大判例

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横浜地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決

原告 李振華

被告 法務大臣

訴訟代理人 横山茂晴 外三名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

「法務大臣が昭和四五年一二月一八日付でなした原告の帰化申請に対する不許可処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

一、本案前の答弁

主文と同旨の判決。

二、本案の答弁

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二原告主張の請求の原因

一、原告は、かつて日本国籍(台湾籍在籍)を有していた者であるが、昭和四五年三月二三日被告に対し帰化許可申請をなしたが、被告は右申請に対し、昭和四五年一二月一八日国籍法第四条五号に抵触することを理由に帰化を不許可とする決定(以下「本件不許可決定」という。)をなし、原告はその旨の通知を同四六年一月七日受取つた。

二、しかしながら、本件不許可決定は以下の理由で違法であるから取消されるべきである。

1  原告は、昭和四年九月二八日当時日本の領土であつた台湾で出生し、それによつて日本国籍を取得していたものであるが、昭和二七年八月五日日本国と中華民国との間の平和条約の発効によつて、国籍選択の自由も許されぬまま一方的に日本国籍を喪失し、中華民国を取得させられた。しかし、原告は出生後日本人としての教育を受け、あの可酷な大東亜戦争にも、妻の実兄とともに日本帝国軍人として参戦し、緩急時の日本の国を一家総動員で守り続けた。したがつて、このような経歴を有する原告の帰化申請は国籍復帰というべきものであつて、波告が右の点を全く考慮せずに、一般外国人と同列に扱つて本件不許可決定に及んだことは不当である。

2  さらに被告は、中華民国の国籍を有したままで帰化申請をなした者に対してこれを許可した前例があるにもかかわらず、同一の条件にある原告に対してこれを許可しないのは、本来人権尊重の立場から帰化手続を自主的に行うべきである被告が中華民国政府に不当に影響された結果であつて、これこそ、国際道義に反する人権蹂躙の決定というべきである。

被告直轄の入管局が、昭和四五年一〇月ころ台湾人の在留更新の手続に関し、マスコミ等の外部の圧力によつて、破格的な判定を下したことがあるが、この一例は右被告の態度を実証したものといえる。

3  原告は、戦後も台湾より来日して以来日本のために絶えず貢献しようと努めてきたものであり、オリンピツクが日本で開催されたときは自ら通訳を買つて出たほどである。

前記のように原告が戦前、戦後を通じ日本の国威発揚に努めた等の功績を評価すれば、原告には国籍法第七条にいう特別許可を与えられてしかるべきであると考える。

4  したがつて、以上の点を総合すれば、被告のなした本件不許可決定はその裁量権を乱用したものといえるから、行政事件訴訟法第三〇条により違法な処分として取消されるべきである。

第三被告の主張

(本案前の抗弁)

本件不許可決定は、いわゆる抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、本件訴えは不適法として却下さるべきである。

1  すなわち、一般に抗告訴訟の対象となる行政処分とは、行政庁の公権力の行使にあたる行為であつて、これにより国民の権利義務ないし法律関係に影響を与えるものでなければならないところ、本件で問題となつている帰化申請は、もつぱら当該外国人が日本国籍を被告より付与されるについての事前の同意承諾としての性質のみを有するものであつて、行政庁に対し一定の行政処分をすることを求める権利に基づく申請ではなく、したがつて、これを被告が拒否しても、当該外国人の権利義務ないし法律関係に影響するところはないのであるから、本件不許可決定に右にいう行政処分ということができない。

2  また、本件訴えの適否を行政庁の裁量という観点から見ると、帰化の許否は被告の全くの自由裁量に属し、したがつて帰化申請に対する不許可はこの点から見ても抗告訴訟の対象とならず本件訴えは不適法である。

(本案についての認否および主張)

