大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)1314号 判決

控訴人

内海末吉

右訴訟代理人弁護士

岡村親宜

右同

内藤功

右同

望月浩一郎

被控訴人

大正海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

石川武

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

右同

奥山剛

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金二一二〇万円及びこれに対する昭和五八年五月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であり、証拠の提出、援用及び認否は原審訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、右各記載を引用する。但し、原判決三枚目裏三行目の「始動させるため」の次に「に必要なエンジンのエア抜き作業の前提行為として」を加え、同四枚目裏八行目から九行目にかけての「主張するが、」を「主張する。」に改め、同五枚目裏七行目から八行目にかけて及び同九枚目表七行目の「自動車損害賠償責任保険」の次にそれぞれ「の契約」を加え、同六枚目表五行目の「とき」を「もの」に改める。

理由

一当裁判所は更に審究した結果、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は以下に補正するほか原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一一枚目中、表一一行目から一二行目にかけての「傷害を受けたこと」の次に「及び訴外会社が加害車を保有し、被控訴人は訴外会社との間で加害車につき自動車損害賠償責任保険の契約を締結していたこと」を加え、表一四行目の「一、四」を「第一第四」に、「一六」を「第一六」に、「一七」を「第一七」に、裏一行目の「五」を「第五」に、裏一〇行目の「脇の」を「に隣接する」に、裏一一行目の「その場所にあった」を「右工事現場にあったドラム缶を本件事故現場に運び、右」に改める。

2  原判決一二枚目中、表九行目の「右鉄筋を」の次に「折り曲げて運転台の上に出ていた部分を」を、表一二行目の次に「早川は加害車のエンジンのエア抜き作業が終わり次第訴外会社久喜工場に向け再出発する予定であった。」を加え、表一四行目の「そこで」から裏一五行目末尾までを次のとおり改める。

「そこで、本件事故が自賠法三条にいう自動車の「運行によって」生じたものと認めることができるかどうかについて判断する。

自賠法にいう「自動車の運行」とは「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。」(自賠法二条二項)とされ、自動車を当該装置の用い方に従い用いることには、自動車をエンジンその他の走行装置の移動に伴う走行状態に置くだけでなく、自動車の固有装置をその目的に従って操作する場合も含むと解するのが相当である。本件についてこれを見るに、本件事故当時加害車の荷台には控訴人がユンボを使用して積み込んだスクラップが積載されていたが、このような荷積み状態それ自体は、加害車の固有装置を操作、使用する場合に当たらない。しかし、前認定の事実によれば、早川は、加害車を運転して目的地に向けて発車した直後燃料切れに気づき、加害車を本件工事現場に隣接する公道上に停車させ、同所において燃料である軽油を給油し、右給油作業が終了したので、燃料切れ後の発進に不可欠なエンジンのエア抜き作業が済み次第直ちに加害車を発進させる予定でいたところ、控訴人は右エア抜き作業を援助するため、加害車の荷台の積荷の上に乗り、運転台上に突き出ていた鉄筋を取り除いた後、荷台から降りようとした際に本件事故が発生したのであるから、加害車が路上に駐車していたこと、早川は発進の準備行為としてエンジンのエア抜き作業に取りかかろうとしていたこと及び加害車の停車前後の走行との連続性にかんがみると、本件事故当時加害車は運行中であったということができる。

しかし、本件事故は控訴人が停止していた加害車の荷台から降りようとした際に誤って積荷の上で足を滑らせて路上に転落、負傷したというものであるところ、控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人が足を滑らせた原因は荷台の積荷の荷崩れによるものではなく、足元に十分注意しないで漫然と移動しようとしたためであることがうかがわれる。

ところで、自動車の荷台の積荷上を移動する場合には、足元に注意を払わないと足を滑らせて地上に転落、負傷するおそれがあるが、その危険性は当該自動車が運行中であると否とにかかわりなく一般的に存在するのであり、本件に現れた全ての証拠を検討しても、本件事故当時加害車が路上で発進準備状態にあったことにより、右の状態にない場合よりも積荷の足場が特に不安定で滑りやすい状況となっていたとか、控訴人が特に急いで荷台から降りる必要があったとか、路面の状態が転落したときに特に負傷しやすい状況となっていたというような事情は見当らないから、本件事故は、加害車の運行によって新たに付加され、又は増大するに至った危険性に起因して発生したものということはできず、一般の高所作業中の労災事故と何ら異なるところがないものといわなければならない。もっとも、本件事故当時、もし加害車が運行状態になかったとすれば、控訴人は発進準備のためのエア抜き作業を補助するため荷台の積荷の上に登る必要はなく、ひいては本件事故が発生することはなかったものということができるけれども、右は、加害車の運行と本件事故との間に自然的、条件的な因果関係があることを意味するにすぎず、この両者の間に相当因果関係があることを肯定すべき事情とするに足りない。

したがって、本件事故は加害車の運行とはかかわりのない原因によって発生したものというほかはなく、これが加害車の運行によって生じたものということはできない。控訴人は自賠法三条にいう「自動車の運行によって」は「自動車の運行に際して」と同意義に解すべきであると主張するが、右主張は独自の見解に基づくものであって、採用することができない。」

四よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官近藤浩武 裁判官三宅純一 裁判官林  醇)

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