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横浜地方裁判所 昭和42年(タ)116号 判決

原告 赤坂恵子・ポーター

被告 ウイリアム・シドニー・ポーター(いずれも仮名)

主文

一、原告と被告とを離婚する。

二、被告は原告に対し、金四、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

五、この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「原告と被告とを離婚する。被告は原告に対し金六、二四二、〇〇〇円(一七、二〇〇ドル)およびこれに対する昭和四二年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに第二項につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告と被告は、昭和三七年(一九六二年)四月一七日横浜市中区長に対し婚姻の届出を了して夫婦となり、同年六月より米国ホノルル市に居住し、昭和三八年(一九六三年)六月、被告が勤務の都合で日本に赴任して以来、神奈川県大和市下鶴間四一三八番地所在の相模ハイツ二八号を借受けて同所に生活の本拠を構えて夫婦生活を営んできた。

二、しかし、原告と被告との間には、左記のように離婚せざるを得ない事由が生じている。

(1)  被告は人種的偏見をもち、白人、東洋人、黒人、プエルトルコ人と人種に順位をつけ、東洋人である原告を軽蔑し、婚姻中も原告を女中同様に扱い、原告の人格を少しも尊重してくれなかつた。殊に、昭和四一年(一九六六年)二月、原告は日本人医師より胆のう炎で至急手術するのが妥当であると告げられたが、被告は「日本人のいうことは信用できない。」などという始末であつた。そこで、原告は、やむなく米軍医療本部病院で入院手術したが、原告の健康管理に全く冷淡な被告の態度には、愛情の一片もなく、原告は全く絶望的になつた。

(2)  被告は昭和三八年(一九六三年)夏ころ日本へ赴任して間もなく、一週につき二日間位外泊するようになり、昭和四〇年(一九六五年)春ころより原告の待つ家庭に立寄るだけとなつたので、原告が調査したところ、横浜市中区西の谷一六六番地所在のベン永坂所有のアパートに金沢マチコという女性と同棲していたことが判明した。

(3)  被告は、原告に対し、昭和四一年(一九六六年)五月一四日、離婚の訴を提起し(横浜地方裁判所同年(タ)第三八号事件)、同事件の審理中、原告(右事件被告。以下単に原告という。)は被告(同事件原告。以下単に被告という。)に対し、離婚する場合は慰藉料として一時金三、六〇〇、〇〇〇円(一〇、〇〇〇ドル)、毎月一〇八、〇〇〇円(三〇〇ドル)宛二年間支払うことを求める旨提案したところ、被告は一時金一、〇八〇、〇〇〇円(三、〇〇〇ドル)、毎月七二、〇〇〇円(二〇〇ドル)宛三年間支払うという案を提出したため、裁判長より横浜家庭裁判所で話合つてみてはどうかとの勧告があり、結局、被告は、右家庭裁判所に調停の申立をするということで、右訴訟は、昭和四二年(一九六七年)五月一二日原告の同意のもとに取下げられた。

ところが、被告は、調停の申立をしないばかりか、原告に何の連絡もせず、ひそかに、アメリカ合衆国ネバダ州へ赴き、同州第八区地方裁判所に原告との離婚訴訟を提起し、原告の全く関与しないまま同裁判所で離婚判決を得たが、右判決は、わが民事訴訟法二〇〇条二号の要件を具備しないからもとより承認することはできないものである。

(4)  さらに被告は、昭和四二年(一九六七年)六月からは、原告に対し生活費を一銭も支給しないのみか、原告が被告の勤務場所に電話しても、被告は自己の居所も教えず、さらに同年同月一五日、原告、被告夫婦の生活の本拠として賃借居住していた前記相模ハイツ二八号につき、家主との間で賃貸借契約を解除したため、原告は家主より右借家を明渡すよう請求され、同年七月六日、原告はやむなく右借家を明渡し、以来、自己の両親のもとに身を寄せている状態である。

以上の事実は、わが民法七七〇条第一項、第一号、第二号、第五号に該当し、原告は、もはやこれ以上被告との婚姻生活にたえることができないから、原告と被告とは離婚されるべきである。

