないものであるから、そのようにカセツト式に特定することによる格別の効果は認められない。

②の相違点について

磁気テープを両方向に駆動する際に互いに逆方向に回転するように設定された一対のキヤプスタンを用いることは磁気録音再生装置の自動反転装置において当業者に周知のことである(特公昭43-4625号公報、実公昭35-29642号公報、特公昭43-30370号公報等参照)から、この周知の技術を引用例2に記載の装置の磁気テープの駆動手段として採用することは当業者であれば適宜になしうることである。したがつて、互いに逆方向に回転するように設定された一対のキヤプスタンを用いることに特定することにも格別新規な着想を必要としたとは認められない。

③の相違点について

ピンチローラを交互にキヤプスタンに圧接してテープの走行方向を転換させることは前記の引用例1(特公昭43-26253号公報)に記載されている。この公知の技術を引用例2に記載のものと組み合わせることは当業者であれば適宜になしうることである。

④の相違点について

左右に振り分けられた一対の端部を有する溝を形成したカムを押杆によつて交互に首振運動させるものにおいて左右に回動しうる連杆を用いることは当業者に周知のことであり(実公昭36-27173号公報、実公昭34-20152号公報等参照)、その作用効果も知られていることから、カムの駆動態様において特に相違が認められない引用例2に記載の回動自在の作動杆を、周知の技術である連杆が左右に回動するように取り付けられた作動杆によつて置換することは当業者であれば適宜になしうることと認められる。さらに、請求人(出願人)は左右に回動する連杆を用いたのでカムを回動させるための作動杆の力を小さくすることができる旨の主張をしているが、前記の如く左右に回動する連杆を用いることが当業者に周知であり、かかる構成によれば作動杆の力を小さくできるということも当業者に自明のことであるから、その主張は当をえない。

以上のとおり、前記①~③の相違点における本願発明の構成はいずれも磁気録音再生装置の分野において周知並びに公知の技術であつて、それらを総合する点にも格別の発明力を要するとは認め難く、④の相違点の従来技術の採用にあたつての困難性も特に認められないから、結局、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載の技術並びに従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定によつて特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決は、後記のとおり、本願発明の解釈を誤つたため本願発明と引用例との相違点を看過し、また、認定した相違点についても判断を誤り、さらに、周知事実の認定を誤り、その手続においても、特許法159条2項、50条の規定に違反しているばかりでなく、出願人(原告)の補正の機会を不当に認めなかつたものであるから、違法として取り消されるべきものである。

1 本願発明の解釈の誤りとこれによる相違点の看過について(取消事由の①)

(1)  本願発明の要旨における「関着」の意味

本願発明は、テーププレイヤにおけるオートリバース装置に関するものであつて、スライド板(6)が横方向に摺動することによりオートリバースすなわちテープの走行方向反転を行わせ、スライド板(6)の摺動はカム(24)の首振運動によつて行わせるものである。したがつて、カム(24)の首振運動をスライド板(6)に伝えてスライド板(6)を摺動させる構成、すなわちカム(24)とスライド板(6)との伝動関係は、本願発明の構成に欠くことができない事項である。右事項については、本願発明の特許請求の範囲(前記本願発明の要旨に同じ。)に「このスライド板と関着しテーププレイヤ本体に廻動自在にとりつけられたカム」と記載されている。右「関着」とは、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載から明らかなように、カム(24)が首振運動するのにともなつてスライド板(6)を摺動させるような関連をもつて両者を直接取り着けた構成を意味している。右に反し、本願発明における「関着」という表現が、カム(24)とスライド板(6)とを直接的に取り着ける場合に限らず、引用例2における連結レバー(4)のようなものを介在させ間接的に取り着ける場合をも含むと解することは、右連結レバー(4)に相当する部材が本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面のどこにも全く記載されていない以上、発明の詳細な説明に記載されていない事項を特許請求の範囲とすることを認めていない特許法36条5項の規定の趣旨からみても明らかに誤りといわなければならない。

また、仮に「関着」なる用語が原告主張のように限定的に解釈できないとすれば、本願発明のカムとスライド板はどのような取付方でも取り付けられていさえすればよいという最も広義な解釈が許され、極端な例では右の両者が固定的に取り付けられている場合も含まれることとなり、この場合には本願発明の作用効果を奏せず、その目的を達することができないから、この発明は未完成ということになる。

