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松江地方裁判所 平成4年(ワ)106号 判決

原告

伊藤隆雄

被告

松浦光夫

主文

一  被告は原告に対し、金一億〇六〇六万三二〇一円及び内金一億〇一〇六万三二〇一円に対する昭和六二年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、一億三七八六万一一四二円及び内金一億三二八六万一一四二円に対する昭和六二年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、道路を歩行中の原告に、後方から進行した来た被告運転の車両が衝突した交通事故につき、原告が被告に対し、後記損害金及び弁護士費用を除く損害金に対する本件事故の日の翌日からの遅廷損害金を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六二年一二月四日午後一〇時四〇分ころ

(二) 場所 松江市乃木福富町 松江松下電器前道路

(三) 加害車 被告

(四) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(島根五六な七五九一)

(五) 被害者 原告(昭和二二年四月一五日生)

(六) 事故の態様 被告が加害車両を運転中、前方不注視の過失により、道路左前方を進行中の原告に衝突した。

(七) 事故の結果 急性硬膜下血腫

(八) 入通院の状況

(1) 松江日赤病院に事故当日から昭和六三年一二月二二日まで入院。

(2) 玉造厚生年金病院に同日から平成元年一一月一四日まで入院。

(3) 松江日赤病院に同日から同年一二月二二日まで入院。

(4) 同病院に平成三年二月一六日から同年三月一六日まで入院。

(5) 同病院に平成元年一二月二三日から平成二年七月二八日までのうち一五日間通院。

(6) 同病院に平成二年八月四日から平成三年二月一六日までのうち六日間通院のほか、数日通院。

(九) 後遺障害

平成二年七月二七日症状固定し、後遺障害等級表の二級と診断された。

自力で歩行でぎず、屋内では、いざつて歩くのみである。化学式が言えたり、他人の名刺が読めたりするが、自分が勤められなくなつたのを休暇と思い込んだりしており、その判断能力からして就労不可能である。

2  被告の責任

被告は、本件加害車両(以下「被告車」という。)の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故につき原告に対し損害賠償責任を負う。

3  損害額及び損害の填補(いずれも一部)

(一) 損害額

(1) 休業損害 一二四二万二二四二円

(2) 付添看護料 一一三万四三一〇円

(3) 保育料 六万〇四五〇円

(4) 長下肢装具代 八万七七〇〇円

(二) 損害の填補

被告の原告に対する既払金として、治療費の支払分を除き、合計金一七六一万五〇〇五円が支払済みである。

二  争点(損害)

1  損害額(弁護士費用を除く。)

前記一・3・(一)の損害額のほか、その余の損害額についての双方の主張は次のとおりである。

(一) 原告の主張

(1) 入院雑費 九三万六〇〇〇円

入院期間七八〇日で一日当たり一二〇〇円

(2) 入通院慰籍料 四〇〇万円

(3) 逸失利益 九三四一万五一四二円

原告は、工業高校を卒業後、松江松下電器一期生として就職し勤務してきたが、本件事故のため、平成三年三月一五日退職を余儀なくされた。

昭和六一年の原告の年収は、五三七万七三六九円であり、これは、当時の四〇歳男子の平均年収(産業計・企業規模計・学歴計)を超えており、すなわち、原告は同年代の勤労者の平均以上の収入を得ていたから、原告の得べかりし年収として、平成二年賃金センサスの平均年収六〇二万六九〇〇円を採用する。

そして、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとし、退職時の年齢四三歳からの就労可能年数を二四年とし、ホフマン係数一五・四九九七を適用して原告の逸失利益を算定すると、九三四一万五一四二円となる。

(4) 後遺症慰籍料 二一〇〇万円

(5) 介護料 三五一九万六八四〇円

原告は、常時介護が必要な状態であるから、介護料として一か月一五万円が相当であり、四三歳男子の平均余命は三四・七一年であるので、ホフマン係数一九・五五三八を適用して中間利息を控除して算定すると、三五一九万六八四〇円となる。

