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横浜地方裁判所 昭和44年(ワ)1532号 判決

原告

伊藤正一

ほか一名

被告

横浜市

ほか二名

主文

被告横浜市は原告両名の各自に対してそれぞれ金九一三、七一九円及び内金八六三、七一九円について昭和四四年二月二七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

原告らのその余の請求はいずれも之を棄却する。訴訟費用については、原告らと被告株式会社友愛石油及び被告菊川力との間に生じた部分は原告らの負担とし、原告らと被告横浜市との間に生じた部分については、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告横浜市の負担とする。この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、それぞれ連帯して原告らに対して各金四、六六二、九六四円及びこれに対する昭和四四年二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一  本件交通事故

1  発生時 昭和四四年二月二六日午前七時一五分

2  発生場所 横浜市保土ケ谷区本宿町九一番地先路上

3  加害者 普通乗用自動車、品川五に七、二八八号、被告車という

4  被告車運転者 被告菊川力(被告菊川という)

5  被害車 自動二輪車、横浜せ一八―八六号、原告車という

6  原告車運転者 亡伊藤正敏(亡正敏という)

7  態様

(一)  道路状況

本件道路は、本件交通事故現場付近において東西に走る幅員五米の狭い道路で、後記だ円形のくぼみの少し西から南にカーブしている。本件道路の路面は、今井町方面に向つて左側車線には、本件交通事故現場付近において、道路北端より約一米中央寄りの地点に長さ一・八米、幅一米、深さ約二〇糎のだ円形のくぼみがあり、更に、右くぼみの東側に連続して四ケ所のくぼみが存在していた。そして、右くぼみには、本件道路下に埋没されていた水道管の漏水により、水が溜り、周辺の道路にもわずかに流水情況をおこさせていた。

(二)  事故の発生

被告車は、本件道路を東から西へ(二俣川町方面へ)時速約四〇粁で、原告車は同道路を西から東へ時速約四〇粁で進行していた。

亡正敏は、前記カーブを右に曲り切り原告車の右にかけていた自己の体重を正面に移動しようとしたとき、前記だ円形のくぼみに落ち込みハンドルをとられてスリツプし、(乾燥した本件くぼ地に自動二輪車が落ち込んでも、転倒又はスリツプの危険が大であるが、本件では水が溜り付近の路面も水に濡れていたので右スリツプを助長する結果となつた。)前方に被告車を認めながら、道路の中央部分に出てしまつたところ、対向車である被告車の運転者被告菊川に前方不注視の過失があつたため、ブレーキ操作が遅れ、被告車と原告車が激突し亡正敏は胸部内臓損傷を直接の原因として同日午前一一時五〇分死亡した。

二  被告らの責任

1  被告横浜市の責任

被告横浜市は、地方公共団体であつて本件道路の管理者である。およそ道路の管理者たる者は道路を常時良好な状態に保つよう維持し修繕し、もつて一般交通に支障をおよぼさないように努めなければならない。(道路法第四二条)しかるに、同市は本件道路に前記のようなくぼみが五ケ所存在し、交通事故発生の危険性が高い状況にあつたのにこれを放置したままであつた。

そのうえ、昭和四三年一二月頃より漏水があり、常に前記くぼみ及びその周辺の道路が水で濡れて車両の交通には非常に危険であつた。そのため、本件道路付近住民は、このままでは交通事故の発生は不可避であるとして、再三にわたり、少なくとも漏水だけは修理してほしい旨、被告横浜市に要請したが、同市は漏水はもとより道路のくぼみの補修も全くしないままこれを放置していたものである。よつて、被告横浜市は、国家賠償法第二条第一項により損害を賠償する責任がある。

2  被告株式会社友愛石油(被告会社という)の責任

被告会社は被告車の所有者であつて、その営業に使用し、これを運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(自賠法という)第三条によつて賠償の責に任じなければならない。

3  被告菊川の責任

被告菊川は、被告車の運転者であるところ、本件道路は進行方向(二俣川町方面)が左(南)にカーブしていて見通しが悪いので、自動車運転者としては減速又は徐行するなどして事故を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然従前の速度のまま進行し、更に、右のような道路状況であるから十分前方を注視し、前方の突発的出来事に当つても適切な処置がとれるよう注意しなければならないのにこれを怠り、前方注視を欠いた過失により、原告車の発見がおくれて狼狽し、急ブレーキの処置を失念し、ハンドル操作と通常のブレーキ操作で回避しようとしたが間に合わず衝突し、亡正敏を死に至らしめたものである。よつて、被告菊川は民法第七〇九条による不法行為者の責任を負わなければならない。