三、被告は、米陸軍軍属として、在日米陸軍補給廠に勤務し、年俸約四、八九〇、〇〇〇円(一四、〇〇〇ドル)、その他宿舎手当として年額約一、〇〇〇、〇〇〇円(二、五〇〇ドル)の収入を得る高級公務員であつた。他方、原告は昭和三二年(一九五七年)ころより職業歌手として一ケ月平均約一〇〇、〇〇〇円の収入をあげていたが、結婚後は被告の要望で芸能界から引退し、主婦として家庭生活に専念してきたのであり、前記のような被告の違法、不当な行為により離婚せざるを得なくなつたことによつて原告のこうむる精神的苦痛は甚大であり、右苦痛を金銭をもつて慰藉するとすれば前記二(3) 項に述べた原告の提示額を基準として金六、二四二、〇〇〇円が相当であるから、原告は、被告に対し右金員と、これに対する本件訴状が被告に送達された翌日である昭和四二年一二月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、本案前の申立として、「原、被告間には、すでに、昭和四二年六月六日、米国ネバダ州第八区地方裁判所により離婚判決が言渡され、同判決は六ケ月の不服申立期間を経過した同年一二月六日確定したから、本訴は訴の利益を欠き、不適法として却下されるべきである。」と述べ、本案につき、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因事実に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項のうち

(1)について………昭和四一年二月ころ、被告が原告に対し米軍医療本部病院で診察を受けるように勧めたこと、その結果原告が同病院で手術を受けたことは認めるが、その余の主張はすべて否認する。

即ち、仮に被告が人種的偏見をもつていたとしたら原告と結婚するはずがないし、米軍医療本部病院で診察を受けるように勧めたのは、同病院においては保険により無料で治療、手術が受けられるからであつて、被告が人種的偏見をもつているからではなく、また原告の健康管理に無関心であるからでもない。

(2)について………被告が昭和四〇年一一月にベン永坂所有のアパートに移つたことは認めるが、その余の主張はすべて否認する。

(3)について………被告が原告に対し、昭和四一年五月一四日、横浜地方裁判所昭和四一年(タ)第三八号離婚請求事件(以下単に第三八号事件ともいう。)の訴を提起したこと、昭和四二年三月二九日、被告はアメリカ合衆国ネバダ州に赴き同州第八区地方裁判所により原告と離婚する旨の判決を得たこと、同年五月一二日前記第三八号事件の訴を取下げたことはいずれも認める。右第三八号事件の審理中、被告の提示した条件は、一時金一、〇〇〇ドル、その後一年間毎月二〇〇ドル支払うということであり、原告の提示した条件および右審理中その後どのような話合いが行われたかについては、被告はすべて弁護士に委せていたので知らない。その余の主張は争う。

(4)について………被告が昭和四二年六月六日以降原告に対する生活費の支給を中止したことは認めるが、それは前記ネバダ判決が出たからにほかならない。その余の事実は知らない。

三、同第三項のうち、被告の身分ならびに年俸は認める。宿舎手当は二、一〇〇ドルである。原告が結婚前歌手をしていたことは認めるが、その実績は知らない。その余の主張は争う。なお、被告は、原告に対し、ダイヤの指輪(一、〇〇〇ドル)、ミンクのコート(七五〇ドル)、ネツクレス他一四点合計四、〇〇〇ドル相当の物を贈与している。

証拠〈省略〉

理由

(本案前の申立について)

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき(もつとも、書記官の署名部分の成立については争いがない。)乙第一号証、および成立に争いない同第四号証の一、二によれば、一九六七年六月六日、アメリカ合衆国ネバダ州第八区地方裁判所において、本訴被告たるウイリアム・C・ポーターを原告とし、本訴原告たるケイコ・A・ポーターを被告とし、右の原告と被告とを離婚する旨の判決(以下、ネバダ判決という。)が言渡され、同判決は、右言渡期日より六ケ月を経過した同年一一月七日確定した事実が認められる。

