大判例

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松山地方裁判所 平成4年(ワ)326号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1は当事者間に争いがなく、同2の事実のうち、本件建物について、債務者を二神、抵当権者を住宅金融公庫とする昭和六〇年一二月二四日受付の抵当権設定登記が存在すること、登記簿上、保証協会が住宅金融公庫から本件建物に対する右抵当権の移転登記を得ていること、保証協会が本件建物について競売を申し立て(松山地方裁判所昭和六一年(ケ)第二八一号)、開始決定がされたこと、同3の事実のうち、原告が本件建物を代金一〇六四万円で買い受け、本件建物の所有権を取得したことは当事者間に争いがない。また、請求原因3及び同5の事実についても、当事者間に争いがない。

二  そこで、右事実によれば、本件建物の買受人である原告が、本件土地の買受人である倉田征二に対し、本件建物についての法定地上権の成立を主張できないことが裁判上確定したものであるところ、これと異なり、本件建物のために法定地上権が成立すると判断し、物件明細書にその旨の記載をするなどし、本件土地及び本件建物を一括売却しないで本件建物を個別売却した担当裁判官に過失があつたか否かについて検討する。

1  右争いのない事実に《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  二神は、昭和六〇年九月二八日、有限会社遠藤ハウジングから、本件土地を買い受け、同時に、日本信販のために債権額九〇〇万円とする第一順位の抵当権を設定し、同月三〇日その旨の各登記をした。

(二)  その後、二神は、本件土地上に本件建物を建築し、同年一二月一九日、同月九日新築を原因とする所有権保存登記をした。

(三)  二神は、同月二三日、住宅金融公庫のために、本件土地及び本件建物を共同担保として、債権額五〇〇万円の抵当権を設定し、同月二四日、その旨の登記をした。右抵当権は、本件土地については第二順位であり、本件建物については第一順位であつた。

住宅金融公庫は、同月二四日、日本信販及び二神との間で、本件土地について、日本信販の第一順位の抵当権と住宅金融公庫の第二順位の抵当権との順位を変更し相互に抵当権の順位を入れ換えることを合意し、同日、その旨の登記をした。さらに、二神は、同日、本件建物につき、追加共同担保として、日本信販のため債権額九〇〇万円の抵当権設定登記をするとともに、本件土地及び本件建物につき、日本信販のため、共同担保として債権額七〇〇万円の抵当権設定登記をした。

そして、住宅金融公庫は、昭和六一年一〇月二七日、保証協会に対し、代位弁済を原因として、本件土地及び本件建物を共同担保とする第一順位の抵当権を移転し、同日、その旨の登記をした。

(四)  保証協会は、抵当権に基づき、本件建物の競売の申立てをし、同年一一月二六日、松山地方裁判所で競売開始決定がされ、右競売手続において、担当裁判官は、本件建物のために本件土地に法定地上権が成立することを物件明細書に記載し、それを考慮して本件建物の最低売却価額を一〇六三万三〇〇〇円と定め、物件明細書の写し等を閲覧に供した。

(五)  担当裁判官が右物件明細書を作成した当時、本件建物には、第一順位の保証協会の右抵当権、第二順位の日本信販の右抵当権、第三順位の日本信販の抵当権(昭和六〇年一二月一八日設定、同月二四日登記)が存在し、本件土地にも同一順序で右各抵当権が存在しており、それぞれが本件土地と本件建物を共同担保としていた。

(六)  なお、本件土地についても本件建物と共に競売が申し立てられていたところ、評価人による評価は、底地価格二九六万一〇〇〇円、地上権付き本件建物価格一〇六三万三〇〇〇円であつた。

2  右認定事実によれば、本件は、日本信販が本件土地に抵当権を設定した当時本件建物は未だ築造されておらず、その後、本件土地の所有者である二神が本件建物を築造し、住宅金融公庫のため本件土地及び本件建物に共同抵当権を設定するとともに、日本信販と住宅金融公庫との間で、本件土地に設定された抵当権の順位を変更する旨の合意をし、さらに、二神が本件建物につき追加共同担保として日本信販のため抵当権を設定した結果、本件土地及び本件建物について住宅金融公庫と日本信販のため同一順位関係で共同抵当権の設定がなされるに至つたという事案である。