三  損害

1  亡正敏の得べかりし利益 金七、〇七七、五一〇円

亡正敏は、本件交通事故当時満一六才の健康な男子で、朝夕は新聞配達の業務に、又昼間は有限会社嘉山電機商会に電気工として勤務し、収入の合計は一ケ月金三三、〇〇〇円を得ていたほか、相当額の賞与金を得ていたから、年間の収入金額は最低金三九六、〇〇〇円以上となるものである。ところで厚生大臣官房統計調査部刊行の第一〇回生命表によると、満一六才の男子の平均余命は五二・七九年であるから、本件交通故がなければ事故後四七年間は就労することができた筈である。この間近時の賃金上昇を考慮すれば、(労働省「毎月勤労統計調査(甲調査)」によると昭和三三年から同四二年まで一〇年間の実質賃金上昇率は年平均四・四パーセントとなる)この間前記割合の収益を取得できたと推認される。そうだとすれば、亡正敏は本件交通事故により前記年額によつて計算した四七年間の得べかりし利益を、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し、一時に請求する金額に換算し、同人の生活費として右金額から二五パーセント相当額を控除して算定すると、その金額は、金七、〇七七、五一〇円となる。

2  葬式費用 金一九八、七一三円

3  仏具、墓石費用 金二三四、六〇〇円

4  原告車の損害 金二〇五、〇〇〇円

5  慰藉料 金四、〇〇〇、〇〇〇円

亡正敏は、前途有為の少年であつて、将来は電気商経営を目指して職務に精励していたが、その勤務成績は優秀であつて明るい希望に満ちていた。本件交通事故によりその希望は一瞬のうちに破壊されてしまつたもので、これに対する慰藉料は最低金二、〇〇〇、〇〇〇円を下るものではない。

又、亡正敏は、親孝行な少年であつて、家計を助けるために朝夕は新聞配達の業務に従事していた。そして、両親である原告らは亡正敏を交えて楽しい家庭生活を営み、又同人の将来に強い期待を抱いていたが、本件交通事故によりその期待と楽しい家族団らんは全部破壊されてしまつた。原告両名が、本件交通事故により被つた精神的損害はもとより金銭に評価し尽せないが、最低金一、〇〇〇、〇〇〇円を下るものではない。

6  相続、損害相殺

原告両名は、亡正敏の両親であるところ、同人には妻子がなかつたから、その死亡により、同人が被告らに対して有する損害賠償請求権につき平等の割合で相続による承継をした。その結果、原告らはそれぞれ被告らに対し各金五、八五七、九一一円宛損害賠償の請求をなし得るものであるが、すでに自動車損害賠償責任保険(自賠責保険という)から合計金三、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受けているので、右金額から受領金額の半額金一、五〇〇、〇〇〇円宛各控除すると、結局金四、三五七、九一一円につき、それぞれその支払を請求できるものである。

7  弁護士費用

原告らは、それぞれ被告らに対して前記のとおりの損害賠償請求権を有するものであるが、被告らがこれを任意に弁済しないので、原告らはやむを得ず東京弁護士会所属弁護士篠崎芳明に対し本訴の提起と追行とを委任し、昭和四四年六月一一日それぞれ手数料として金五〇、〇〇〇円宛を同弁護士に支払い、又謝金として、本件判決の認容額に対する七パーセントの割合により計算した金三〇五、〇五三円宛の債務を本判決言渡期日を支払日として負担したので、原告らにとつては以上合計各金三五五、〇五三円の弁護士費用も、本件交通事故と相当因果関係にある損害と言うべきである。

四  よつて、原告両名は被告らに対して連帯して各金四、六六二、九六四円及びこれに対する本件交通事故が発生した日の翌日である昭和四四年二月二七日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本件請求に及んだものである。

立証として〔証拠関係略〕

被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

一  被告横浜市の請求原因に対する認否、及びその主張は次のとおりである。

1  請求原因に対する認否

第一項の1ないし6までの事実、7の中被告車が本件道路を東から西(二俣川町方面)へ向けて進行していたこと、亡正敏が死亡した事実、第二項の被告横浜市が本件道路の管理者である事実は認めるが、その余の請求原因事実はすべてこれを争う。

