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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)249号 判決

原告

松岡良市

被告

株式会社マツシタ

主文

特許庁が、昭和59年9月7日、同庁昭和56年審判第8859号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「シートマツト」とする考案(以下「本件考案」という。)について実用新案登録(昭和52年8月19日実用新案登録出願(以下「本件出願」という。)、昭和54年6月28日出願公告、昭和55年2月29日設定登録に係る実用新案登録第1315606号。以下「本件実用新案登録」という。)を受けた実用新案権者であるところ、被告は、昭和56年4月15日本件実用新案登録について無効の審判を請求し、昭和56年審判第8859号事件として審理された結果、昭和59年9月7日、「本件実用新案登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同月22日原告に送達された。

右審判における当事者双方の主張及び立証の概要は、次のとおりである。

1 請求人(被告。以下「被告」という。)は、(1)無効審判請求書をもつて、(1)本件考案は、本件出願前から日本国内において公然知られ、かつ、公然実施されたシートマツトと同一のものであるから、実用新案法(以下「法」という。)第3条第1項第1号及び第2号に該当する旨、(2)本件考案は、本件出願前から日本国内において公然知られ、かつ、公然実施されたシートマツトより当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、法第3条第2項に該当する旨各主張し、(1)の事実を立証するため、甲第2号証ないし甲第6号証(本訴における甲第6号証、第16号証及び第18号証ないし第20号証に相当。以下同じ。)を、(2)の事実を立証するため、甲第7号証(本訴における甲第21号証に相当)をそれぞれ提出し、(2)昭和56年8月5日付審判理由補充書(第1)をもつて、本件考案は、本件出願前に頒布された刊行物甲第8号証の1、2(昭和52年4月25日自動車産業通信社発行の「月刊自動車用品の実務」。本訴における甲第7号証の1、2に相当。以下「引用例」という。)を提出し、同刊行物に記載のものと同一であるから、法第3条第1項第3号に該当する旨主張した。

2  被請求人(原告。以下「原告」という。)は、昭和56年8月18日付答弁書をもつて、被告提出の甲第2号証ないし第6号証によつて本件考案が本件出願前に公然知られ、公然実施されたことは立証されていない旨及び本件考案の法第3条第2項該当性もこれを争う旨主張した。

3  被告は、原告の右主張に対し、昭和56年12月5日付第1弁駁書をもつて、引用例の存在及び引用例記載のものは本件考案と構成要件が同一であり、本件考案は新規性がない旨再度主張した。

4  原告は、昭和57年1月26日付答弁書(第2回)及び昭和59年5月15日付答弁書(第3回)をもつて、本件考案と引用例記載のものとが同一の考案であることを前提として引用例は、原告の意に反して刊行されたものであり、法第9条第1項並びに特許法第30条第1項及び第2項に規定する新規性喪失の例外事由に該当する旨主張した。

5  被告は、昭和57年3月27日付第2弁駁書及び昭和59年7月27日付第3弁駁書をもつて右4の主張を争つた。

2 本件考案の要旨

ロープ(1)を捲装縫着してマツト(2)を形成し、該マツトの縫合途中に於て周縁近く適所に数個の透し孔(3)を設けてなるシートマツト。

3 本件審決理由の要点

本件考案の要旨は、前項記載のとおり(その明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)と認められるところ、引用例は、該原本からみて、本件出願前の上記年月日に頒布された刊行物であることが明らかに認められ、それには、ロープ状のものを捲装し、その相接するロープ状のものを接合したシートマツトが、また、そのマツトの周縁内側に数個の透し孔が記載されている。

そこで、本件考案と引用例記載の事項とを比較すると、両者は、ロープを捲装接合してマツトを形成し、該マツトの周縁近く適所に数個の透し孔を設けてなるシートマツトである点で一致しているが、相接するロープの接合手段が、本件考案では縫着しているのに対して、引用例ではどんな手段で接合しているのか明らかでない点で相違が認められる。前記相違点について検討すると、縫着することは一般に広く知られている周知慣用の接合手段であるから、この手段を引用刊行物の相接するロープの接合手段に適用すること、すなわち、相接するロープを縫着することは当業者が極めて容易になし得たものと認められる。

したがつて、本件考案は、引用例の記載内容に基づいて周知慣用の接合手段を適用したにすぎず、この程度のことは当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、法第3条第2項に該当し、法第37条第1項の規定により、本件実用新案登録を無効とすべきものとする。

