大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)537号 判決

被告人 伊藤正幸

昭一五・三・三〇生 内装業手伝い

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は重きに過ぎて不当であると主張するものである。

所論に対する判断に先立ち職権をもつて審案するのに、原判決は、「被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、かつ酒気を帯び、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、昭和五八年九月八日午後一一時三〇分ころ千葉県成田市飯岡一六九番地付近道路において、普通貨物自動車を運転したものである。」との事実を認定したうえ、適用罰条として、被告人の右所為のうち、無免許運転の点については、道路交通法一一八条一項一号、六四条を、酒気帯び運転の点については、同法一一九条一項七号の二、六五条一項をそれぞれ掲げている。しかしながら、右酒気帯び運転の点についての罰条中、同法一一九条一項七号の二は、同法六五条一項の規定に違反し酒気を帯びて車両等を運転した者のうち、政令で定める程度以上のアルコールを身体に保有する状態にあつたもののみをを処罰する旨を定めているにとどまり、これを受けた昭和三五年政令二七〇号の道路交通法施行令四四条の三の「法一一九条一項七号の二の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリツトルにつき〇・五ミリグラム又は呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムとする。」旨の規定によつて、酒気帯び運転の罪により処罰される運転者の酒気帯びの程度が具体的に定められていて、道路交通法一一九条一項七号の二の規定は、右の同法施行令四四条の三の規定をまつてはじめてその内容が具体的に明確になるものであるから、有罪判決における酒気帯び運転の罪についての罰条としては、原判決挙示の道路交通法の規定のほかに、これを補充するものとして同法施行令の前示規定をも掲げなければ、法令の適用として十分でないといわなければならない。しかるに、原判決は前記のとおり適用法令として右施行令の前示規定を掲げていないから、この点において原判決には法令適用の誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわざるをえない。

よつて、被告人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄して、同法四〇〇条但書に則り次のとおり判決する。

原判決が認定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示所為中、無免許運転の点は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、酒気帯び運転の点は同法一一九条一項七号の二、六五条一項、同法施行令四四条の三に該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い無免許運転の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人に対する科刑を検討するのに、被告人は、これ迄本件と同種の無免許運転の罪等で五回に亘つて処罰されており、特に直前の事件では公判審理の結果懲役五月三年間執行猶予の判決を言渡されているのに、僅か九か月足らずでまたも本件無免許運転に及び、酒気を帯びていたことも判明しているのであるから、被告人に利益な情状を斟酌しても、再度の刑の執行猶予を付するまでの余地はないといわざるをえない。しかし、いずれ前刑の執行猶予が取消され、被告人が本件の刑と合わせて右刑の執行を受ける事情にあることをも考慮に加え、被告人を懲役三月に処し、原審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 四ツ谷巖 小林充 奥田保)

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