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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)39号 判決

埼玉県川口市青木二丁目四番一一号

控訴人

大桑朝男

右訴訟代理人弁護士

神山祐輔

埼玉県川口市青木二丁目二番一七号

被控訴人

川口税務署長

朝比奈和三

右指定代理人

山口晴夫

鷲見守夫

和栗正栄

牧村達雄

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当時者双方の申立て

一  控訴人

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人川口税務署長が、控訴人に対し昭和四五年三月一三日付でした昭和四一年分の、昭和四六年三月一三日付でした昭和四二年分及び昭和四三年分の各所得税更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算処分」といい、本件更正処分と併わせて「本件課税処分」という。ただし、いずれも後記裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。

二  被控訴人

「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求める。

第二  当事者の主張は、以下に附加するほか、原判決事実摘示(原判決三枚目裏三行目から同二九枚目裏末行まで)のとおりであるからこれをここに引用する。

一  控訴人

原判決には、次の二点において誤りがある。

1  本件調査手続きの適法性に対する判断についての誤り

(1) 原判決は、税務署員が、更正等の処分を行うに際し、税務調査としての質問検査を行う場合の適法要件につき、右質問検査の範囲、程度、時期、方法等の実施の細目については法律上特段の定めのないことを理由に、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当と認められる範囲内である限り、税務署員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである、とし、調査の個別具体的理由を被調査者に開示しなかったり、あるいはその同意なしにその取引先銀行等に対していわゆる反面調査を実施したとしても、それらが社会通念上相当な理由に基づいて実施された場合には、適法な調査である、と判断した。

そして、その判断基準を前提として、本件調査は控訴人の本件各係争年分の申告所得額が過少であることを疑うに足りる相当な理由があったため開始されたものであること、税務署の数回にわたる事前に予告したうえでの臨場調査にもかかわらず、控訴人は帳簿書類及び原始記録を提示しなかったり、申告所得額の算定根拠について具体的説明をしないなど、税務署の調査に全く協力しないことが明らかであって、仮に調査官が控訴人に対し調査の個別具体的理由を開示せず、反面調査の実施につき控訴人の同意を得なかったとしても、税務署が控訴人及びその取引先等に対する本件調査を実施したことは、社会通念上相当というべきである、としたものである。

(2) しかしながら、調査権の行使が許されるのは、当該申告書の記載の適正でないことにつき、合理的な疑いの存するときに限られるべきであり、税務調査が国税犯則取締法に基づく強制調査と本質的に異なる任意調査である以上、調査対象者の納得のもとに、かつ、適切に応答できるようにするために調査理由を具体的に明示すべきは当然である。とりわけ、反面調査については、ことの重大性からしても、納税者に対する直接調査のみではその目的を達することのできない事項に限ってすることができるものと解するべきであって、原判決のように質問検査権の範囲その他の実施の細目について法律上特段の定めがないことを理由に「社会通念上相当と認められる範囲内」というような漠然とした一般的基準を持ち出して、税務署員に対して、広範な裁量権を事実上認めることは到底是認できるものではない。この点に関する原判決の判断は明らかに法令の解釈を誤ったものというべきである。

(3) 仮に百歩譲って、この点に関する原判決の判断が正当であるとしても、本件調査は以下に述べるとおり、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しているものであるから、これを社会通念上相当と判断した原判決には事実誤認の違法及び法令の適用の誤りがあるといわざるをえない。

すなわち、原判決は、本件調査が控訴人の本件各係争年分の申告所得額が過少であることを疑うに足りる相当な理由があったため開始されたものであるとまず認定している。もしそうであるならば、調査官が本件調査に着手した昭和四四年六月一八日の時点において(その前日の六月一七日は控訴人が所用で不在であったため、実質上の調査は行われていない。)、控訴人から調査理由の開示を求められた時にこれを明らかにしたうえ控訴人に調査の協力を求めることが十分に可能であったことになる。

ところが、同調査官は控訴人が再三にわたって調査期日の明示を求めたにも拘らず(控訴人がこの点を明確にするよう求めた第一の理由はこれ以前に川口税務署の職員らによって、控訴人の所属する川口民主商工会の会員に対する組織からの脱退工作と、違法不当な調査が相次いでおり、本件も同様な狙いの下に行われようとしているのではないかとの合理的な疑念を抱いたことに基づいたものである。)、これに対して一切応答しなかったばかりか、逆に控訴人が自らの意思に基づいて調査の立会いを依頼した者らの立合いの排除を求めるなど、いわば強権的ともいうべき調査を行おうとしたものである。

