大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)731号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「横浜地方裁判所が同庁昭和六一年(ヲ)第一六六七号不動産引渡命令申立事件につき同年一〇月一四日抗告人に対して発した不動産引渡命令を取り消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は要するに、「佐久間茂雄は基本事件における差押えの効力が発生する前である昭和五七年一一月五日に所有者前田一麿から本件競売建物を期間を昭和六〇年一〇月三〇日までの三年とする約定で賃借し、占有を開始した。そして、昭和六〇年一一月一日右当事者間でこの賃貸借契約が更新された上、同月二日抗告人が佐久間からこの賃借権を譲り受け、占有するようになつた。この間買受人である福三興業株式会社はいまだ買受代金を納付していない。このように買受人がいまだ競売不動産の所有権を取得しない間に短期賃貸借契約が更新され、抗告人が右佐久間の占有を承継した以上、抗告人に対して不動産引渡命令を発することは許されない。」というのである。

二よつて判断するに、一件記録によれば、本件競売建物につき昭和五七年八月一六日に横浜南農業協同組合を権利者とする抵当権が設定され同月一八日その旨登記されたこと、その後代位弁済を原因としてこの抵当権を取得した神奈川県農業信用基金協会が基本事件の競売を申し立て、その差押登記が昭和五八年五月一六日にされたこと、抗告人主張の佐久間の賃借権は、昭和五七年一一月五日に期間を昭和六〇年一〇月三〇日までの三年間として設定されたものであつて右抵当権に劣後し、民法第三九五条本文、第六〇二条第三号の範囲内においてのみその用益権能が保障されるにすぎない短期賃借権であるところ、右差押登記後にその賃借期間が満了したものであること、抗告人は右佐久間の賃借権をその賃借期間満了後の昭和六〇年一一月二日に譲り受け、同日本件競売建物の占有を開始したものであること、その後昭和六一年三月一一日買受人福三興業株式会社のため売却許可決定が言い渡され、同買受人が同年五月一三日売却代金(既に支払済みの買受保証金を控除した残額)を納付して本件競売建物の所有権を取得し、同年一〇月一五日抗告人ほか二名を相手方として不動産引渡命令を原審に申し立てたこと、以上の事実が明らかに認められる。

右によれば抗告人は、差押えの効力発生後にその期間が満了したため既にその更新をもつて抵当権者ひいては買受人に対抗できなくなつてしまつた短期賃借権を、もとより右差押えの効力発生後に譲り受けて占有を開始した者であるから、民事執行法第八三条の適用法上、同条第一項ただし書所定の「差押えの効力発生後に占有した者」に該当し、かつその占有権原を買受人に対抗できないことになる。この点につき抗告人は、佐久間の賃借の更新が差押発効後であつても買受人の代金納付前であるから、この更新を買受人に対抗できる旨主張するもののごとくであるが、独目の見解であつて採用の限りでない。

したがつて、抗告人が同項本文所定の「事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者」に該当することは更に論ずるまでもなく、これに対して引渡命令を発した原決定は相当である。よつて、本件抗告は理由がないのでこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のように決定する。

(裁判長裁判官賀集 唱 裁判官安國種彦 裁判官伊藤 剛)

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