大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)102号 判決

富山県婦負郡八尾町舘本郷四四六番地

原告

高野鉄雄

右訴訟代理人弁理士

福田信行

福田武通

福田賢三

田中昭雄

竹山宏明

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

小川邦夫

右指定代理人通商産業技官

稲垣稔

佐々木征四郎

同通商産業事務官

板橋昌之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五九年審判第一〇一二号事件について昭和六一年三月二〇日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五三年五月一九日、名称を「角形電気接点」(後に「角形電気接点の製法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和五三年特許願第五八八四三号)をしたところ、昭和五八年一一月七日拒絶査定があつたので、昭和五九年一月一四日審判を請求し、同年審判第一〇一二号事件として審理された結果、昭和六一年三月二〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年四月九日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

同一プレス内各加工位置で各工程を同時進行させる連続加工プレスヘ、その各加工位置を通るように台板素材帯板を水平に間欠送給し、この帯板に逐次、所要接点形状と相似で少し小さな角穴を打ち抜き、その角穴下縁全周を潰して面取りを行い、その面取りした角穴の上へ水平方向から、上記角穴の一辺と同幅の接点用平角棒材の先端を同期送給し、その先端部を上記角穴に適合する寸法に剪断すると同時に角穴へ沈め、軽く上下加圧して位置決め固定し、次に上下から圧潰して上記帯板下面へ突出しないように上記面取り部を満たすとともに、角穴上縁全周からわずかに水平膨出させて角穴より一回り大きな相似形の角形接点を作り、最後に上記帯板から上記接点をつけた所要形状の台板を抜き落とすことを特徴とする角形電気接点の製法。

(別紙図面(1)参照)

三  審決の理由の要点

本願発明の要旨は前項のとおりと認める。

これに対して、昭和四九年特許出願公開第八一八六八号公報(以下「引用例一」という。)には、「以下本発明の一実施例を図面により詳述する。第3図に示すように下面に突脈(3)を設けた断面略T字形の接点材料(2)が銅で長尺物に形成され、接点材料(2)の上面に金鍍金層(1)を施してある。また接点加工装置(6)のポンチ摺動溝(7)の下方に配設するポンチ受台(9)は第4図に示すように発条(13)にて上方に附勢させていて、ポンチ受台(9)の腹部の係止凹所(14)に係合せるストツパー杆(15)を外すことによりポンチ受台(9)が上方に摺動するものであり、ばね(16)にて右方へ附勢されているストツパー杆(15)を外す場合には左方に突部(18)を有するカム(19)を操作することにより行なえる。接点材料(2)の突脈(3)を端子板(4)の角孔(5)に嵌入するのに際し、第4図、第5図に示すように接点加工装置本体(6)の端子板挿入凹所(10)に端子板(4)を挿入すると共に接点材料挿入溝(11)に金鍍金層(1)を上にして接点材料(2)を挿入し、第6図に示すようにストツパー杆(15)を外してポンチ受台(9)上面を接点材料(2)下面に当接してポンチ(8)にて接点材料(2)上面を打てば接点材料(2)が任意の長さに切断されると共に端子板(4)の角孔(5)に接点材料(2)の突脈(3)が嵌入され、突脈(3)の下端面が端子板(4)下面にかしめられて第1図・第2図に示すような接点が得られる。この場合第4図に示すようにポンチ受台(9)上面に突起(12)を設けてあるので、ポンチ受台(9)の突起(12)が接点材料(2)の突脈(3)下面に食い込み、端子板(4)下面に突脈(3)が滑らかにかしめられる。なお接点材料(2)の下面に片面接点用より長い突脈(3)を設けて端子板(4)の角孔(5)に第10図に示すように突脈(3)を大きくかしめれば両面接点ができる。」と記載されている(別紙図面(2)参照)。

そして、昭和五一年特許出願公開第一〇九二七四号公報(以下「引用例二」という)には「第16図は左方から入つた帯状台材12か70の位置で接点用打抜穴13とプレス位置決め用兼用の取付穴18とを明けられ、80の位置で第8図のように突起部14を形成される。90の位置には第9図のように線状接点材11を挿入するため垂直に立つ線状接点材料を寸断し、穴13へ挿入する機構(図略)がある。挿入時、軽く接点材11を圧縮してふくらませ穴13に固定しておく。100の位置で第10図のように接点頭部10を完成し、その基部を台材12に圧着する。さらに10′の位置で、この実施例では接点表面に線条を刻んでいる。それから右へ進むと台材の形をほゞ打出し、最後に切断して製品化する。」と記載されている(別紙図面(3)参照)。

