大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

松山地方裁判所 昭和41年(行ウ)8号 判決

松山市千舟町六丁目五番地一

原告

松山人形玩具株式会社

右代表者代表取締役

下出清治郎

右訴訟代理人弁護士

黒田耕一

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

前尾繁三郎

右指定代理人

河村幸登

大歯泰文

小沢康夫

岡田武夫

西浦正

民谷勲

岩部承志

松下耐

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金八八万八、八〇二円およびこれに対する昭和四〇年七月一二日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決並びに被告敗訴の場合に備えて仮執行免脱の宣言を求める。

原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

一、松山税務署長は昭和三三年九月一〇日原告に対して原告が原告会社代表者下出清治郎に支払つた賞与等についての源泉所得税の納付洩れがあるとして次のとおりの源泉所得税徴収決定をなし、右決定はその頃原告に通知された。

(一)  昭和二九年度(昭和二八年六月一日から同二九年五月三一日まで)

1  報酬額 二一万四、〇〇〇円

2  認定賞与額 七六万八、〇〇〇円

3  合計 九八万二、〇〇〇円

4  給与所得控除額 四万五、〇〇〇円

5  会社保険料控除額 七、二〇〇円

6  扶養親族控除額 八万六、四〇〇円

7  課税所得金額 八四万三、四〇〇円

8  右に対する税額 二八万八、六五五円

9  納付済額 三、〇〇〇円

10  差引徴収決定額 二八万五、六五五円

11  源泉徴収加算税額 七万一、二五〇円

(二)  昭和三〇年度(昭和二九年六月一日から同三〇年五月三一日まで)

1  報酬額 二一万〇、〇〇〇円

2  認定賞与額 八五万二、三六八円

3  合計 一〇六万二、三六八円

4  給与所得控除額 五万二、五〇〇円

5  会社保険料控除額 七、八四〇円

6  扶養親族控除額 九万〇、〇〇〇円

7  課税所得金額 九一万二、〇二八円

8  右に対する税額 二九万九、九一二円

9  納付済額 七五〇円

10  差引徴収決定額 二九万九、一六二円

11  源泉徴収加算税額 七万四、七五〇円

しかして、原告は昭和四〇年七月一一日までに、前記昭和二九年分については加算税七万一、二五〇円、利子税六万五、〇四〇円、延滞加算税一万四、二五〇円を加えた合計四三万六、一九五円、同三〇年分については加算税七万四、七五〇円、利子税八万三、六九〇円、延滞加算税一万四、八五〇円、延滞税八、一四〇円を加えた合計四八万〇、五九二円を徴収された。

二、しかしながら、右徴収決定は次の理由により一部無効となつたものである。すなわち、松山税務署長は昭和三一年一一月九日原告に対し、前記昭和二九年度の法人所得金額を九六万八、〇〇〇円、同三〇年度の法人所得金額を六八万六、九〇〇円とする各法人所得金額更正処分をなしていたところ、原告は右処分取消の訴(第一審松山地方裁判所昭和三三年(行)第一号、第二審高松高等裁判所昭和三九年(行コ)第四号)を提起し、第二審の高松高等裁判所は昭和四〇年六月二五日右処分を取り消す旨の判決をなし、右判決は同年七月一一日確定した。

しかして、右法人所得金額更正決定において原告の所得源ないし所得を証明する証拠と、前記源泉所得税徴収決定において原告が原告代表者下出清治郎に対して支払つた資与のうち昭和二九年度分については七五万円、同三〇年度分については八三万五、〇九〇円の所得源ないし所得を証明する証拠は同一である。すなわち、松山税務署長は右法人所得額更正決定によつて認定した所得金額が、更に下出清治郎に賞与として原告から同人に支払われたと認定して前記源泉所得税徴収決定をなしたものである。

以上の事業からすれば、本件源泉所得税徴収決定は、前記高等裁判所の判決が確定したことにより、右判決の拘束力によつて、昭和二九年度分については賞与七五万円が支払われたことを前提とする部分、同三〇年度については賞与八三万五、〇九〇円が支払われたことを前提とする部分は無効となつたものであり、右各部分に応じて徴収された昭和二九年度については四二万三、六九五円、同三〇年度分については四六万五、一〇七円の合計八八万八、八〇二円は被告において法律上の原因なくして不当に利得したことになるものである。