2  主張

(一)  本件交通事故現場付近においては、水道の漏水はなかつた。

(1) 昭和四四年二月二五日午前一一時頃、横浜市水道局第二配水課所属技術吏員三名が、現場付近にある消火栓付近がぬれており、水たまりもあつたので、水道からの漏水ではないかと心配して調査したが漏水とは認められなかつた。

(2) 本件交通事故の発生した日の午後三時頃、右消火栓付近を掘りおこして調査したところ、道路面下約一・二米に位置する消火栓と水道本管(口径一〇〇粍)との接合部分から、一時間〇・五立程度の微量の漏水のあることが確認されたが、その漏水は路上に流出する程度ではなかつた。

なお、右の調査に際して消火栓付近を掘り起したところ、消火栓のまわりにあるボツクス内には、バケツ二杯程度、深さ約二〇糎の量の泥水があり、その下方の三〇ないし四〇糎の土砂は水を含んで湿つていたが、それから下の約五〇ないし六〇糎の土砂は含有水量が少なく乾燥していた。そして、更にその下部にある水道本管付近は、約一〇糎程度の土砂が再び水を含んで湿つていた。この事実は、前記接合部分における漏水が全て地下にしんとうしてしまつて、路面にはあがつていなかつたことを示している。

更に夜間水圧が高くなつた場合の漏水の調査をなした。昭和四四年一〇月二日午後一時五〇分から翌三日午後一時五〇分まで二四時間にわたり、右現場付近の水道本管の圧力を調査したところ、一平方糎当り五・三ないし五・六瓩であり、昼夜間の圧力差は、一平方糎当り〇・三瓩にすぎず夜間においても路面に漏水することは絶対にないことが判明した。

(3) そのうえ、右消火栓付近の路面は、東(今井町方面)側が高く、西(二俣川町方面)側が低い勾配をなしているので、漏水があれば、西側に流れ、東側にくぼみがあつてもこれに溜ることはないのである。

(4) ところが本件交通事故の発生当時は、消火栓の東側も西側も同様に水に濡れていたのである。しかして事故前の、同年二月二四日には雨またはみぞれが降り、翌二月二五日には小雨が降つている。すると、本件現場付近の凍結した水は、雨又はその他の自然水、または、付近住民の散水等によるものと解され、水道の漏水ではない。

(二)  本件交通事故現場付近における道路管理に瑕疵はない。

(1) 本件交通事故の発生した道路は、市道保土ケ谷、二俣川線(通称本宿街道)であり、本件交通事故現場付近の幅員は、五・五ないし五・七米、舗装は混合砕石、路盤の厚さ二〇糎、そのうえに、黒色アスフアルトコンクリートを厚さ五糎に施行したものである。

しかして、右道路の交通量は、昭和四三年一〇月一八日午前八時から午後七時までの調査によると、通過車両は上り二、四七五台、下り二、五五八台、合計五、〇三三台であり、平均一時間当り四五七台であつた。

(2) 右道路の本件事故現場付近には、昭和四四年二月四日、六日および七日の三日間にわたり、補修用常温合材(加熱しないで使用できるアスフアルト)で窪んだ箇所の補修を実施しており、同月二二日、二五日および二六日の三回にわたり、横浜市保土ケ谷土木事務所道路監督員鎌倉勇が巡回調査したが、交通上支障となるような路面の凹凸は認められなかつた。

(3) この事実は、本件交通事故の発生後である昭和四四年三月二五日、二六日、二八日および三一日の四日間にわたり、現場付近の補修工事を実施した際、この付近の路面は凹凸が少なく、補修用基盤(バインダー)を使用しなかつたことからも明白である。

(4) 本件交通事故現場付近の路面上には、多少の凹凸があつたことは認められるが、その深さは、靴のかかとが埋まる程度であつて、特に車両運転上支障となるものではない。

(5) 国家賠償法第二条の「公の営造物の設置または管理の瑕疵」とは、公の営造物を安全良好な状態に保つべき作為または不作為義務を課されている管理者が、この作為または不作為義務に違反することをいうのである。ところで、道路の維持または修繕については、道路法第四二条第一項で、道路管理者は道路を常時良好な状態に保つように維持、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように「努めなければならない」という比較的ゆるい義務を課されているのみであり、同条第二項に規定する政令はまた制定されていないのである。とすれば、道路のそなえるべき安全性は、問題とされている具体的道路を前提とし、その置かれている社会的環境から期待される安全性を基準として、被告横浜市が管理する一般の道路事情を綜合的に考え、それとの関連において判断すべきである。

