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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)29号 判決

控訴人

甲野太郎

右法定代理人親権者父

甲野一郎

同母

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

吉峯康博

梶原和夫

木下淳博

石川邦子

須納瀬学

伊藤芳朗

楠本敏行

村田光男

石井小夜子

若穂井透

被控訴人

東京都立○○高等学校長

乙野次郎

右訴訟代理人弁護士

白上孝千代

右指定代理人

篠崎弘征

松谷茂

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六一年三月二五日にした控訴人に対する進級拒否処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書四枚目裏六行目から七行目にかけて「主位的請求として本件処分の無効の確認を求め、予備的請求として、」を、同一〇行目、同一一行目、同五枚目表七行目中「無効ないし」を削る。)及び記録中の当審における証拠目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人

1  本件訴えの適法性

控訴人は、本件処分により第一学年に留置となつたことにより第二学年において学習することができなくなり、卒業年次が遅れ、また、これにより控訴人ないし親権者らの教育費の増加を余儀なくされたものである。そして、本件処分がなければ昭和六二年三月の再度の原学年留置処分を受ける可能性もないのであるから、控訴人は現在なお本件処分の違法性を主張してこれが取消しを求める訴えの利益がある。

2  本件原級留置処分の違法性

(一)  原級留置処分については、法令に直接の規定はなく、各学校が自主的に制定した教務内規によつており、○○高校では教科に関する内規(乙第三号証)によつて規定されている。このような学校自治立法は、本来的に子どもの学習権保障のための規定であり、その解釈、運用は、右趣旨に則して行われることを要し、特に成績評価や進級・卒業判定等につき教育的専門性、自律性が尊重されなければならない。

しかるに、学校教育の現状は、教務内規が子ども不在の「教師のための事務処理規定」化し、さらに、教務規定が教育措置から懲戒規定へと変質している。○○高校における原級留置処分もその実態は原級留置となると、既に単位修得の科目まで再履習を強制し、同学年と共に学習する機会を奪うなど懲戒的効果を目的として行われているが、原級留置処分は生徒の学習権保障の趣旨から行われる教育的措置である場合にのみ是認されるものであつて、これを逸脱した懲戒処分としてのそれは許されない。このことは、学校教育法一一条、同法施行規則一三条二項が懲戒処分を退学、停学及び訓告の三種類に限定していることからも明らかである。

(二)  原級留置処分は、多くの場合退学処分に結びついている。その原因は、原級留置が同年令集団との学習の機会を奪い、学習意欲を喪失させることのほか、教師が原級留置となる可能性のつよい生徒又は原級留置と決つた生徒に対し転校や就職等の進路変更を勤めるからである。○○高校昭和五九年度一年生のうち進級を拒否された生徒数三〇名中原級に留まつたものは一〇名にすぎず、他の二〇名は転校ないし退学をしている。

全国の公立高校における原級留置率は、全日制普通科で平均0.5ないし0.4パーセントであるのに対し○○高校では約五パーセントであつて、全国平均の約一〇倍という異常さである。

(三)  高校中退に直結するような原級留置処分は、生徒の一生を左右する重大な不利益を課することになるので、文部省も単位の終了認定に当たり従来より弾力的な姿勢で臨むように指導方針をたて、一科目の単位だけで直ちに留年させるような硬直した対応を避け生徒の意欲を引き出す指導を高校に求めている。

(四)  ○○高校の教科に関する内規によると、「特別の事情がある者については、出席者の三分の二以上の同意を得て、一回に限り仮に進級させることができる。」と定めている(二七条一項三号)。したがつて、控訴人に対しても仮進級制度の適用を配慮すべきが当然であるのに、被控訴人は控訴人について仮進級の可能性を一切検討することなく原級留置処分の挙にでたものであつて、かかる取扱いは、裁量権の行使が社会通念上妥当性を欠くものというべきである。

3  単位不認定の違法

(一)  ○○高校の教科に関する内規(乙第三号証)によれば、同校では絶対評価によつているが、○○高校のようなレベルの低い底辺校で右基準を貫くと、大量の落第者が出ることは明らかであつて、このような学校では相対的評価によつて全体のバランスを考慮すべきである。

(二)  控訴人の○○高校における出席状況は、昭和六〇年度における欠席につき一学期が一日、二学期が零、三学期が六日にすぎず、しかも、授業態度は比較的真面目であり、補習授業ではむしろ熱意すら窺わせるものがあつて、学研の実力テストにおける成績は、国語が四九点(四三三名中二四位)、現代社会がAという優秀さであり、数学が一二点(四三三名中二七九位)、英語が九点(四三三名中三三七位)ではあるが、十段階学力評価では総合五となる。このような実力テストにおける成績は平常点として有利に斟酌すべきである。

