大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)1591号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

所論は、被告人の原判示所為はいずれも柔道整復師の柔道整復業務の範囲内のものであるのに、これに医師法三一条一項一号、一七条並びに診療放射線技師及び診療エックス線技師法(以下、「技師法」という)二四条一項、三項、二条二項、一項四号の各罰則を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというにあると解される。

そこで記録を検討するに、被告人が医師、歯科医師、診療放射線技師又は診療エックス線技師の免許を受けていないのに、原判示のとおり六二四回にわたり長崎照子ら延三三六名に対し、エックス線照射器を使用して同人らの人体にエックス線を照射して撮影し、その読影により骨折の有無等疾患の状態を診断したことは証拠上明白な事実であつて所論もこれを争わないところである。そして、原判決が右の被告人の行為は医師法一七条の医業をなすことに当たるとともに技師法二四条一項、二条二項の放射線を人体に対して照射することを業とすることに当たると解していることは、その判文上明らかである。

そこでまず医師法違反の点について考えるに、医師法一七条の医業をなすとは、原判示のように、医行為を業として行うものであり、かつ医行為とは、主観的には人の疾病治療を目的とし、客観的には医学の専門的知識を基礎とする経験と技能を有する者がこれを用いて診断、処分、投薬、外科手術等の治療行為の一つもしくはそれ以上の行為をすることをいうと解すべきところ、被告人の前記所為が右の医業をなすことに当たることに疑いを容れる余地はないものというべきである。

所論は、これに対し、柔道整復師の柔道整復業務も医行為ではあるが、部分的なものにとどまるから、包括的医行為である医業には当たらないと主張する。しかし、前述した医行為の性質、内容からすれば、たとえそれが部分的なものであつても、これを医師以外の者が業として行うことは人の健康ないし身体に危険を及ぼすおそれがあるものとして医師法一七条の規制を受けるものというべきである。そして、本件で問題となつている人体にエックス線を照射して撮影し、その読影により骨折の有無等を診断することも、エックス線の誤つた使用方法、拙劣な写真撮影、未熟な読影に基づく判断の過誤等により人の生理上重大な障害を発生しかねないことからみて、これと異なつて解すべき理由は全く見当たらない。なお、柔道整復師は医師とは独立に柔道整復の業務を行うことを認められているものではあるけれども、その資格条件(柔道整復師法一二条、同法施行令七条、同法施行規則九条参照)及び業務の範囲(同法一六条、一七条参照)等からみて、これを医師と同視し又は医師に準じて考えることの相当でないことは明らかである。

次に、技師法違反の点について考えるに、同法二四条は、放射線(エックス線を含む。以下同じ)の誤つた使用が人体に対し障害を及ぼすおそれがあることなどにかんがみ、医師、歯科医師、診療放射線技師又は診療エックス線技師以外のすべての者に対し同法二条二項に規定する放射線を人体に照射することを業とすることを禁止し、これに違反した者を一律に処罰することにしたものであつて、柔道整復師が骨折、脱臼等の術前、術後の診断のために業としてエックス線の照射を行う場合であつても、その規制の対象から除外されるものではないと解するのが相当である(最高裁昭和五八年七月一四日判決・刑集三七巻六号八八〇頁参照)。柔道整復師は、その資格要件等(柔道整復師法一二条、同法施行令七条、同法施行規則九条参照)からみて、放射線に関する専門的知識、経験、技術等を要求されておらず、柔道整復師が業務として放射線照射行為を行うことは、法の本来予想していないところと考えられるからである。

なお、所論中には、被告人の原判示所為が社会的に相当な行為であるとか可罰的違法性に欠けるとの主張も存するところであるが、右所為の回数、態様、反覆継続性等からみて、所論は到底採用できない。

以上説示したところによれば、被告人の原判示所為に対し医師法及び技師法の前記各罰則を適用した原判決に所論のいうような法令適用の誤り等があるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩原太郎 裁判官小林充 裁判官奥田保)

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