ところで、身分事項に関する外国裁判所の確定判決は、わが民事訴訟法二〇〇条一ないし三号を準用し、(一)当該外国裁判所が当該事件に関し管轄権を有すること、(二)敗訴の被告が日本人である場合は公示送達によらずに訴訟の開始に必要な呼出を受けたこと又は応訴したこと、(三)該外国判決の内容が日本の公序良俗に反しないこと、の各要件を具備する場合に限りその効力を承認すべきものと解されるから、本件ネバダ判決がわが国において承認されるためには右各要件を具備していることが必要であるが、原告は、ネバダ州第八区地方裁判所より公示送達によらずに訴訟の開始に必要な呼出を受けたことはなく、もちろん応訴したこともないと主張するので、まずこの点について判断する。前記乙第一号証(ネバダ判決の謄本)によれば、原告が当該事件に応訴していないことは明らかである。さらに、同号証には、訴状の写、期日呼出状は、一九六七年五月一五日、日本において被告自身に送達された旨記載されているが、証拠を検討するに、乙第二号証には、受領証と題して右同日期日呼出状を受領した旨の記載と、Keiko・A・Porterの署名が認められるが、右書面が原告によつて作成されたものと認めるべき証拠はなく、また、乙第三号証の四によれば、ジロー・ヤマダなる人物が、右同日、期日呼出状を被告に直接交付して送達した旨アメリカ副領事の面前で宣誓供述したとの記載があり、証人ヘンリー・ダグラスも当公判廷において右と同旨の証言をしているが、右証人の証言は、一方においてジロー・ヤマダは七、八年来の友人であると供述しながら、他方において同人の住所、職業、電話の有無等について全く知らないと供述する等、その供述全体にあいまいな点や、一貫しない点が多くて信用できず、そして、ジロー・ヤマダなる人物が果して実在したか否かが不明である以上、ジロー・ヤマダと称する人物のアメリカ副領事の面前における前記供述もそのまま信用できず、他に、訴状の写、期日呼出状が一九六七年五月一五日被告に送達されたものと認めるべき証拠はない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件ネバダ判決はわが国において承認することができないものであるといわなければならない。よつて被告の本案前の申立は採用しない。

(本案について)

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告が離婚原因として主張する同第二項の事実について順次判断する。

(1)について………原告本人尋問の結果(第二回)、および弁論の全趣旨によれば、昭和四一年(一九六六年)二月ころ、原告は日本人医師より胆のう灸で至急手術するのが妥当であるといわれたが、被告は日本人医師の下で手術することに反対し、米軍医療本部病院で診察を受けるように勧め、結局原告は同病院に入院して手術を受けたが、このときのいきさつにおいて、原告は被告の自己に対する愛情が薄いものと思いつめたことが認められる。

しかし、右の一事によつて、被告が人種的偏見をもつているとは速断できず、他に、被告が人種的偏見をもつて原告を軽蔑したなどという原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

(2)について………その方式および趣旨により原本の存在およびその成立を認めうる甲第一〇号証、原告本人尋問の結果(第二、三回)および弁論の全趣旨を総合すれば、昭和四〇年(一九六五年)春ころより、被告はしばしば家庭を明けて外泊するようになり、同年一一月より、被告は横浜市中区西の谷一六六番地所在のベン永坂所有のアパートに金沢マチコなる女性と同棲するようになり、以後原告のもとに、全くもどらなくなつてしまつたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

なお、前記甲第一〇号証によれば、被告は、昭和四二年八月八日東京都港区長に対し、右金沢マチコと婚姻する旨の届出を了していることが認められるが、前記のとおり、ネバダ判決はわが国において承認できないものであるから、右届出は、未だ原告との婚姻関係が継続している状態での届出である。

(3)について………被告が原告に対し、昭和四一年五月一四日横浜地方裁判所昭和四一年(タ)第三八号離婚請求事件の訴を提起したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六、第七号証、原告本人尋問の結果(第一、三回)および弁論の全趣旨を総合すれば、昭和四二年三月一六日、右第三八号事件の第一〇回口頭弁論期日において、裁判官より和解の勧告があり、慰藉料額について当事者双方からおおむね原告主張のとおりの条件が提示されたが、離婚事件であり又右双方の主張に開きもあつたため、裁判官より横浜家庭裁判所で話合つてみてはどうかとの勧告があり、結局、被告側で、右家庭裁判所に調停申立をするということになり、同年五月一二日、原告の同意のもとに右第三八号事件の訴は取下げられたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。ところが、被告は、これより先同年三月二九日、原告に何の連絡もしないまま、アメリカ合衆国ネバダ州に赴き、同州第八区地方裁判所において原告と被告とを離婚する旨の判決を得たことは当事者間に争いがない。右ネバダ判決は、前記のとおりわが国において承認することのできないものであるが、右の被告の行動は甚だ不明朗であるとのそしりを免れない。

