大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3359号 判決

控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 遊佐光徳

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 荒井良一

同 高橋隆二

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり附加するほかは原判決事実摘示と同一(但し原判決八枚目表八行目の「破綻しているのは、」を「たとい破綻していようとも、それは」と改める。)であるから、これを引用する。

1  控訴人

(一)  控訴人は現在においても、子供達の幸せと甲野家の繁栄を切に願って被控訴人との婚姻の継続を強く希望し、被控訴人の過去の男女関係を宥恕し、被控訴人の年齢から被控訴人の健康状態を心配し、被控訴人が控訴人のもとに帰ることを願っている。

(二)  被控訴人と訴外乙山松子との同棲については確たる証拠はなく、訴外乙山松子は現在同人の実親と同居しているのであって、被控訴人が控訴人のもとに帰ることに困難な客観的事情は存しない。

(三)  甲田市乙田の土地・建物については、従前住んでいた甲田市丙田の土地建物の売却代金と中央信託銀行(四〇〇〇万円)及び株式会社住宅総合センター(四〇〇〇万円)からの借入金等(なお、この借入金の返済は被控訴人の給料から支払われていた。)によって取得したものであって、丙川株式会社からの借入金によるものではなく、控訴人としては、実質的には控訴人と被控訴人との共有財産と認識して保持していたものであり、被控訴人の丙川株式会社に対する借入金なるものは存在しない以上、同会社との間の売買予約も実体のないものであった。

かくして、控訴人は、実質的には自己の財産でもあると思っていた甲田市乙田の土地・建物の所有権が、被控訴人によって、虚偽の借入金返済の名目で丙川株式会社に移転され、同会社から明渡しを迫られる一方、被控訴人からは子供四人を置去りにした上離婚を要求され、また生活費も断たれてしまったため、窮地に陥り、その結果、被控訴人が右会社を利用して右土地、建物を奪うために強行措置をとってきたと考え、自分と子供四人の防衛のために、弁護士等のアドバイスを受けて、緊急やむをえずして右土地、建物について処置をしたのであるから、そのことが形式的に法規違反にあたるとしても、社会的な非難を受けるいわれはないというべきである。

2  被控訴人

控訴人の主張は争う。

三  《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり附加、訂正、削除するほかは、原判決理由説示と同一(なお、原判決中「丙川(株)」とあるは、「丙川株式会社」の謂である。)であるから、これを引用する。

1  原判決八枚目裏四行目の「原告と被告」を「被控訴人(昭和八年八月二五日)と控訴人(昭和八年八月三一日生)」と改め、同七行目の「当事者間」から同八行目の「いない」までを「公文書であって成立の真正が認められる」と改め、同九行目の「原告が」から同一二行目の末尾までを削る。

2  同九枚目表一行目《証拠訂正省略》、同一一行目の「昭和四九年一一月」を「昭和四九年一二月」と改め、同裏四行目《証拠訂正省略》、同八行目の「認められない」の次に「ものの、被控訴人としては、控訴人も右のルーズさのほかに被控訴人の兄弟との折合いもひどく悪く、家計にもしまりがないことなどから、次第に潜在的な不満をつのらせ、離婚を思うようになったことは認められる」を加え、《証拠訂正省略》。

3  同一〇枚目表六行目の「(成立に争いのない」から同七行目の「署名しないとしても)」までを削り、同七行目から同八行目にかけての「同意したような」を「同意した」と改め、同九行目の「被告本人供述によれば、」を「《証拠省略》によれば、控訴人は、昭和五一年の秋以降、丙川株式会社のメインバンクである丁原銀行の戊田常務宅に出かけて、同常務に、被控訴人の女性関係を暴露したり、また、同じく関係会社の訴外丁田興業、戊原興業両社の社長宅へ出向いたりして同様のことを訴え、さらに、丙川株式会社に何回か赴いて従業員に対して彼女は誰かなどと問いただすような行為に及んだこと、」と改め、同一一行目の「乙山松子が」の次に「、自ら名乗り出て控訴人の右の如き行為をやめさせ、また控訴人の被控訴人に対する考えなどを知りたいという動機から、」を加え、同裏一行目《証拠訂正省略》、同行の「乙山松子」の次に「(昭和二三年七月二四日生)」を加え、同三行目の「同棲していること」の次に「、同女との間には子がないこと」を加え、同四行目の「同供述は」を「被控訴人は原審及び当審における本人尋問において、」と改め、同行の「六月」を「六月頃」と改め、同行から同五行目にかけての《証拠訂正省略》、同行の「その以前」の次に「即ち、同五一年の八月もしくはそれより前」を加え、同七行目の冒頭から同八行目の末尾までを削る。