(三)  控訴人の第一学年第一学期における数学Ⅰ、英語Ⅰの成績自体全く救済の余地のないほどひどくはないし、第三学期における成績は数ⅠBを除くとその向上が顕著である。

(四)  控訴人の数学Ⅰ及び英語Ⅰに対する被控訴人の単位不認定は、控訴人に有利な前記各点につき全く顧慮しないでなされたものであり、教育的配慮に欠け、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。

(五)  被控訴人の態度は、むしろ、いわゆる赤点を生徒管理の一方法として利用し、その評定基準も生徒の学習到達度を客観的に評価するに堪えるものではなく、実態にも副わず、教師の指導不十分を顧みることなく一方的に赤点評価を強行するものであつて、違法である。

4  本件処分の手続的違法

(一)  被控訴人は控訴人及びその保護者に対して学習権保障の一内容として教育内容の重要な部分に関し情報提供の義務が有り、原級留置処分が適法であるためには、その処分の前提条件となる成績評価、単位認定及び原級留置処分の要件が具体的に提示されていることを要する。

(二)  しかるに、○○高校側から控訴人又はその保護者に対し成績評価基準や原級留置基準については極めて不十分な情報が提供されたにすぎない。

昭和六〇年四月九日の入学式当日生徒及び保護者に対して「赤点一つで落第になる。」「高校では絶対評価である。」と説明され、同年一一月の一年生保護者会において×○教諭が「赤点イコール」である。「素点は二四点以下をいう。」と説明したが、仮進級の制度については生徒や保護者のいずれにも全く知らされておらず、控訴人の母が昭和六一年三月二〇日被控訴人に面接した際、追試の合格点は個人により異なると述べ、成績評価基準を生徒に教えると生徒が打算的となり手抜きをするなどと発言し、生徒に対する信頼を失い、生徒の学習意欲の向上を願う姿勢は見られない。

(三)  原級留置処分は、これを受ける生徒にとつて重大な不利益処分であり、事実上懲戒的機能をもつから、少なくとも告知、聴聞の手続が必要である。特に教育の場においては、本人がその処分を納得して受け入れ、その処分を踏まえて成長発達することが不可欠の前提である。

特に、○○高校のように、単位認定基準が明確にされていない場合には、単位不認定の危険性について、その回復可能な段階から適切な告知が必要であるところ、○○高校では控訴人に対し単位不認定の可能性について告知せず、かつ、原級留置処分の決定段階においても控訴人からの意見聴取は行われなかつた。

(四)  単位認定判断を行う成績会議は、昭和六一年三月一九日及び同月二五日に開催されたが、原級留置処分の重大性に鑑み、対象となる生徒につき個別的に検討し、それがその生徒の成長発達にとつて最も有効適切であるか否かにより判定すべきであるのに、本件処分についての成績判定会議では、短時間、形式的に審議したのみで控訴人の個々の事情など一切検討されていない。

かかる不十分な成績判定会議の結果行われた本件処分は被控訴人の適法な裁量権の範囲内にあると解することはできず、違法な処分というべきである。

二  被控訴人

1  本案前の主張

○○高校の教科に関する内規によると、控訴人は本件処分により昭和六一年度は一学年に留置となり、当該学年の全科目を再履習しなければならない地位に在つたところ、控訴人は一、二学期にはほぼ出席したものの、三学期には全部欠席し、各教科とも欠課時数が授業時数の五分の一を超え、教科に関する内規二五条一項二号によりいずれの教科も当然単位不認定とならざるを得ない状態となつた。それのみでなく、年間欠席日数が出席すべき日数の三分の一を越え、右内規二七条一項一号により原学年留置きとなり、これは前年度単位不認定の数学Ⅰ、英語Ⅰについてのみ問題としても同様である。

よつて、○○高校では、昭和六二年三月一九日の成績会議において控訴人の原学年留置を決定し、同年四月一日被控訴人、教頭乙川三郎及び学生主任乙山四郎の三名が控訴人方において同人及びその保護者である父母にその旨を通告した。

したがつて、控訴人は仮に本件処分が取り消されても、新たに行われた昭和六二年四月一日通告にかかる原級留置処分の結果二年生への進級ができないから、本件訴えはその利益を欠くものというべきである。

