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松山地方裁判所 昭和37年(ワ)141号 判決

原告 中塚年重

被告 国

訴訟代理人 村重慶一 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、訴外丸山昭吉が昭和三六年四月二一日午前九時三〇分頃、訴外丸山たかを使者として、穂原郵便局に一〇〇、〇〇〇円の居宅払電信為替の振出を請求したこと、本件為替電報送達紙が昭和三六年四月二一日午前一一時三〇分頃松山郵便局に到達し、右電信為替金在中の郵便物が同月二六日に原告に到達したことは当事者間に争いない。

二、そこで、まず、被告の被用者たる郵便局員の取扱いについて過失の有無を判断する。

成立に争いのない甲第六、七号証、証人藤田甚助、同辻田清、同丸山たか、同上谷順一郎の各証言を総合すると次の事実が認められる。

訴外丸山昭吉は、昭和三六年四月二一日午前九時三〇分頃、訴外丸山たかを使者として、穂原郵便局に一〇〇、〇〇〇円の居宅払電信為替の振出を請求し(この事実は当事者間に争いがない。)、原告の住所氏名を記載した封筒を示して、同局員訴外上谷順一郎に代書方を依頼した。同局員は、電信為替の振出の請求は、差出人が、郵便局において交付する電信為替振出請求書用紙に、為替金額、差出人及び受取人の住所氏名並びに証書払によるか居宅払によるかの区別を記載し、かつ、差出人の氏名および受取人の住所氏名には、片仮名文字を附記して、電信為替振出請求書を作成し、為替金額および料金とともに、郵便局に差し出してするものとされているのに、右依頼に応じて、代書し、封筒の住所松山市余戸町六〇七の二の内「余戸町」は何と読むかと、右たかに尋ねたところ、右たかが、「ヨドチョウ」と読んでいるというのを、誤つて「エトチヨ」と聞き、慢然とその旨、振出請求書に記載した。

松山郵便局貯金課では昭和三六年四月二一日午前一一時三〇分頃本件の電信為替電報が到達するや、ただちに居宅払の手続をなし、同日午前一二時に為替金に相当する現金を速達とする書留郵便物として同局郵便課特殊係へ交付した。その際の電報には受取人の住所は「マツヤマシエトチョー六〇七ノ二」と表示され、現金書留郵便物には受取人の住所は漢字で「松山市江戸町六〇七ノ二」氏名は片仮名で「ナカツカトシシゲ」と記載してあつた。郵便課特殊係では右郵便物を速達扱として同局集配課へ交付したので同課では(1) まず同月二一日速達扱で速達担務者訴外真部哲哉が配達に行つた所受取人不明で配達できず、(2) 翌二二日には郵便規則第一〇二条にしたがつて速達扱とせず通常の書留郵便物として藤方時重が代つて調査したが再び配達できず、(3) 翌二三日には担当区内の状況を最もよく知つている訴外真部哲哉が再び綿密に調査したが、やはり配達できなかつた。そこで同月二四日に配達できなかつた理由を記載した付せんをつけて右郵便物を郵便課へ返還した。さらに右郵便物は同月二五日正午頃郵便課から受取人不明の付せん付きで貯金課に返還されたので、同課では同日午後零時一五分頃発信局へ照会したところ同日午後三時頃受取人の住所を「マツヤマシヨーゴチョー六〇七の二、ナカツカトシシゲ」と訂正する旨返信して来た。貯金課ではただちに訂正された住所を記載した速達現金書留郵便物を再び郵便課へ交付したが、松山市余戸町は速達郵便物の配達区域外であるため右郵便物は通常郵便物の扱いで翌二六日午前一〇時三〇分頃原告に配達された。他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実からすれば、本件事故は、穂原郵便局員訴外上谷順一郎の過失に基因したものと認められ、松山郵便局員の過失の有無にかかわらず、被告は、その責に任すべきは明らかであるが、原告は、松山郵便局員にも過失があると主張するので、つづいてこの点について考えるに、松山郵便局における右郵便物の取扱いは郵便為替規則第四二条、第四四条、および郵便規則第一〇二条に基いてなされたものであり、ほかに、同局員らがなんらかの注意義務に違反して、本件事故を惹起したと認めるに足らず、いまだもつて、同局員らに過失があつたということはできない。

三、つづいて、原告の蒙つた損害の額について判断する。

成立に争いのない甲第一、二号証、同第八号証、証人中塚よし子の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和三六年四月一五日訴外松山証券株式会社において東京特殊電線株式会社増資権利付株式一、〇〇〇株を一株当り三九五円で買受け、その代金三九五、〇〇〇円および手数料二、七〇〇円合計金三九七、七〇〇円を支払うべき筈のところ、三三三、〇〇〇円しか手許になかつたので、同月一八日訴外丸山昭吉に電信為替による一〇〇、〇〇〇円の送金を依頼したところ、前認定のとおり同月二一日に到達すべきところが遅延したので代金調達の必要を生じ、端株では売買成立が遅れるので買受株式の内五〇〇株を同月二四日一株当り三四〇円で売却し、代金一七〇、〇〇〇円から手数料一、三〇〇円および有価証券取引税二五五円を差引いて一六八、四四五円となり、原告は、この差額三〇、四〇五円と同額の財産上の損害を蒙つたことが認められる。

四、前記各郵便局員が被告の被用者であることおよび前記電信為替金の延着は右郵便局員が被告の郵便業務に従事中に起したものであることは、被告において明らかに争わない。

ところで、被告は右損害は、特別事情によつて生じた損害だから、被告は賠償責任を負わないと主張するから、進んで、この点について判断する。

郵便為替法第一条は「この法律は、郵便為替を簡易で確実な送金の手段としてあまねく公平に利用させることによつて、国民の円滑な経済活動に資することを目的とする。」と規定している。郵便為替はこの当面の目的を達成しうるものでなければならない。然も郵便為替は必然的に集団的な取引である。集団取引を簡易確実に処理するためには法律関係を定型化する必要を生ずる。かりに当事者が当該の送金が特別に重要な目的のためになされるものであることを表示して、特別の料金を申出て、特別の取扱を要求しても、法律によるものの外そのような契約を締結することは許されない。個々の為替契約は、一切の個性を喪失して法律の規定する定型的な為替契約としてのみ意味を有し、契約の内容をなさない契約をなすに至りたる事情、債務不履行の場合の損害発生の特別事情等も法律的な意味を有せず、この趣旨は、不法行為による損害賠償請求についても同様に解すべきである。電信為替契約の性質が右のようなものである以上、郵便為替法に特別の規定がない場合についても、民法の原則をそのまま適用することは妥当ではなく、予見しまたは予見しうべかりしという特別事情に基く損害は、定型契約の外にあつて、電信為替契約によつて生ずる損害は、通常の損害に限られるというべきである。

しかして原告の本件前示損害は、原告に存する特別事情に基く損害であること前示認定事実により明らかであるから、原告の本訴請求は失当を免れない。(かかる場合にもなお民法の原則の適用があるとしても、本件口頭弁論にあらわれた全証拠によれば本件特別事情による損害を、被告において、予見せず又は予見することを得なかつたと認められるから、いずれにせよ、この点において、原告の本訴請求は、理由がないといわざるをえない。)

五、以上のとおり原告の被告に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢島好信 吉川清 中村勝美)

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