(4)について………原告本人尋問の結果(第二回)および弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の事実がすべて認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

三、同第三項について

被告の日本勤務当時の身分ならびに年俸が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。原告本人尋問の結果(第二、三回)によれば、原告は、上野音楽学園声楽科を卒業後、歌手として働き、平均月収約一〇〇、〇〇〇円を得ていたが、被告と結婚後は歌手をやめ、主婦として家庭生活に専念してきた。ところが、原告は、前記に認定したような事情から被告と離婚するのやむなきにいたり、このため多大な精神的苦痛をこうむるにいたつたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

なお、被告は原告に対しダイヤの指輪ほか一六点合計四、〇〇〇ドルの品物を贈与していると主張するので、この点について判断するに、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は、以前に被告よりダイヤの指輪(価格不詳)の贈与を受けたこと、また原告が前記相模ハイツ二八号を追出されるにあたり、被告との共有財産であつたもののうち、テープレコーダ付ステレオレコードプレーヤー、シーツ、毛布、マツトレス、サイドテーブル、フオームラバーのソフアー、化粧台、レコード入れ箱、モーターローラー、二一インチテレビ、ガラス製品、ゴルフクラブのセット、を各受領していることが認められるが、その余の被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

四、以上認定の事実を基礎として本件の準拠法について検討する。

本件は離婚ならびに慰藉料請求を包含するが、離婚そのものが原因となつて相手方に与える損害について、離婚に至らしめた有責の配偶者が損害賠償をなすべきか否か、その内容如何ということは、離婚に付随して生ずる処理の問題であるから同じく離婚の準拠法によるべきであり、結局本件各請求の準拠法はいずれも、法例一六条、二七条三項により夫である被告の本国法たるアメリカ合衆国ニユーヨーク州の法律によるべきであるが、一般に同国各州の国際私法において離婚の準拠法は、離婚につき管轄権を有する裁判所所在地の法律によるべきものとされ、かつ、離婚管轄権は、当事者のいずれか一方の住所地の裁判所にあるものとされるから、本件において妻たる原告の住所が、米国国際私法上、日本にあると認められるか否かにつき考えるに、同国国際私法上、妻は婚姻後ただちに従前の住所を喪失し夫の住所を取得するが、夫と別に生活する場合には、独立の住所を有しうることが認められているところ、本件において、原、被告は、昭和四〇年一一月より別居したままであること前記認定のとおりであり、かつ原告は出生以来ひきつづき日本で生活し、今後も日本に居住する意思が明らかであるから、米国国際私法上、原告は日本に選定住所を取得したものとみなして差支えなく、そうすると、法例二九条の反致の原則が適用され、結局において、日本法が本件に適用されるべき準拠法ということになる。

五、そこで、わが民法の規定に照して原告の請求の当否を考えてみるに、

(一)  前記二、に認定した各事実を総合すれば、原告、被告間には、わが民法七七〇条第一項第五号所定の「婚姻を継続し難い重大な事由」があるものというべきである。

(二)  次に、慰藉料請求について判断するに、前記二、に認定した各事実によれば、本件離婚の主たる原因が被告側にあることは明らかである。そうすると、被告は原告に対し本件離婚によつて原告のこうむる精神的苦痛を慰藉すべき義務があるものといわなければならない。よつて、慰藉料の額について考えると、前記三、に認定した諸事実に以上に認定したところから認められる婚姻継続の期間、被告の有責性の程度、第三八号事件において双方より提示された条件、その他本件にあらわれた一切の事情を総合勘案すると、金四、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。そうだとすると、被告は、原告に対し、右金四、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する本件訴状が被告に送達された翌日であることが記録上明らかな昭和四二年一二月一九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。

六、結論

よつて、原告の本訴請求は、以上認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 唐松寛 武内大佳 増山宏)

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