3  ところで、更地に抵当権が設定された後、その所有者が同土地上に建物を新築した場合、土地の抵当権者としては、該土地を法定地上権の負担のない更地として評価しているから、このような場合にまで法定地上権の成立を認めると、抵当権者の予測を裏切り、不測の損害を被らせるおそれがあり、原則として、新築建物のため法定地上権が成立しないとするのが判例の立場である(大審院大正四年七月一日判決・民録二一輯二四巻一三一三頁、最高裁昭和三六年二月一〇日第二小法廷判決・民集一五巻二号二一九頁など)。

ところが、更地に抵当権が設定された後、その土地上に建築された建物についても、土地の抵当権と同順位の抵当権が設定された場合、土地及び地上建物に共同抵当権を設定した抵当権者としては、担保価値の全部を把握しており、その両者から債権の満足を受けることができ、土地及び建物に同時に共同抵当権を設定したときと変わりがないというべきであるから、右判例が前提とする事案とはやや事情を異にしている。また、大審院大正一五年二月五日判決・民集五巻二号八二頁は、土地の抵当権設定後に新築した建物に抵当権を設定した場合、建物に対する抵当権の実行手続においては、土地及び地上建物が同一の所有者に属していたから、法定地上権が成立するが、その地上権は、先に適法に設定されかつその登記を了した土地の抵当権者及びその抵当権の実行としてなされた競売の結果土地の所有権を取得した競落人に対抗できない旨判示しており、土地抵当権設定後に建築された建物に土地抵当権と同一順位の共同抵当権が設定された場合まで前記の判例が及ぶかどうかは必ずしも明らかではない。

更地への抵当権設定後に建物が建築され共同担保とした場合においても、土地又は建物に対する抵当権設定当時の状態を基準として、土地・建物につきそれぞれに把握した担保価値を前提に法定地上権の成否を判断すれば、土地について抵当権が設定された当時は、地上建物は存在しなかつたのであるから、土地又は建物の抵当権の実行手続では、法定地上権の成立を否定すべきとする見解がある。他方、更地に抵当権を設定した後に建築された建物につき法定地上権の成立を認めたとしても、更地状態のときに土地の抵当権設定により把握した担保価値のうち、法定地上権に相当する交換価値部分については、土地の抵当権と同じ順位をもつて建物の売却代金から配当を受けることができるから、更地当時の土地抵当権にとつて、何ら不利益とはならない上、法定地上権付建物の買受人と土地の抵当権者との間には対抗問題は起こらず、建物の存立を図り経済的効用を全うさせることができるとして、法定地上権の成立を肯定すべきとする見解がある。

4  本件において、担当裁判官が本件建物のための法定地上権の成否を判断した当時、本件土地と本件建物の抵当権者は、保証協会及び日本信販のみであり、抵当権者である保証協会及び日本信販としては、土地と建物とを共同担保とし、かつ、その順位も土地と建物とで同一である抵当権を有しているのであるから、その土地と建物の両者から自己の被担保債権の満足を受ければよく、本件建物に法定地上権を成立させたとしても、両者が共に競売される場合はもちろん、保証協会の申立てによつて本件建物のみが競売に付された場合においても、日本信販は、自らも競売を申し立てることによつて、本件土地と建物を同時に競売することができるのであるから、本件土地の最初の抵当権者である日本信販に不測の損害を与えることにはならない。

そして、このように、土地に対する抵当権が設定された後、建物が築造され、その建物についても、右抵当権者に対し、同一順位の抵当権が設定された場合に法定地上権が認められるか否かについては、少なくとも本件において担当裁判官が物件明細書に記載した当時においては、最高裁判所の判例はなく、高等裁判所の判断としては、これを肯定する決定(東京高裁昭和五三年三月二七日決定・判例時報八八八号九三頁)もあつた。