4  本件審決を取り消すべき事由

本件考案は、(1)本件出願前に日本国内において公然知られ、かつ、公然実施をされたシートマツトにおける考案及び本件出願前に日本国内において頒布された引用例記載の考案と同一の考案であつて、法第3条第1項第1号ないし第3号の規定に該当し、かつ、(2)本件考案の実用新案登録を受ける権利を有する原告の意に反してこれに該当するに至つたものであり、その該当するに至つた日から6月以内の昭和52年8月19日前記のとおり原告により本件出願がなされたものであるから、法第9条第1項の規定により準用される特許法第30条第2項及び第1項の規定により考案の新規性を失わないのに、本件審決は、本件考案を法第3条第2項に該当するとの誤つた判断をし、ひいて、本件実用新案登録を無効とするとの誤つた結論を導いたものであるから、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 本件出願前日本国内において公然知られ、かつ、公然実施されたシートマツト(後記2記載の商品「いいだろう」及び同「イーヤロ」並びに後記シヨーに出品されたもの)並びに本件出願前日本国内に頒布された引用例記載のシートマツトは、いずれも本件考案の特徴をすべて備えたシートマツト(以下「本件シートマツト」という。)であつて、本件考案と構成要件を全く同じくするから、法第3条第1項各号に該当する。

2 しかしながら、本件シートマツトは、原告の考案に係るものであるところ、その意に反して、公知公用となり、又は刊行物として頒布されたものである。すなわち、

原告は、昭和51年8月ころ本件考案を創作し、原告を代表者とする阪和産業株式会社(以下阪和産業」という。)は、原告の依頼のもとに同年10月ころ山敬株式会社(代表者山本敬一。以下「山敬」という。)に対し本件シートマツトの試作及び加工を、類似品の販売を禁止したうえ、発注し、山敬はこれを承諾し、昭和52年2月ころまでの間に引用例記載の商品「いいだろう」及び阪和産業販売の商品「カーデビイ」を含む30種類の本件シートマツトの見本を作成し、次いで同月ころ原告、阪和産業、山敬及び蝶理株式会社の間に、山敬が同年6月末までに本件シートマツトを6万枚製造し、阪和産業を経由して蝶理株式会社に納入すること、山敬は阪和産業に無断で本件シートマツト及び類似品の製造販売をしない等の内容の継続的供給契約が成立した。ところが、山敬は、同年3月ころ株式会社フジヤマ(代表者藤山喜久雄。以下「フジヤマ」という。)に前記の本件シートマツトの見本を送り、フジヤマは、そのころ本件シートマツトに該当する商品「いいだろう」及び同「イーヤロ」を山敬に製造させて大豊産業株式会社に販売し、同社は同年4月発行の引用例に右商品の広告を掲載させ、また、阪和産業は、同年3月ころ本件シートマツトの市場性調査のため日本ボデイーパーツ工業株式会社の仕入担当者に本件シートマツトである商品「カーデビイ」を交付し、その際本件シートマツトの構成を外部に漏らさないよう注意をしたにもかかわらず、同社は、阪和産業の意に反して同年3月18日から同月21日まで開催の「'77大阪オートアクセサリーシヨー」に右シートマツト「カーデビイ」を出品した。以上のとおり、原告及び阪和産業は、本件出願に至るまで、本件シートマツトの存在及び形状について不特定多数人に秘匿する意思を有していたところ、その意に反して、前記のように、昭和52年3月ころその販売、展示が、また、同年4月引用例への掲載がなされ、これにより、本件考案は、原告の意に反して法第3条第1項各号に該当するに至つたものである。

第3被告の答弁

被告訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の冒頭記載の主張事実中、本件考案が同(1)のとおり法第3条第1項第1号ないし第3号の規定に該当することは認めるが、その余の主張はすべて争う。本件考案は法第9条第1項の規定により準用される特許法第30条第2項及び第1項が適用されるものではなく、本件実用新案登録を無効とする本件審決の結論に誤りはない。

