大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1703号 判決

控訴人

上月一男

被控訴人

安田信託銀行株式会社

右代表者

山口吉雄

右訴訟代理人

渡辺昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差戻す。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二  当事者の主張

一  原審に提出された「訴ならびに当事者変更申立書」と題する書面の内容は、別紙のとおりである。

二  控訴人の当審における主張は、次のとおりである。

1  原裁判所は、昭和五九年二月二五日到達の命令をもつて、命令到達の日から二週間内に印紙三五万七六〇〇円を貼用すべき旨の補正を命じたが、控訴人が該命令期間内にその補正をしなかつたことを理由として、昭和五九年五月三〇日、本件訴えを却下する旨の判決を言渡した。

2  しかし、本件訴えは、独立の訴えとして提起したものではなく、原審に係属中の昭和五五年(ワ)第八八一号事件において、昭和五九年二月一〇日付「訴ならびに当事者変更申立書」により、被告として被控訴人を追加申立したものにすぎない。右申立に事件番号を付し新訴として取り扱つたのは、原審の事務処理に関する問題である。

3  民訴法第五九条所定の共同訴訟の要件を具備する場合は、同時に提訴しなくても、第一審の口頭弁論終結前には、一般に共同訴訟人たりうる者に対し、訴えの追加的併合が許されると解すべきである。

昭和五五年(ワ)第八八一号事件の被告井上利行に対する請求は本件土地の瑕疵に基因する瑕疵担保による損害賠償を求めるものであり、被控訴人に対する請求は右瑕疵を不法に隠蔽した不法行為上の損害賠償を求めるものであつて、両者は、民訴法五九条所定の「同一ノ事実上ノ原因ニ基クトキ」に該当するのである。

4  原審は、控訴人の被告井上に対する請求権と被控訴人に対する請求権とを、別個独立の請求権であつて全く関連性のないものとして取り扱つている。しかし、右二つの請求権はいずれも本件土地の瑕疵を原因とするものであつて、被告井上と被控訴人とはそれぞれの立場において、控訴人に対して右瑕疵に基づく全部の損害を各自が独立して賠償する義務を負うものではあるが、その中の一人の給付があれば他の者は控訴人に対する関係では債務を免れるという関係、即ち、不真正連帯債務の関係にあるのである。

5  民訴法二二条一項は、訴訟の目的の価額は原告が訴えを以て主張する利益によつて算定する旨規定している。本件訴訟の目的は損害賠償請求権であつて、控訴人は、被告井上に対する請求と被控訴人に対する請求とを、連帯債務の関係にあるものとして訴求しているのである。そうすると、控訴人が訴えを以て主張する経済上の利益は、七〇〇〇万円であつて、その倍額ではない。したがつて、被告井上に対する請求と被控訴人に対する請求とを全く無関係の請求として取扱い、その合算額によつて印紙の貼用を命じた前記補正命令は全く違法の命令であり、この違法命令に基づく原判決もまた違法である。

三  被控訴人の当審における主張は、次のとおりである。

1  民訴法五九条は、同一の訴状で、複数の当事者から又は複数の当事者に対して訴えを提起しうる場合を規定したにすぎないものであり、この場合は、当然に(即ち、裁判官の併合決定をまたず、当事者の意思で)共同訴訟となしうる場合を規定しているものである。

訴えは、特定の当事者から特定の当事者に対する特定した請求について、裁判所の判断を求める行為であり、訴訟係属後に、審判の対象である請求について、一定の枠の中でこれを変更することを認めてはいるが、すでに係属している訴えを利用して当事者を変更(交替的変更若しくは追加的変更)することは認められていないものと解すべきである。これを認める法文上の根拠がなく、かつ、これを認める実益もない(むしろ、交替若しくは追加される当事者の訴訟上の不安定さからもたらされる不利益を犠牲にしてまでかかる訴訟形態を認める理由は見出せない。)。

2  したがつて、被控訴人に対する訴訟上の請求は、当然に別訴としての取扱いを受けざるをえないものというべきであり(新しい事件番号が付されているのも当然の手続上の処理である。)、二つの事件を併合すべきか否かの判断は、適法に継続した事件について、はじめて行われるものである。

理由

一控訴人が原審以来主張するところは、要するに、二個の訴えが民訴法五九条所定の共同訴訟の要件を具備する場合には、一個の訴状をもつて各被告を相手どつて訴えを提起しなくても、第一審口頭弁論終結前である限り、原告においてすでに或る者を被告として係属する訴訟に他の者を被告とする請求を追加的に併合提起することが、民訴法二三二条一項を根拠として、許されるとの見解を前提にし、すでに係属している、控訴人を原告とし、井上利行を被告とする東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第八八一号瑕疵担保による損害賠償請求事件に、控訴人を原告とし、被控訴人を被告とする本件損害賠償請求の(民訴法一三二条の適用をまたない)追加的併合を求めるものであるところ、右被告両名が控訴人に対して負担する損害賠償債務は連帯債務の関係にあるものとして訴求しており、控訴人が訴えをもつて主張する利益は重複するから、控訴人は新請求につき改めて印紙の貼用による手数料を納付する必要はない、というにある。

