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横浜地方裁判所 昭和52年(行ウ)19号 判決

茨城県取手市戸頭三丁目三二の二八

原告

金沢豊

右訴訟代理人弁護士

萩原剛

早瀬川武

萩原克虎

神奈川県平塚市松風町二丁目三〇番地

被告

平塚税務署長

下村慧

右指定代理人

金沢正公

古俣与喜男

水庫信雄

酒井義昭

小野政一

鳴海悠祐

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五〇年分所得税について昭和五一年八月三一日付でなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、会社員であるが、被告に対し、昭和五一年三月一五日、原告の昭和五〇年分所得税について、総所得金額(給与所得の金額)を一六四万二〇〇〇円とし、また、原告が昭和四六年四月一五日、日本住宅公団から取得し、居住の用に供していた別紙目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」といい、土地、建物をそれぞれ「本件土地」及び「本件建物」という。)を昭和五〇年七月三一日訴外大槻信夫に対し代金九六五万円でなした譲渡に係る短期譲渡所得の金額については、租税特別措置法(昭和五三年法律第一一号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条一項を適用し、特別控除後の短期譲渡所得の金額はないものとして、課税総所得金額を六六万九〇〇〇円(所得控除九七万二九四三円)、課税短期譲渡所得金額を〇円、課税総所得金額に係る所得税額を六万七八〇〇円、源泉徴収税額を六万七八〇〇円、納付税額を〇円とする確定申告をした。

2  被告は、昭和五一年八月三一日、短期譲渡所得の金額について措置法三五条一項所定の特別控除の適用を否認し、総所得金額(給与所得の金額)を一六四万二〇〇〇円、短期譲渡所得の金額を五三六万二〇〇〇円、課税総所得金額を六六万九〇〇〇円(所得控除九七万二九四三円)、課税短期譲渡所得金額を五三六万二〇〇〇円、課税総所得金額に係る所得税額を六万七八〇〇円、課税短期譲渡所得金額に係る所得税額を二一四万四八〇〇円、源泉徴収税額を六万七八〇〇円、納付税額を二一四万四八〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を一〇万七二〇〇円とする賦課決定処分をした。

3  そこで、原告は、右各処分(以下「本件処分」という。)を不服として同年九月一七日被告に対し異議申立をなしたところ、被告は、同年一一月一〇日右申立を棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年一二月一一日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五二年六月一五日審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書の謄本は、同月一七日ころ原告に送達された。

4  しかしながら、原告が譲渡した本件土地建物は、措置法三五条一項にいう居住の用に供している家屋及びその敷地の用に供している土地であるから、同法三五条一項の適用がないとしてなされた本件処分は違法であり、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。但し、原告が譲渡した昭和五〇年七月三一日より前の昭和四八年二月一六日ころから、本件土地建物は、原告の居住の用に供されなくなっていた。

2  同2及び3の事実は認める。

3  同4の主張は争う。

三  被告の主張

原告のなした確定申告のうち、本件土地建物の譲渡に係る短期譲渡所得の金額に関しては、次のとおり、措置法三五条一項の適用は受けられないので、被告は右規定の適用を否認して、原告主張のとおりの本件処分をしたものであって、本件処分は適法である。

1(一)  措置法三五条一項は、居住用財産の譲渡所得の特別控除として「個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡をし」た場合には、その特別控除ができる旨規定し、これを受けた同法施行令二三条一項は「個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうち居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。以下この項において同じ。)とし……(以下略)」と規定して、「居住の用に供している家屋」の適用範囲を明確に限定している。

(二)  ところで、措置法は租税負担の特例を定めるものであるから、同法が規定する負担軽減の要件は厳格に限定解釈されるべきであり、拡張解釈が許されるものではない。そして、同法三五条一項が右のとおり、「居住の用に供している家屋」の適用範囲を同法施行令によって明確に限定しているのであるから、なおさら厳格な解釈が維持されなければならず、同法三五条一項は、家屋の所有者又は家屋の所有者と生計を一にする親族が、日常生活の本拠として現に「居住の用に供している家屋」を譲渡した場合にのみ適用されると解すべきは当然のことである。従って、現に日常生活の本拠として居住の用に供されている家屋でない以上、家屋の所有者にとって唯一の不動産であっても右規定の適用はないのである。