(2)  相違点の看過

「関着」なる表現を前記のように解すると、本願発明と引用例2記載のものとの間には次のような相違点が認められるのに、審決はこの相違点を看過している。

すなわち、本願発明は、支軸(25)を介してテーププレイヤ本体に枢着されたカム(24)が支軸(25)のまわりに回動すると、支軸(25)を外れたカム(24)上の任意の点が円弧状の軌跡を描くことに着目し、カム(24)に支軸(25)を外れた係合杆(27)を設けてカム(24)の首振運動に伴つて係合杆(27)から円弧状の往復運動を取り出し、この円弧状の往復運動をスライド板(6)に設けた係合杆(27)と遊嵌する切欠(11)を介してスライド板(6)に直接伝えてスライド板(6)を摺動させるようになつている。これに対して、引用例2に記載されたスライド板駆動機構は、本願発明のスライド板に相当する切換ロツド(1)と本願発明のカムに相当する回動選択カム(6)とが関着されておらず、切換ロツド(1)の摺動は支軸(3)のまわりに回転可能な連結レバー(4)によつて行われるようになつている。この連結レバー(4)は必要不可欠のものであり、これを回動させるためその支軸(3)に一体的に回動選択カム(6)を設けてあるのであつて、連結レバー(4)を設けずに回動選択カム(6)によつて切換ロツド(1)を直接摺動させるという技術思想は引用例2には全く開示されていない。換言すわれば、引用例2には、本願発明のようにカム(24)の首振運動にともなつてカム(24)それ自体に支軸(25)を外れて設けた係合杆(27)の円弧状運動をスライド板(6)に直接伝えてスライド板(6)を摺動させるという技術思想は示唆すらされていないのである。したがつて、この点において本願発明のスライド板駆動機構と引用例2に記載されたスライド板駆動機構とはその構成が顕著に相違している。

引用例2に記載されたスライド板駆動機構は、右のように切換ロツド(1)を摺動させる連結レバー(4)の支軸(3)に一体的に回動選択カム(6)を設けてあるため、連結レバー(4)と回動選択カム(6)とは必然的に支軸(3)の上下に重なり合つたいわば2階建構造となつている。これに対して本願発明のスライド板駆動機構は、スライド板(6)をカム(24)が直接摺動させるものであるため、カム(24)のみで足りるいわば1階建構造となつていて、この点において引用例2に記載されたスライド板駆動機構とはその構成が顕著に相違している。

右のように構成が相違している結果、引用例2に記載されたスライド板駆動機構は高さ方向に大きなスペースを必要とするものであるのに対して、本願発明のスライド板駆動機構は高さ方向に大きなスペースを必要とせず、また、連結レバーのような部材を必要としないため、機構全体を小型化することができ、この点において本願発明のスライド板駆動機構と引用例2に記載されたスライド板駆動機構とは、その作用効果が顕著に相違している。

右のような顕著な作用効果の相違をもたらす構成上の相違点を看過し、本願発明が引用例2等から容易に発明できたとした審決の判断が誤りであることは明らかである。

2 認定した相違点④に関する判断の誤りについて(取消事由の②)

(1)  引用例2記載の切換機構

引用例2記載の考案の切換機構は、本願発明のそれと本質的に相違し、とりわけその駆動源たるプランジヤの作動杆が円周方向に回転しなければ切り換えられないという点に格段の差異が認められる。すなわち、引用例2には「(ピンを設けた)プランジヤ(10)は円柱状であり回動自在になつている」と明記されており(甲第2号証1頁右欄下から4、3行目)、この構成は引用例2の考案にとつて不可欠のものである。引用例2のものでは、プランジヤ作動杆(10)が吸引されると、まずピン(11)が凹部(8)'におけるテーパ部に当接する。次いでさらにプランジヤ作動杆(10)の吸引動作が続くと、ピン(11)はカム(6)との当接部においてX方向(後記のY方向と直角をなす方向)の力を受け、Y方向(作動杆(10)の吸引方向)に引かれながらX方向に傾動し、プランジヤ作動杆(10)は回転する。そして、前記のようにピン(11)が傾動すると、それに伴つてカム(6)が回動され、このカム(6)に連係させた切換ロツド(1)がスライドする。しかし、右のようにカム(6)が回動する間、プランジヤ作動杆(10)はX方向の力を受けながらY方向に吸引されるものであるから、本願発明におけるように、連杆にピンを設け、この連杆をプランジヤの作動杆に回動自在に枢支させたものに比し、プランジヤ作動杆部等に作用する「こじれ荷重」及び「回転摺動抵抗」は引用例2に記載のものの方がはるかに大きくなる。したがつて、引用例2における電磁石(9)は本願発明におけるものよりもはるかに大なる吸引力を必要とする。

また、カム(6)の回動に際し、ピン(11)は凹部(8)'の凹底面に当接するというよりはむしろ当該凹部(8)'におけるテーパ部に点接触の状態で微妙に接触しカム(6)を回動させるものであるから、本願発明におけるピンのように当該ピンが何ら傾動することなく並行状態で移動し溝の端部に当接してこれを引き込むのに比較すると、カム(6)の回動ひいては切換ロツド(1)のスライド動作に当つての円滑が欠如する。また、これと同時にピン(11)の傾動でカム(6)を回動させるものであるから、カム(6)の回転角度にも制限を受け、この回転角度をある程度以上に大きくできない。

