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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)40号 決定

抗告人 家永三郎

相手方 国

代理人 森脇勝 田中信義 金子泰輔 橘田博 小鹿愼 ほか五名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙一記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙二記載のとおりである。

二  抗告人は、本件文書(別紙一添付の文書目録記載の各文書)が民事訴訟法三一二条三号後段所定の文書に該当すると主張するが、抗告人が当審において詳細に追加補充したところに鑑み検討しても、なお、右文書は、相手方の機関である文部大臣が専ら自己使用を目的として作成した内部的な文書であると解され、同条号後段所定の文書に該当するものと認めることはできない。その理由については、当裁判所も、原決定の説示するところと見解を同じくするので、これを引用する。

三  よつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 村岡二郎 佐藤繁 鈴木敏之)

抗告人代理人目録、相手方代理人目録 <略>

別紙一 <略>

(別紙)

文書目録

一 昭和五五年度新規検定申請に対する原稿本審査の過程で作成された文書

1 右申請原稿に対する、主査教科書調査官または副主査教科書調査官作成にかかる「調査意見書」および「認定書」 各一通

2 右申請原稿に対する、教科用図書検定調査審議会所属調査員三名の作成にかかる「調査意見書」および「評定書」 各一通(都合各三通)

3 右申請原稿について審査した、教科用図書検定調査審議会(教科用図書検定調査分科会をさす。以下において同じ)第二部会日本史小委員会の議事録 一回の会議毎に一通

4 右申請原稿について審査した、教科用図書検定調査審議会第二部会の議事録 一回の会議毎に一通

5 右申請原稿について、教科用図書検定調査審議会が作成した「修正意見書」 一通

6 右申請原稿に関する、教科用図書検定調査審議会の文部大臣宛「答申書」

二 昭和五八年度改訂検定申請に対する原稿本審査の過程ならびに右審査の結果付された修正意見についての「意見申立」に対する判定の過程で作成された文書

(一) 原稿本審査の過程で作成された文書

1 右申請原稿に対する、主査教科書調査官または副主査教科書調査官の作成にかかる「調査意見書」および「評定書」 各一通

2 右申請原稿を審査した、教科用図書検定調査審議会第二部会の議事録 一回の審議毎に一通

3 右申請原稿について、教科用図書検定調査審議会の作成した「修正意見書」 一通

4 右申請原稿に関する、教科用図書検定調査審議会の文部大臣宛「答申書」 一通

(二) 原稿本審査の結果告知された文部大臣の修正意見につき、申立人が昭和五九年一月一七日付でなした教科用図書検定規則第一〇条の「意見申立」に関して、その認否判定の過程で作成された教科用図書検定調査審議会第二部会の議事録

別紙二 <略>

【参考】第一審(東京地裁昭和六〇年(モ)第三四二五号 昭和六一年一月二一日決定)

主文

本件申立を却下する。

理由

第一申立の趣旨

「相手方は、別紙目録記載の文書を東京地方裁判所に提出せよ。」

第二申立の理由及び相手方の意見

申立人(原告。以下「原告」という。)の申立の理由は、別紙「文書提出命令申立書」記載のとおりであり、これに対する相手方(被告。以下「被告」という。)の意見は別紙「意見書」記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一 本件記録によれば、被告が別紙目録記載の文書(以下「本件文書」という。)を所持していることが認められる。

二 原告は、本件文書は、民事訴訟法三一二条三号後段所定の文書にあたると主張するので検討する。

1 同条の趣旨が、証拠面での当事者対等の実現、訴訟における真実の発見等の観点から、文書の所持者の有する文書の処分自由の原則に対する例外を定めるとともに、他方、提出義務の範囲を同条各号所定の範囲に限定して文書の所持者に不当な不利益が及ぶことを避けようとするところにあると解されることに鑑みると、同条三号後段の「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成」された文書とは、挙証者と文書の所持者との間に成立する法律関係それ自体が記載されている文書のみならず、右法律関係の形成過程において作成された文書であつても、右法律関係と密接な関連性を有するものは包含されるが、その所持者がもつぱら自己使用のために内部的に作成した文書は含まれないと解するのが相当である。

2 ところで、本件記録により、本件文書が作成された当時の教科用図書の検定の過程等を、本件申立てに関連する限りにおいて概観すると、およそ次のとおりである(以下に引用の法令は、いずれも当時のものである。)。

(一) 高等学校において使用される教科用図書の検定は、文部大臣により行われる(学校教育法五一条、二一条)。

(二) 教科用図書の検定申請があつた場合、文部大臣は、文部省に機関として設置されている教科用図書検定調査審議会(以下「審議会」という。その設置、目的は、文部省設置法二七条一項に規定され、内部組織、所掌事務等は、同条二項により政令に委ねられ、その政令として、昭和二五年政令第一四〇号教科用図書検定調査審議会令(以下「審議会令」という。)が制定されている。)に対し右図書が教科用として適切であるかどうかを諮問する(昭和五二年文部省令第三二号教科用図書検定規則(以下「検定規則」という。)九条一項)。審議会には、三つの分科会が置かれ、その一つである教科用図書検定調査分科会(以下「検定調査分科会」という。)が検定に関する事項を取り扱う(審議会令六条)。検定調査分科会には、部会が置かれ、その一つである第二部会は社会科の検定に関する事項を取り扱い(審議会令一〇条、昭和四五年一二月九日検定調査分科会決定教科用図書検定調査分科会の部会の設置および議決事項の取扱に関する規程(以下「分科会規程」という。一条)、同部会は更に日本史小委員会を設置して、そこで、日本史についての専門的な調査が行なわれる(同規程二条一項)。

