大判例

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横浜地方裁判所 昭和33年(わ)960号 判決

被告人 鈴木芳雄

主文

被告人を死刑に処する。

押収のナイフ一挺(昭和三三年地領第五〇〇号の一)

を没収する。

押収の背広上下一組(前同号の一九)、背広上衣一着(前同号の二〇)、風呂敷二枚(前同号の二五、二七)、ワイシャツ一枚(前同号の二六)を被害者Aに、リコーフレックスカメラ(ケース付)一個(前同号の一六)を被害者Cに、女物ウール着物二枚(前同号の二一、二二)、女物コート一枚(前同号の二三)、ツーピース一組(前同号の二四)を被害者Bの相続人にそれぞれ還付する。

理由

(罪となる事実)

被告人は鈴木仁三郎、しげの次男として肩書住居地において出生し、昭和二四年三月右住居地の大富尋常高等小学校高等科二年を卒業してから約二年、間実父仁三郎、実兄信男の農業の手伝をした後、いとこ樋口よしの夫であつた川崎市大島町一丁目二八番地硝子販売業樋口伊勢松方に店員として住み込み、当初は真面目に働いていたが、昭和三二年一月頃から酒色を覚え、このため給料、貯金等はもとより、同年六月年期明けの際、右樋口より受け取つた現金六〇、〇〇〇円全部も使い果たし、遂に昭和三三年一月頃から同年三月頃までの間に、右樋口方の得意先から集金した硝子代金合計二〇、〇〇〇円余りをほしいままに費消したうえ、同年三月末には樋口所有の原動機付自転車に乗つたまま同人方を出てしまつてこれを横領したため、逮捕、勾留されるに至つたが、同年四月一六日横浜地方検察庁より不起訴処分に付されて釈放となり、同時に右樋口方を解雇され、実兄信男に伴われて住居地の実家に戻りその後は家事の手伝や、信男の子供の守り等をしているうち、家人から東京に出て働いた方がよいと言われて居り、被告人自身も当時の日常生活に飽き足らなく感じていたので職を探そうと考え、同年六月一一日午前一〇時過頃無断で家を出て東金市内、千葉市内等で映画を見たり、飲食をしたので、所持金も残り少くなり、川崎へ行けば以前自分の働いた土地でもあり、何とか職も見付かり、金の工面もできるだろうという漠然とした考えから、同日午後九時頃川崎市に来たが、その時所持金はすでに一〇〇円余りとなり川崎駅附近を徘徊していた際、さきに樋口方で前記のような横領事件をおこしていることを思い、同市内で知人に会うことを躊躇したが、樋口方で働いていた頃、同人の得意先である横浜市港北区〇〇町〇〇〇番地A方に度々硝子工事や集金のために出入し、そのとき同人の妻Bから茶菓の接待を受ける等親切な態度を示されたことを思い起し、昼間右Bが一人留守居をしている頃、右A方を訪れ、同女から金員を借り受けようと考え、その日は川崎市内で野宿し、翌一二日午前一〇時頃右A方に赴き、応待に出たB(当時四一年)と同家の中庭に面した四畳半の間の廊下に腰掛けて一時間余り世間話を交わした後、「田舎へ帰るので一寸金を貸して下さい」と金員の借受方を申し出たところ、同女から「今持ち合わせがないんです。主人がいれば少しぐらい何とかなると思いますが」と言つて断わられたので、再び(少しでもよいから)と言つて同様の申出をしたが、同女はこれをも断わり、無言のまま台所の方へ立ち去つてしまつたので被告人は実家に帰る旅費すら持ち合わせていないことを思いこのうえは同女から金品を強取するほかはないと考え、屋内に上り込み、同女の姿を求めて風呂場前の廊下で待ち受けていると便所から出てきた同女が被告人の前を通り過ぎ、台所の方へ行こうとするので、もう一度同女に懇願してみようと考え、三度金借の申出をしたが、前同様拒絶されたため、ここに金品強取の決意を固め矢庭にその背後から同女の首を左手でしめたところ、同女が騒ぐのでそのまま便所の方へ引きずつていくと、同女がなおも大声を発して抵抗するので、更に強く首をしめつけたが、同女が抵抗を続けたためその場に同女もろとも転倒し、その際同女のスカートがまくれたのを目撃するや、俄かに劣情を催し同女を強姦しようと決意し、同女に馬乗りになつて両手でその場におさえつけて強いて同女を姦淫したが同女が立ち上つて騒ぎながらその場から逃れようとしたので、同女を殺害したうえ金品を強取しようと決意し、その背後から左手を同女の首に廻わし、右手を同女の頸部に押しあててしめつけながら便所の中へ引きずり込んだうえ、所携のナイフ(昭和三三年地領第五〇〇号の一)を右手に持ち、同女が被告人に対し(少しぐらいなら何とかするから)と言つて哀願するにもかかわらず、背部、頸部、顔面等を数回突き刺してその場に昏倒させ、更に便所内に掛けてあつたタオル(前同号の二)をもつて同女の首をしめつけ、即時同女を窒息死に至らしめたうえ、同家中庭に面した四畳半の間の洋服箪笥内から右B所有のウール着物二枚(前同号の二一、二二)、コート一枚(前同号の二三)、ツーピース一組(前同号の二四)、A所有の背広上下一組(前同号の一九)、背広上衣一着(前同号の二〇)、ワイシャツ一枚(前同号の二六)、風呂敷二枚(前同号の二五、二七)及び応接間からC所有のリコーフレックスカメラ(ケース付)一個(前同号の一六)(以上価格合計四一、八〇〇円位相当)を強取したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち強盗殺人の点は刑法第二四〇条後段に、強盗強姦の点は同法第二四一条前段に該当するが、以上は一個の行為にして数個の罪名にふれる場合であるから同法第五四条第一項前段第一〇条により重い強盗殺人の罪の刑に従い処断すべきところ、その量刑について考えるに、本件被害者としては、かつて硝子職人として出入したにすぎない被告人からの突然の金借の申込に対し応じなければならない特段の事由がないのに、これに応じなかつたというだけで全く予期しない暴行を加えられ、暴力による恥辱をうけ、あまつさえ貴重な生命を失い回復し得ない被害を受けたのであつて、まことに悲惨な生涯を遂げさせられたものといわねばならないし、平和な家庭生活を一瞬にして破壊されたまま加害者側からの格別な慰藉を受けていない遺族の非歎の情は、はかりしることのできないものである。しかも本件は住宅街において白昼独り留守居する婦女に対し屋内で人知れず行われた犯行で、その与える社会的不安は絶大であつて被告人の責任は重大である。一方被告人は判示のように、正業に就きながら酒色に耽つて金銭に窮し、遂には永年の勤務先から集金代金等を横領するにいたり、その結果職を失い、以来定職に就くことなく、本件犯行直前には無断で家出をして所持金を消費したため、実家へ帰る旅費にも困り、被害者の厚情にすがろうと考え、金員の借用を申し出たところその拒絶にあつたため、金品の強奪を決意し、なんら責むべき咎のない無抵抗に等しい被害者に暴力を加え、強いて姦淫を遂げたうえ、被害者が哀願するにもかかわらず、婦女である被害者の顔面、頸部、背部を数回突き刺し、更にタオルでこれを絞殺した後、金品を強取したのであつて犯行の動機、態様において酌量すべき余地はないものといわなければならない。よつて所定刑中死刑を選択して被告人を死刑に処することとし、主文第二項掲記のナイフ(昭和三三年地領第五〇〇号の一)は本件犯行に供せられたもので、犯人以外の者に属さないから同法第一九条第一項第二号第二項により被告人からこれを没収し、主文第三項掲記の各物件は、それぞれ被害者A、同C又は被害者Bの相続人に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法第三四七条第一項本文により主文掲記のように還付することとし、訴訟費用は同法第一八一条第一項但書により被告人には負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田作穂 高井清次 松野嘉貞)

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