(2)  引用例2記載の考案の切換機構と本願発明の切換機構との対比

右のように、引用例2記載の考案は、本願発明とは構成及び作用効果において格別の相違があり、特にカムの駆動態様において両者は全く相違する。しかるに、審決は、甲第3、4号証を引用して、「カムの駆動態様において特に相違が認められない引用例2記載の回動自在の作動杆を、周知の技術である連杆が左右に回動するように取り付けられた作動杆によつて置換することは当業者であれば適宜になしうる」旨認定した。

そこで、右引用にかかる甲第3、4号証について考察する。

まず、甲第3号証(実公昭36-27173号公報)をみると、ここには次のような構成の「サイレンスイツチ」が記載されている。すなわち、押釦(19)を踏みつけると連杆(18)が下降して下端の転子(17)がカム孔(9)における凹部(6)又は(7)を押圧してカム板(3)を左右に回動させるもので、それによつて該カム板に取り付けられた接触ピン(13)を介して接触子(16)の電気通路を開閉させるようにしたものである。また、前記カム板(3)にはレバー(10)を介してスプリング(12)が付設され、それによつてカム板を常時左側か右側かに片寄らせておく構成である。しかして、その作用効果としては、同号証1頁右欄15ないし21行に明記されるとおり、「スイツチをいかなる位置にとりつけてもカム面をカム孔(9)内に形成しかつ凸部(5)にて転子の作用方向を確実に選択しまた連結部(8)を挟む連杆(18)、(18)でカム板(3)を作用するので作動の厳密な確実性が保たれる。」というものであつて、このスイツチはスプリング(12)によつてカム板(3)を常時片側に傾けておき、連杆(18)の押圧力によつてその傾きを左側か右側かに安定的に切り換えられるようにして、このスイツチがいかなる位置にとりつけられても切換が確実に行われるようにしたものである。甲第3号証記載のものと本願発明とを対比すると、作動杆に対して連杆が付設されているほか、強いていえば単にカム板の形状が共通していることが認められるだけで、このカム板の配設状態、特にスプリングの設定の仕方(カムの中立状態におけるピン(22)の牽引方向)及びカムの駆動態様において格別の差異が認められる。すなわち、本願発明のカム(24)は支軸(25)を介して自由状態に設定され、カム板の設定位置を規制するスプリングは、直接には取り付けられていない。カム板の設定位置の規制は連杆(21)の先端に設けたピン(22)を介してプランジヤの軸線上に張設したスプリング(23)で間接的に行わせた構成であり、そうすることによつて連杆をリセツト状態に復帰させると同時に、カムそれ自体は前段のセツト状態に残しておくことができるようにしたものであつて、かかる作用は引用例2は勿論のこと、甲第3号証記載のものにあつても全く期待できないものである。また、甲第3号証記載のもののスプリングは前記のようにカム板(3)を左右いずれかの側に傾かせているものであるのに対し、本願発明のスプリングはプランジヤの非励磁時にはカム(24)を常時中立状態に保持している点でも構成及び作用効果に違いがある。甲第3号証記載のもののようにカム板を常時片側の安定位置に回動させるべく附勢していた場合には、その切換に大きな力を要し、プランジヤとして大型かつ大容量のものとなり、このように、甲第3号証記載のスイツチ機構は本願発明と較べて有意差があるのである。

このことは、甲第4号証たる実公昭34-20152号公報についてもあてはまる。同号証は、「二衝程スイツチ」というもので、回転スイツチSを左右に切り換えるべく、該スイツチにカム(7)を設け、このカムにおける噛合部(11)(11)'に、常時発条(5)によつて押釦(1)の軸線上にくるように保持した押爪(4)を衝突させるようにしたスイツチ機構を開示したものである。この場合のカム(7)は形状的にみても引用例2のものと同一であり、押爪(4)で動かされるものにすぎないものであるから、本願発明とは構成上大きな違いがあり、作用効果の上でも本願発明とは相違する。

また、審決がいうように、甲第3号証及び甲第4号証に開示されている「連杆が左右に回動するように取り付けられた作動杆」を引用例2のものに置換したとしても、そもそも甲第3、4号証記載のものは前記のようにカムの駆動態様が異なる(カムの切換を連杆の押込動作で行つており、本願発明のように引込動作で行つていない。)から、これをそのまま引用例2に転用することは不可能であり、転用にあたつては、本願発明に開示されているような創意工夫を必要とするから、この点からしても当業者が容易に発明しうるものとは断定できないものである。

