大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和58年(ネ)40号 判決

控訴人

岩田光司

右訴訟代理人

小林貞五

被控訴人

富士火災海上保険株式会社

右代表者

葛原寛

右訴訟代理人

古屋俊雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三六六〇万円及びこれに対する昭和五五年九月二七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  当事者の主張

一控訴人の請求原因及びこれに対する被控訴人の認否は、原判決事実摘示中の請求原因及び請求原因に対する認否(但し、原判決二枚目表九行目の「月掛店舗総合保険契約」の次に「及び月掛店舗休業保険契約」を、同六枚目表四行目の「(保険料支払方法)」の次に「のうち、保険料払込期日は認め、その余」を加える。)と同一であるから、これを引用する。

二被控訴人の抗弁(保険料不払による解除)

1  契約解除に関する約定

(一) 本件保険契約に適用される被控訴人の各普通保険約款には、第二回以後の月掛保険料が払込期日を経過した後一〇日以内に払い込まれないときは、被控訴人は、保険契約を解除することができ、右解除は保険証券記載の保険契約者の住所にあてて書面による解除の意思表示を発した時から、効力を生ずる旨の規定がある。

(二) しかし、被控訴人の内部の事務処理規程では、右一〇日間の猶予期間を五〇日間に延長している。

2  保険料支払債務――持参債務――の不履行

本件保険料支払債務は、持参債務であるが、控訴人は、昭和五四年四月二九日までに被控訴人に払い込むべき第四回目の保険料を、同日から五〇日を経過しても、払い込まなかつた。

3  保険料支払債務――取立債務――の不履行

(一) 仮に、本件保険料支払債務が取立債務であるとすれば、集金場所については、本件保険契約において、当時の控訴人の住所である横浜市神奈川区西神奈川町一丁目一四番二号と約定された。同所は控訴人経営の食堂四方山店の所在地であつた。

(二) 被控訴人神奈川支社の従業員赤曽部蓊が、次のとおり第四回目の保険料の取立行為をしたのにかかわらず、控訴人はその支払をしなかつた。

(1) 赤曽部は、同五四年五月二〇日及び同月二七日、四方山店に集金のため赴いたが、控訴人が不在であつて、右保険料の支払を受けられず、同店の従業員中野某らに対し、集金に来たことを、控訴人に告げてくれるよう依頼した。

(2)(イ) 赤曽部は、同年六月一日、四方山店において、控訴人に対し、右保険料が未払になつている旨を告げた。

(ロ) その際、赤曽部から右保険料の支払請求を受けた控訴人は、ドレミ店に午後一二時に出ているので、その時刻ころ集金に来るように応答し、保険料を支払う意思のないことを黙示的に表示した。

(3) 赤曽部は、同月八日にも、四方山店に集金のため赴いたが、前記(1)と同様な状況であつて、伝言を依頼した。

(三)(1) 右(二)の取立行為は、控訴人の保険料支払に対する被控訴人側からの協力行為としては、信義則にも適合する行為であり、このことは、控訴人側に、次のとおり、第二回、第三回の各保険料の支払についても、その支払を遅延するなどの背信行為があつたことを考慮すると、一層明白である。

(2)(イ) 第二回目の保険料の払込期日は、同年二月二八日であつたが、被控訴人神奈川支社従業員古島徳野白は、同年三月から翌月にかけて、前後六回にわたつて、右保険料の集金のため、ドレミ店に赴いたが、控訴人不在のため、同店の従業員田代らに対し、保険料の集金に来た旨を伝え、その金額のメモ書きを、控訴人に手渡してくれるよう依頼して預けた。同年四月五日に至り、漸く、古島は小切手で、その支払を受けた。

(ロ) 第三回目の保険料の払込期日は、同年三月二九日であつたが、古島は、同年四月から翌月にかけて、前後三回にわたり、右(イ)と同様に集金に赴き、その結果、漸く、同年五月一〇日、小切手でその支払を受けた。

(四) したがつて、控訴人は、第四回目の保険料不払につき、履行遅延の責を免れない。

4  被控訴人は、第四回目の保険料の払込期日から五〇日を経過した後の昭和五四年六月一九日、控訴人に対し、四方山店にあてて、郵便はがきで、本件保険契約解除の意思表示を発した。