本件道路において、本件交通事故の前日もしくは前々日に降つた雨、みぞれ、もしくは付近住民の散水が早朝気温の低下とともに凍結することが予想されるとしても、そのために道路管理者が早期に全市内の道路を監視、調査して、かかる凍結箇所を発見し、当該凍結箇所で車両のスリツプ事故が発生しないよう防護措置を講じなければ、管理の瑕疵があると考えるべきではない。

このことは、道路面の不良状況の性質、程度についてもいえるのであつて、路面に凹凸があればすべて安全が欠如しているわけではなく、その道路の制限速度、交通量、使用状況、その穴に落ちこむことによつて運転の体勢がくずれる可能性の有無等から判断して、その不良状況が交通の危険を直接的にもたらすような性質のものでなければならないのである。

(三)  過失相殺

(1) 仮りに、本件交通事故が市道の安全性の欠如によつて生じたものであるとしても、運転者側の運転技術、準備などによつて回避できるものである。

亡正敏は、原告車に乗り新聞配達をしていたのであるから、本件交通事故現場付近の路面状況、使用状況、交通量は当然熟知していたはずであるし、また熟知しているべきものである。したがつて、原告ら主張の如く、本件交通事故現場付近が、事故当日の三ケ月以前から水びたしの状態にあり、かつ、氷面状となつてスリツプの危険があつたのなら、亡正敏は手前でこれを認めることができたはずであるから、特に徐行するか、スリツプ危険のある箇所を回避するとか、万一の転倒事故に備えてヘルメツトその他の危険防止に役立つ装備を着用するなど注意する義務があるというべきである。

ところが、亡正敏は、ヘルメツトその他の事故防止装備もせず、本件道路の制限速度時速四〇粁を相当に越える速度で、本件交通事故現場にさしかかり、路面上のくぼみと路面左端との間には一米以上の余裕があるのに、右くぼみを避けようとせず、そのまま進行して本件交通事故を惹起したものである。

(2) 亡正敏は、本件交通事故当時満一六才四ケ月の未成年者であつた。原告らは、亡正敏が嘉山電気商会に勤務しているにもかかわらず、同商会の反対を無視して新聞配達のアルバイトをしており、配達のため原告車を購入したことを全く知らなかつた。

原動機付自転車は、その価額からみて、未成年者がその法定代理人の同意を得ずして購入しうる性質のものではなく、また、交通事情の悪い都会地でこれを運転することの危険性、特に未成年者の操作する危険性は万人の認めるところである。

原告らは、亡正敏が原告らに無断で原告車を購入したことを知つた後も、父母でありながら、その危険性の指摘、安全保持の心構えなどについて教導することなく、放置しておいた。

(3) 以上の諸事実を綜合して判断するに、仮に、被告横浜市に原告らの主張するような道路の瑕疵があつても、原告らの側に八割以上の過失があるものと云うべきである。

二  被告会社、被告菊川の請求原因に対する認否及びその主張

原告らの主張する請求原因事実中、第一項の1ないし6までの事実、及び7のうち、被告車が東から西へ、原告車が西から東へ本件道路を進行中衝突事故が発生した事実はこれを認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

本件交通事故は、原告の一方的過失によるものであつて、被告菊川にとつては不可抗力によるものである。

三  被告らの立証〔略〕

理由

一  原告らの主張する日時、場所において、被告菊川の運転する被告車が東から西へ進行中、同一同路を西から東へ対向して進行していた亡正敏の運転する原告車が衝突したことについては当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕によると、本件交通事故のため、亡正敏は胸部内臓損傷のため、昭和四四年二月二六日午前一一時五〇分死亡し、原告車は、機関部、左側バツクミラーが破損、前照灯カバーがはずれ、右ハンドルが下方に押し曲り、更に前部フエンダーの後方がへこんでいたほか、左側ステツプが上方に曲つていることが認められる。