4  同一一枚目表一行目《証拠訂正省略》、同二行目《証拠付加省略》、同行の「原告は」から同九行目末尾までを「被控訴人は、自己が代表取締役就任中の丙川株式会社より昭和四七年頃から逐次多額の金員を借り受け、そのうちから甲田市乙田の土地・建物を含む不動産の購入、建築資金に充てていたが、オイルショックを契機に前記メインバンクからの強い要請があってその始末をつけるべく、同五〇年六月二七日現在の同社よりの借入金残額約一億七〇〇〇万円の担保として甲田市乙田の土地・建物を含む不動産につき同社との間で同日付売買予約(なお、昭和五二年八月一〇日付でその予約における売買価格を金二億円と、建物明渡期限を同年一〇月末日と定めた。ちなみに、この両日付の合意書は、共に同年八月の時点で作成されたものである。)をし、さらに同年一一月一日同社は転売目的でこれが予約完結の意思表示をし、被控訴人との間で右不動産の明渡期限を同月七日と定めたこと、被控訴人は、控訴人に対し、かねてから甲田市乙田の土地・建物の売却と明渡の要を告げていたが、同年一〇月二二日頃には、契約締結の予定を告げ、同月末日までに、遅くとも同年一一月七日までには明け渡す必要がある旨を告げていたことが認められる。ところで、控訴人は、被控訴人の丙川株式会社からの借入金は存在しなかったと主張し、右趣旨に沿う如き《証拠省略》(昭和五一年当時の丙川株式会社の資産、負債等の一覧表ないし残高試算表)を提出するが、《証拠省略》によれば、当時丙川株式会社は、銀行に提出するため内容を粉飾した財務諸表を作ったことがあること、右書証は銀行提出用に作られたものであることが認められ、右書証のみによっては直ちに当時被控訴人が丙川株式会社に対し借入金がなかったと推認することはできない。また、《証拠省略》によれば、被控訴人は、前記甲田市乙田の土地・建物を含む不動産の取得に二億数千万円を要したことが認められ、到底控訴人の主張する金融機関からの借入金等のみによっては賄えなかったものと考えられ、その取得価額、取得資金の性格に照し、たやすく控訴人と被控訴人の共有財産と目することもできない。」と改め、同一〇行目冒頭から同裏一行目《証拠訂正省略》、同裏九行目《証拠訂正省略》、同行の「原告は昭和五一年六月」を「被控訴人は、必要な生活費の額を知らせようとの申出に応じなかったとはいえ、昭和五一年五月」と改め、同一〇行目から同一一行目にかけての「言ったにしても」を「言っていただけで」と改める。

5  同一二枚目表一行目の「右被告の行為が」の次に「財産保全の措置であったとしても行き過ぎであったことは明らかで、」を加え、同二行目の「明日である」を「免れ難く、社会的な非難をうけてもやむをえないところである。」と改め、同三行目《証拠訂正・付加省略》、同一二行目の「建物を」の次に「代金一億〇五〇〇万円で」を加える。

6  同一三枚目表四行目の「が認められ」及び同五行目の「原告本人の供述によれば」をそれぞれ削り、同六行目の「きたこと」を「きており、現在その額は月四〇万円であること」と改め、同七行目の「原、被告」から同裏三行目の末尾までを次のとおり改める。「成程控訴人は、当審における本人尋問において、現在なお被控訴人の復帰を願望する旨述べているものの、その主旨とするところは子供のためであるとし、兼ねて自分に対する被控訴人の愛情の存在をも口にするが、後者は所詮控訴人の思い過ごしとみるのほかなく、前者については、子がかすがいたる余地は、被控訴人の当審における本人尋問にみられるその態度、即ち、被控訴人と子供への愛情とは別とする堅固な意思に鑑みればこれを望むに由ないものというべきであるから、むしろ、現在控訴人と被控訴人との婚姻は、夫婦としての共同生活の実体を全く喪失し、その回復の見込みはない状態にあり、言い換えれば破綻していると言わざるをえない。

しかしながら、その由って来るところをみると、控訴人には、家事等の不行届きの点はともかく、前記のような被控訴人の女性関係についての関係者への訴えかけ、甲田市乙田の建物についての偽造文書等による表示登記の経由、その後の争訟の経過等において、たしかにやや非常識なところがあり、また落度もあって、被控訴人との婚姻の破綻に拍車をかけなかったとはいえないとしても、結局は、被控訴人の乙山松子との不貞関係の惹起とその現在に至る継続にこそ由来するというべきであり、換言すれば、この婚姻の破綻の責任は専ら被控訴人にあると言わなければならない。

ひるがえって、被控訴人と控訴人との実体ある婚姻生活は、約一八年間に及び、これに比すれば、その別居期間は現在まで約一一年で、長期間とはいい難く、両者の間には、四人の子女があり、そのうち三名は未婚で、さらにそのうちの一名はなお一七歳の学生であって、両親が離婚をしないでほしいと望んでいることが《証拠省略》によって認められる。そうである以上、成程、被控訴人は、さきに定められた調停条項及び和解条項を忠実に守り、高額な家、屋敷に控訴人と子女を住まわせ、月々四〇万円の生活費を払うなど、その態度には諒とすべきものがあるが、ひとたび離婚にいたった場合のその子女とりわけ控訴人に対する財産的手当については、当審における被控訴人の本人尋問の結果に徴して不安なきをえない(なお、かかる場合、分与をする側、本件でいえば被控訴人からの財産分与の申立によって、その点の手当を定める方策如何が問題となるが、その法律上の是非はともかく、実際問題として、分与を受ける側、本件でいえば、控訴人側の積極的姿勢は望み難く、また、裁判所側にも家庭裁判所調査官の如き補助関係を持たないことなどから、必然的に十分な資料を獲得して審理を尽くすことがなし難く、その赴くところは分与を受ける側に不利に帰結するに至るおそれがあるので、財産分与については、受ける側の申立がないのに、分与する側の申立によって、とくに裁判所がその旨釈明することによって、これをとりきめる取扱いには、離婚と財産分与との段階的審理の実践をも含めて、暫く慎重な態度が望まれよう。)。

以上によって帰するところは、有責配偶者である被控訴人の本訴離婚請求は民法一条二項に定める信義誠実の原則に照し、未だこれを容認することはできないのである。

二  よって、被控訴人の本訴請求は理由がなく、棄却すべきであるから、これを認容した原判決は不当であって取り消すこととし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙野耕一 裁判官 野田宏 米里秀也)

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