三抗弁に対する控訴人の認否

1  抗弁1(一)の事実は認める。

2  同2の事実中、持参債務の点は争うが、その余の事実は認める。

3(一)  同3(一)の事実中、四方山店の所在場所は認め、その余は否認する。

(二)(1)  同3(二)の冒頭の事実及び同(二)(1)の事実は不知。

(2)  同(二)(2)(イ)の事実は認める。同(2)(ロ)の事実中、控訴人がドレミ店に午後一二時に出ていると言つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)(1)  同3(三)(1)は争う。

(2)  同(三)(2)の事実中、第二回目、第三回目の各保険料の払込期日及び実際に右保険料を被控訴人主張の日に支払つたことは認めるが、その余の事実は不知。

4  同4の事実は不知。はがきの到達は否認する。

四控訴人の反論

1  保険料支払方法についての約定

本件保険契約中においては、保険料支払債務を取立債務とし、かつ集金場所をドレミ店とすることが約定された。

2  控訴人の保険料支払に対する被控訴人側の協力行為の未了について

被控訴人の集金人は、第四回目の保険料の払込期日である昭和五四年四月二九日に、ドレミ店に右保険料の集金に来なかつたが、このような場合には、本件保険契約の内容、従前の取引慣行等及び信義則上、被控訴人は、約定の集金場所又は現実に集金場所として取り扱われていた場所の控訴人にあてて、改めて集金日の決定につき協議の申入れをし、右協議によつて定められた日に、集金に行くことが要求されているものである。

3  仮に、赤曽部が昭和五四年五月二〇日、二七日に、四方山店に集金のため赴いたとしても、そこは、もともと集金場所ではなかつたのであるから、それは、取立行為に当たらないことはもちろんのこと、集金日の協議申入れの趣旨さえも意味せず、また、仮に、同年六月一日控訴人と赤曽部とが会つた際、同人から集金日決定の協議申入れがなされたとすれば、控訴人は、昼間、ドレミ店で保険料を支払う旨を申し入れたが、赤曽部は、右申入れに応ずるような措置をとらなかつた。

4  したがつて、第四回目の保険料未払については、新しい集金日の決定がないのであるから、控訴人には、債務不履行の責任がない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1の事実(本件保険契約の締結。但し、集金の約定を除く。)及び同2(一)の事実(本件火災の発生)は、当事者間に争いがない。

二控訴人が昭和五四年四月二九日の払込期日となつている第四回目の保険料を支払わなかつたことについては、当事者間に争いがないところ、控訴人に、右保険料支払債務不履行の責任があるか否かを判断するにあたり、まず、右支払債務が取立債務又は持参債務のいずれであるかについて検討する。

〈証拠〉によれば、被控訴人の月掛総合保険約款集にある本件各保険普通保険約款には、月掛保険料の払込場所についての規定はなく、右約款集の末尾に添付されている案内書の「保険料のお払込みについて」と題する欄には、第二回以降の保険料は、払込期日までに、集金に来た集金人に払い込む旨の記載があること、本件保険契約申込書には、その申込人の住所欄に「横浜市神奈川区西神奈川町一―一四―二」と記入され、集金場所欄に「申込人の住所に同じ」と印刷され、その余白部分に、それと異なる場所の記入がなく、集金担当者については、本件保険契約の取扱者である被控訴人神奈川支社営業係長赤曽部蓊と記載されていること、本件の第二回目ないし第四回目の保険料について同人及びその代行者の古島徳野白が集金にあたつたことが認められ、右認定に反する前記の控訴人本人の供述部分は、前掲の各証言に照らし措信できず、そのほかに右認定を動かすに足りる証拠はなく、前記の住所地が、当時、控訴人の経営していた食堂四方山店の所在場所であつたことについては、当事者間に争いがない。

以上の事実によると、被控訴人は、控訴人との間で、本件保険契約の締結にあたり、被控訴人の集金人(右契約取扱者赤曽部)が、集金場所の四方山店において、毎月の保険料を取り立てる旨を約定したものと認められ、本件保険料支払債務は取立債務であるということができる。