三  本件交通事故現場付近における水道の漏水

〔証拠略〕によると、本件交通事故現場に存在する消火栓については、水道本管との接合部分に、すなわち路面下約一米二〇糎に位置する鉛コーキンクの部分に、一時間〇・五リツトル程度の漏水があつた。しかしながら、この漏水は、付近の土が砂まじりの水のしんとうし易い性質であつたことと、右水道本管の高さが、七〇米ほど離れて存する河川の水位よりも三米位高かつたため、土の中をしんとうして河川に流れ、地上へ漏水していなかつたことが認められる。右認定に反する〔証拠略〕は採用しない。

又、〔証拠略〕によると、その他付近に水道の漏水箇所があつたものと認められないから、本件交通事故現場付近においては水道の漏水はなかつたものと判断するのが相当である。

四  本件交通事故現場付近の道路の状況

〔証拠略〕によると次の事実を認めることができる。

1  本件道路は今井町方面(東)から二俣川町方面(西)に通じており、保土ケ谷区本宿町九一番地さがみや酒店の西(衝突地点から西に四〇米の地点)から南方にゆるく曲つている。道路の全幅員は五・四米で、歩車道の区別なく、道路の両側にはそれぞれ〇・二米の側溝が設けられている。

2  路面は厚さ約五糎のアスフアルトで舗装されているが、同所八五番地二宮呉服店前から隣の同所七九番地鈴木方前にかけて道路の北側半分に数ケ所の損壊部分があつて、くぼみを形成していた。

右二宮呉服店前のくぼみは、道路の北端からほぼ一米はなれた中央寄の地点に存在し、その形状は、長さ一・八米、幅一米のだ円形をしており、重量車両の通過のため、表層のアスフアルトがめくられてはがされ、その周辺は深さ五糎の断層を示していた。

3  昭和四四年二月二四日、二五日の両日にわたり雨又はみぞれが降つたためくぼみに溜つた水は薄い氷となつていた。右の認定に反する〔証拠略〕は信用することができないし、乙第八号証の一ないし三の写真は撮影位置、角度、使用レンズ等によつて陰影が千差万別となるので、右認定の障害となるものではない。

五  本件交通事故の態様

〔証拠略〕を綜合すると、被告菊川は被告車を運転して、本件道路を東から西に向つて(以上の点は当事者間に争いがない)進行中、徐行もしないで対向してくる原告車を発見してこれが三三米まで接近した際、突然前記だ円形のくぼみに落ちて右にハンドルをとられ、スリツプしながら被告車の通路に飛び込んできたので、ブレーキをかけてハンドルを左に切りこれを避けようとしたが間に合わず、被告車が一六米進行した地点において衝突したことが認められる。

六  被告らの責任

1  被告菊川と被告会社の責任

右認定事実によると、被告菊川は原告車を発見して後三三米まで接近したとき、原告車が突然前記だ円形のくぼみに落ちて被告車の進路に飛び込んできたというのである。かかる場合、被告菊川としては前記程度のくぼみがあつたとしても、原告車が対向車線を引き続き走行するものと信頼して被告車を運転すれば足り、かかる突発事故に備えてあらかじめ徐行するなど事故を未然に防止すべき注意義務はないというべきである。また、被告菊川が原告車のスリツプに気がついて、直ちに急ブレーキをかけたとしても、原、被告車の各速力、制動距離からして衝突を免れることは不可能である。そうすると、本件交通事故は被告菊川にとつては不可抗力によつて発生したものでこれに過失を認めることはできない。

また、前記認定の事実からして、被告会社の過失の有無や、被告車の構造上の欠陥機能の障害の有無は何等因果関係を有しないこと明白であるから、これらを論ずる迄もなく自賠法第三条但書の免責の抗弁は理由がある。

よつて、被告菊川及び被告会社はいずれも責任を負わないこととなるので、原告らの右被告らに対する本件請求はいずれも理由がない。

2  被告横浜市の責任

被告横浜市が本件道路の管理者であることは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、本件道路は、一般国道一号線(東海道)と通称厚木街道や県道一一号線を結ぶ唯一の要路となつており、交通量は、一分間約三〇台平均の車両が通過して、相当頻繁であることが認められる。

従つて、前記だ円形のくぼみについても、管理者である被告横浜市が速かにこれを修理するとか、或は付近に標識〔証拠略〕によれば、「車スリツプに注意事故あり」と記載した識標が認められるけれども、これが本件交通事故当時すでに存在していたことについては何等立証がない。)を掲げて、通行車両、特に単車の徐行を促すなどして危険を未然に防止しない以上、国家賠償法第二条にいう道路の管理に瑕疵があつた場合に該当するものと云わなければならない。