(二) 被告の主張

(1) 入院雑費について

入院が長期に及んでいるから、一日当たりの入院雑費は七〇〇円が相当である。

(2) 入通院慰籍料について

二三〇万円が相当である。

(3) 逸失利益について

逸失利益計算の基礎としての年収は、事故前の年収を基準とすべきである。

(4) 後遺症慰籍料について

一五〇〇万円が相当である。

(5) 介護料について

原告はいわゆる寝たきりではなく、自力での歩行も可能であり、字が読めるなど知能もあり、常時介護でなく随時介護を要する状態であるから、介護料は一か月六万円が相当である。

(6) 治療費 一六〇七万八二一四円

本件は、後記のとおり過失相殺すべき事案であるから、原告主張の損害額のほか、左記の治療費とこれに対する支払を、過失相殺及び損害の填補において考慮すべきである。

松江日赤病院(本人負担分) 一〇六万七八三一円

玉造厚生年金病院(右同) 一三五万七九六九円

松江松下電器健康保険求償分 一二三九万五七〇〇円

松江市福祉医療求償分 一二五万六七一四円

2  過失相殺

(一) 被告の主張

本件事故当時、原告は、夜間に飲酒の上、知人と道路左側を並列して歩行しており、その位置は、片側幅員二・八メートルの道路のほぼ中央付近であつた。原告の歩行していた道路左側には歩道も路側帯もなく、一方道路右側には歩道が整備されていた。

よつて、本件事故につき、原告に三〇パーセントの過失がある。

(二) 原告の主張

本件事故現場は、夜間とはいえ、見通しのよい直線道路であり、現場にはブレーキ痕も残されておらず、被告の過失は重大である。一方、原告の歩行位置は中央部分よりやや道路左端に近い方であり、また、右側には歩道があつたが、右歩道は松江松下電器の工場に接する部分だけに設置されており、原告のように車道を歩行する者も多かつたと推測される。

よつて、原告の過失は多くても一〇パーセントである。

3  損害の填補

前記一・3・(二)の損害の填補のほか、被告は左記の治療費を支払済みであることを主張し、原告はこれを争う。

治療費 合計一三五六万五四九四円

松江赤十字病院(本人負担分) 一〇三万四二五三円

玉造厚生年金病院(右同) 一三五万七九六九円

松江松下電器健康保険求償分 九九一万六五五八円

松江市福祉医療求償分 一二五万六七一四円

4  弁護士費用

原告は、弁護士費用として五〇〇万円が相当であると主張し、被告はこれを争う。

第三争点に対する判断

一  損害額(弁護士費用を除く。)について

1  入院雑費 九三万四八〇〇円

原告の入院期間は、事故当日の昭和六二年一二月四日から平成元年一二月二二日までの七五〇日間と、平成三年二月一六日から同年三月一六日までの二九日間の合計七七九日間であり、その間の入院雑費としては、一日当たり一二〇〇円が相当であるから、合計で九三万四八〇〇円となる。

2  入通院慰藉料 四〇〇万円

原告の本件事故による受傷の程度、態様並びに入院及び通院の各期間等に照らすと、慰藉料としては四〇〇万円が相当である。

3  後遺障害による逸失利益 八四八一万八九七四円

証拠(甲二一、二二、弁論の全趣旨)によれば、原告は本件事故前の昭和六一年の年収が五三七万七三六九円であつたことが認められ、これは、同年の賃金センサスによる四〇歳男子の平均年収(産業計・企業規模計・学歴計)である五三三万三五〇〇円を超えているので、原告が松江松下電器への就労を継続していれば、その後の昇給等により、退職時である平成三年三月以降、少なくとも平成二年の賃金センサスによる四三歳男子の平均年収(産業計・企業規模計・学歴計)である六〇二万六九〇〇円を下回らない年収を得られたと推定される。

また、原告の後遺障害の程度、態様に照らし、本件事故によりその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。

そして、原告は退職時四三歳であつて、六七歳までの二四年間就労可能であつたものと推定し、新ホフマン方式により中間利息を控除して、右期間中の得べかりし収入の本件事故当時の現価を算定すると(本件事故当時四〇歳であつた原告につき、六七歳までの二七年に対応する係数一六・八〇四四から、四〇歳から退職時の四三歳までの三年に対応する係数二・七三一〇を差し引いた一四・〇七三四が本件で適用すべき係数となる。この計算方法は、本件事故から退職時まで三年余りの経過があること、及び原告が本訴で本件事故の日の翌日からの遅廷損害金を請求していることを考慮したものである。)、左記計算式のとおり、八四八一万八九七四円(一円未満切り捨て)となる。

