大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)276号 判決

原告

株式会社広島組

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和61年9月11日、同庁昭和54年審判第13270号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第2請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和52年12月2日、名称を「基礎杭の構造」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和52年実用新案登録願第162277号)をしたところ、昭和54年9月5日拒絶査定を受けたので、同年10月30日これを不服として審判の請求(昭和54年審判第13270号事件)をしたが、昭和61年9月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年10月30日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

撹拌により破砕された土砂内に回転させられながら下降し立設させられる基礎杭において、基礎杭の下端に杭の外周面より突出したフリクシヨンカツターを固着したことを特徴とする基礎杭の構造。(別紙図面(1)参照)

3  本件審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のとおりと認められるところ、原査定の拒絶理由に引用された実公昭48-178号実用新案公告公報(以下「引用例」という。)には、土砂内に回転させられながら下降し立設させられる杭において、杭の下端座板4にやや張り出させてカツター5を溶着したことを特徴とする杭の構造が記載されている(別紙図面(2)参照)。

そこで、本願考案と引用例に記載されたものとを対比すると、本願考案の「基礎杭」、「下端」、「杭の外周面より突出した」、「フリクシヨンカツター」及び「固着」は、それぞれ、引用例記載のものにおける「杭」、「下端座板4」、「やや張り出させて」、「カツター5」及び「溶着」に相当するので、両者は、本願考案が撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を回転させながら下降し立設せしめているのに対して、引用例記載のものが撹拌により破砕されることについては何ら限定されていない土砂内に基礎杭を回転させながら下降し立設せしめている点で一応相違しているが、その他の点では一致している。

次に、前記相違点について更に検討したところ、撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を打設することは、本願考案の実用新案登録出願前において慣用手段であるので、引用例記載のものを特に撹拌により破砕された土砂に適用するという前記相違点は、単に慣用手段を付加することによる構成の限定にすぎない。

したがつて、本願考案は、引用例に記載された考案であると認められるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

4  本件審決を取り消すべき事由

引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、本願考案と引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点があること、及び撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を打設することが本願考案の実用新案登録出願前に慣用手段であつたことは認めるが、本件審決は、右相違点についての認定判断を誤つた結果、本願考案は引用例記載の考案と同一であるとの誤つた結論を導いたものであつて、違法として取り消されるべきである。すなわち、

従来、既製杭の施工は軸方向への打撃によつて行われていたが、騒音規制や振動公害が社会問題として取り上げられはじめてから、市街地における既製コンクリート杭工法は、無騒音、無振動工法が主流となり、その間多くの工法が開発されたが、本願考案は回転埋設工法中のHIT(Hiroshimagumi Insert Technique)工法に用いる基礎杭であつて、新たな社会的必要性のもとに開発されたものである。これを詳述するに、本願考案の実用新案登録出願前、当業者間においては、基礎杭を回転させながら土砂中に立設しようとすると、基礎杭は捩りに弱いので破壊されると考えられており、回転させるために基礎杭の外周面に螺旋刃を付着させたものや回転抵抗の小さなコンクリートミルク内で基礎杭を回転させながら下降させるものが提案されたが、あらゆる土質の地盤に使用できる破砕された土砂内で立設できる基礎杭は存しなかつた。こうしたことから、本願考案は、通常使用する基礎杭が破壊されずに使用できるように、予め基礎杭の立設箇所の土砂を破砕しておき、そこに基礎杭を回転させながら立設しようとするもので、土質のいかんにかかわりなく基礎杭の立設を可能としたものである。以上のように、本願考案は、撹拌により破砕された土砂内に回転して立設する基礎杭であるところに最大の特徴があり、引用例記載のものを撹拌により破砕された土砂に適用するという前記相違点は、単に慣用手段を付加することによつて構成を限定したものではなく、引用例記載の考案にはない本願考案特有の構成であつて、本願考案は引用例記載の考案と同一とはいえない。