(三) 審議会における調査審議に先立つて、文部省初等中等教育局に置かれている教科書調査官(その設置、職務等は、昭和二八年文部省令第二号文部省設置法施行規則(以下「設置法施行規則」という。)八条の三に規定されている。)及び審議会に置かれている非常勤の調査員(その設置、職務等は、審議会令二条三項、四条三項に規定されている。)三人による各調査(教科書調査官の場合は、社会科担当の全調査官の会議を経ている。)が行われ(ただし、改訂検定の場合は、調査員の調査を欠くことがある。)、各調査の結果は、それぞれ調査意見書及び評定書にまとめられる(昭和五三年六月一五日審議会決定教科用図書審査内規参照)。

(四) そして、それらは、右(二)の日本史小委員会に提出されて、右委員会で専門的な調査が行われ、その調査の経過及び結果が右(二)の第二部会に報告され(分科会規程二条二項)、右部会での調査審議が行われる。第二部会の議決は、原則として検定調査分科会の議決となり(同規程三条)、右分科会の議決は、原則として審議会の議決となるものとされているから(昭和三一年一一月三〇日審議会決定教科用図書検定調査審議会規則(以下「審議会規則」という。)一四条)、結局第二部会の議決が原則として審議会の議決となる。審議会の議事については議事録が作成されることになつており(審議会規則一五条三項)、第二部会及び日本史小委員会についても議事録が作成されている。

(五) 審議会は、調査審議の結果(実際には、右(四)のとおり第二部会の調査審議の結果である。)を、文部大臣に対し、合格、不合格の判定及び合格の条件として付する修正意見を指摘して答申し、文部大臣は、右答申に基づいて合格、修正意見の付いた条件付合格又は不合格の決定をする(検定規則九条)。右答申については、審議会により答申書が作成され、それには、修正意見の内容を記載した修正意見書のほか教科書調査官及び調査員作成の評定書及び調査意見書が添付されることになつている。

(六) 文部大臣から修正意見の付いた条件付合格の通知を受けた者は、その修正意見に対して意見の申立てをすることができ、その場合、文部大臣は、その点につき審議会に諮問し、その議を経て申し立てられた意見を相当と認めるときは、右修正意見を取り消すものとされている(検定規則一〇条)。

3 本件文書は、原告の著作にかかる高等学校用日本史の教科用図書についての昭和五五年度の新規検定及び昭和五八年度の改訂検定にかかわる文書である。しかして、右2に述べたところからすると、本件文書は、いずれも検定申請から文部大臣の決定に至るまでの検定の過程において作成されたものであり、文部大臣の決定に密接な関連性を有することは明らかである。しかも、本件文書の作成者はいずれも法令により文部省(文部大臣を長とし、それを補助する機関、官職を統合した行政機関)の中に設置された官職又は機関であり、本件文書が作成者の職務又は所掌事務の範囲内においていわゆる公文書として作成されたものであつて、単に職務上の便宜や備忘のために任意に作成されたものでないことはいうまでもない。

4 しかしながら、翻えつて考えるに、本件文書の作成の主たる目的が文部省の内部において文部大臣が専門的な事項につき適正な決定を下し得るよう判断資料を準備、提供するにあることは疑いのないところであると考えられるところ、本件文書の作成を要求している法律、政令又は省令といつたいわゆる法令の明文の規程は全く見当たらず、したがつて、本件文書は、直接には、文部省の内部の職務上の命令(訓令、通達、上司の職務命令等)により作成されたものと考えるほかはない。また、本件記録に現われたところでは、本件文書の作成が法令によつていわば当然のこととして予定されあるいは要請されているものであつて、仮にその作成を欠けば、そのことによつて、検定にかかる文部大臣の決定が当然に瑕疵を帯びるに至るといつた性格の文書であるとの判断も容易には下し難い。更に、本件記録から推察される、本件文書の体裁、記載事項等に鑑みると、本件文書は、いずれも、作成者においてもまた文部省においても、もつぱら文部省の内部において使用することを予定しており、それ自体を文部省の外部に明らかにすることは考えていなかつたものと認めることができる。

そうであるとすると、本件文書は、文部省が文部大臣の用に供する目的で作成した内部的な文書、突き詰めていうと、文部大臣たる行政庁が自己固有の使用のために作成した内部的な文書であると解さざるを得ず、それがいわゆる公文書であるからといつて、右の判断を左右することはできない。

5 なお、原告は、本件文書の証拠としての重要性を強調するが、本件の検定申請にかかる文部大臣の決定については、その内容及び理由が検定申請者側に口頭で告知され、その告知の内容はすべて録音されて、原告の了知するところであり、右決定の内容及び理由は右の口頭告知に尽きるものであつて、それが客観的に明らかにされていると認められることに鑑みると、現段階では、本件文書がそれ無しには本件訴訟の追行に支障をきたすほど重要なものであるとは必ずしもいい難いし、仮に本件文書が重要な証拠であるとしても、そのことだけで、本件文書が民訴法三一二条三号後段所定の文書にあたると解するわけにはいかない。

6 以上によれば、本件文書は民訴法三一二条三号後段所定の文書に該当せず、したがつて、本件文書が右にあたることを理由とする本件申立ては失当である。

よつて、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木康之 佃浩一 小野憲一)

代理人目録、目録、文書提出命令申立書、文書目録、意見書 <略>

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