大判例

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東京高等裁判所 昭和63年(ラ)486号 決定

抗告人 中山敏彦

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」記載のとおりである。

二1  本件記録によると、次のとおりの事実が認められる。

(一)  千葉地方裁判所は、昭和六二年八月三一日千葉県市原市牛久字上宿後一〇六番地一・一〇五番地一所在の家屋(家屋番号一〇六番一)について、強制競売開始決定をし、昭和六三年五月九日最低売却価額を六一二万円、買受申出の保証の額を一二二万四〇〇〇円、入札期間を同年六月一日から同月八日までと定めて期間入札に付し、同年五月一七日その旨の公告をした。

(二)  抗告人は、同年六月八日入札保証金振込証明書を添付して入札書を提出し、買受けの申出を行つた。しかし右入札書には、事件番号及び入札人の記載はあつたが、入札価額欄の記載はなく、保証の額欄に「9677000」と記載されてあつた。

(三)  同月一五日の開札期日において開札が行われ、入札書は三通あつたが、執行官は抗告人提出の入札書を無効とした。そして同月二〇日千葉地方裁判所は、入札価額を八七〇万円と記載して買受けの申出をした株式会社明建に対して売却許可決定をした。

2  抗告人は、入札価額九六七万七〇〇〇円を誤つて保証の額欄に記載したが、保証金一二二万四〇〇〇円を払い込んだうえで買受けの申出をしたのであるから、九六七万七〇〇〇円が入札価額であることは、入札書の記載と保証金の納付状況をみれば明らかであると主張するので検討する。

期間入札において、不動産買受けの申出をする者は、入札書を執行官に提出して行うことになるが、入札書には入札人及び事件の表示とともに入札価額を記載しなければならない(民事執行規則三八条二項)。このように入札価額は、不動産競売における買受けの申出において最も重要な事項の一つであつて、入札書自体から一義的に明確になるように記載されなければならず、また記載のないものは無効であるといわざるを得ない。このことは、入札書の注意事項にも入札価額を書き損じたときの対処方法が記載されていて、買受けを申し出る者にとつても明らかである。

抗告人提出の入札書は、入札価額欄には何の記載もなく、保証の額欄に「9677000」と記載されている。確かに保証の額は、予め一二二万四〇〇〇円と定められており、抗告人も同額の金員を振り込んだ旨の振込証明書を執行官に提出しているから、右保証の額欄の記載が誤りであることは明らかである。

しかしながら、それは保証の額欄の記載が誤りであることを意味するにすぎず、その記載金額が入札価額であることは明らかであるとは到底いえない。入札価額欄に記載して入札価額であることを明示していない以上、他欄の記載をもつて入札価額と認めることはできず、そのことは、保証の額欄記載の金額が、入札価額相当の額であつても、同様である。そうすると、抗告人提出の入札書には入札価額の記載がなく、抗告人の入札は無効であるといわざるを得ない。

三  以上の次第で、抗告人の入札を無効とし、株式会社明建に対して売却許可決定をした原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。よつて、本件抗告を棄却する

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 新城雅夫)

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