大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3445号 判決

控訴人 三京有限会社

右代表者代表取締役 六本木孝義

右訴訟代理人弁護士 田見高秀

飯野春正

大塚武一

樋口和彦

被控訴人 株式会社 コバヤシ商事

右代表者代表取締役 小林茂四郎

右訴訟代理人弁護士 新井博

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は、荒物、雑貨の卸小売業などを目的とする会社である。

2  被控訴人は控訴人に対し、昭和五七年五月から家庭用洗剤、シャンプー等を継続的に販売してきたところ、昭和五九年一二月一〇日当時の売掛金残高は一二八二万七五九五円であった。

3  よって、被控訴人は控訴人に対し、売買契約に基づき、一二八二万八五九五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年五月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する控訴人の認否

請求原因1、2の事実は認める。

三  控訴人の抗弁

1  被控訴人は控訴人に対し、前記売掛金中一二九万六一七三円の値引きをすることを約した。

2  控訴人は、昭和六〇年五月一八日、被控訴人に対し、二万九四〇〇円を弁済した。

3  被控訴人代表者は、同年一二月一〇日、控訴人に対し、本件売掛金債権を放棄する旨の意思表示をした。

4  仮にそうでないとしても

(一) 控訴人は、昭和五七年五月ころ、被控訴人との間に、被控訴人の取扱商品につき継続的売買契約を締結した。

(二) ところが、被控訴人は、昭和五九年一二月一一日以降は一方的に商品の出荷を停止した。

(三)(1) 控訴人は、昭和五九年一月一日から同年一二月一〇日までの間に被控訴人から合計五二四〇万九二三〇円の商品を仕入れていた。

(2) 控訴人は、右商品を小売し、仕入額の一割相当の利益を上げていた。

(3) したがって、控訴人は、被控訴人の不当な出荷停止によって、今後三年間に少なくとも一五七二万二七九六円の利益を得ることができなくなって右相当額の損害を被った。

(四) 控訴人は、昭和六一年六月二三日の原審第九回口頭弁論期日において、右債権をもって、原告主張の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する被控訴人の認否

1  抗弁1、3の事実は否認し、同2の事実は認める。

2  同4の事実について

(一)の事実及び(二)のうち控訴人主張の日に商品の出荷を停止したことは認め、(三)は争う。

五  再抗弁

本件出荷停止には、次のとおり正当事由が存在する。すなわち、被控訴人は、控訴人との取引においては、控訴人が設立されて間も無く、かつ控訴人の代表者がかつて被控訴人に勤務していたという事情から、当初締め後六〇日後払とし、取引が進むに従って右期間を短縮し、通常の取引における期間(当月締め当月払い)にすることにしていた。ところが、右期間は短縮されるどころかやがて九〇日、一二〇日と延期されるようになった。その後被控訴人の厳重な抗議により若干の改善があったものの、通常の取引における支払時期とは掛け離れていた。そこで、被控訴人は控訴人に対し、改善を求め未払代金の請求をしたところ、控訴人が全く誠意を示さず残代金の支払にも応じようとしなかったため出荷を停止したものである。

六  再抗弁に対する控訴人の認否

再抗弁は争う。控訴人は、被控訴人の要求に応じ昭和五九年九月からは代金の支払時期を九〇日後とし、ついで同年一〇月から六〇日として、約束手形によって支払った。その後、被控訴人は更に右期間を短縮し、あるいは一部を現金で支払うよう要求してきたが、交渉の結果、同年一二月八日、控訴人と被控訴人の小林専務との間に、同年一一月二〇日締めまでの残額については全額手形を振り出して支払う、その手形の満期は額面三〇〇万円につき昭和六〇年二月五日、額面二〇〇万円につき同年三月五日、残額につき同年三月五日とする、右各手形を昭和五九年一二月一〇日に交付する旨の合意が成立した。ところが、被控訴人代表者は、右合意を無視して出荷停止をしたものである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因事実はすべて当事者間に争いがなく、訴状送達の日の翌日が昭和六〇年五月一二日であることは、本件記録上明らかである。