ここで、本願発明と引用例二に記載されるものとを比較してみると、「同一プレス内各加工位置で各工程を同時進行させる連続加工プレスヘ、その各加工位置を通るように台板素材帯板を水平に間欠送給し、この帯板に逐次穴を打ち抜き、その穴下縁全周を潰して面取りを行い、その面取りした穴の上へ接点用角棒材の先端を同期送給し、その先端部を上記穴に適合する寸法に剪断すると同時に穴へ沈め、軽く上下加圧して位置決め固定し、次に上下から圧潰して上記帯板下面へ突出しないように上記面取り部を満たすとともに、穴上縁全周からわずかに水平膨出させて穴より一回り大きな相似形の接点を作り、最後に上記帯板から上記接点をつけた所要形状の台板を抜き落とすことを特徴とする電気接点の製法。」である点で両者は共通している。

もつとも、〈1〉穴と接点の形状について、本願発明はこれらが角型であるのに対して、引用例二に記載されるものは円型である点、〈2〉棒材とその送給の手法について、本願発明は「水平方向から、上記角穴の一片と同幅の接点用平角棒材の先端を同期送給」するものであるのに対して、引用例二に記載されるものは「線状接点材を挿入するため垂直に立つ線状接点材料を寸断」するものである点で、両者間に一応の差異は認められる。

しかし、〈1〉の点についてであるが、これらの形状を角型とすることは引用例一に記載されている。ここに記載されるものも、角型接点を溶接によらずしてプレス加工により台板に圧接したものであつて、本願発明との間に格別の差異は認められない。

〈2〉の点についても、本願発明と同様の角型接点を形成するために、水平方向から断面略T字形の接点材料の先端を同期送給することが記載されている。この場合の断面は略T字形であつて本願発明のごとき幅を有する平角材とは異なるが、略T字形とすることにより台板に対する位置決めを容易にしたいがためにこのようにしたものであり、位置決めについて考慮を払う必要のない場合、本願発明のごとき角材とすることは容易なことと認められる。

以上のとおりであつて、本願発明は、結局、引用例一に記載される技術内容と引用例二に記載される技術内容とに基づいて容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

1  総論

引用例一及び引用例二に審決が認定した事項が記載されていること、本願発明と引用例二記載の発明との間に審決認定の一致点(ただし、次に述べる相違点の看過、誤認に関する部分は除く。)、相違点が存すること、右両者間の相違点〈2〉についてした審決の判断はいずれも認める。

しかしながら、審決は、本願発明と引用例二記載の発明との間の一致点の認定を一部誤つて右両者間に存する別の相違点を看過、誤認し、また、認定した右両者間の相違点〈1〉についての判断を誤り、さらに、右各相違点に基づく本願発明の作用効果を看過、誤認し、ひいて誤つて本願発明の進歩性を否定したから、違法であつて取り消されるべきである。

2  相違点の看過、誤認

(1) 本願発明の構成要件中、「穴上縁全周からわずかに水平膨出させて穴より一回り大きな相似形の接点を作り」との部分は、引用例二記載の発明では存せず、この相違に基づき、本願発明は後記4で述べる作用効果を奏する。しかしながら、審決は右の点についても一致すると認定しているから、この点で、審決は本願発明と引用例二記載の発明との間の一致点の認定を誤り、相違点を看過、誤認したものである。

(2) 引用例二の第三頁左上欄第一九行ないし右上欄第一行には、「この発明による接点は線状材料から原形を止めぬまでに強圧されて台材に取付けられるので、」と記載され、また、第三頁左下欄第一七行ないし第二〇行に「この発明の接点と台材との取付面は、両材とも激しい冷間変形を受けた直後に極めて大きな加圧力で全面圧着せしめられたものであるから」と記載されている。これらの記載は、台材12の打抜穴(丸穴13)に、切断した円形断面の線状接点材11を通し、これをその軸方向に大きな加圧力で強圧することによつて円形接点である接点頭部1を成形し、もつて接点を台材12に固定していること(別紙図面(3)参照)を意味するから、引用例二記載の発明は、本願発明にある、「穴上縁全周からわずかに水平膨出させて穴より一回り大きな相似形の接点を作り」という構成を具備する代わりに、穴上縁全周から非常に大きく水平膨出させた接点を作るという構成を採用しているものといえる。