2  本件原級留置処分について

(一)  学校教育法四二条、四三条、同法施行規則五七条の二、六三条の二の規定に基づき、文部大臣は、学習指導要領において高等学校の全課程を終了したものとする認定は八〇単位以上を修得した者について行う旨を定め、学校長に単位認定権限を与えている。

そして、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三三条は、教育委員会は法令又は条例に反しない限度において学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項につき教育委員会規則で定めるものとし、東京都公立学校の管理運営に関する規則(昭和三五年四月一日東京都教育委員会規則第八号)二五条は、高等学校において、生徒の平素の成績を評価した結果、各学年の課程の修了又は卒業を認めることができないと判定したときは学校長に原学年留置処分の権限を認めている。さらに、東京都教育委員会が定めた東京都公立高等学校の「生徒指導要録の様式及び取扱い」において、五段階評価で評定が1のときは単位認定をしない取扱いとし、○○高校の教科に関する内規二七条、二八条により各学年の課程の修了又は卒業認定に関する基準を定めている。

(二)  ○○高校を含む東京都立高校では絶対評価によつている。その場合、学校の指導計画における目標方針は、高等学校学習指導要領に則り生徒の実態(能力・適性・進路・興味・関心)をよく見定め、生徒の自己啓発の目標となり、やり甲斐を感じさせ、かつ、生涯にわたり自己教育をしていく基礎・基本の力となるよう配慮すべきであり、絶対評価の基準設定は、このような学校の目標方針に照らして行つている。

単位不認定による原級留置は、生徒各自につきその実態に即して弾力的、かつ、柔軟な配慮をしてもなお期待される達成水準に至らない場合であり、かかる生徒に対し「本校所定の課定を修了した」者と認定するのは、正当な裁量権の範囲を超えて許されないことである。

(三)  ○○高校では、一年生につき、昭和五九年度の退学者二九名、原級留置が一一名であり、昭和六〇年度の退学者七名、原級留置一四名であつたが、右一四名のうち九名は原学年で努力し次年度に進級している。なお、昭和六一年度の一学年は、退学者四名、原級留置が三名にすぎない。

(四)  ○○高校の教科に関する内規二七条一項三号は、特別の事情があるものについて成績会議出席教師の三分の二以上の同意を得て一回に限り仮に進級させることができると定めている。

しかし、仮進級制度の趣旨からして、概ねこの適用を受けうる生徒は、平素好成績であるが、怪我や病気等で学期試験等の受験ができず単位不認定となつたものの、仮進級させれば容易にこれを回復し他の生徒に追いつく見込みのある場合に限られる。また、仮進級者は進級学年において補講その他適切な処置を受け、追認試験を受けなければならないが、控訴人は三学期終了後既に追認試験を受けて不合格となつており、控訴人を仮進級させるのは同じく三学期終了後の追認試験に不合格となつた他の生徒との間に不公平となる。

3  単位不認定・成績評価方法について

(一)  英語Ⅰ

テストについて、(1)指導内容、(2)問題の難易度、(3)学年の平均点を教科担当者が協議したうえでそのテストにおける学習到達度の合格点の下限を決定し、右下限点は即ち赤点の隣接点であるから、一〇段階評価の「2」の段階の一定幅を示している大きい方の数字であつて合格点の下限に最も近い数字を求め、一〇〇点法の平均点からみた評定段階換算資料(別表(六))に当てはめ、評定段階換算平均点とし、これの各欄に素点を当てはめて評定を出すことになる。

英語ⅠR(リーダー)の場合、年間素点の総計点による評価は行わず、各学期ごとに一〇段階評価をしている。

また、控訴人の英語ⅠR担当教諭は、三学期に小テストを七回実施したが、控訴人の成績は0、欠、欠、0、欠、1、2という成績であつたので、その救済方法として他の成績不振者と同様控訴人にもレポートの提出を課し、不提出のときは一〇段階評価で一段階落すことを予告したが控訴人は再三の催告にもかかわらず遂にレポートを提出しなかつた。

そこで、同教諭はやむを得ず評価を一段階落した。

(二)  数学Ⅰ

控訴人の数ⅠAの成績は、三学期における宿題テスト一七点(最高点九六点、平均点58.5点)、期末テスト三九点(最高点八四点、平均点39.9点)で二〇〇満点として評定基準に当てはめると評定は「3」である(乙第一五号証の一の六頁表参照)。他方、教科に関する内規一五条により、出欠状況は、他の積極的学習態度と相俟つて評価するものであつて、それ自体単独で評価されるものではない。

