大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)182号 判決

原告

岡本株式会社

右代表者代表取締役

岡本久太郎

右訴訟代理人弁理士

溝上満好

被告

特許庁長官

宇賀道郎

右指定代理人

川津義人

小峰義明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判〈省略〉

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は昭和四六年一〇月一日別紙(一)のとおり「エリナ」の片仮名文字及び「えりな」の平仮名文字を二段にして左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第一七類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として登録出願し、昭和五三年三月一一日右出願を登録第七〇六一五〇号商標外七件との連合商標登録出願に変更したところ、本願商標は昭和五四年八月三〇日出願公告された。右出願公告に対し三井東圧化学株式会社より異議申立があり、昭和五五年一二月一七日「異議申立は理由がある。」との決定及び本願につき拒絶査定がされた。そこで、原告は、昭和五八年五月一〇日審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和五八年審判第一〇八六一号事件として審理したうえ、昭和六〇年八月六日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年九月一九日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。

2  登録第六〇九五九五号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)のとおり「Elena」の欧文字を左横書きしてなり、第一七類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として昭和三七年二月五日に登録出願、昭和三八年四月一八日に登録、昭和四九年一月二五日及び昭和五八年六月二八日に商標権の存続期間の更新登録がされている。

3  本願商標と引用商標の構成は前記1及び2記載のとおりであるから、前者は「エリナ」、後者は「エレナ」の称呼を生ずることは明らかである。

両称呼を比較すると、両者はいずれも三音よりなり、このうち、称呼における識別上重要な要素を占める語頭の「エ」を含め二音までを共通にし、その差は僅かに中間音において「リ」と「レ」の相違にすぎず、これとても「リ」と「レ」は五〇音中の「ラ」行に属する同行音であつて、比較的近似した音質を有するものであるから、これらが両者の称呼全体に及ぼす影響は少なく、したがつて、各称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、その語感相似たるものとなり、繁忙なる商取引場裡においては彼此聴き誤まるおそれある程度のものと判断するのが相当である。

4  してみれば、本願商標と引用商標とは外観及び観念上の類否について論及するまでもなく称呼において類似する商標であり、かつ指定商品も同じくするものであるから、本願商標は商標法四条一項一一号に該当し、商標登録を受けることはできない。

三  審決を取消すべき事由

1  両商標は何れも文字のみから成る商標であるから、その称呼は構成文字通りに、本願商標よりは「エリナ」、引用商標よりは「エレナ(Elena)」が生ずるものであつて、それ以外の称呼が生ずる余地はないものである。

そこで両称呼「エリナ」と「エレナ」とを対比してみると、両称呼は共にきわめて短く、かつ簡潔明瞭な三音から成る称呼であつて、該称呼中、第一音「エ」と第三音「ナ」とを両者同一にするものであるが、第二音(中間音)において、前者が「リ」、後者が「レ」の明らかな相違がある。

しかもこの相違する「リ」と「レ」の音は、共に強く明瞭に発音される母音「イ(i)」と「エ(e)」を伴う音であるから、両者はその帯有母音の明らかな相違によつて、それぞれ音質を異にすることとなり、明瞭に区別される。かかる差異は、全体として僅か三音という短い音構成である両者の称呼に及ぼす影響はきわめて大きく、両称呼の聴感を著しく相違させるものであるから、両者の称呼に類似性はないというべきである。

2  甲第四ないし第一九号証の審決例及び登録例も本願商標のように三音の称呼を有する商標間において、原告主張のように、第二音の相違によつて類似性を否定しているほか、四ないし五音からなる比較的長い称呼の商標間においても中間部の一音の相違を理由に同様の判断を示しているのである。

3  したがつて、本願商標は引用商標と容易に区別し得る非類似、別異の商標であるということができるから、本願商標が商標法四条一項一一号に該当するとした審決は誤りであり、取消を免れない。

第三  請求の原因の認否及び被告の主張

〈省略〉

第四 証拠関係〈省略〉

理由

一請求の原因一及び二の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、引用商標の構成、指定商品、出願日、登録日、更新登録日が審決の理由の要点2摘示のとおりであることが認められる。

二そこで、本願商標と引用商標の類否を検討する。

1  本願商標が「エリナ」、引用商標が「エレナ」の称呼を生じ、いずれも三音構成で、第一音及び第三音を共通にし、差異のある第二音(「リ」と「レ」)はいずれもラ行に属する近似音であること、したがつて、両者を一連に称呼すれば語感上相似のものとして聴取され、両者は称呼上彼此混同されるおそれあると認めるのが相当であることは、すべて前記審決の理由の要点3の判断に示されるとおりである。

2  原告は、本願商標と引用商標の第二音である「リ」と「レ」の帯有母音の相違を強調して、両商標の類似性を否定する主張をする。しかし、逆に帯有母音が同じ文字が常に称呼上類似するという関係にあるものでないことは明らかであるから、帯有母音が両者の類否を決定するものと認めることは相当ではない。両商標の第二音はともに同じ発音態様による有声子音のラ行に属するから、それがいずれも前後を各同音の文字の間にはさまれてそれらと一連のものとして称呼されるならば、全体として両者は類似の語調をもつて聴取され、その結果前記1に述べたように称呼上の混同が生ずるおそれがあるものと認められるのである。

原告が援用する〈証拠〉の審決及び登録例はいずれも本件と事案を異にし、また、その判断の相当性に疑問のあるものもあるから、これら審決及び登録例が本願商標と引用商標の類似性に関する前記判断を左右するものではない。

以上のとおり、原告の主張する取消事由は理由がない。

三よつて、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官瀧川叡一 裁判官松野嘉貞 裁判官清野寛甫)

別紙 (一)

別紙 (二)

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