そして、前記認定のとおり、原告車は前記だ円形のくぼみに落ちたためハンドルを右にとられ、スリツプしながら被告車の進路へ飛び込んだというのであるから、被告横浜市は後記原告らの被つた損害を賠償しなければならない。

七  損害

1  亡正敏の得べかりし利益

〔証拠略〕によると、亡正敏は本件交通事故当時満一六才の健康な男子であり、年収は金三九六、〇〇〇円であつたことが認められる。

従つて、亡正敏の就労可能年数を四七年、同人の生活費を五〇パーセントとし、ホフマン式係数を二三・八三二として現価を算出すると、金四、七一八、七三六円となる。

2  葬式、仏具、墓石費用

〔証拠略〕によると、これらの費用の合計は金三五〇、〇〇〇円が相当である。

3  原告車破損による損害

〔証拠略〕によると、原告車は購入代金が金二〇五、〇〇〇円であり、亡正敏が二ケ月間これを使用したことが認められる。よつて、右の購入代金に減価償却率〇・九〇八を乗じて破損時の現価を算出すると金一八六、一四〇円となる。

4  相続

〔証拠略〕によると、原告両名は亡正敏の両親であるところ、同人には妻子がなかつたので、亡正敏が被告横浜市に対して有する右1、3の損害賠償請求権を相続により承継した。よつて、以上1、ないし3の原告らの損害額の合計は金五、二五四、八七六円となる。

5  過失相殺

〔証拠略〕によると、本件交通事故発生地点は原告らの住所の近くであつて、亡正敏が原告車に乗り新聞配達をしていたことから、亡正敏は本件現場付近の路面状況、交通量などについては十分に熟知していたものと推認できる。ところが、右認定のとおり、亡正敏は本件交通事故現場にさしかかり徐行をしていないし、前記だ円形のくぼみを避けようともせず、かつまた道路のカーブを右に曲るに際して体の重心の安定について細心の注意を払わなかつたため、ハンドルを右にとられてスリツプしたというのであるから、原告車運転上の過失があつたこと明白である。

そこで、右亡正敏の運転上の過失と被告横浜市の管理を怠つた過失を対比すると、その割合は五対五と判断するのが相当である。

よつて、原告らの損害額の合計金五、二五四、八七六円からその五〇パーセントを控除すると残額は金二、六二七、四三八円となる。

6  亡正敏の慰藉料

原告らは、亡正敏の慰藉料として金二、〇〇〇、〇〇〇円を請求するが、慰藉料の請求額は本来一身専属性をもち、相続性がないからこれを認めることはできない。

7  原告らに対する慰藉料

本件交通事故の原因、態様、亡正敏の過失割合その他諸般の事情を斟酌すると、原告らの精神的苦痛を慰藉すべき金額としては各金一、〇〇〇、〇〇〇円合計金二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

8  損益相殺

以上、原告らの損害額の合計は金四、六二七、四三八円となるが、すでに自賠責保険から金三、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受けているので、これを控除すると残額は金一、六二七、四三八円となる。

9  弁護士費用

本件請求は、複雑困難である上、被告横浜市の攻撃防禦の方法も精密を極めているところから、同被告を相手としても容易に賠償を得られる事件であるとは云えない。よつて、弁護士費用も困果関係に立つ損害と解すべきである。

そして、本件訴訟の困難性、経過、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌すると、弁護士費用は金二〇〇、〇〇〇円が相当である。

〔証拠略〕によると、原告らは着手金として金一〇〇、〇〇〇円を支払つていることが認められる。

八  以上により、原告らは被告横浜市に対し合計金一、八二七、四三八円の損害賠償請求権を有する。しかして、原告らの相続分は各二分の一であるから、原告らは各自被告横浜市に対して金九一三、七一九円請求できることとなる。

よつて、被告横浜市は、原告ら各自に対してそれぞれ金九一三、七一九円及び内金八六三、七一九円についは本件交通事故が発生した日の翌日である昭和四四年二月二七日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、原告らの本訴請求は、右の限度において正当であるから、その余はすべて失当として棄却する。

訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石藤太郎)

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