また、ノートも、控訴人は担任教諭から数ⅠAと数ⅠBは各別のノートに整理してとるように注意されていたのに、両者を混入して記載し、板書きのような重要事項は赤枠をつけるよう指導されていたが履行しなかつた。

(三)  学研の実力テストにおける控訴人の成績がその主張のとおりであることは認める。しかし、学研実力テスト個人成績表(甲第四号証)によれば、英語がほとんど定着していないことを示す成績であること、一年間の英語学習の勉強量及び向上を目指す努力の不足を反省し、基礎事項の徹底的復習が必要であると評定され、数学については、基礎的な計算力と基本的事項の理解に関する不安が感じられ、重要公式等の復習が必要であり、二次方程式の基本事項の理解に欠け、二次関数の最大・最小に関する基本的取扱いに欠けていること等の評定が下されており、実力テストの得点を数学の評定価換算表によつてみると、いずれも赤点の範囲である「1」又は「2」であつて、以上の点を加味すると、かえつて実力テストの結果を斟酌することにより控訴人には不利となる。

4  手続的瑕疵について

法は原級留置処分につき告知・聴聞の手続を経るよう要求していないし、生徒は入学手続きの際、「入学のしおり」により単位認定についての詳細な内容を知ることができ、かつ、通知表により各学期の評定を知ることができるのみならず、担任教師は日常の授業を通じて生徒との接触を保ちその実情を把握しているので、原級留置処分に当たり改めて生徒の聴聞手続をとる必要はない。○○高校は、生徒に対し、評価「1」では進級できないことを中間、期末の各テスト時はもとより宿題を課すときなど折にふれて伝えてあるので実質的告知として十分である。

理由

一本案前の抗弁について

1  被控訴人は、本件処分の取消し請求はその実質において単位不認定の取消しを求めるものであるが、単位認定は学校の行う教育上の措置であつて司法審査の対象にならないと主張するので検討する。

(一)  一般に、在学関係は、学校という部分社会における特殊な法律関係であるとともにそれは公の教育施設として一般市民の利用関係である面も有する。そして、右の利用関係に入つた場合に学校という部分社会における教育目的を達成するため専門的判断ないし管理関係については、学校側(学校長)に広範な教育的裁量権が認められ、その範囲内の処分については法令に特別の定めがあれば格別、そうでない限り一般に司法審査になじまないものと解されるが、施設利用の関係は本来の目的に沿わない措置が講じられた場合には一般市民法秩序内の問題として司法審査の対象となるものと解すべきである。

(二)  学校教育法四二条によれば、高等学校教育の目標は、中学校における教育の成果をさらに発展させて国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと等にあり、同法四三条は、高等学校の学科及び教科に関する事項は監督官庁がこれを定めるものとし、同法施行規則二七条は、「小学校において各学年の過程の修了又は卒業を認めるに当たつては児童の平素の成績を評価してこれを定めなければならない。」と規定し、これが同規則六五条により高等学校に準用され、文部大臣は、右規定に従い学習指導要領を制定し、そのなかで高等学校の全課程修了認定は八〇単位以上を修得した者について行うことを定め、学校長に単位認定権を与えている(同規則五七条の二、六三条の二)。

さらに、地方教育行政の組織及び運営に関する法律三三条は、教育委員会は法令又は条例に反しない限度において学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項について教育委員会規則を定めるものとし、東京都公立学校の管理運営に関する規則(昭和三五年四月一日東京都教育委員会規則第八号)二五条は、高等学校において生徒の平素の成績を評価した結果、各学年の課程の修了又は卒業を認めることができないと判定したときは学校長に原学年留置処分の権限を認め、東京都教育委員会が定めた東京都公立学校の「生徒指導要録の様式及び取扱い」(真正に成立したと認むべき乙第二号証)において五段階評価で評定1のときは単位認定をしない取扱いとし、これらを受けて○○高校の教科に関する内規(成立に争いのない乙第三号証)では、「第二七条

次の各号の一に該当する者は原級留置とする。1欠席日数が出席すべき日数の三分の一を越える者、2単位不認定(評定1)の科目のある者、3前項の規定にかかわらず、特別の事情がある者については出席者の三分の二以上の同意を得て一回に限り仮進級させることができる。②前項第3号による仮進級者は、進級学年におて補講その他適切な処置を受け、追認試験を受験しなければならない。」と定めている。