(三)  同法三五条一項は、右のように解釈されるのであるが、居住の用に供されている家屋を譲渡する場合においては、不動産取引の実情からして譲渡時までに当該家屋に「現に」居住することが事実上困難な場合も十分予測されるので、譲渡時において現に生活の本拠として居住している場合でなくしても、法律の適用上「居住の用に供している」と同視し得る場合には適用を認めるのが妥当な解釈と解される。

いかなる場合が右「同視し得る場合」と言えるのかについては、税務執行上「その居住の用に供している家屋(中略)を譲渡するためその家屋を空家とした場合において、その後その家屋を貸付けその他業務の用に供することなく、その空家とした日から一年以内に譲渡したとき」は、措置法三五条一項に該当するとの取扱(措置法通達三五-一の六、以下「本件通達」という。)が参考となる。右のように一年以内に譲渡した場合に限っているのは、同法三五条一項「又は」以下で規定している「災害により滅失した居住用家屋の敷地の譲渡」においてさえ一年の期間制限が設けられることと対比しても、きわめて合理的な制限ということができ妥当である。

2(一)  原告は、昭和四六年四月一五日本件土地建物を日本住宅公団から取得し、自己の生活の本拠として居住していたが、昭和四八年二月一六日、本件土地建物から平塚市山下九八三番地所在の社宅に移転し、以後同所を生活の本拠として妻子(昭和四九年四月一〇日長女出生)とともに居住しており、本件土地建物を生活の本拠として居住の用に供することはなく、昭和五〇年七月三一日に本件土地建物を譲渡した。

(二)  右のとおり、本件土地建物が譲渡された当時の原告の生活の本拠は、本件土地建物ではなく、平塚の社宅であり、また、社宅に転居後二年五か月を経過して本件土地建物が譲渡されているのであるから、本件土地建物の譲渡は、措置法三五条一項に規定する「居住の用に供している家屋」及びその敷地の用に供している土地の譲渡に該当しない。

3  本件土地建物の譲渡に係る短期譲渡所得の金額は、収入金額九六五万円から、本件土地取得費一七八万円、本件建物取得費二二〇万八〇〇〇円、譲渡費用三〇万円の合計四二八万八〇〇〇円の必要経費を控除した五三六万二〇〇〇円であり、右のとおり、措置法三五条一項の規定による特別控除の適用はなく、課税短期譲渡所得金額は五三六万二〇〇〇円となる。

従って、右譲渡所得の金額に原告が確定申告した給与所得の金額一六四万二〇〇〇円を加えてなした被告の本件更正処分は適法である。

4  被告は、国税通則法六五条一項の規定を適用し、本件更正処分により納付すべき所得税額二一四万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した一〇万七二〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分を行なった。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、本件通達に基づいた取扱がなされていることは認め、主張は争う。

2  同2(一)のうち、原告が社宅に転居後本件土地建物を居住の用に供していなかったとの事実は否認し、その余の事実は認める。

同2(二)の主張は争う。

3  同3のうち、収入金額、各必要経費額及び短期譲渡所得の金額は認め、その余の主張は争う。

4  同4の計算は認める。

五  原告の反論

1  措置法三五条一項の「個人が、その居住の用に供している家屋」の解釈としては、「家屋の所有者又は家屋の所有者と生計を一にする親族が日常生活の本拠として現に居住の用に供している家屋」に限られず、「家屋の所有者又は家屋の所者者と生計を一にする者が、継続して居住する意思の下に従来これに居住し、現在、居住の用に供していなくとも、将来にわたって居住すべく事実的支配をしている家屋」も含まれると解すべきである。

すなわち、継続して居住する意思という主観的要素があって、将来一定の時期に使用することが予定されていて、それ相応の事実的支配が行なわれている回帰的・潜在的居住の場合も、日常生活に使用されているとか対外的にも明らかな本来的・顕在的居住の場合とともに「居住の用に供している家屋」ということになる。そして通常は、右の回帰的居住と本来的居住は一体となっており、右居住は現代社会で一時的に分離はしても後日一体化されることが予定されているのである。