このように、引用例二記載の発明では、穴上縁全周から非常に大きく水平膨出させた接点を成形しているのに対し、本願発明では、平角棒材を嵌めた角形の穴の上縁全周から、平角棒材をわずかに水平膨出させ、もつて穴より一回り大きな相似形の接点を成形しているのであつて、この点において本願発明と引用例二記載の発明は本質的に相違する。

3  相違点〈1〉についての判断の誤り

(1) 審決は、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉について、「これらの形状を角形にすることは引用例一に記載されている。ここに記載されるものも、角形接点を溶接によらずしてプレス加工により台板に圧接したものであつて、本願発明との間に格別の差異は認められない。」と判断したが、以下の(2)、(3)で述べるところ、及び、後記4で述べるように、相違点〈1〉に基づき、本願発明は引用例二記載の発明とは異なる作用効果を泰するものであるから、審決の右判断は誤りである。

(2) 引用例一記載の発明は、下部に所定幅Wの突脈を有する断面T字型の接点材料(2)を成形し、端子板(4)に右突脈を嵌入させるための所定幅W、所要長さLの角孔(5)をあけ、接点材料(2)を角孔(5)の長さに合わせて切断し、切断した接点材料片の突脈(3)を端子板(4)の角孔(5)に嵌入した後、突脈(3)の下端をかしめて固定するものであつて(別紙図面(2)参照)、本願発明との間で、接点材料の形状を異にしている。

(3) 次に、引用例一記載の発明における端子板に設けた角穴の形状と、本願発明の台板に設けた角穴の形状とが異なつており、それに関連して、これらの角穴に接点材料(平角棒材)を固定させたときの態様も異なつている。

すなわち、引用例一記載の発明の断面T字型の接点材料(2)の突脈(3)を右角孔(5)に嵌入してその下部を端子板にかしめ固定する場合、角孔(5)のうち、接点材料のT字断面の横方向の縁に当たる部分には、接点材料片の下部に形成された膨出部分が当接するが、接点材料のT字断面の前後方向の縁は接点材料の端面が接触しているだけである(このため、右の幅方向の縁は膨出する部分に押し上げられて隆起し、端子板(4)がひずんだり、角孔(5)に亀裂ができて、使用時に接点が端子板から外れるという問題点がある。)。

これに対して、本願発明の角穴は、平角棒材に相似で、しかも、それよりわずかに小さい面取り部付きのもので、平角棒材を右角穴に嵌入した後、その上部を角穴上縁全周からわずかに水平膨出させて右角穴より一回り大きな相似形の角形接点を形成するものである(したがつて、平角棒材の下部が角穴下縁全周の面取り部を満たすようになるため、引用例一記載の発明におけるような問題点は生じない。)。

4  本願発明の作用効果

角形接点は、円形接点と比べた場合に、大きな接触面積が得られて接点同士の接触が確実になり、また、接点と台板との密着面積が大きくなつて放熱効果が増大するという利点を有する。

引用例二記載の発明では、寸断した線材を台板の穴に通し、台板上に突出している線材部分を、原形をとどめないまで強圧して円形接点としているが、圧潰により接点の面の直径が大きくなつたとしても、接点と台板とが密着している箇所は、台板の穴の内周と線材の外周だけであるから、台板との密着面積は限られている。

本願発明においても、接点と台板とが密着する箇所は、台板の穴の内周と平角棒材の外周だけであるが、台板の穴は角形接点より一回り小さな角形程度の大きさであるから、接点と台板との密着面積は引用例二記載の発明における密着面積よりはるかに大きい。そして、接点の角形の大きさが増大すれば、それに応じて台板の角形の穴も大きくなり、平角棒材との密着面積も増大するようになる。したがつて、本願発明は引用例二記載の発明に比して、接点の固着強度が大きいのである。

以上のように、前記2で述べた相違点及び相違点〈1〉に基づき、本願発明は、引用例二記載の発明に比べて放熱性に優れ、接点の固着強度が大きい角形接点を作ることができるという作用効果を奏する。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