(式)六〇二万六九〇〇円×一四・〇七三四=八四八一万八九七四円

4  後遺症慰藉料 二〇〇〇万円

原告の後遺障害の程度、態様その他諸般の事情に照らすと、原告の後遺症に対する慰藉料は、二〇〇〇万円が相当である。

5  介護料 二五七六万七九三六円

前記第二の一・1・(九)の事実及び証拠(甲一五、一六、二四、証人伊藤喜美子)によれば、原告は自力で歩行できず、いざつて移動するのみであり、また、左手の機能が低下していて不自由であり、さらに著明な精神障害及び知能障害を残しており、これらの症状により、日常生活上、排泄や風呂等に介助が必要であり、また、危険な行動に出ないよう、原告の妻が常時付添つている必要があることが認められる。

そこで、右認定の諸事情に照らし、原告の介護料としては、一日当たり約四〇〇〇円として一か月一二万円(年額一四四万円)が相当であると認められる。そして、四三歳の男子の平均余命は三四・七一歳であるから、原告が七七歳に達するまでの期間中に必要な介護料の本件事故当時の現価を、新ホフマン方式により中間利息を控除して算定すると(本件事故当時四〇歳であつた原告につき、七七歳までの三七年に対応する係数二〇・六二五四から、四〇歳から四三歳までの三年に対応する係数二・七三一〇を差し引いた一七・八九四四が本件で適用すべき係数となる。)、左記計算式のとおり、二五七六万七九三六円となる。

(式)一四四万円×一七・八九四四=二五七六万七九三六円

6  治療費 合計一六〇七万八二一四円

証拠(乙四、五、弁論の全趣旨)によれば、本件事故による原告の入通院治療のため、前記第二・二・1・(二)・(6)の被告の主張のとおりの治療費を要したことが認められる。

7  損害額合計(争いのない損害額を含む。)

一億六五三〇万四六二六円

二  過失相殺 二〇パーセント

本件事故につき、原告及び被告双方の過失の程度を比較検討すると、証拠(甲一の1ない6、二、三、四の1、2、六の1ないし5、七、一四、一七、証人伊藤喜美子)によれば、本件事故当時、被告車は時速約四五キロメートルで走行していたところ(現場付近の制限速度四〇キロメートル)、夜間であつたが、事故現場は直線道路であり、前照灯の下で前方を注視していれば、衝突を回避可能な距離で事前に前方を歩行中の原告を発見できたにもかかわらず、被告は、道路右側の建物に気をとられ、前方を注視しなかつた過失により、原告を前方約九・五メートルに接近して始めて発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、原告に衝突したものであること、他方、原告は、片側幅員二・八メートルの道路の左側を知人と並列して歩行しており、内側の原告は車道部分のほぼ中央付近を歩行していたものであること、なお、右道路の右側には歩道が設置されていることが認められる。

右認定事実によれば、夜間前方注視を怠つた被告の過失は重大であり、その走行速度や原告を発見した距離からして、急制動の措置が実効性を生じないまま衝突したと認められるが、他方、原告も、車道の中央付近を歩行しており、また道路左側を歩行していたため、後方から走行してきた被告車に気付かず、回避行動をとれなかつたものと推認でき、これらの諸事情を勘案すると、過失相殺として、前記損害額の二〇パーセントを減ずるのが相当である。

三  損害填補

証拠(乙四、五、弁論の全趣旨)によれば、前記第二・二・3の被告主張のとおり、被告が治療費を支払つたことが認められる。

よつて、争いのない既払額を含めた損害填補の額は、三一一八万〇四九九円となる。

四  差引残額

前記一の損害額に、前記二の過失相殺及び前記三の損害の填補を考慮すると、損害額の残額は、一億〇一〇六万三二〇一円(一円未満切り捨て)となる。

五  弁護士費用

弁護士費用につき、本件事故と相当因果関係のある損害としては、五〇〇万円が相当であると認める。

六  結論

以上により、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償金として、一億〇六〇六万三二〇一円及び内金一億〇一〇六万三二〇一円に対する本件事故の日の翌日である昭和六二年一二月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 田中澄夫)

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