このことは措置法三五条一項の「居住の用に供している」という文言上の意味から充分理解されるところであり、右文言上の解釈をも逸脱しないものである。しかも右の如く解釈しないと措置法三五条の立法趣旨が、居住用財産の譲渡によって生じた所得は、通常その後の居住用財産の取得に投下される場合が多いので、譲渡者の右財産取得を容易にするためと、右所得に課税するとその課税分だけ居住用財産は、減額し先ぼそりの状態が生ずるので特別控除を規定することにより国民生活における住居生活の安定を確保することろにその目的があるにもかかわらず、その大眼目が阻害されることになるからである。さらに、前述の「潜在的居住」の場合が除外されるとするとこの規定による措置を受けようとする国民は「潜在的居住」をひとたび前述の「顕在的居住」に戻した上でこれを譲渡することとなり、右規定の適用を受けようとする国民に不当な出捐を強いることとなるばかりか、形式的法の運用として国民の国の法適用に対しての信頼を失わしめることとなる。

2(一)  原告は、昭和四六年四月一五日、本件土地建物を購入し、以後本件建物に居住して東京都中央区の東京芝浦電気株式会社に勤務していたところ、昭和四七年一〇月一六日平塚市所在の同社湘南電設営業所に転勤を命ぜられ、本件建物から右営業所に通勤していたものであるが、右通勤が不便であることから昭和四八年二月以降平塚市所在の社宅に転居し、そこから右営業所に出勤することになった。

(二)  原告は、平塚の右営業所勤務は一、二年で終るものと考えていたので、家財道具類も最少限度の移転にとどめ、本件建物は、一、二年後には従前どおりの居住状態にもどるものとして、戸閉りしたが、それでも週二日程度は本件建物に帰り、清掃等を行なうほか宿泊などして居住の用に供し、他人に貸すということもなく原告において事実的支配をしてきたものである。

なお、原告は、昭和五〇年に至り本件土地建物を売却する意思を固め、同年一月に本件建物を空家とし、同年七月本件土地建物を譲渡した。

3(一)  右のとおり、原告は、本件建物に今後も継続して居住する意思があり、近い将来の一定の時期に本件建物を使用することを予定し、それに従った事実的支配をしていたものである。従って、原告の本件土地建物は、居住の用に供している家屋等に該当し、措置法三五条の適用がある。

(二)  また、原告が本件建物を空家としたのは、昭和五〇年一月であるから、本件通達にいう「空家とした日から一年以内に譲渡したとき」に該当し、本件土地建物の譲渡には、措置法三五条の適用がある。

六  原告の反論に対する認否

原告の反論は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証(金沢温子が昭和五〇年六月本件建物において撮影した写真である。)

2  原告本人。

3  乙第一、第二号証、第五号証の三、第七号証の三ないし一〇、第八号証の三の原本の存在及びその成立並びにその余の乙号証の成立は、いずれも認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし一〇、第八号証の一ないし三

2  甲第六号証が原告主張のとおりの写真であることは不知。その余の甲号各証の成立は、いずれも認める。

理由

一  請求原因1ないし3の事実(ただし、本件土地建物が昭和四八年二月一六日以降昭和五〇年七月ころまで原告の居住の用に供されていたとの点を除く。)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件土地建物が措置法三五条一項に規定する居住の用に供している家屋及びその敷地の用に供されている土地に該当するか否かについて検討する。

1  措置法三五条一項は、居住用財産の譲渡所得の特別控除が適用される要件として、「個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの」を譲渡した場合と規定し、右政令の定めとして同法施行令二三条一項は、「個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。以下この項について同じ。)とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする。」と規定している。