1  請求の原因四2について

(1) 引用例二記載の発明は、断面が円形の線状接点材料をプレス加工して、上から見て円形の接点とするものであつて、加工後においても、その形状は加工前と同様の円形に保たれているから、接点の接触面となる接点上部が原形をとどめぬまでに変形されているとはいえない。原告が引用した引用例二の第三頁左上欄第一九行ないし右上欄第一行の箇所だけをみると、あたかも接点全体が原形をとどめぬほど強圧されているようであるが、原告引用の箇所に続く、「激しい冷間加工と共に強い加圧力を受け、溶接技術でいう冷間圧接に近い状態で圧着されているため圧着部の電気熱伝導度が極めて良く」との記載(第三頁右上欄第一行ないし第四行)を合わせてみると、強圧されている対象は接点全体であると直ちにいうことはできない。接点上部は円形を保持していることから、右記載において、原形をとどめぬほど強圧される対象は、接点のうちの台材に対する取付部分であるとみるのが自然である。また、原告が引用する引用例二の第三頁左下欄第一七行ないし第二〇行の記載部分の主語は接点と台材との取付面であり、右記載部分は、接点のうちの接触面を含む接点上部に関するものではないから、この記載部分は、穴と、水平膨出させる接点部分との関係を述べているものではない。

(2) また、「角穴より一回り大きな相似形の角形接点」における「一回り」の程度についてみると、本件出願の明細書及び図面で、穴より大きな接点についての記載があるのは、第3図ないし第7図だけであり、また、引用例二において右の点について記載があるのは、第10図及び第11図だけであるところ、両者にはそれぞれ接点とこれが取り付けられる穴との関係が示されている。本願発明と引用例二の右各図面の記載を比べると、接点と穴との大きさの比については格別の差異はないから、引用例二記載の発明における接点は、本願発明におけると同様に、穴より一回り大きな相似形のものである。

以上のように、引用例二記載の発明においては、断面円形の線状接点材料から、これと同形の円形接点を形成して成るもので、接点の水平膨出の程度は穴より一回り大きな相似形といえるから、引用例二記載の発明における接点は本願発明と同様、「穴上縁全周からわずかに水平膨出させて穴より一回り大きな相似形の接点」である。審決に、原告主張の認定、判断の誤りはない。

2  請求の原因四3について

本件出願の昭和五六年六月二九日付け手続補正書添付の訂正明細書(以下「本願訂正明細書」という。)第三頁第六行ないし第一四行に「他に良い量産方法がないため角形接点は上述の抵抗溶接で取付けられているのである。本発明者はさきに新規な接点圧造方法を開発し、連続プレスに台材用帯板と接点用線材を送込み、接点を台材に圧着すると同時に所要形状に成形する量産法を実現した。この発明は、その新規な接点圧造方法の採用による新しい形式の角形接点を提供する。」と記載されている。これを要約すると、角形接点を抵抗溶接によらずしてプレス加工により台材に取り付けるというものである。

これに対して、引用例一の第一頁右下欄第三行ないし第二頁左上欄第一行に、接点材料(上面に金鍍金層(1)を施せる略直方体状の接点材料)を切断するのと同時に接点材料を端子板にかしめ止めできる接点と、その加工方法を提供する旨記載され(別紙図面(2)参照)、引用例一記載の発明においても、角形接点を端子板にかしめ止めするのである。したがつて、右の点において、本願発明と引用例一記載の発明との間に相違はない。

審決において引用例一を引用したのは、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉に関する本願発明の目的及び構成が公知であることを認定するためであつて、引用例一に、本願発明の主要部となる製造方法のすべて、あるいは、本願発明の製造方法と同じ製造方法が記載されていることを示すためではなかつたものである。

3  請求の原因四4について

原告は、本願発明の角形接点は、引用例二記載の発明における円形接点と比べた場合、接点同士の接触が確実になると主張するが、この点は本願明細書に記載されていない。

また原告主張の、角形接点は円形接点に比較して密着面積が大きくなるとの点は、円形の周囲の長さと角形の周囲の長さの差異に基づく、ごく当然のことをいつているにすぎない。したがつて、右理由によつて円形接点を角形接点に変更したのであれば、右変更は必要に応じて容易に実施できる事項というべきである。

原告はさらに、本願発明の角形接点は放熱性に優れ、接点の固着強度を高めることができるとの作用効果を奏する旨主張し、その理由として、引用例二記載の発明における円形接点に比べて、接点の外周と台板の内周との密着面積が大きくなることを挙げている。

しかし、接点の形状が角形であつても円形であつても、密着する部分に違いがあるわけではないから、本願発明の密着面積が限られておらず、引用例二記載の発明におけるそれが限られているということはできない。原告主張の右作用効果が角形接点に特有のものであるということはできない。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  本願発明の概観