(三)  ところで、高等学校は、中学校における教育の基礎の上に心身の発達に応じて高等普通教育及び専門教育を目的とする学校であり(学校教育法四一条)、本件○○高校は、都立高等学校として、学校側にその教育的目的達成に必要な限度で教育的裁量が認められるが、その反面、公の教育施設として市民の利用に供され、その利用関係は一般市民法秩序と深くかかわりを有するものであるところ、本件原級留置処分は、控訴人にとつて、所定の期間が経過したにもかかわらず第一学年から第二学年に進級できず原学年に留め置きとなり第二学年における教育を受ける機会を奪われ一般市民として有する公立学校の利用が一部拒否されたことになるものというべきである。

本件原級留置処分は、上記のとおり法令の根拠に基つき控訴人に対し○○高校第二学年としての利用の拒否を受忍させる法的効果を有するものであるから、控訴人の市民法秩序における権利義務に影響を与えるものとして抗告訴訟の対象となるものと解するのが相当である。

また、本件単位認定の適否も、後記認定のとおりそのまま本件処分に直接結びつくことになつているから、やはり司法審査の対象となるものと解するのか相当である。

2  本訴の訴えの利益についてみるに、本件処分は、控訴人を○○高校の第一学年に留め置くものであるから、これにより控訴人は第二学年において学習することかできなくなるとともに、その卒業年次が一年遅れることになり、それだけ控訴人ないしその親権者らは余計な教育費の支出を余儀なくされる等の不利益を被ることが明らかであるから、控訴人は本件処分の取消しを求める訴えの利益があるものというべきである。

3  なお、被控訴人は、本件処分後昭和六二年三月一九日控訴人に対する再度の原級留置処分がなされたので、控訴人に対する本件処分が仮に取り消されても、控訴人は第二学年に進級することが不可能であるから、本訴は訴えの利益を欠くものと主張し、控訴人が被控訴人主張の理由で再度原級留置処分を受けたことは控訴人の明らかに争わないところ、控訴人に対する再度の原級留置処分は、控訴人に対する本件処分に基づく第一学年に留まることを前提としてなされたものであつて、右再度の原級留置処分も本件処分が取り消されるとその有効性を保持しえないものと解すべく、そうすると、前記再度の原級留置処分がなされても本件処分取消し訴訟の訴えの利益が無くなるものではないので右主張は採用できない。

二本案について

1  当裁判所も、本訴請求は理由がないものと判断するものであり、その理由は次につけ加えるほか原判決理由(原判決書九枚目裏一行目から同一四枚目裏二行目まで)説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

2  単位不認定について

(一)  前記のとおり、都立高等学校では法令により学校長に単位認定権が与えられ、学校長は生徒の平素の成績を評価した結果各学年の課程を修了又は卒業を認めることができないと判定したときは原学年留置処分の権限を有し、東京都公立学校の「生徒指導要録の様式及び取扱い」(前掲乙第二号証)において五段階評価で評定1のときは、単位不認定となり、○○高校の教科に関する内規(前掲乙第三号証)によると、単位認定は教科会を経て最終的には成績会議で判定し、学校長がこれを行う(二四条)とし、単位不認定(評定1)の科目のある者は原級留置とする(二五条一項一号)ことが定められており、控訴人の○○高校第一学年における数学ⅠA、同B、英語ⅠR、同Gの成績は、原判決添付別表(一)ないし(四)記載のとおりであり、いずれも右五段階評価の1に当たる成績であつたため、被控訴人は昭和六一年三月二五日全職員による成績会議の審議を経たうえ数学Ⅰ、英語Ⅰの二科目につき単位不認定としたものである。

(二)  控訴人は、○○高校のようなレベルの低い底辺校では、絶対評価の基準を貫くと大量の落第者を出すので、相対評価によりバランスを考慮すべきであると主張するけれども、前記○○高校の教科に関する内規によると、絶対評価により一、二学期末、中間考査の結果は一〇段階評価、学年末は五段階評価の方法によるものとし(一四条)、学期末及び学年末において定期考査だけでなく出欠状況、臨時テスト、日常の学習状況等を考慮して総合的に評価し、教科によつては出欠状況、学習状況、ノート、研究物、レポート課題、実技等を評価の基本とすることができる(一五条)と定めているところ、〈証拠〉によると、絶対評価とは、学習指導要領に示す教科目標や学年目標を基準とし、それに照らして評価する方法であり、相対評価とは、学級や学年などの集団内において児童・生徒がいかなる位置を占めるかによつて評価する方法であり、文部省の指導要録では小中学校において絶対評価を加味した相対評価の方法をとつており、高等学校の場合絶対評価をとつているが、それは、高等学校の教育目標に由来するものと思われる。すなわち、高等学校における教育目標は、義務教育である中学校における教育の成果をさらに発展させて国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うにあり、〈証拠〉によると、○○高校では生徒の平均学力におて都立高校のなかで概ね中の下に位置してはいるものの、○○高校が都立高校として、学習指導要領の定める学習目標に対し個々の生徒の学習到達度を確認するため、右絶対評価の方法を採用することは合理性を有するということができ、〈証拠〉を総合すると、○○高校と同程度の都立高校において昭和六〇年度原級留置者数を比較すると○○高校のみが特に突出して高率であるとは認め難く、控訴人の右主張は採用できない。

