大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2781号 判決

控訴人(原告) 興銀リース株式会社

右代表者代表取締役 八幡輝雄

右訴訟代理人弁護士 中村勝美

被控訴人(被告) 社会保険診療報酬支払基金

右代表者理事長 河野義男

右訴訟代理人弁護士 宇田川昌敏

被控訴人補助参加人 東芝クレジット株式会社

右代表者代表取締役 増田武雄

右代理人支配人 原田昇

右訴訟代理人弁護士 星徳行

同 堀輝彰

被控訴人補助参加人 センチュリー・リーシング・システム株式会社

右代表者代表取締役 青柳健二

右訴訟代理人弁護士 小泉征一郎

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴人の当審で拡張した請求を棄却する。

三、控訴費用(参加により生じた費用を含む。)は、控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の求める裁判

1. 控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、控訴人に対し、金九三〇万二三四〇円及び本判決別紙(一)の金額欄記載の各金額に対する支払期日欄記載の各期日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(当審で請求を拡張した。)。

(三)  訴訟費用は、第一、二審を通じ、参加により生じた分を補助参加人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行宣言

2. 被控訴人

主文同旨

二、主張

当事者双方の主張は、次のように付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決別紙(二)の番号7の期間欄に「六〇・三・三一」とあるのを「六一・三・三一」と訂正する。)。

1. 控訴人

(一)  (請求の拡張)

原判決四枚目表二行目から八行目までを次のとおり改め、原判決別紙(一)を本判決別紙(一)のとおり改める。

「四 被控訴人が昭和六〇年二月から昭和六一年八月まで毎月末日に支払うべき社会保険診療報酬債権は、別紙(一)のとおり合計九三〇万二三四〇円である。

よって、控訴人は被控訴人に対し、右社会保険診療報酬債権合計九三〇万二三四〇円及び別紙(一)の金額欄記載の各金額に対する支払期日欄記載の各期日の翌日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

(二)  (再抗弁の追加―信義則違反)

仮に本件債権譲渡の有効性について法律上疑義があったとしても、小西茂雄から債権譲渡通知を受け取ったときは何もいわないで、後日になってこれをいうのは信義に反する。被控訴人の援用する最高裁判所判決は、被控訴人を当事者とする事案についてなされたものであり、他の債権者からの差押えのありうることを立場上よく知っていた被控訴人としては、本件債権譲渡通知を受け取った時点で、これに法律上疑義があると考えるなら、そのことを控訴人にいうべきであったのに、それをしないで、後日他の債権者からの差押えが行われ、かつ小西茂雄の毎月の社会保険診療報酬債権の金額が控訴人への譲渡金額を下回った時点で突然供託をするのは、あまりに自己の立場だけを考えた処置であって、右供託は信義則に反し無効である。

(三)  (同―禁反言の原則違反)

被控訴人は、本件債権譲渡通知に基づき控訴人に対し原判決請求原因三のとおり譲渡債権の一部を支払う際には何の異議も留めず、将来も引き続き譲渡債権を支払う態度を示していたのに、後日になって法律上疑義があるとして供託するのは、禁反言の原則に反し許されない。

2. 被控訴人

控訴人の右主張(二)(三)を争う。

三、証拠〈省略〉

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴請求は、当審での請求拡張分を含め失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。(控訴人の信義則及び禁反言の原則違反の主張について)

控訴人は、被控訴人のした供託は信義則に反すると主張し、また禁反言の原則に反するとも主張するが、この控訴人の主張の根本にあるのは、被控訴人が本件債権譲渡の行われた当初は譲渡の効力を何ら問題にすることなく控訴人に支払をしていたのに、後に他の債権者からの差押えが相次ぐに及んでにわかにその態度をひるがえし、支払を拒むようになったことに対する不服である。

医師の社会保険診療報酬債権の譲渡性については、かねてより裁判例の上でも学説においても、これを肯定するものと否定するものとに分かれ、その論拠もさまざまであったが、被控訴人の援用する最高裁判所昭和五三年一二月一五日判決が肯定説をとることを明らかにした。しかし、この判例も無限定に譲渡性を肯定しているのではなく、「現行医療保険制度のもとで」「それほど遠い将来のものでなければ」有効に譲渡できるという限定を施しているのであって、これがどれほどの期間のものであれば譲渡を有効とみることができるかは、現行医療保険制度の持続性、当該医師の診療行為継続の可能性等の予測の上に立ち、さらに今後の判例の集積をまって明らかにされていく事柄であり、本件のように譲渡のときから将来に向かって八年三か月もの期間にわたる診療報酬債権の譲渡が、果たして有効と認められうるものかどうかは、現時点において債務者である被控訴人にとって容易に判断できることではないし、その判断がもたらす危険を被控訴人に負わせることは相当でない。

そして、この債権譲渡の有効性の問題は、同じ債権について他にこれの譲渡を受け、あるいはこれを差し押さえた者が現れたときに、その者に対して優先する効力を持ち得るかという問題として表面化してくるのであり、ここに至って債務者はその対応を迫られることになる。被控訴人が、小西茂雄の社会保険診療報酬債権に対し他の債権者からの差押えが相次いで行われるようになってから、控訴人に対する支払について従前の態度を変更したのはこの故であり、控訴人に対して支払をした後に債権譲渡が無効と判断されて差押債権者に二重払をさせられる危険を回避するため、供託の方法を選んだのは、自己の利益を守るための合理的な態度変更であって、これを信義則違反あるいは禁反言の原則違反と非難するのは当たらない。

控訴人の右主張はいずれも理由がないといわなければならない。

二、よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当で、本件控訴は請求拡張分を含め理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 藤井正雄 武藤冬士己)

〈以下省略〉

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