次に、原判決は、控訴人が川口税務署の数回にわたる、事前に予告したうえでの臨場調査にも拘らず、控訴人は帳簿書類及び原始記録を提示しなかったり、申告所得額の算定根拠について具体的説明をしないなど、同署の調査に全く協力しない態度を示したと認定し、この点を取引先などの反面調査の必要性の根拠としているが、これは、明らかな事実誤認というべきである。

そもそも、昭和四一年分の申告所得につき被控訴人川口税務署長による更正処分がなされたのは昭和四五年三月一三日であることは記録上明確であるが、右処分がなされるまでの間、税務職員による控訴人に対する臨場調査がなされたのは、前記の昭和四四年六月一八日と、翌四五年二月二三日の僅か二回にすぎない。しかも、右のうち昭和四五年二月二三日の調査は事前の通知なしに行われている。また、この時点においては、税務職員による控訴人の取引先等の反面調査が徹底してなされており、川口税務署の調査官らは右反面調査の結果を踏まえて控訴人宅の臨場調査を強行しようとしたものである。控訴人が、同調査官らに対して、この点についてしかるべき抗議をし、適正な調査手続きの履行を求めたことは当然であり、これを目して、調査非協力と短絡的に断定するのは間違いである。すなわち、昭和四一年分の調査については、原判決が、川口税務署の数回にわたる、事前に予告したうえでの臨場調査にも拘らず、控訴人が同署の調査に全く協力しない態度を示したため、取引先等の反面調査の必要性があったことが明らかである、と認定しているのは、明らかな事実誤認というべきである。

さらに、昭和四二年分、同四三年分の申告所得の調査については、原判決認定のとおり、昭和四五年九月二二日、同月二四日、二五日、二八日にそれぞれ臨場調査がなされている。しかしながら、控訴人は、右昭和四一年分の更正処分とその前提となった調査手続きにつき、被控訴人川口税務署長に対して、再三質問書を送付し、あるいは面会を求めて納得のいく説明を求め続けたが、同署長はこれを黙殺する態度に出たのであって、税務署員による右臨場調査に際し、控訴人がこの点をまず問題としたことは十分に理解できるところというべきである。

以上のとおり、本件調査は昭和四一年分ないし同四三年分のいずれの年分についても、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しているものである。

2  本件推計課税の合理性に対する判断についての誤り

(1) 被控訴人川口税務署長は、同業者率(所得率及び差益率)算定の基礎資料につき、「控訴人と事業規模が類似する者」として、控訴人の仕入金額のほぼ2分の1から2倍までの間の仕入金額を有する者を掲げるのみで、その余の類似性の重要な要素である立地条件、店舗面積、雇人の数等を捨象していること、同業者抽出の標本件数にしても僅か4件にすぎず、しかも同署長は、自ら主張立証すべき推計方法の合理性について、所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項の守秘義務を理由としてその基礎資料の開示を拒んでいるのであるから、右同業者率は統計的合理性の前提条件を欠いているものである。

(2) しかるに、この点について、原判決は、「本件全証拠によっても、被告署長がその所轄管内の原告の同業者のなかから4名の本件同業者を抽出した方法、理由をつまびらかにすることはできず、その抽出判断過程の合理性は不明といわざるをえない。」と認定しながら、「さりとて右抽出方法が恣意的であるなど、推計の合理性を否定せしめるていのものであることについては、これを認めるに足りる証拠はない。」と述べ、結論的には、右同業者率をそのまま採用している。

原判決の右判断は、被控訴人川口税務署長がその推計の基礎とした同業者率の合理性、ひいては推計の合理性を裏付ける根拠たりえず、むしろこれらの不合理性を明らかにしたものである。

そもそも、税務署長が納税者による確定申告を覆し、これとは異なる更正処分をなした場合に、これが納税者から争われたとき、その更正処分の合理性を主張立証する責任はその税務署長の側にあるのである。原判決のように、同業者抽出判断過程の合理性が不明であると断定しておきながら、他方において、右抽出方法が恣意的であるなど推計の合理性を否定せしめるようなものであることについては、これを認めるに足りる証拠はないなどというようなことは、被控訴人川口税務署長に課せられた更正処分(推計課税)の合理性に関する挙証責任を実質的に免除することになる、といわざるをえない。

すなわち、この点に関し、原判決は法令の解釈適用を誤ったものであり、推計の根幹をなすものというべき同業者率算定の合理性に関する立証は、何もないのである。

(3) 控訴人の店舗面積に関する原判決の事実誤認について

また、控訴人において本件各係争年度の当時営んでいた店舗の面積は、乾物売場、鮮魚売場と精肉売場を併わせても、三五・六四平方メートルであって、被控訴人川口税務署長のいう面積の半分にすぎなかったものである。