さらに、引用例2のものに甲第3、4号証記載の連杆が左右に回動するように取り付けられた作動杆を転用できたとしても、引用例2記載のスライド板駆動機構が高さ方向に大きなスペースを必要としている欠点を解消するうえで何も効果がない。このことは、回動選択カム(6)の形状を甲第3号証の第1図に示されたカム板(3)のようにカム孔(9)が閉じたいわゆるクローズドタイプの形状に形成したとしても全く同様である。そして、右の欠点を解消するための技術思想については、引用例2は勿論甲第3、4号証のいずれにも全く示唆されていない。

以上のとおり、本願発明のスライド板駆動機構は、引用例1、2及び甲第3、4号証各記載の技術に比して新規性及び進歩性を有しており、したがつて、本願発明は右各記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたとした審決は誤りである。

3 周知事実の認定の誤りについて(取消事由の③)

審決は、「カムを押杆により首振運動させるものにおいて、左右に回動しうる連杆を用いること」が、甲第3、4号証により本願発明の特許出願前から当業者に周知であつたと認定しているが、甲第3、4号証及びその開示する技術は、本願発明の特許出願前公知の技術ではあつても、テーププレイヤの技術分野における通常の知識を有する物に熟知されていたとは考えられない。すなわち、甲第3号証は消防車、救急車等の火急用のサイレンスイツチに関するものであり、また、甲第4号証はプツシユープツシユ式の2衝程スイツチに関するものであつて、いずれもテーププレイヤの技術分野における通常の知識を有する者にとつてその内容が周知であつたとすることはできない。甲第3、4号証が本願発明の特許出願される約10年前に刊行されたものであるといつても、それが本願発明の出願時に周知技術であつたといえるのは、火急用のサイレンスイツチやプツシユープツシユ式の二衝程スイツチの技術分野に対してであつて、それとは全く異なつたテーププレイヤの技術分野に対してはあてはまらない。なぜなら、そのような全く異なつた技術分野にまで周知性を及ぼして出願を拒絶することは、特許出願を拒絶査定すべき場合について制限的に規定した特許法49条が周知技術について全く触れていないことに照らして、著しく妥当性を欠くからである。したがつて、甲第3、4号証は、右のような連杆を用いることがテーププレイヤの技術分野における当業者にとつて周知であることの例示となるとすることはできないのである。

また、本件にあつては、審決が周知と認定した文献の数は僅か2例にすぎない。このような場合には、公知文献として拒絶理由通知に引用して出願人に対し意見を申し述べる機会を与えるべきであつたことは、周知慣用に関する審査基準(甲第8号証の2参照)に照らしても明白であつて、これにより周知技術を認定することはできないから、審決の認定は誤りである。

4 審判手続の違法について

(1)  特許法159条2項、50条違反(取消事由の④)

甲第3、4号証は、前記のとおり公知資料にすぎないものであるが、この場合、これらに基づき特許法29条2項の規定により本願発明の特許性を否定することによつて原査定を支持しようとする場合には、同法159条2項の規定に基づき審判において改めて拒絶理由通知を発し、同法29条2項の規定を適用する理由すなわちその根拠とする公知例を具体的に明示したうえ、原告(審判請求人))に意見を申し述べる機会を与えなければならない。しかるに、審決は、原告にその機会を与えず一方的に審判請求は成り立たないと結論したものであるから、この点で違法といわなければならない。

仮に右のような手続が履践されていたならば、原告は、甲第3、4号証との関係についても本願発明の新規性及び進歩性を明らかにし、また、手続補正により特許請求の範囲等についても検討を加え、もつて認容の審決を得られるべきところであつた。すなわち、本願発明の特許出願に対する拒絶査定と同時になされた特許異議の決定の理由中で認定された周知技術は、「プランジヤの作動杆と、プランジヤにより駆動される部材との間の距離、作動杆の形状等により、該作動杆と部材との間を必要に応じて連杆で結ぶこと」でありこれによれば、その技術思想は、2部材間の距離を埋めるもの又は部材の形状が直接連設になじまないときの結合手段という点にのみ存する。原告は、審判手続において、拒絶査定の理由たる右異議決定理由に対し逐一反論したが、その理由自体が引用例2と右記載の周知技術に基づく容易推考というにすぎなかつたから、請求人たる原告の主張も当然のことながらこれに限局され、甲第3、4号証又は後に審決が右甲第3、4号証により認定した前記「カムを押杆により首振運動させるものにおいて、左右に回動しうる連杆を用いること」というような技術の周知性の存否については言及しなかつたし、その必要も認められなかつた。しかるに、審決は、突如として甲第3、4号証を引用し、これを周知技術であるとする誤つた前提に立つて判断するに至つた結果、原告は拒絶理由通知を受けず、意見陳述の機会も与えられないまま審決を受けるに至つたものであるから、審決は、結局、拒絶理由を示すことなく特許出願を拒絶した違法があるものとして取消を免れない。ことに、審判官は、審判にあたり甲第3、4号証が特許異議の当時からすでに提出されていたこと、それにもかかわらず審査官がこれらを公知資料として問題にした経過のないこと、異議決定が認める周知技術は甲第3、4号証と異なること、など全て熟知している立場にあつたのであるから、仮に従来の争点と全く離れた点に問題ありとすれば、当然のことながらその問題点を指摘し、釈明を求め、意見を述べさせる機会を与えなければならないのに、これを怠つた審決の手続は違法といわなければならない。