右のように抵当権者が抵当権を設定した当時の土地の担保評価における予測の保護を重視する考え方は、判例にも見られるところである。すなわち、前記最高裁昭和三六年二月一〇日判決は、土地に対する抵当権設定当時、当該建物が未だ完成しておらず、かつ、抵当権者において土地所有者が将来建物を築造することを承認していたという事案について、「本件抵当権は本件土地を更地として評価して設定されていることが明らかであるから、民法三八八条の適用を認むべきではない。」と判示しており、この判旨は、土地に対する抵当権者の担保価値の評価という主観的事情により法定地上権の成立がありうることを示唆したものと理解されている。また、最高裁昭和五二年一〇月一一日第三小法廷判決・民集三一巻六号七八五頁は、土地及びその地上の非堅固建物の所有者が土地につき抵当権を設定した後、地上建物を取り壊して堅固建物を建築した事案について、「同一の所有者に属する土地と地上建物のうち土地のみについて抵当権が設定され、その後右建物が滅失して新建物が再築された場合であつても、抵当権の実行により土地が競売されたときは、法定地上権の成立を妨げないものであり……右法定地上権の存続期間等の内容は、原則として、取壊し前の旧建物が残存する場合と同一の範囲にとどまるべきものである。しかし、このように、旧建物を基準として法定地上権の内容を決するのは、抵当権設定の際、旧建物のための法定地上権が成立することを予定して土地の担保価値を算定した抵当権者に不測の損害を被らせないためであるから、右の抵当権者の利益を害しないと認められる特段の事情がある場合には、再築後の新建物を基準として法定地上権の内容を定めて妨げないものと解するのが相当である。」と判示している。

また、現行の民事執行法のもとでは、物件明細書に引き受けるべき権利として法定地上権が地上建物のため成立する旨の記載がなされるのであるから、不動産競売手続において、土地の買受人に不測の損害を与えることもなく、したがつて、この点からしても、建物所有者の保護のために法定地上権を成立させるという結論にも十分な合理性があるといえる。

5  そうすると、本件のような場合に法定地上権が成立するか否かという法律問題について、これを肯定すべきとする見解もありその結論に相応の合理性が認められ、担当裁判官がその判断をした当時、これを肯定する高裁の決定が存在しており、これを否定する最高裁判所の判例もなかつたことに照らすと、本件建物に法定地上権が成立すると考えて、物件明細書にその旨記載して売却公告をし、これを前提に最低売却価額を決定した担当裁判官の判断が裁判官としての裁量権限を逸脱したものとはいえないから、この点について担当裁判官に過失があつたとは認められない。

6  また、本件においては、本件土地及び本件建物は一括売却されず、本件建物のみが売却されているところ、担当裁判官は、前記認定のとおり、本件建物のために法定地上権が成立すると判断し、本件建物の最低売却価額を一〇六三万三〇〇〇円と決めているが、申立債権者である保証協会の被担保債権は五〇〇万円であるので、本件土地と本件建物を一括売却することは超過売却に当たることになる。しかも、民事執行法一八八条により準用される同法六一条本文によれば、執行裁判所は、その裁量により、一括売却をすることができるが、同条ただし書によれば、右一括売却が超過売却になる場合には所有者の同意を得なければならないこととされているところ、右ただし書に定める例外をどの範囲で認めるかについては明文がなく、解釈に委ねられていることをも考慮すると、本件土地と本件建物の一括売却が超過売却に当たるということで右一括売却をしなかつた担当裁判官の判断が、そのことをもつて直ちに裁判官としての裁量権限を逸脱したものとはいえない。したがつて、この点についても担当裁判官の判断に原告が主張するような過失があつたとは認められない。

三  したがつて、原告の被告国に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  次に、原告は、被告会社及び同中村に、不動産を取り扱う仲介業者である以上、その専門的知識を駆使して法定地上権の成否について判断すれば容易にこれが成立しないことを知り得たにもかかわらず、これを怠つた点に過失があると主張する。しかし、仮に、右被告らが、物件明細書に法定地上権が成立する旨記載してあることを信じて、法定地上権が成立しないと判断しなかつたとしても、執行裁判所において法定地上権が成立すると判断して物件明細書にその旨を記載している以上、法律の専門家でない右被告らがそれを信じたことに過失があつたとは到底いえない。

したがつて、原告の右被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

五  結論

以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 打越康雄 裁判官 廣永伸行 裁判官 任介辰哉)

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