(三)  そこで、単位不認定となつた数学Ⅰ及び英語Ⅰの評定についてみると、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 数学Ⅰは、A三単位(○○○○教諭担当)、B二単位(△△△△教諭担当)に分れ、第一、第二学期に各中間テスト、期末テスト、第三学期に期末テストが実施され、右定期テストと宿題テストの得点の合計を数学科内で作成された換算表(別表(五))により換算して得られる五段階法による評定値を基準とし、これに小テスト、宿題提出、授業態度などを平常点として最終的に評定を決定することになるが、控訴人は原判決添付別表(一)、(二)中各「テスト得点」欄記載の成績であり、学年末における数学Ⅰの評定は、五段階法により数ⅠAの評定値の和六を数ⅠBの評定値の和五と合算し合計一一を別表(五)の換算表に照合した結果、控訴人の数学Ⅰの学年末評定は1とされた。

なお、ノートの提出は、前記のとおり平常点として考慮されるが、学校側で数ⅠAと数ⅠBのノートを別個とし、重要基本事項については赤枠で囲むよう指導したにもかかわらず、控訴人はいずれにも従わず、板書事項を正写しないとか、違算、脱漏が目立ちその記載は良好とはいえなかつた。

(2) 英語Ⅰは、R(リーダー)三単位(××××教諭担当)とG(グラマー)二単位(×○×○教諭担当)に分れ、英ⅠRでは、控訴人は原判決添付別表(三)中「テスト得点」欄記載の成績であり、第一学期が中間テスト、期末テストの各得点合計に三回の小テスト(五九点満点)の結果を平常点として加算しその平均を求め、これを一〇段階評価による換算表(別表(六))に照合し評定3とし、第二学期は中間テストと期末テストとの各得点合計に宿題テストの得点を二分の一加算してその平均点を求め、これを右換算表に照合した結果評定2となり、第三学期は学年末テストの得点に宿題テストの得点二分の一を加算してその平均点を求め、これを前記換算表に照合すると評定2となつた。

第1学期(中間テスト)60+(期末テスト)19+(小テスト)(4+5+13)/2.59=39

第2学期(中間テスト)0+(期末テスト)38+(宿題テスト)19×/2.5=19

第3学期(期末テスト)40+(宿題テスト)11×/1.5=30

他方、英ⅠGでは、控訴人は原判決添付別表(四)「テスト得点」欄記載の成績であり、一〇段階評価で第一学期2、第二学期3、第三学期2であり、学年末はその平均値2(四捨五入)となり、控訴人の第三学期における英語Ⅰの成績はRとGの前記成績を合算し、五段階評価で評定し、評定1とされた。

なお、控訴人のノートの提出は期限を三か月も遅れていたが、これは平常点に斟酌されなかつた。

(3) ○○高校では、業者作成の問題を使用して実力テストを行つているが、これは授業内容について決められた範囲の目標達成度を測る定期テストや宿題テストと異なり、未履修の範囲も含めた分野からも出題され、全国的標準のもとで自己評価をし、主として将来の進路指導のために行うものであつて、学期末や学年末の評定資料外とされた。また、授業態度や授業出席率は、極端に悪い場合を平常点としてマイナスに考慮することはあるが(教科に関する内規二五条によると、欠席時数が授業時数の五分の一を超えた場合、単位不認定事由とされる。)、これが良好の場合に有利に考慮されることはない。

(4) ○○高校の教科に関する内規によると、五段階法による評定が1の場合でも、該当科目が二科目以内の者については補講又は追試等によりその成果が認められる場合は年度内に限り単位の追認措置を講ずることができると定めており(二五条二項)、控訴人は上記の学年末成績の結果、数学Ⅰ及び英語Ⅰにつき五段階法の評定1となつたので、昭和六一年三月一九日の成績判定会議により控訴人に対し右両科目につき追試を受けさせることになり、ホームルーム担任△×△×教諭より控訴人及び母にその旨を連絡し、同月二〇日行われた追試のための補講に控訴人も出席した。