そして、本件においては、拒絶査定の理由として認定された周知技術と審決認定のそれとは明らかに異なること前記のとおりであるから、少なくともこのような場合については、仮に技術の周知性自体は認められる場合であつても、拒絶理由を明示し意見申立の機会を与えるべきものであり、その機会を与えないでした審決は違法というべきである。

(2)  補正案についての手続違背(取消事由の⑤)

特許法49条、50条の規定によれば、審査官(審判官)は、その特許出願が同法36条4項ないし6項に規定する要件を満していないとき(記載不備の場合)には拒絶理由を発する義務がある。この場合の記載不備とは、単に技術的な不整合性や国語的に不明瞭な場合に限られるだけでなく、新規性及び進歩性との関わりにおいて不明瞭な場合をも包含する。けだし、審査にあたつて発明の範囲が広いときは公知例との関係で特許適格としての新規性又は進歩性を有しないが、発明の範囲が狭ければ特許性を具備するという場合がしばしば生ずるからである。それ故、仮に本願発明の明細書の特許請求の範囲の記載が公知例との関係で不明瞭であると判断したのであれば、まずその記載を明瞭にさせたうえで、特許適格の有無を判断すべきであつた。ことに本件にあつては、公知例との関係で特許請求の範囲の記載を明瞭にしたい旨の出願人の意思が具体的に示されているのである(甲第5号証)から、それを無視して判断したのは誤りである。

さらに、本願発明の特許出願は昭和44年4月9日になされたもので、昭和45年法律第91号による改正前の特許法(以下「旧法」という。)が適用され、右改正後の特許法の規定は適用されないから、現行特許法17条の3で規定される審判請求時の手続補正はできず、拒絶理由通知をまたなければならない関係にある。したがつて、出願人としては、拒絶理由通知の発動を促して手続補正の機会を得る以外には、補正をすることができなかつた状況にあり、一方、現行法の右規定が審査官の示した最終的判断に基づいてもう一度補正をしたいという実務上の要望に対応して設けられたことに鑑みても、本件旧法出願に対しては拒絶理由通知を契機とする手続補正の機会を与えるべきものであつた。

特許庁は、右に述べた両面から拒絶理由通知を発すべきであつたのに、これを怠り、審理を尽さなかつた違法があるから、審決は取り消されるべきものである。

第3請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  原告主張の請求の原因1ないし3の各事実はいずれも認める。

2  審決を取り消されるべきものとする同4の主張は争う。

原告主張の審決取消事由は、後記のとおり、いずれも理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。

1 原告主張の取消事由①に対して

原告は、本願発明の要旨におけるスライド板とカムとの「関着」とは、「カム(24)が首振運動するのにともなつてスライド板(6)を摺動させるような関連をもつて両者を直接取り着けた構成を意味している」と主張するが、「関着」という言葉がそのような限定的な意味を有するものとは到底解することはできないものであり、特に、「両者を直接取り着けた構成を意味している」との主張は、どのような根拠に基づいているのか全く理解することができない。

もし、「関着」なる用語を右のような特別の意味に使用するならば、そのことを明細書の発明の詳細な説明中に説明又は定義しておくべきであり、発明の詳細な説明中にそのような記載をせずに、発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されている特許請求の範囲における用語を発明の詳細な説明の項の説明記載によつて限定解釈することは許されないところである。

したがつて、右「関着」の意味が前記のように限定解釈されるべきことを前提とする原告の右主張は失当である。

2 同取消事由の②に対して

本願発明のカム部分と甲第3号証記載のものとを対比すると、次のようになることは本願発明の明細書と甲第3号証の記載とから明らかである。(甲第4号証記載のものも甲第3号証記載のものと同じ内容のものとみられる。)

本願発明 甲第3号証記載のもの

①  カム(24)と、 ①' カム板(3)と、

②  該カム(24)に係合するピン(22)を先端に設けた連杆(21)をプランジヤ(20)の作動杆に枢支させ、 ②' 該カム板(3)に係合する転子(17)を先端に設けた連杆(18)を押釦(19)の軸の(20)に枢支させ、