ところで、措置法三五条の規定の趣旨は、居住用財産を譲渡した場合、通常新たに居住用代替財産の取得がなされることと通常の居住用財産であれば特別控除額の範囲内で取得できるであろうとの配慮から、その譲渡所得について従前とられていた課税の繰り延べ(昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法三五条所定の居住用財産取得のための買換の特例)によらず、特別控除という免税制度により、居住用代替財産の取得を容易にする趣旨に出たものということができ、また、居住の用に供されている家屋を譲渡する場合においては、不動産取引の実情からして、譲渡時まで当該家屋に「現に」居住することが事実上困難な場合も十分予測されることなどに鑑みれば、措置法三五条一項の解釈として、文字どおり「居住の用に供している家屋」を譲渡した場合、すなわち、譲渡時において現に居住している場合にのみ同条の適用があると解することは、妥当な解釈ということができない。しかしながら、措置法三五条は、譲渡所得の特別控除という租税負担の軽減を定める規定であって、その解釈適用に当っては厳格性及び明確性を要請されるところ、同条が文理上「居住の用に供している家屋」と規定し、しかも、前記のとおり、同法施行令二三条一項がその適用範囲を限定し、現実に生活の本拠として居住の用に供している一つの家屋としていることからすれば、措置法三五条は、現に居住の用に供されている家屋について規定したものであることが明らかであって、居住の用に供されなくなった家屋も当該家屋の所有者が継続して居住する意思の下に従来これに居住し、将来にわたって居住すべく事実的支配をしている場合には当然に「居住の用に供している家屋」に含まれ、同条の適用があるとすることは相当でない。

前記措置法三五条の規定の趣旨、同条の解釈適用上の要請等に鑑みれば、居住用家屋の譲渡として措置法三五条が適用されるのは、生活の本拠として現に居住の用に供している家屋を譲渡した場合、又は、譲渡時に近接する時期までこれを生活の本拠として居住の用に供しており、譲渡に至るまでの期間及びその間の使用状態などからみて、法律の適用上居住の用に供していると同視しうる場合に限られると解するのが相当であり、法律の適用上もはや居住の用に供していると同視できない程に月日が経過し、又は、居住用以外の他の用途に供している場合には、仮令、当該家屋が生活の本拠として居住の用に供されていたものであって、爾後も継続してこれに居住するという主観的意思があり、将来一定の時期に使用することを予定し、それ相応の事実的支配、管理を行なっていたとしても、すなわち、原告のいう回帰的、潜在的居住にあたる場合であっても、同条の適用はないものというべきである。

2  ところで、措置法三五条は、「災害により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡」の場合については特別控除の特例を認めているが、これは、居住の用に供されていた財産について、居住の用に供されなくなってからもなお同条の適用を認めようとするものであって、現に居住していない場合にもなお「居住の用に供している」と同視しうるか否かの一つの判断基準といえるところ、同条の適用があるのは「その災害のあった日から一年以内に」譲渡をした場合に限られており、また、弁論の全趣旨によれば、税務執行上「居住の用に供している家屋」を文字どおり解釈適用すると、居住用財産を譲渡するに至った経緯、不動産取引の実情等に照らして相当でない場合も生ずるとして、税務当局では、本件通達のとおり「その居住の用に供している家屋(中略)を譲渡するため、その家屋を空家とした場合において、その後その家屋を貸付けその他業務の用に供することなく、その空家とした日から一年以内に譲渡したとき」は措置法三五条一項に該当するとして取扱っていること(なお、本件通達に基づいた取扱がなされていることは当事者間に争いがない。)を認めることができ、右取扱は極めて妥当なものといえる。

そして、右災害により滅失した居住用家屋の敷地に関する規定や税務執行上の取扱等に鑑みれば、特段の事情のない限り、生活の本拠として居住の用に供していた家屋を居住の用に供さなくなった日から一年以内に譲渡した場合にも、なお居住の用に供していると同視しうる場合として措置法三五条の適用があると解するのが相当である。