そして、追試は本来成績不振者の救済的意味を有するので比較的平易な問題が出される傾向にあり、同月二二日の追試には控訴人を含む一二名が数学Ⅰを受験し、その平均点は55.9であつたが、控訴人は三〇点であり、五段階評定で1となり不合格とされ、また、英語Ⅰには控訴人を含む九名が受験し平均点55.6となり合格点を五〇点と決められたが、控訴人は四〇点であつたため不合格と判定された。右追試の結果は同月二五日の成績会議において報告され、審議の結果控訴人に対し前記二科目につき単位不認定と判定され、これを受けて被控訴人はその旨を決定した。

(四)  ○○高校における単位認定又は不認定については学校長たる被控訴人に広範な教育的裁量権が認められるところ、以上の事実に照らすと、被控訴人が控訴人に対してした前記二科目の単位不認定につきその裁量権の逸脱等控訴人主張の違法は認められない。

3  原級留置処分について

(一)  控訴人は被控訴人の原級留置処分が生徒に対する懲戒処分化し、生徒管理の便法とされている旨論難するが、上記のとおり、被控訴人の控訴人に対する本件処分は、適法に決定された単位不認定に則して行われたものであつて、控訴人の右主張を首肯するに足る証拠はない。

なお、原級留置の場合、当該学年の全科目を再履習しなければならない(教科に関する内規二八条)が、〈証拠〉によると、それは、○○高校において学年制を採用していることからくる必然的結果でもあり、このことは文部省の教務必携でも否定するものではなく、他方、再履習の科目については指導要録に二年分を併記し成績の良い方をとるなどの配慮もなされており(同内規)、むしろ、再履習の科目も十分とはいえない要素があるので、繰り返すことにより学習効果の向上が期待でき、決して次段階の学習権を奪うことにはならないものということができる。

(二)  控訴人は、原級留置処分は被処分生徒の退学に直結するものであり、○○高校における原級留置者数の比率が異常に高率であると主張し、〈証拠〉によれば、最近の一般的傾向として、原級留置となつた生徒の自主退学が目立ち、また、原級留置となりそうな生徒や原級留置と決定した生徒に対し学校担任等を通じ就職や他校への転校等いわゆる進路変更を勧める事例が雑誌等に紹介されており、これら雑誌によると、学習不振から学習意欲を喪失し、あるいは、原級留置後しばらく年令の若い集団と共にやつてみたが耐えられなくなつてやめる生徒もいることが窺われるけれども、〈証拠〉を総合すると、原級留置者のうちかなりの生徒に学習効果がみられ、次年度に進級し無事卒業していく生徒もいること、退学それ自体は、諸々の事情によりうるのであつて、必ずしも原級留置のみに起因するものでないこと、控訴人と同年度に○○高校に入学した生徒四四四名のうち現在三年生の在籍者は四一〇名であるから三四名が退学、転校、原級留置となつており、控訴人と同じく第一学年で原級留置きとなつた一六名中転校した者六名、原学年留置の者九名であつたこと、控訴人はかねてイラストや漫画を画くことが好きで家庭でもよく漫画などを画いて時を過すことが多く、学校の通知表(成立に争いのない甲第三号証)を見ても美術の成績のみが断然良好であり、昭和六〇年九月ごろホームルーム担任△×教諭に対し全日制を退学して定時制に転入し昼間イラスト等の専門学校に通学したいと心境を打ち明け、同教諭に説得されて思い止つたこと、○○高校の全般的学力は、都立高校全体のうち中の下くらいと推認され、同程度の他の都立高校と対比した場合○○高校の原級留置者数は若干平均を上回るが、学校側が学習意欲向上の目的で生徒を脅しあるいは生徒管理の便法としてことさら原級留置制度を利用している事実はないこと、以上の事実が認められ、同事実に照らすと控訴人の右主張は理由がない。

(三)  控訴人は、原級留置処分を弾力的に運用すべき旨を主張し、〈証拠〉によると、文部省が高校生の中退防止のため一科目のみの単位不認定を理由に直ちに原級留置とするような硬直した対応を避け生徒の意欲を引き出す指導を行うよう学校に伝えた旨の報道記事が認められ、〈証拠〉によれば、他の公立高校で単位不認定三科目以上の場合に原級留置とする取扱例の存することが認められるが、〈証拠〉によると、○○高校でも数年来職員間で原級留置問題について研究を重ねているが、現状では適切な代替措置も発見できないまま補習その他により原級留置者数の減少を期し努力していることが窺われる。しかしながら、それだからといつて、右事実のみから本件処分が裁量権を逸脱した違法があるとはいえない。