③  かつ、その枢支点を中心として前記ピン(22)及び連杆(21)を一体にしたまま左右に廻動させるようにしてなるプランジヤ(20)とを具備させ、 ③' かつ、その枢支点を中心として前記転子(17)及び連杆(18)を一体にしたまま左右に廻動させるようにしてなる押釦(19)とを具備させ、

④  前記カム(24)には連杆(21)におけるピン(22)が嵌合してかつ前記プランジヤの摺動中心軸線に対し左右に振り分けられた一対の端部を有する溝(26)を形成し ④' 前記カム板(3)には連杆(18)における転子(17)が嵌合してかつ前記押釦(19)の摺動中心軸に対し左右に振り分けられた一対の凹部(6)、(7)を形成し、

⑤  前記連杆におけるピンが前記溝の端部を交互に引くことによつて前記カムを交互に首振運動させるようにしたこと、 ⑤' 前記連杆(18)における転子(17)が前記凹部(6)、(7)の端部を交互に押すことによつて前記カム板(3)を交互に首振運動させるようにしたこと、

右本願発明のカム部分と甲第3号証記載のものの構成及び動作を対比すれば、本願発明における「カム(24)」、「ピン(22)」、「作動杆(21)」及び「一対の端部を有する溝(26)」が、甲第3号証記載のものの「カム板(3)」、「転子(17)」、「軸(20)」及び「一対の凹部(6)、(7)」にそれぞれ対応することは明らかである。

したがつて、本願発明のカム部分と甲第3号証のものとは、本願発明が駆動手段としてプランジヤを用い、かつ、カムの溝の端部を交互に引くようにしているのに対して、甲第3号証のものは駆動手段として押釦を用い、かつ、カム板の凹部を交互に押すようにしている点で相違するだけである。

しかしながら、引用例2のものにおいては、カム部分の駆動手段としてプランジヤを用い、かつ、カムの溝の端部を交互に引くようにしているのであるから、甲第3号証記載のものを引用例2のカム部分に用いる場合には、甲第3号証の押釦に代えてプランジヤを用い、かつ、カムの溝の端部にあたるカム板の凹部を交互に引くように構成することは、当業者が容易に想到、実施することができた単なる設計的事項といわねばならない。

なお、甲第3号証及び甲第4号証はスイツチに関するもので、テープレコーダに関するものでないが、甲第3号証及び甲第4号証に記載されているカム部分の機構はスイツチに特有なものでなく、一般にカムを利用した切換機構に適用できるものであることは明らかである。したがつて、甲第3号証及び甲第4号証に右カム部分の機構がテープレコーダに適用できる旨の示唆がないことは、なんら右カム部分の機構がテープレコーダに適用できることに想到する妨げとなるものではない。このことは、甲第3号証及び甲第4号証が本願発明に対する異議申立の資料として提出されたことによつても裏付けられるところである。

そして、特許請求の範囲に記載されている本願発明のカム部分の構成要件は、前記①ないし⑤のとおりであり、カム板の配設状態、スプリングの設定の仕方及びカムの駆動態様については右以外に何も限定はないのであるから、その限定があることを前提として甲第3号証記載のものと差異があるとする原告の主張は失当である。

また、原告は、引用例2のものは2階建構造であるから高さ方向に大きなスペースを必要とするのに対し、本願発明は1階建構造であるから高さ方向に大きなスペースを必要としないと主張するが、引用例2のものにおける連結レバー(4)は、手動切換つまみ(2)と切換ロツド(1)を連結させ、プランジヤ(10)の作動時に、連結レバー(4)に連結された切換つまみ(2)を回動させ、その表示F(正転)、R(反転)の指示を自動的に切り換えるためであり(甲第2号証1頁右欄28ないし30行参照)、引用例2のものは本願発明にはない切換つまみの自動的切換機能を有するもので、むしろ、本願発明よりは優れているものであるから、両者が同一の機能を有する場合に初めて問題になるスペースの大小を論じても意味がなく、原告の右主張も失当といわなければならない。

以上のとおりで、本願発明は、引用例1及び引用例2の技術並びに甲第3、4号証で例示した従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、審決の判断は正当であり、これを取り消すべき違法はない。

3  同取消事由の③に対して

甲第3号証及び甲第4号証は、共にスイツチに関するものであるといつても、電気回路を断続する電気的部分にその要旨があるものではなく、カムを使用した往復式切換機構に要旨があることは、一見して明らかである。そして、元来スイツチという用語には2通りの意味があり、1つは電気的スイツチ、他は機械的切換を意味し、甲第3号証及び甲第4号証のものは後者すなわち機械的切換機構に関し、特にカムの首振運動による切換機構に関するものであるから、本願発明と技術的親近性があり、本願発明の技術分野と甲第3号証及び甲第4号証の技術分野が全く異なるとする原告の主張は理由がない。