三1本件保険料支払債務は、前示のとおり、取立債務であるから、控訴人の保険料払込みに対する被控訴人側からの協力行為として、取立てに関する行為が必要であるが、その行為の態様、方法、程度等については、右債務の具体的内容、被控訴人と控訴人間の従前の取立ての情況、その他の諸般の事情を考慮し、信義則に従つて、それを決定すべきものと解すべきである。

2ところで、本件保険契約締結前後の事情及び本件の第二回目ないし第四回目の各保険料集金の情況、各店舗の営業状態等についての当裁判所の事実認定は、次のとおり改めるほか、原判決一〇枚目表一行目から同一五枚目裏六行目までの理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  同一〇枚目表一行目の「抗弁1(二)の事実のうち」を削り、同裏二行目の「原告」を「原審及び当審における控訴人」に改め、同一一枚目表七行目の「月掛店舗総合」及び、同裏五行目から同七行目までを削る。

(二)  同一四枚目表三行目から同七行目までを次のとおり改める。

「六(1) 赤曽部は、同五四年六月一日夕刻、四方山店において控訴人と会つた際、同人に対し、保険料が未払になつていることを告げ(但し、この点は当事者間に争いがない。)、保険料の支払を請求するとともに、その集金について控訴人の居場所を尋ねたところ、控訴人は、ドレミ店に毎夜一二時に出ていると返答しただけで別れた。」

(三)  同一四枚目表一〇、一一行目の「かえつて」から同裏二行目の「糊塗し、」までを削り、同二、三行目の「横浜支社」を「神奈川支社」に改める。

(四)  同一五枚目表八行目から同裏三行目までを「(七) 控訴人は、同五三年一二月一七日ドレミ店(パブレストラン)を開店した後、経営の主力をドレミ店に移し、四方山店の経営は、毎日同店の板前の中野某と打合せのうえで行われ、各店舗の営業時間は、四方山店が夕刻からの夜間営業であり、ドレミ店が二四時間営業であつた。当時控訴人は、両店舗と異なる場所に居住し、午後一一時から翌朝四時まで、ドレミ店に出て経営にあたつた。

控訴人は、同五四年三月ころ、右中野に対し、四方山店一階の飲食店の経営を委託したが、二階の麻雀営業は自ら経営していた。右経営委託への変更については、控訴人は、被控訴人に対し何らの通知もしなかつた。」に改め、同六行目の「住所」の次に「ないし集金場所」を加える。

3以上認定の第二回目ないし第四回目の各保険料の集金の状況、第二、第三回目の保険料払込みの遅延の経緯、控訴人の各店舗の営業関係その他の諸事情を考慮すると、控訴人の保険料支払に対する被控訴人側の協力行為としては、すでに信義則に適つた十分なものが履行されており、かかる経緯を経て、赤曽部から同五四年六月一日になされた第四回目の保険料集金に関する申入れに対し、控訴人としては、漫然と被控訴人側のいつ目的を達するか予測できない爾後の集金行為を待つのでなく、右保険料支払のため小切手ないしは現金を、控訴人の在否に拘らず、四方山店又はドレミ店に準備しておくから集金にくるよう告げるなど、被控訴人に集金の時期及び場所を具体的に通知すべきことが、信義則上要求されていたものと認めるのが相当である。しかるに、控訴人は、かかる措置をとらなかつたのであるから、右保険料支払債務の履行遅滞の責を免れないものというべきである。

4抗弁1(一)の事実(契約解除の約定)は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、抗弁1(二)の事実(五〇日の猶予期間)、同4の事実(解除の意思表示)が認められる。

5以上の認定によると、本件保険契約は、同五四年六月一九日、契約解除により消滅したものといわなければならない。

四そうすると、本件保険契約が保険事故の発生日である同五四年九月二五日当時存続していたことを前提とする控訴人の本訴請求は、失当として棄却を免れない。

よつて、右と結論を同じくする原判決は、結局相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(杉山克彦 鹿山春男 赤塚信雄)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com