しかるに、被控訴人川口税務署長は何らの根拠もなしに、控訴人の売場面積を七〇平方メートルであるとして、これを同業者との比較の根拠としているものであるが、原判決は、控訴人の店舗面積については、本件全証拠によってもこれを確定できないとしつつ、右の不合理性をそのまま是認したのであって、この点においても、原判決には誤りがある。

(4) 雇人費に関する原判決の事実誤認について

(一) 本件は、昭和四一年分ないし同四三年分の何れについても、特別経費のうち、雇人費の額について、控訴人と被控訴人川口税務署長との主張に大きな隔たりがあり、これが最も重要な争点の一つとされたのであるが、この点に関する原判決の判断には、何ら合理性がなく、明らかに事実誤認がある。

(二) まず、昭和四一年分の雇人費についていえば、原判決は雇人の数とその氏名については控訴人の主張事実をそのまま認めていながら、その支給金額については、本宮朝光と斎藤京子の月額支給金額は控訴人の主張を採用し(ただし賞与の支給は認めていない。)、その余の雇人費については、ほぼ被控訴人川口税務署長の主張を採用している。

しかしながら、その結果、次のとおり、その認定事実に矛盾を生ずることになった。

すなわち、雇人のうち、井上保夫と川田和子のみ賞与が支給され、その余の雇人については支給されない結果となるが、同一の店舗で働く者のうち一部にのみ賞与が支給され、その余には支給されないなどというようなことは、通常ありうることではなく、そのようなことがあるとすれば、それ相当な理由が明らかにされる必要があるが、原判決は右の点については全くふれていない。しかし、雇人本宮、同斎藤、同伊藤(ただし、同年四月から一二月までの勤務のため、同人のみ一・五カ月分)も同様の支給を受けていたものである。

また、本宮朝光の月額を三万八〇〇〇円と認定しながら、その先輩従業員である井上保夫の月額を僅かに二万円としており、その矛盾は明らかである。本宮自身、原審において、井上の月給は自分より二〇〇〇円高かったとはっきり証言しており、本宮の月給を三万八〇〇〇円と認定するなら、井上のそれは四万円と認定すべきである。

右の点は、斎藤京子と川田和子についてもいえる。すなわち、斎藤は、昭和四〇年四月に中学校を卒業した後控訴人方の従業員となった者であり、川田は、その前年より雇人となっていたものであって、その給与は月額二万五〇〇〇円であったのであるが、原判決の認定によれば、斎藤の方が川田より月額にして五〇〇〇円も高いことになり、これまた不合理といわざるをえない。

以上の点からみても、雇人費については、控訴人の主張を前提としない限り、矛盾は解消されないのであるから、この点に関する原判決の事実誤認は明白である。

(三) 昭和四二年度分と同四三年度分の雇人費についての原判決の事実誤認については、同四二年度分と同一であるが、右両年分については、次の点においても事実誤認がある。

すなわち、まず原判決は、昭和四二年度分の一時金に関して、前年度に支給されていた前記雇人井上、同川田の一時金が支給されなかったと判断し、一方では、雇人羽鳥繁のみ賞与として一万五〇〇〇円(同人の認定月額の半分)が支給されたと判断しているのであって、かかる判断にいかなる合理性があるのか、理解に苦しむところである。次に、雇人井上の給与が前年度分から一挙に月額一万円もアップされているとされている。しかし、これは他の従業員のアップ率からみてあまりにも不合理であって、原判決は、新規雇人である前記羽鳥の給与を月三万円と認定したことのバランス上、右のような判断をせざるをえなかったものと考えられる。右の点からしても、原判決の判断の不合理性は明らかである。

また、原判決は何ら合理的根拠も明示しないで、昭和四三年度については、茂木けさよ、猪股憲子の月当たり支給額をそれぞれ五〇〇〇円、六〇〇〇円と認定している。しかし、これは、その当時の相場からしても、あまりに低きにすぎるものであって、全く実体と合わないものである。そして、このことは、原判決が、昭和四三年分の小宮文子の日給を一〇〇〇円と認定していることと比較しても明らかである。