(四)  控訴人は被控訴人が控訴人に対し仮進級制度を適用しなかつたのは違法であると主張する。しかし、○○高校の教科に関する内規によると、原級留置となる者のうち、特別の事情がある者につき成績会議出席者の三分の二以上の同意を得て一回に限り仮に進級させることができると定めている(二七条一項3号)が、〈証拠〉によると、○○高校では、昭和五六年二学期の成績が「3」でありながら病気のため出席日数が不足して進級できない生徒に対し仮進級を認めた事例があるほかほとんどこれを適用した事例はなく、ことに追試験を受けて不合格となつた生徒に対しては原則として仮進級させない方針であること、控訴人は前記のとおり追試験のための補習を受けたうえ追試験を受けたが不合格となつたので仮進級させることは成績会議でも全く話題にもならなかつたことが認められるから、控訴人に対し仮進級させずに直ちに本件原級留置処分に及んだが故に裁量権の誤りがあるとはいい難い。

4  本件処分の手続について

(一)  行政庁は、処分基準の内容が微妙、高度の認定を要する等の場合には、右基準を適用するうえで事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないのであり行政処分の申請者に対し右基準適用のうえで必要とされる事項について告知・聴聞の機会を与えなければならないものと解される(最高裁昭和四〇年(行ツ)第一〇一号同四六年一〇月二八日第一小法廷判決・民集二五巻七号一〇三七頁参照)。このことは、その行政処分につき告知・聴聞の手続を義務づけた規定のない場合にも異なることはないものというべきであるが、本件処分は、上記のとおり、その前提たる単位不認定につき学校長たる被控訴人の広範な裁量の認められる分野であるのみならず、学校側が法令に基づき定めた内規により単位不認定が一つでもあれば原級留置となることが規定され、その単位不認定は、学年末における成績を対象に全職員による成績会議の審議を経て評定されるのであるから、被控訴人による恣意的、独断的な不公正を客観的に疑う余地は極めて少ないものということができる。

(二)  のみならず、〈証拠〉によると、○○高校では、昭和六〇年三月二七日同年四月の入学予定者を対象に入学案内を行い、次いで同年四月九日入学式の際に「入学のしおり」を配布し生徒及び保護者に対し指導内容を説明したが、右入学のしおりによると、単位不認定の科目が一つでもあれば進級、卒業はできないことが明記されており、入学式に出席した控訴人の母は、控訴人のホームルーム担任△×教諭に対し単位不認定科目が一つでもあれば本当に進級できないのかと念を押し、同教諭から内規で決められているからそのとおり実践されることを告げられたこと、控訴人の母は○○高校の保護者会、体育祭、文化祭その他の折に△×教諭や学校長の被控訴人に面接し、あるいは△×教諭との電話で控訴人の成績不振について相談し、その際、同教諭から控訴人の数学Ⅰ及び英語Ⅰの成績がクラス最下低にあり要注意であることを知らされていること、同教諭は、控訴人の母に対し、昭和六一年三月一七日電話で学年末における控訴人の成績を報告するとともに追試を予告し、同月一九日追試の内容、時間、場所を連絡しており、同月二二日学校側から電話で控訴人の母に原級留置の予告がされたこと、以上の事実が認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分は措信し難く、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  上記事実に照らすと、控訴人に対する単位認定、同不認定、原級留置問題については、控訴人ないし保護者に対し控訴人が○○高校一年生として学習するに必要程度の情報は実質上十分に提供されているものと解するのが相当であり、本件原級留置処分に当たりことさらに控訴人の聴聞手続を経ていないからといつて、これがため本件処分を違法ならしめるものではないと解するのが相当である。

(四)  なお、控訴人は、単位不認定を評定した成績会議が形式的で実質的審議を経ない違法があると主張するが、これを裏付けるような証拠は何もない。

5  以上、本件処分が○○高校における第一学年において履修を必要とする所定の各教科・科目の単位すべての修得及びにそれらに関する単位認定の判断の瑕疵、処分をするにあたつての手続上の瑕疵並びに裁量権の行使の濫用又は逸脱の瑕疵があるものということはできない。

三したがつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舘忠彦 裁判官牧山市治 裁判官小野剛)

別表(一)〜(七)〈省略〉

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