大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

横浜地方裁判所 昭和42年(ソ)5号 決定

抗告人 鎌倉三浦食糧販売協同組合

主文

原決定を取り消す。

本件を鎌倉簡易裁判所に差し戻す。

理由

一、抗告の理由の要旨

(一)  抗告人は、昭和四二年六月二三日原告抗告人、被告田中竹次郎間の鎌倉簡易裁判所昭和四〇年(ハ)第七六号請求異議事件、原告田中竹次郎、被告抗告人間の同裁判所昭和四一年(ハ)第七号土台収去請求事件につき、右各事件に関与する司法委員児玉正勝に対する忌避の申立をしたところ、同裁判所は昭和四二年六月二八日忌避申立を却下する旨の決定をなし、右決定正本は同月三〇日抗告人に送達された。

(二)  右決定は、現行民事訴訟法上司法委員に対する忌避の規定がないから司法委員に対する忌避の申立は許されないとの理由で抗告人の忌避申立を不適法として却下した。

(三)  しかしながら、司法委員は通常の民事調停委員とは性格を異にし、その法的性格は裁判官に準ずる地位にある(席は裁判官と同じ席に並んでいる。)。従つて民事訴訟法第一編第一章第二節裁判所職員の除斥忌避および回避に関する諸規定は司法委員についても準用されると解するのが立法の精神ならびに解釈上正当というべきである。

そうでなければ、司法委員はいかなる態度表現も自由であり、これに対処する方法がないことに帰着し、法の秩序、裁判の威厳、信頼等を維持することは至難である。

(四)  よつて、単に司法委員に対する忌避の規定がないということで抗告人の忌避申立を却下した原決定は違法であるから、この取消を求めるため抗告に及んだ。

二、当裁判所の判断

本件記録に添付されている鎌倉簡易裁判所昭和四二年(サ)第一四〇号司法委員に対する忌避申立事件記録によれば、抗告の理由の要旨(一)、(二)記載の事実が認められる。

そこで、司法委員に対して忌避の申立が許されるかどうかについて判断する。

現行民事訴訟法上司法委員に対する忌避の申立を許容する旨の明文の規定は存在しないが、司法委員は簡易裁判所の民事事件について和解勧告に際して裁判所の補助をなし、または審理に立ち会つて事件につき裁判所に対して意見を述べることができ、その法的性格は家事審判法における参与員に類似する。このように司法委員は審理に立ち会つて裁判所に対し具体的事件につき意見を述べることができ、裁判所は司法委員の意見を判断の参考に供し得るものであり、それが直接裁判に関与するものではないにしても、事件の審理に関与するものであるから、司法委員について除斥、忌避の理由のある場合にこれを放置することは裁判そのものの公正を疑わせる結果を招来する。

従つて、裁判の公正を担保すべき方法として存在する除斥、忌避の制度は司法委員に対してもその必要があるというべきである。また、司法委員とその性格が類似する参与員については、家事審判法第四条において民事訴訟法の除斥、忌避および回避の規定が準用されて参与員に対する忌避の申立が許されることとの均衡上からも、司法委員については明文の規定がなくとも民事訴訟法の除斥、忌避および回避の規定が準用され、これに対する忌避の申立は許されるものと解すべきである。

そして、この場合司法委員に対する忌避の申立についての裁判は民事訴訟法第四四条の準用により司法委員所属の簡易裁判所がこれをなすものと解すべきである。

そうすると、前示判断に反して司法委員に対する忌避の申立は明文の規定を欠き許されないとして、抗告人の本件忌避の申立を不適法として却下した原決定は違法であるからこれを取り消すこととし、民事訴訟法第四一四条、第三八八条によりさらに原裁判所において忌避申立の理由の当否について判断をさせるため、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 溝口節夫 大久保敏雄 井野場明子)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com