二  被控訴人

1  本件税務調査の適法性について

控訴人は、本件税務調査が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しており違法な調査である旨主張しているが、本件税務調査は社会通念上相当というべきものである。なお補足すれば、調査の具体的必要性等を告知することは、税法上質問検査権行使の要件とされてはいない。また、反面調査は、質問検査権行使の一環としてこれをすることができるのであって、その行使の時期、範囲及び方法も社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的選択にゆだねられているのである(最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五ページ、東京高裁昭和五二年一月一八日判決・税務訴訟資料九一号二七ページ)。

2  推計課税の合理性について

控訴人は、同業者率算定の合理性に関する立証は何もない旨主張する。

しかし、本件において、抽出された同業者と控訴人とは、事業規模及びその内容並びに立地条件等において類似しており、しかも、同業者の抽出方法の無作為性及びその資料の正確性が確保されていることは明らかであるから、たとえ同業者の住所、氏名が開示されていなくても、本件推計課税の合理性は十分に担保されているものというべきである。

なお、同業者との類似性の程度を判断する要素としての店舗の売場面積については、本件のような小売共同店舗の場合、市場内の個別店舗の売場面積によるのではなく、当該市場内の全店舗の売場面積によることが、その市場の創造力、顧客吸引力及び収益力からいって合理的であるから、被控訴人川口税務署長においては、七〇平方メートルをもって控訴人の売場面積として右類似性の程度を判断したものであって、右判断には十分合理性が存するものというべきである。

3  雇人費について

控訴人は、原判決の雇人費に関する判断には合理性がなく、明らかに事実誤認の違法がある旨主張している。

(一) しかし、控訴人の雇人費に関する主張を立証するに足りる証拠はない。

(二) また、控訴人は、昭和四一年分の斉藤京子と川田和子との給与支給額について、右斉藤は、昭和四〇年四月に中学校を卒業して控訴人方の従業員になったものであるから、右斉藤の給料が右川田に比して月当たり五〇〇〇円も高くなるのは不合理である旨主張しているが、そもそも右斉藤は昭和三四年に中学を卒業し、その後別会社に就職する等した後に控訴人方の従業員になったのであるから、控訴人の右主張は、既にその前提において誤っている。

(三) 本宮朝光の証言について

本宮朝光は、川口市役所に対し、昭和四五年度分市民税申告書に支払者丸川商店(大桑朝男)、支払金額三六万円とする昭和四四年分給与所得の源泉徴収票をちょう付して申告を行ったのであるから、昭和四四年分給与支給額三六万円を基準とし、右本宮に対する昭和四一年分給与支給額を二七万円、同四二年分給与支給額を三六万円、同四三年分給与支給額を三三万円と認定した被控訴人川口税務署長の各認定は正当というべきであって、原判決中右各支給額を超えて右本宮に対する雇人費を認定した部分は、被控訴人署長としては首肯し難いところである。

しかし、仮に百歩譲って右の点を別にして考えるにしても、右本宮の証言は、全体として極めて措信し難いものである。なぜならば、同人の証言の依拠するところは結局は同人の記憶のみであるところ、その記憶に基づく同人の証言には、〈1〉斉藤京子について、昭和四一年四月に中学校卒業で入ってきた、〈2〉米元明美について、昭和四三年四月に中学卒業で入ってきて、控訴人方の近くから通っていた、〈3〉自分の住民登録についても、昭和四四年以前から川口市内にしていたなどと客観的事実に明らかに反する部分が散見されるが、同人の証言は既に一五年以上もの時が経過した後になされているばかりでなく、前記のとおり、昭和四一年ないし同四四年についての記憶が、他人のことだけでなく自分のことについても極めてあいまいなのであるから、同人の証言をもってしては、到底所得金額の算定に当たり控除すべき特別経費たる雇人費の具体的金額を認定することはできないものというべきである。控訴人が、右本宮証言を根拠として、原判決の井上保夫に係る雇人費の認定を非難するのは失当である。

(四) 以上のとおり、控訴人の雇人費に関する主張は、これを立証するに足りる証拠がなく、既に原判決が認定した額以上にその雇人費を認める余地はないものというべきである。

第三証拠関係

原審及び当審における記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、原判決の判断は相当であって、本件控訴は理由がないと判断するものであるが、その理由は、次に附加、訂正するほか、原判決理由(原判決三〇枚目表四行目から同五二枚目表四行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決三七枚目裏七行目から同三八枚目表末行までの全文を次のとおり改める。