三、よつて、原告は被告に対し右不当所得金額八八万八、八〇二円およびこれに対する最終徴収日の後である昭和四〇年七月一二日以降完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告指定代理人は請求原因に対する答弁および主張を次のとおり述べた。

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項については、原告主張事実は全部認めるが、原告主張の高松高等被判所判決の確定によつて本件源泉所得税徴収決定が無効となり、被告が徴収税額を不当利得したとの点は争う。

法人所得額更正決定と源泉所得徴収決定は別個の処分であるし、また、右判決は、法人所得額更正決定通知書の「理由附記」が違法であることのみを判断して同決定を取り消したものであるから、法人税法上の所得を否定したものではなく、原告主張のような拘束力が右源泉所得税徴収決定におよぶものではない。

従つて、原告が納付した源泉所得税額を被告において不当利得したことにはならないものである。

三、同第三項は争う。

(証拠)

原告訴訟代理人は甲第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし八、第三号証の一、二、第三号証の三の一、二、第三号証の四、五、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし二七、第六ないし第一二号証を提出し、証人和田登の証言、原告代表者下出清治郎本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を全部認めると述べ、

被告指定代理人は乙第一、二号証の各一、二、第三ないし第七号証、第八、九号証の各一ないし三、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第二三号証を提出し、証人和田登、同尾崎務、同栗原嘉麿の各証言を援用し、甲号各証の成立を全部認めると述べた。

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、同第二項については、原告が松山税務署長を相手取つて提起した法人所得金額更正決定取消請求事件につき、第二審の高松高等裁判所において、松山税務署長のなした法人所得金額更正決定を取り消す旨の判決があり、右判決が確定したことは当事者間に争いがない。

三、しかして、松山税務署長は、右所得額更正決定によつて認定した所得金額が更に原告から原告会社代表者下出清治郎に賞与として支払われたものと認定して本件源泉所得税徴収決定をなしたものであることも当事者間に争いがない。

四、原告は右確定判決の拘束力によつて本件源泉所得税徴収決定の無効を生ずる旨を主張するので、以下において検討する。いずれも成立に争のない甲第六、七号証によれば、高松高等裁判所が、松山税務署長が原告に対してなした前記法人所得金額更正決定を取り消す旨の判決をなした理由は、松山税務署長が原告に対してなした法人所得金額更正決定通知書に記載された理由の附記は、原告が青色申告書を提出していることに鑑み、法人税法第三二条の要求する要件を充足しない違法のものであると認定したことによるものであり、右以外には何ら理由についての判断が加えられていないことが明らかである。

ところで、行政処分を取り消す判決の拘束力について考えてみると、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定は、取消判決による原告の権利救済を実効あらしめるために、取り消された行為と直接関連して生じた違法状態を除去する必要があり、そのような義務を行政庁に課したものと解すべきである。

これを本件についててみると、例えば、本件法人所得金額更正決定に基く法人税が徴収されている場合、その還付義務を行政庁が負担することは、正に取消決定の拘束力によつて是認し得るところであるが、更に源泉所得税徴収決定にまで判決の拘束力がおよぶか否かについてはこれを消極に解さざるを得ない。けだし、本件法人所得金額更正決定と源泉所得税徴収決定との間には前示三のような関係があるにしても、それは、本件に特有の事実上のものに過ぎず、法律上直接関連を有するものとはいえないし、なお、付言すれば、前示の高松高等裁判所の判決理由からすれば、松山税務署長は、原告の所得について法人税法第三二条の要件を具備する理由附記をなしてする場合は、なお法人所得額更正決定の処分をなし得る(他の必要な要件をも具備することを要することはいうまでもない。)関係にあり、このことからも、右判決の拘束力が源泉所得税徴収決定におよぶ理由は見出し難いところである。

五、以上の次第であるから、原告本訴請求はその余の判断をするまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 梶本俊明 裁判官 馬渕勉)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com