しかしながら、民訴法二三二条の予定する訴えの変更は、その規定の内容からみて、同一当事者間における請求の交換的又は追加的変更のみをいうのであつて、訴訟係属後に当事者を変更することは民訴法七二条、七四条、二一六条等の特別の規定がある場合(いわゆる法定当事者変更)に限つて許されるにとどまり、これら以外の場合に広く同法二三二条を根拠としては許されない、と解するのが相当である。のみならず、すでに係属する訴訟に関連して第三者が被告に対し新たな訴えを提起した場合又は原告が第三者に対して新たな訴えを提起した場合に、新訴が民訴法一三二条の適用をまたずして当然に旧訴訟との間で併合の効果を生ずることを一般的に認めるのは、明文の規定を欠くばかりでなく、これを認めた場合にも新訴につき旧訴の訴訟状態を当然に利用することができるものでもなく、訴訟提起の時期によつては訴訟遅延を招きやすいこと、濫訴のおそれがあること等からみて、控訴人主張のように民訴法五九条所定の要件を具備する場合でも、適当でないと考えるものである(判例もまた、かような場合に民訴法一三二条の適用をまたず当然に併合の効果を生ずる訴訟形態を認めていないと解される。最高裁判所大法廷昭和四二年九月二七日判決・民集二一巻七号一九二五頁参照)。したがつて、控訴人のように、新たな被告に対する請求を現に係属する第三者との間の訴訟に追加して一個の判決を求めようとするならば、新たな被告に対する別訴を提起し、民訴法一三二条の規定による口頭弁論の併合を求めるべきであつて、もし具体的な案件が事案の内容や時期からみて口頭弁論の併合を適当としない場合であるとするならば、これをしも控訴人のいう追加的併合によつて目的を達しようとするのは本末を転倒するものというほかはない。そして、かように新訴が別事件として提起されるものである以上(本件訴えはそのように取り扱われるべきであり、現に取り扱われている。)、新訴の訴訟物の価額に相当する手数料を納付しなければならないのは当然であるから、原審が、控訴人に対し本件訴えにつき相当額の印紙の貼用を命じたこと及び控訴人が納付命令に応じなかつたことを理由に本件訴えを不適法として却下したことにはなんらの違法もなく、控訴人が当審に至つてもなお所定の印紙の貼用をしない以上、本件訴えは却下を免れないのである。

二以上の次第で、控訴人の本件訴えを不適法として却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(吉井直昭 岡山宏 河本誠之)

別紙

訴ならびに当事者変更申立書

原告 上月一男

被告 井上利行

右当事者間の昭和五五年(ワ)第八八一号瑕疵担保による損害賠償請求事件について、原告は左記のとおり訴を変更する。

第一、左の者を被告に追加する。

東京都中央区八重洲一丁目二番一号

安田信託銀行株式会社

右代表取締役 山口吉雄

第二、請求の趣旨を左のとおり改める。

被告らは連帯して原告に対し、金七千万円及びこれに対する昭和五一年一二月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第三、被告会社に対する請求原因

(一) 被告会社は、不動産の鑑定評価に関する法律(以下単に法と略称する)に基づいて不動産鑑定業を営むものであり、訴外東田鑑は、被告会社の大阪支店不動産部に専任の不動産鑑定士として所属するものである。

(二) 被告会社は、被告井上の依頼により、西宮市苦楽園三番町二三番の三、山林一一、570.24平方メートル(本件土地)について、右東田鑑定士に命じて右土地の適正価格の鑑定をなさしめた。

(三) 東田鑑定士は、被告井上に対し法第三九条一項により右土地に関する昭和四七年九月二八日付鑑定評価書(甲第七号証の三)を交付した。

(四) 右鑑定評価書によると、本件土地を宅地見込地として昭和四七年九月一三日の価格時点における評価額を金二億六千八百三一万四千二百円と鑑定している。

(五) 右鑑定は、本件土地についての重大な瑕疵を看過している。従つて、東田鑑定士は、不動産鑑定業者である被告会社の業務に関し不当な鑑定評価を行なつたというべきである(法第三七条、同第四〇条参照)。

(六) 本件土地に関する瑕疵については、既に被告井上に対する本訴の訴状、準備書面において述べているからこれを引用する。

(七) 本件鑑定評価書は、最高裁の和解(甲第三六号)において、和解の金額を決定するに際して重要資料として被告井上から提出され、且つ、原告が訴外山田寛治から本件土地を買受けた際にも、代金額決定の重要資料として取扱われた。

若し、東田鑑定士が、本件土地について、このような不当な鑑定評価を行わなかつたならば、最高裁における被告井上と訴外山田との和解金は金九千万円でなくて、金三千万円以下に定められた筈である。また、原告は、この不当鑑定評価により訴外山田に対して金七千万円以上の過当代金の支払いを余儀なくされた。

故に、被告会社は、原告に対し右金七千万円の損害を賠償する義務がある。

(八) 昭和五八年一二月七日行われた東田鑑定士に対する証人尋問によつて、被告会社の賠償責任の根拠が明白になつたので、本訴請求に及ぶ次第である。なお、被告井上ならびに被告会社に対する請求は、いずれも本件土地の瑕疵を原因とするものであるから、本件変更の申立は、民訴法第五九条、同法第二三二条一項により適法と解すべきである。

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