成立に争いのない甲第三号証(本件出願の昭和五六年六月二九日付け手続補正書)及び第四号証(同昭和五八年四月二八日付け手続補正書)によれば、

イ  本願発明は、角形電気接点の製法に関するもの(本願訂正明細書第一頁第一九行)であること、

ロ  従来、電気接点としては、円形のもの及び角形のものが知られており、そのうち、角形接点は、鋲形に量産することが困難であるため、抵抗溶接によつて台材に取り付けていたが、接点材料と台材はともに電気抵抗が低いので、抵抗溶接はプロジエクシヨン溶接によつて行つていたこと、ところが、プロジエクシヨン溶接を用いると、溶着するのは電流の集中する先端部分だけになつて、台材と接点材料との接触面積はごくわずかになり、電気及び熱の伝導性が悪いばかりか、接点が脱落したりする欠点があつた(同第二頁第一行ないし第三頁第五行)こと、

ハ  本願発明は、右欠点を除去するために、連続プレス台材用帯板と接点用線材とを送り込み、接点を台材に圧着すると同時に所要形状に成形する量産法を実現することを目的とし(同第三頁第九行ないし第一四行)て、その要旨とする構成を採用したこと、

ニ  それによつて、電気及び熱伝導を高め、強度、寿命及び信頼性を高くでき、溶接接点の数倍の生産性を上げることができて、製造装置も安価になり、さらに、角穴の周面と接点材料の外周とが相似であるため、圧潰量を少なくして確実に固着できる等の作用効果を奏するものである(同第七頁第七行ないし第八頁第一行、昭和五八年四月二八日付け手続補正書第三頁第一一行ないし第四頁第五行)ことが認められる。

2  引用例二に記載の事項

引用例二に審決認定の事項が記載されていることについては、原告も認めるところである。

3  相違点の看過、誤認の主張について

(1)  成立に争いのない甲第六号証(引用例二)によれば、引用例二の第10図及び第11図(本判決別紙図面(3)参照)に、接点を台材に取り付けたときの縦断面図が記載され、また、引用例二には、原告が主張する引用例二の記載部分を含む次の記載、すなわち、「第10図はその接点材11を軸方向に圧縮し成形と同時に台材12に圧着した接点頭部10及び同時に打抜穴13内壁と皿形縁16に全面圧着した接点基部17とが完成したところを示す。」(第二頁左下欄第一六行ないし第二〇行)、「この発明による接点は線状材料から原形を止めぬまでに強圧されて台材に取付けられるので、激しい冷間加工と共に強い加圧力を受け、溶接技術でいう冷間圧接に近い状態で圧着されている」(第三頁左上欄第一九行ないし右上欄第三行)、「この発明の接点と台材との取付面は、両材とも激しい冷間変形を受けた直後に極めて大きな加圧力で全面圧着せしめられたものである」(第三頁左下欄第一七行ないし第二〇行)との各記載があることが認められるが、これらの記載だけからは、引用例二記載の発明における接点が、本願発明の「穴上縁全周からわずかに水平膨出させて穴より一回り大きな相似形の接点を作り」の構成を具備しているか否かを明らかにすることはできない。

しかしながら、引用例二記載の発明における線状接点材11の横断面が円形であることは、その第16図(本判決別紙図面(3)参照)に示される、台材12にあけられた打抜穴13の形状から明らかであり、また、右線状接点材11が圧縮されてできた、接点頭部10の形状が円形であることも、同図の記載から明らかであるから、少なくとも加工前の線状接点材11の横断面形状と加工後の接点頭部10の形状とは相似であるということができる。そして、引用例二における、「接点は線状材料から原形を止めぬまでに強圧されて台材に取付けられる」との記載において、原形をとどめぬまでに変形される箇所は接点全体であるというべきであつて、右部分は、円筒状の線状接点材が鼓形(糸巻き形)の接点に変形されることを述べていると解すべきである。

(2)  そこで、引用例二記載の発明における接点頭部が、本願発明と同様に穴上縁全周から「わずかに」水平膨出しているか、あるいは原告主張のように、穴上縁全周から「非常に大きく」水平膨出しているかについてみるに、前掲甲第三、第四号証及び甲第六号証によると、本願明細書及び引用例二のいずれにも、接点頭部が穴上縁全周から水平膨出する程度についての記載がないことが認められる。

そうすると、原告が主張する右水平膨出の程度は、本願発明についても引用例記載の発明についても共に、原告の主観を述べているにすぎないものというべきであり、この点において、本願発明と引用例二記載の発明との間で差異があるということはできない。

(3)  したがつて、原告主張の点において、本願発明と引用例記載の発明との間に相違するところがあるということはできないし、後記5で判断するように、本願発明が引用例二記載の発明と異なる作用効果を奏するということもできないから、審決が本願発明と引用例二記載の発明との間の一致点の認定を誤つたとする原告の主張は理由がない。