1 同4.1の事実は認める。

2 同4.2の事実中、阪和産業、山敬及びフジヤマの代表者がそれぞれ原告主張の者であること、本件シートマツトたる商品「いいだろう」及び「イーヤロ」を山敬及びフジヤマが製造し、フジヤマが大豊産業株式会社に販売させ、かつ、引用例に同「いいだろう」の広告をさせたこと、原告主張の時期に原告主張のシヨーが開催され、本件シートマツトたる原告商品「カーデビイ」がこれに出品されたこと、昭和52年3月ころ本件シートマツトの販売、展示がなされ、そのころ本件考案が公然知られ、かつ、公然実施され、また、同年4月本件シートマツトの掲載された引用例が頒布されたことは認めるが、その余は否認する。

本件考案は、本件出願前から日本国内において公然知られ、かつ、公然実施されていたものであつて、右公知公用の技術を基にしてデザインされたシートマツトは公知であり、例えば、山本敬一の創作した数種の本件シートマツトが昭和48年5月12日ないし昭和49年5月15日にそれぞれ大阪繊維意匠保護協会に保全登録(公知柄限定登録。乙第5号証ないし第7号証)されており、したがつて、本件考案はこの点において法第3条第1項各号の規定に該当する。また、原告主張の商品「いいだろう」及び同「イーヤロ」は、山本敬一及び藤山喜久雄の創作(考案)に係るもので、右創作は右両名により、昭和52年3月1日意匠登録出願され、昭和54年1月30日意匠登緑第501217号をもつて登録され、同年5月7日その意匠公報が頒布された。更に「いいだろう」は、昭和52年3月原告主張のシヨーに出品され、同年4月初めころ(同月25日付)発行の引用例にその広告が掲載され、また、「イーヤロ」は同年4月そのカタログが多数印刷配布され、そのころ販売された。これらの商品及び引用例記載のものは、右両名の創作に基づくもので、原告の本件考案と無関係であるから、仮に原告の意に反して公知公用となり刊行物に記載されたとしても、法第9条第1項の規定により準用される特許法第30条第2項及び第1項の適用はあり得ない。なお、これら商品は、遅くとも5月までに取引のほぼ終了する夏物商品であり、昭和52年の早い時期に市場に出されていたものと推定され、しかも、同年3月の前記シヨーには、原告商品「カーデビイ」とともに前記「いいだろう」が出品されていながら、原告は、「いいだろう」の出品に抗議することもなく、「イーヤロ」のカタログ頒布や引用例発行の4か月後に至つてはじめて本件出願に及んだものであつて、これらの点からみても、右販売、出品、刊行物掲載等が原告の意に反するものであることはあり得ないものといわなければならない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(争いのない事実)

1  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考察の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

2 前記争いのない本件に関する特許庁における手続の経緯並びに成立に争いのない甲第12号証及び第14号証(いずれも審判事件答弁書)によれば、原告は、本件審判手続において、本件審決が公知文献として引用した引用例の刊行物につき、それが原告の意に反して刊行されたものである旨主張したことが認められ、右主張は引用例の刊行物が法第9条第1項並びに特許法第30条第1項及び第2項所定の新規性喪失の例外に当たる刊行物であるとの主張であることは明らかであるところ、前示本件審決理由の要点及び成立に争いのない甲第1号証(本件審決謄本)によれば、本件審決は、その理由中当事者の主張の項に原告のこの点の主張につき何ら記載することなく、また、その判断においても原告の右の主張について全く審理判断をした形跡がなく、単に本件考案と引用例記載のものとを対比したうえ、本件考案は引用例の記載内容と周知慣用の技術手段に基づき極めて容易に考案をすることができるものであるから、法第3条第2項の規定により本件実用新案登録を無効とする旨認定判断したことが明らかである。ところで、本件考案が引用例記載のものと同一の考案であることは当事者間に争いのないところであり、このことは、成立に争いのない甲第2号証(本件考案の実用新案公告公報)及び第7号証の1、2(引用例)によりこれを肯認することができる。そうすると、本件審決は、引用例の刊行物が法第9条第1項並びに特許法第30条第1項及び第2項所定の新規性喪失の例外に該当する刊行物である旨の原告の主張について審理探求すべきであるにかかわらず、この点の認定判断を看過したものであつて、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるものというべきであるから、本件審決はその余の点について判断を加えるまでもなく、この点において違法として取消しを免れない。

(結語)

3 以上のとおりであるから、本件審決を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(武居二郎 裁判官清永利亮は転補につき、裁判官高山晨は差支えにつき署名捺印をすることができない。武居二郎)

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