二  そこで、控訴人の抗弁について判断する。

1  控訴人は、被控訴人が本件代金につき値引きすることを約した旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。すなわち、控訴人の主張に副う原審及び当審証人福島政則の陳述は要するに、控訴人が被控訴人から購入した商品の代金請求書中には事前に約束した単価等と異なる価格による過大な請求分があり、これを控訴人の取締役であり仕入れを担当している同人において控訴人側において正しいと考えている価格に訂正したが、被控訴人から過大に請求された金額の合計額は一二九万六一七三円になるという趣旨にすぎず、本件取引の事前あるいは事後に被控訴人がその代金中右額を値引きすることを認めたというものではなく、《証拠省略》も被控訴人から控訴人に対する請求書中に右福島において一方的に控訴人において正しいと考えている単価に訂正した書き込みをしたもの、《証拠省略》は被控訴人から控訴人に対する納品書に右同様の書き込みをしたものであり、《証拠省略》は控訴人側において作成した計算書にすぎないから、これらをもって控訴人主張事実を認めることはできない。

また、買主が当然の権利として値引きを求め得るという商慣習が存在することを認めることもできない。

なお、前記証人は、被控訴人が控訴人との間に予め合意していた単価を超えた価格による請求をしている旨の陳述をしており、《証拠省略》によると、被控訴人が控訴人に対し昭和五九年一月一四日に見積書を交付していることが認められるが、本件全取引を右価格でする旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないのみならず、《証拠省略》によって認められる前示のように控訴人側が単価訂正をした請求書につき被控訴人において訂正印を押捺しあるいは右訂正に合致した請求書を改めて発行したことも、控訴人が過大請求であると主張する額につき翌月の請求書で減額する等の処置が執られたことも全くないこと並びに本訴において控訴人は被控訴人主張の請求原因事実を認めて争っていない事実及び被控訴人の各月の請求額と控訴人主張の減額主張額を対比した額に照らすと、被控訴人が過大請求をしていたものとは認められない。

2《省略》

3《省略》

4  次に抗弁4について検討する。

(一)  抗弁4(一)の事実及び被控訴人が控訴人主張の日に控訴人に対する出荷を停止したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、右出荷停止に正当事由が存するか否かについて判断する。

(1) 《証拠省略》によると、

被控訴人はライオン株式会社、資生堂等のメーカーから商品を仕入れ、これを控訴人等に卸売りしていたものであるが、被控訴人の右メーカーに対する代金支払条件は、毎月即金に近いかなり厳しいものであったこと、被控訴人と控訴人との取引は昭和五七年五月ころから、毎月二〇日締め翌月一〇日から二〇日までに現金払いの約束で開始されたが、控訴人の代表者あるいは取締役の福島政則が元被控訴人の従業員であったこともあって、被控訴人側で便宜を計らい、締め後六〇日払いを認めたこと、ところが、右支払時期はその後九〇日、一二〇日と遅れていく一方であり、昭和五九年に入ってからは全く支払がなされない月も生じ、同年九月二〇日には請求額が二三〇〇万円近くに上ったこと(なお、前月請求額は二〇五四万五七七五円であったが、これに対する支払額は一三〇万円にすぎず、同年一月からの毎月の支払額も最高で五五〇万円にすぎず、同年四月請求分を除きいずれも未払代金額が前月より増加する一方であった。)、その後被控訴人からの強い要求によって控訴人はようやく約束手形を振り出して一八〇〇万円を支払い、同年一〇月二〇日の請求額は八〇〇万円台に減少したこと、しかし、支払期間は依然として当初の約束にはほど遠く九〇日ないし六〇日になったにすぎなかったこと、被控訴人は、更に支払期間を短縮することを要求し、交渉の結果、同年一二月八日ころ、一旦は代金支払条件を請求書締切日毎月二〇日、支払日毎月二八日、支払内容ライオン・花王・P&G・ユニチャームの製品につき現金・小切手、資生堂並びに一般品につき手形(締起算六〇日)とする継続的商品売買基本契約書を取り交わし、未払代金全額に見合う約束手形を振り出すことで話がつきかけたものの、同月一〇日、控訴人方で被控訴人代表者を交えて話し合っていた際、控訴人側から前示のように単価訂正、値引きを持ち出したため、これまで散々控訴人の便宜を計ってきた被控訴人代表者としても、ついに我慢の限度を超え、右話を帳消しにし、控訴人との取引を停止するのやむ無きに至ったこと

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(2) 以上認定の事実によると、被控訴人が控訴人との本件取引を打ち切ったことには正当な事由があるというべきであるから、これによって仮に控訴人が損害を被ったとしても、被控訴人には何ら責任がないというべきである。

したがって、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の抗弁4も採用の限りでない。

三  そうすると、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し一二七九万八一九五円及びこれに対する弁済期の後であり本件訴状の送達の日の翌日である昭和六〇年五月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。

四  したがって、被控訴人の本訴請求を右の限度で認容した原判決は相当であって、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 舘忠彦 裁判官 牧山市治 赤塚信雄)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com