また、例示した文献が1個であつたり、その文献が本願発明の特許出願日の直前に発行されたものである場合ならば格別、本件のように、例示した文献が甲第3、4号証の2個であり、かつ、両者がいずれも右出願日の約10年前に刊行された実用新案公報であり、さらに、実用新案公報の性格からみてその内容が当業者には全てよく知られているとみられることに鑑れば、甲第3、4号証の技術は、本願発明の特許出願時には周知技術であつたとみるのが相当であり、この考え方は、特許庁の審査基準(甲第8号証の2)の考え方となんら矛盾するものではない。

4  同取消事由の④に対して

審決において審査の際の引用例とともに出願時における周知技術を引用したからといつて、審決における拒絶理由が審査の際のそれとは異なつた新たな拒絶理由に該当することになるものではなく、したがつて、出願人に新たに拒絶理由通知を発して意見を求めることは必要とされないから、審決に原告主張のような手続上の違法な点はない。

5  同取消事由の⑤に対して

明細書の記載不備とは、特許法36条4項、5項違反を指すものであるところ、右各条項の記載から明らかなように、明細書の記載不備の内容には、原告のいう新規性及び進歩性との関わりにおいて不明瞭な場合をも包含するものではなく、したがつて、これを理由に拒絶理由通知を発しなければならないものではない。

旧法においては、特許法64条1項に規定する期間内及び同項に規定する事項についてのみ、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができるのであつて、右期間を経過して提出された補正は採用されないのである。また、出願人から補正案が提出されていても、特許法159条2項、50条、64条1項の各規定から明らかなように、補正の機会を与えることだけを目的に拒絶理由通知を発しなければならないものではないのである。

以上のとおりであるから、審決に原告主張のような手続上の違法はない。

第4証拠関係

訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  原告主張の請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1 原告主張の取消事由の①(請求の原因4の1)について

原告は、本願発明の明細書の特許請求の範囲(前記本願発明の要旨に同じ。)における「このスライド板と関着しテーププレイヤ本体に回動自在にとりつけられたカム」との記載中の「関着」という用語は、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載からみて、その実施例にあるような「カム(24)が首振運動するにともなつてスライド板(6)を摺動させるような関連をもつて両者を直接取り着けた構成」を意味すると解すべきである旨主張する。

そこで、この点について考察するに、「関着」という用語が、技術上特定の関係を示すものとして一般に理解されているものではないことは明らかであるが、その文言上の意味からみれば、複数のものがなんらかの関連をもつて取り着けられている状態を表わすものとみるのが相当である。そして、成立に争いのない甲第7号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面からは、右「関着」とは「カム(24)が首振運動するにともなつてスライド板(6)を摺動させるような関連をもつて両者を取り着けた構成」を意味するものと解するのが相当であることが認められる。

しかしながら、右「関着」の文言上の意味からは、複数のものの関連が直接的であるというような具体的関連態様を限定することはできず、また、前記甲第7号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、実施例として、カム(24)とスライド板(6)を直接取り着けたといえる構造のものが示されてはいるものの、本願発明がそのような構造のものに限られる旨の記載はないことが認められるから、本願発明における「関着」を原告主張のように「直接取り着けた」構成を意味すると解することはできない。もし、直接取り着けた構成を本願発明の要旨とするのであれば、特許請求の範囲において、「直接関着」した旨を明確にするなど、実施例における構成をさらに明確に特定するような記載をすべきものであり、そのような記載のない本願発明を原告主張のように解することはできない。

さらに、前記甲第7号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、カムとスライド板を実施例のように直接取り着けたことによる原告主張の作用効果については、なんら具体的記載のないことが認められるから、この点からも原告主張の解釈を採ることはできない。そして、右認定の事実によれば、本願発明はカムとスライド板を直接取り着けたことによる作用効果を得ることを目的とするものではないことが明らかであるから、右のように、特許請求の範囲の記載を、そのカムとスライド板との関連に関して、実施例に示された構造に限定せず直接取り着けたもの以外のものを含むと解しても、本願発明の技術的範囲を不当に広くするものとはいえず、この点についてなんらの不都合もない。

また、原告は、本願発明の場合、「関着」という表現は実施例のものに限定されると解しないと、「固定的に取り着け」るものまでも意味し、実施不能のものまでが含まれることになると主張するが、本願発明の「関着」とは、原告も主張するように、「カム(24)が首振運動するにともなつてスライド板(6)を摺動させるような関連をもつて」、つまり、ある特殊な関連をもつて「取り着け」られていることを示すものであるから、「固定的に取り着け」るようなものまでが含まれてくる余地は全く認められず、原告の右主張は採用できない。