第3被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

1  請求の原因1ないし3の事実は、認める。

2  同4の主張は、争う。本件審決の認定判断は、正当であつて、原告が主張するような違法の点はない。

撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を打設することは慣用手段であり、引用例記載のものは、ブレキヤストコンクリート杭であつて、既製杭として本願考案の実用新案登録出願前国内において普通に採用されているものであるから、引用例に示されたものに既製杭の打設手段として前記慣用手段を適用することは、当業者が普通に行うべき程度のことにすぎない。しかも、引用例に示されたものが、撹拌により破砕された土砂内に立設されることについて何ら限定されていないとしても、引用例記載のものは、土砂内に回転させられながら下降し立設させられる杭において、杭の下端座板4にやや張り出させてカツター5を溶着したことにより、「回転下降させて立設する基礎杭には如何なる具体的構成のものが適するか判明していなかつた。」(本願考案の明細書第3頁第17行ないし第4頁第1行)、「フリクシヨンカツター(15)を備えない基礎杭(14)であると、撹拌により破砕された土砂内に回転させて下降させようとしても杭(14)の外周面全体に摩擦抵抗がかゝり所定深度まで到達しない」(同第5頁第16行ないし第6頁第2行)との本願考案の技術的課題を解決し、本願考案の「杭(14)の下端にフリクシヨンカツター(15)を備えさせれば、杭(14)の先端で当初摩擦抵抗を排除し杭(14)の外周面全体に摩擦がかヽることなく所定深度まで正確かつ迅速に到達できる。」(同第6頁第2行ないし第5行)、「フリクシヨンカツター(15)を備えた基礎杭(14)は回転下降するとき地盤周壁の摩擦抵抗部を除去できるので、挿入立設が容易となる。」(同第5頁第13行ないし第16行)との作用効果と同様な「沈設作業中で受ける側圧、粘着力、摩擦力をカツトしてその沈設作業を迅速容易にする。」との作用効果を奏するものというべきである。してみれば、引用例記載のものは、撹拌し破砕された土砂について何ら限定がないとしても、本願考案と同様の目的、効果を奏するものというべきである。

したがつて、本件審決が引用例記載のものを特に撹拌により破砕された土砂に適用するという相違点につき単に慣用手段を付加することによる構成の限定にすぎないと判断した点に誤りはない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(争いのない事実)

1  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

2 本件審決の認定判断は正当であつて、原告の主張は、以下に説示するとおり理由がないものというべきである。

前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第3号証(本願考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)を総合すると、本願考案は、撹拌により破砕された土砂内に回転させられながら下降し立設させられる基礎杭の構造に関する考案であり、杭の外周面より突出したフリクシヨンカツターを備えない基礎杭であると、撹拌により破砕された土砂内に回転させて下降させようとしても、杭の外周面全体に摩擦抵抗がかかり所定深度まで到達し得ないことから、本願考案は、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成、特に、基礎杭の下端に杭の外周面より突出したフリクシヨンカツターを固着するという構成を採用することにより、杭の先端で当初摩擦抵抗を排除し、杭の外周面全体に摩擦がかかることなく基礎杭を所定深度まで正確かつ迅速に到達させることができ、撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を回転させながら立設することができるという実用上の効果を奏することが認められる。他方、引用例が本願考案の実用新案登録出願前に国内において頒布された実用新案公告公報であることは原告の明らかに争わないところであり、本件審決認定のとおり、引用例に、土砂内に回転させられながら下降し立設させられる杭において、杭の下端座板4にやや張り出させてカツター5を溶着したことを特徴とする杭の構造が記載されていること、及び本願考案の「基礎杭」、「下端」、「杭の外周面より突出した」、「フリクシヨンカツター」及び「固着」は、それぞれ引用例記載のものにおける「杭」、「下端座板4」、「やや張り出させて」、「カツター5」及び「溶着」に相当し、両者は、本願考案が、撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を回転させられながら下降し立設せしめているのに対し、引用例記載のものが、撹拌により破砕されることについては何ら限定されていない土砂内に基礎杭を回転させながら下降し立設せしめている点で相違するが、その他の点では一致していることは、原告の認めるところである。

ところで、本件審決は、右相違点について、単なる慣用手段を付加することによる構成の限定にすぎない旨認定判断しているところ、原告は、この認定判断は誤りである旨主張するから検討するに、基礎杭は土砂内に立設するもので、立設すべき場所の土砂の性状としては種々のものが考えられるところ、前示のとおり、撹拌により破砕された土砂内に基礎杭を打設すること、換言すれば、基礎杭を打設するために撹拌により土砂を破砕し、そうした土砂内に基礎杭を打設することは本願考案の実用新案登録出願前に慣用手段であつたのであるから、引用例記載の基礎杭を立設すべき場所における土砂の性状を撹拌により破砕された土砂に限定することは、単に慣用手段を付加することによる構成の限定にすぎないものというべきであり、本件審決の前記認定判断に誤りがあるとはいえない。原告は、本願考案は、撹拌により破砕された土砂内に回転して立設する基礎杭であるところに最大の特徴があり、引用例記載のものを撹拌により破砕された土砂に適用するという前記相違点は、引用例記載の考案にはない本願考案特有の構成である旨主張するが、前認定説示したところによると、本願考案の特徴的構成は基礎杭の下端に杭の外周面より突出したフリクシヨンカツターを固着する点にあり、この点の構成は引用例記載のものと同一であつて、右の相違点は、本願考案の特徴的構成とはいい難く、単に慣用手段を付加することによる構成の限定にすぎないものと解されるから、原告の右主張は、採用することができない。

そうであるとすれば、本件審決には原告主張の違法の点はなく、本願考案と引用例記載の考案を同一であるとする本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

3 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(武居二郎 舟橋定之 川島貴志郎)

〈以下省略〉

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