「ウ また、右認定の事実関係によれば、右抽出は合理的であるということができる。右抽出が恣意的であるなどその合理性を疑わせるに足る証拠はない。

もっとも控訴人は、控訴人の営んでいた店舗の面積は、三五・六四平方メートルであって、被控訴人のいう面積の半分にすぎなかったものである旨主張する。

なるほど前認定のところと弁論の全趣旨によれば、本件において被控訴人は、控訴人の店舗の面積を七〇平方メートルとみて他の要素をも総合したうえ、控訴人と同業者との類似性の有無について判断する手法をとったものであることが認められ、右認定を左右する証拠はないが、しかし、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果により成立の認められる甲第一五号証及び同本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、控訴人が昭和四一、四二、四三年の当時、三区画の店舗をもって営業を営んでいた建物階下部分すなわちスーパーマーケットの部分の総面積は、少なくとも七〇平方メートルをくだらなかったことが明らかであること、右のスーパーマーケットは、日用品、生鮮食料品等日々のいわゆる生活必需品に属する後記のような商品を販売する、近隣住民相手の小売共同店舗であり、したがって、その中にある数種類の各店舗は相互に協力し、あるいは時には競争するなどして顧客の獲得に努め、販売高の向上、利益の増加等事業の拡大繁栄をめざすのが通常であるとみられるから、その中に存在する個々の店舗の個別的な売場の面積よりはむしろ、右のスーパーマーケット部分全体の面積をもって、推計課税を行う際の同業者との類似性判断の要素の一つとし、さらには右の面積によって、右のスーパーマーケット内に所在する個々の店舗の事業規模あるいは商況の全貌を掌握することも、合理的な比較ないしは観察の方法の一つであるというに妨げないものとみられること、とりわけ控訴人の営んでいた店舗三区画の面積の合計は、三五・六四平方メートルであって、右のスーパーマーケット部分の総面積のおおむね五〇パーセントに相当する広さを占め、販売する商品も、乾物、鮮魚、精肉であって、日々の生活上重要な意味のある食料品であること、右のスーパーマーケット内には、控訴人の営む右の三区画の各店舗のほか、菓子、天ぷら、青菓、雑貨の各店舗もあったことが認められ、右認定を左右する証拠のないことからすると、被控訴人のとった前記の判断手法を不合理とするべきいわれはなくかえって合理的な一方法ということができる。」

2  原判決四二枚目表五行目と同六行目との間に行をかえて次のとおり加入する。

「なお、控訴人は、井上保夫の給与について、これを月額金二万円と認定するのは誤りである、また、雇人井上、同川田以外の雇人に一時金一か月分の支給をしたことを認めないのは不当である旨主張するけれども、前記甲第八号証、同第九号証の一ないし一〇中の各記載、原審証人本宮朝光、当審証人川田和子の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、控訴人の右主張に沿う部分は、前認定の事実が認められることに照らして採用できず、他に控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠はない。」

3  原判決四六枚目表四行目と同五行目との間に行をかえて次のとおり加入する。

「なお、控訴人は、昭和四二年度における雇人費についても、同四一年度におけるのと同様の誤りがあるほか、雇人井上、同川田にたいしても一時金の支給はなく、他方雇人羽鳥に対しては賞与の支給があったとするのは、不合理であるうえ、雇人井上の給与が前年度に比して月額一万円も増額されたとみるべきいわれもない、旨主張するけれども、前記甲第八号証、同第九号証の一ないし一〇中の各記載、原審証人本宮朝光、当審証人川田和子の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、控訴人の右主張に沿うかのような部分は、前認定の事実が認められることに照らして採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。」

4  原判決五〇枚目表九行目と同一〇行目の間に行をかえて次のとおり加入する。

「なお、控訴人は、昭和四三年度における雇人費についても、同四一年度、同四二年度におけるのと同様の誤りがあるほか、パート従業員茂木、同猪股の日給については一〇〇〇円であったことは明らかである、旨主張するけれども、前記甲第八号証、同第九号証の一ないし一〇中の各記載、原審証人本宮朝光、当審証人猪股憲子の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、控訴人の右主張に沿うかのような部分は、前認定の事実が認められることに照らして採用できない。他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。」

二  以上のとおりであって、本件において被控訴人の行った控訴人に対するいわゆる税務調査には、何ら違法な点がなく、また、本件に関して被控訴人の行った控訴人に対するいわゆる推計課税は合理的なものであって、何ら違法な点はない。

そして控訴人の被控訴人に対する請求につき、本件更正処分及び本件加算処分のうち控訴人の昭和四一年分の所得金額一七四万五三七二円を超える部分及びこれに対応する部分についていずれもこれを取り消し、被控訴人に対するその余の請求を棄却した原判決の判断は正当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴は、これを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 櫻井敏雄 裁判官 仙田富士夫 裁判官 市川頼明)

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