してみると、「関着」という用語が「直接取り着ける」という限定された意味を有することを前提とする原告の取消事由①の主張は、その余の事項について判断するまでもなく失当であるといわなければならない。

2 同取消事由の②(請求の原因4の2)について

原告は、引用例2記載のものと甲第3、4号証記載のものとはカムのの駆動態様が異なるとして、引用例2の切換機構を甲第3、4号証のもので置換して本願発明のように構成することは当業者の容易にできたことではないと主張する。

そして、いずれもその成立に争いのない甲第2ないし第4号証によれば、その駆動態様において、甲第3、4号証のものが押込み動作であるのに対して、引用例2(甲第2号証)のものが引込み動作であるという点で異なつていることが認められる。しかしながら、右甲第2号証によれば、引用例2に用いられている切換機構の要部は、中心軸線に対して左右に振り分けられた一対の端部を有するカムの端部に力を加えることにより、カムを交互に首振運動させることであつて、その際、押す力を一方から加えるか、引く力を他方から加えるか、すなわち駆動態様がどのようなものであるかには、格別の意味はないものと認められるから、甲第3、4号証のものと要部において相違があるということはできない。

してみれば、引用例2における切換機構を、右のとおり要部において相違があるということのできない甲第3、4号証の切換機構(首振運動)に置換して本願発明のように構成することは、当業者が容易にできたこととみるのが相当である。

なお、原告が主張する「こじれ荷重」、「回転摺動抵抗」及び「カムの回転角度の制限」が少ないという本願発明の効果については、前記甲第3、4号証と甲第7号証を対比すれば、いずれも甲第3、4号証記載のものが本来有する効果であつて、これを引用例2記載のものに適用して初めて得られる格別の効果ではないことが明白であるから、右効果があることを理由に本願発明の容易推考性を否定することはできない。

3  同取消事由の③(請求の原因4の3)について

原告は、甲第3、4号証記載のものと本願発明とが技術分野を異にすることを指摘して、甲第3、4号証記載の技術が本願発明の属するテーププレイヤの分野で周知であつたとすることはできない旨主張する。

しかしながら、前記甲第3、4号証によれば、右各号証は、いずれも本願発明の特許出願の約10年前の実用新案出願にかかり、その1、2年後に出願公告された考案を記載したものであり、それぞれ、火急用のサイレンスイツチ及び2衝程スイツチに関するものであるが、その考案はいずれもスイツチの電気的部分に存するものではなく、機械的部分すなわち左右に振り分けられた一対の端部を有する溝を形成したカムを押杆によつて交互に首振運動させる切換機構に存するものであることが認められるところ、右のスイツチにおける機械的構成のような機械の部分に関する技術知識は、各種の機械を設計するに当つて、必ずしも各産業の分野に限られることなく、互いに広く利用され合うものということができ、まして、2回に亘つて実用新案出願公告されてから10年近く経過している甲第3、4号証記載の技術は、スイツチそのものの技術分野だけでなく、同様の部分機構を必要とする本願発明のテーププレイヤの技術分野においても広く知られるに至つていたことは推認するに難くないから、原告の右主張は理由のないものといわなければならない。

4  同取消事由の④(請求の原因4の4の(1))について

原告の右主張は、甲第3、4号証記載の技術が周知でなく公知であつたにすぎないことを前提とするものであるところ、右前提が認められないことは前項記載のとおりであるから、右主張も採用できない。なお、拒絶査定と審決とが根拠とする周知事実を異にする場合でも、周知技術について拒絶理由通知をしなければならないとする理由はないから、右に反する原告の主張は失当である。

5  同取消事由の⑤(請求の原因4の4の(2))について

特許出願に対する審査、審判においては、出願発明の要旨を認定することができ引用例との対比判断をするに支障のない場合には、認定した発明の要旨に関する範囲で審理をすれば足りるものであり、それ以上に、引用例との関係で新規性又は進歩性を有するとすることができるように明細書の記載を整備させるため、これを記載不備として拒絶理由通知をすることは要求されていない。

本件においても、前記審決理由の要点によれば、本願発明の要旨認定は支障なく行われ、各引用例との対比判断も十分になされているのであるから、それ以上に、特許法36条4項ないし6項に基づく拒絶理由通知をしなかつた点において、審判に手続上の違法があるとすることはできず、右に関する原告の主張は失当である。

なお、原告は補正案を提出している旨主張しているが、補正案の提出があつたとしても、審査、審判において前記以上の審理が要求されるものでないことに変わりはないから、そのことは、前記判断の妨げとなるものではない。したがつて、審決を違法としてその取消をもとめる原告の本訴請求は理由のないものといわなければならない。

3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 楠賢二 牧野利秋)

〈以下省略〉

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