4  相違点〈1〉の判断の誤りについて

(1)  原告は、本願発明と引用例二記載の発明との問の相違点〈1〉についてした審決の判断は誤りであると主張する。

(2)  まず請求の原因四3(2)について検討するに、引用例一に、審決認定の事項が記載されていることは当事者間に争いのないところであり、この事項によると、引用例一記載の発明では、下部に所定の幅の突脈を有する断面T字型の接点材料について、突脈を端子板の角穴に嵌入した後、突脈の下端をかしめて固定するという構成を採用しているものであり、平角棒材を接点材料として用いる本願発明の構成とでは、用いる接点材料の形状を異にしているものということができる。

しかしながら、審決の判断において、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉につき引用例一を引用したのは、接点の形状を角型にすること、及び、この角型接点をプレス加工にょり台板に圧接することの技術が公知であつたことを認定するためであつたことは、前掲の審決の理由の要点から明らかである。そして、右判示の引用例一の記載事項によると、引用例一に角型接点が記載されていること、及び、引用例一記載の発明における角型接点がプレス加工により台板に圧接されて成るものであることが明らかであるから、本願発明と引用例一記載の発明との間で接点材料の形状を異にしているとしても、そのことをもつて、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉についてした審決の判断に誤りがあるということはできない。

(3)  次に、請求の原因四3(3)について検討するに、原告主張のように、引用例一記載の発明において端子板に設けた角穴の形状と、本願発明において台板に設けた角穴の形状とは必ずしも一致するものでなく、これらの角穴に接点材料(平角棒材)を固定させる際の態様も異なつていることは、前記1で判示したところ及び審決が認定した引用例一の記載事項から明らかである。

しかしながら、(1)で判示したように、審決において本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉につき引用例一を引用したのは、接点の形状を角型にすること、及び、この角型接点をプレス加工により台板に圧接することの技術が公知であつたことを認定するためであつたのである。したがつて、引用例一記載の発明における角穴の形状と本願発明の角穴の形状とが異なり、かつ、これらの角穴に接点材料(平角棒材)を固定させる態様が異なるとしても、それらのことをもつて、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉についてした審決の判断に誤りがあるということはできない。

(4)そしてまた、後記5で判断するように、本願発明が引用例二記載の発明と異なる作用効果を奏するということもできな一いから、本願発明と引用例二記載の発明との間の相違点〈1〉についてした審決の判断に誤りは存しない。

5  作用効果について

原告は、角形接点は円形接点と比べた場合に、大きな接触面積が得られて接点同士の接触が確実になり、また、接点と台板との密着面積が大きくなつて放熱効果が増大するという利点がある旨主張する。

しかし、接点と台板との接触面積(密着面積)は、台板の穴の内周の長さ及び接点の外周の長さによつて決まるものであり、接点の形状と関わりを持つものではないから、原告の右主張は理由がない。

原告はまた、本願発明においても、接点と台板とが密着する箇所は、台板の穴の内周と平角棒材の外周だけであるが、台板の穴は角形接点より一回り小さな角形程度の大きさであるから、接点と台板との密着面積は引用例二記載の発明における密着面積よりはるかに大きい。そして、接点の角形の大きさが増大すれば、それに応じて台板の角形の穴も大きくなり、平角棒材との密着面積も増大するようになる。したがつて、本願発明は引用例二記載の発明に比して、接点の固着強度が大きいと主張する。

確かに、接点と台板との接触(密着)の程度(原告が主張する密着面積)は、台板の穴の大きさを接点の横断面形状よりも一回り小さくすれば、それらを同寸法にした場合に比べて大きくなるが、引用例二記載の発明においても、線状接点材を打抜穴に挿入した後、接点を仮にかしめ止めするまでの間、線状接点を打抜穴に保持させておくためには、当然に打抜穴の大きさを線状接点材の横断面形状よりも一回り小さくしておく必要があることは自明のことである。したがつてこの点において、本願発明と引用例二記載の発明との間に差異があるものと認めることはできない。

以上のとおりで、本願発明が引用例二記載の発明と異なる作用効果を奏するという原告の主張は理由がない。

5  結論

結局、原告の主張する審決の取消事由はいずれも理由がなく、本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはないというべきである。

三  よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 竹田稔 裁判官 塩月秀平)

別紙図面(1)

〈省略〉

別紙図面(2)

〈省略〉

別紙図面(3)

〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com