一、請求原因一項の事実は認める。同二項の事実は知らない、またその主張は争う。

二、原告は、国籍法第四条第五項に定める「国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。」の条件を欠くものであつたから、本件不許可決定は適法である。すなわち、右条項は、日本国籍を取得すれば自動的に外国籍を失うことを要件として定めているものであつて、例えば日本の国籍法第八条の如き規定のある場合をいうのである。しかるに、中華民国国籍法には、そのような規定はなく、かえつて同法第一一条には、自己の志望により外国の国籍を取得する者は、内務部の許可を得て、中華民国の国籍を喪失することができる。」との規定があり、この規定は、自己の志望によつて外国籍を取得しても、当然には中華民国籍を失うものではないことを前提とするものと解される。したがつて、中華民国の国籍を有する者は、我が国籍法第四条第五号の条件を具備しないものである。中華民国の国籍を有する者が日本国に帰化しようとする場合には、予め、中華民国国籍法により、中華民国籍を失つておかなければならない。しかるに原告は、中華民国の国籍を保有したまま本件帰化申請に及んだものであるから、被告がこれを不許可としたのは適法であるといわざるをえない。よつて、原告の本訴請求は失当として棄却さるべきである。

第四証拠〈省略〉

理由

一、本件訴えは、被告のなした本件不許可決定の取消を求めるものであるが、先ず右不許可決定がそもそも行政事件訴訟法第三条第二項所定の「処分」に該当するものであるかについて検討するに、右にいう「処分」とは、行政庁の公権力の行使にあたる行為であつて、これにより国民の権利義務ないし法律関係に影響を与えるものでなければならないというべきであるから、本件不許可決定が右「処分」に該当するかどうかは、帰する所、本件不許可決定によつて、申請人がその本来有する権利義務ないし法律関係に影響を受けるものであるかどうか、という点にある。

二、そこで右の点について考察するに、一般に帰化の許可は、当該外国人の申請に基づきその者に対してその国民たる包括的な身分ないしは地位を内容とする法律関係を新らたに設定するいわゆる形式的行為であると考えられ、一旦右許可がなされてその国民となると外国人には与えられない公法上ならびに私法上の諸権利を内国人と同様に享受しうるのであり、右諸権利の行使はその国民に重大な影響を与える一方、原則として国家が一旦与えた国籍はこれを一方的に剥奪することができないのであるから、国家がいかなる外国人をして帰化を許可するか。否かを定めることはその国の国内法が自由にこれを決しうるところである。けだし、特定の人間の構成する共同体がいかなる非構成員をその構成員とするかは全くその共同体構成員の自由な意思に委ねられているものと考えられるからである。

したがつて、特定の国家がその国民の定める法により外国人に対し一定の条件を具備したならばその国民となりうる旨特別に宣明しない限り、外国人は当然にはその国民となることを請求する権利を有するものではないものと解すべきである。

三、そこで日本国におげる現行の国籍法(昭和二五年法律第一四七号)が果して前記のように外国人に対し一定の条件を具備したならば当然に日本国籍を与える旨規定しているか否かを検討するに、同法第四条によれば、「法務大臣は左の条件を備える外国人でなければその帰化を許可することができない。」旨規定しているところ、右文理ならびに帰化の意味を併せ考えるならば、同条は少なくともその第一号ないし六号の条件を充足しない限り被告は当該外国人の帰化を許可してはならないことを指示して、法務大臣に対し帰化許可の基準を示して適正なる帰化手続の運用を期待したに止まり、積極的に当該外国人に対し前記各号の条件を有するならば当然に帰化の許可を得ることができ、法務大臣はその許可を与えねばならないことまでを規定したものではないと解するのが相当である。さらに国籍法第五条ないし第七条については前記最低限備えるべき第四条各号のいづれかを欠くときでも一定の要件の下に帰化を許可することができる場合のあることを規定したにすぎず、その趣旨は前記第四条のそれと同様であるこというまでもない(なお、原告主張のように、日本国と中華民国との間の平和条約発効前に日本国籍(但し、台湾籍在籍)にあつた者が、同条約によつて日本国籍を喪失した後に帰化申請をする場合においても、右と特別異なつた解釈をしなければならない理由は見出し得ない。)。

四、されば、原告がなした帰化申請は、もつぱら外国人たる原告が日本国籍を被告により付与されるについての事前の同意承諾としての性質のみを有するものと考えるべきであり、これに対し被告により本件不許可決定がなされたところで原告はそれによつて従来有していた権利を喪失するわけでもなければ、法律関係に不利益な変更を受けるわけでもないのであるから、本件不許可決定は単たる事実上の措置にすぎず、行政事件訴訟法第三条第二項にいう「処分」に該当しないというべきであり、抗告訴訟の対象とならないものである。

五、よつて、原告の本件訴えは不適法であるから本案についての当否を判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蕪山厳 佐藤歳二 桜井康夫)

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