3(一)  原告は、昭和四六年四月一五日、本件土地建物を日本住宅公団から取得し、以後本件土地建物を自己の生活の本拠として居住していたが、昭和四八年二月一六日本件建物から平塚市山下九八三番地所在の社宅に移転し、以後右社宅を生活の本拠として妻子(昭和四九年四月一〇日長女出生)とともに居住していたこと及び昭和五〇年七月三一日本件土地建物を訴外大槻信夫に代金九六五万円で譲渡したことは、当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない乙第一、第二号証、第五号証の三、第七号証の三ないし一〇、第八号証の三、いずれも成立に争いのない甲第一号証、第二、第三号証の各一ないし三、第四、第五号証の各一、二、乙第三号証、第四ないし第八号証の各一、二、原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、本件建物に居住して東京芝浦電気株式会社に勤務していたところ、昭和四七年一〇月一六日、平塚市所在の同湘南電設営業所に転勤を命ぜられ、本件建物から右営業所に通勤していたが、右通勤が不便であるうえ仕事の都合もあって、原告は、昭和四八年二月一六日妻温子とともに前記平塚市山下にある一戸建の社宅に転居し(その旨の転入届は同年三月二七日なされた。)、以後右社宅を生活の本拠として居住し、昭和四九年四月一〇日には長女智帆が生まれ、本件土地を譲渡した昭和五〇年七月三一日当時も、右社宅に親子三人で生活していた。

(2) 本件土地建物は、日本住宅公団との約定により原則として購入後五年以内は譲渡ができないものであり、また、平塚の営業所勤務は二、三年位で済むものと考えていたこともあって、原告は、社宅に転居するに際し、本件土地建物を売却しようとする意思はなかった。そして、平塚の社宅が手狭なこともあって、原告は、転居後も不必要の家財道具は本件建物に残すこととし、昭和四八年九月ころまでは、転居先の平塚の社宅から週末に家族とともに本件建物に宿泊する等利用し、また、友人に利用させたりしていた。なお、その後も原告は清掃などのために時々本件建物に立ち寄り本件建物を管理していた。

(3) 原告は、転居後も本件建物に電話を置いたままにしていたが、社宅に電話がないのは不便であるとして、昭和四九年七月一〇日には本件建物から社宅に電話を移設し、また、そのころから近く転勤の見込もないことを感得するようになり、同年一一月ころには本件土地建物の売却を考え、同僚に話を持ちかけたりしていた。その後、昭和五〇年四月に至って、ついに不動産業者に売却の申出をし、日本住宅公団の譲渡承諾を得て売却の話を進め、同年六、七月ころには本件建物から家財道具の搬出も終えて、同年七月末に本件土地建物を譲渡した。

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  右のとおり、原告は、本件建物から平塚の社宅に転居し、生活の本拠を右社宅に移した後も、本件建物に一部家財道具を置き、週末に立ち寄って清掃したり、宿泊利用したりして本件建物を管理していた事実を認めることができる。しかしながら、右事実によれば、原告が平塚の社宅に移転した昭和四八年二月一六日以降も本件建物を生活の本拠としての居住の用に供していたとは到底認めることができない。

なお、原告は、前掲甲第一号証によって認められる都市ガスの閉鎖が昭和五〇年一月二八日であることを根拠に、本件建物を空家としたのは昭和五〇年一月であると主張するようであるが、前示認定の事実に徴すれば右主張は認め得ないし、仮に原告が本件建物を空家としたのが昭和五〇年一月であったとしても、前記認定のように原告はこれに先立ち昭和四八年二月一六日ころに、本件建物から平塚の社宅に生活の本拠を移し、本件建物を居住の用に供しなくなっていたのであるから、右主張はその前提において採用に由ないというべきである。

そうすると、居住の用に供している家屋を空家とした日から一年以内に譲渡した場合について定めた本件通達の場合に該当しないことは明らかであり、また、原告は、前示のとおり本件建物から転居し、居住の用に供さなくなってから二年五か月後に本件建物を譲渡しているのであるから、法律の適用上もはや居住の用に供していると同視できる場合に該当しないというほかはない。

結局、原告の本件土地建物の譲渡は、措置法三五条一項にいう「居住の用に供している家屋」及びその敷地の用に供されている土地の譲渡に該当せず、右譲渡に係る短期譲渡所得については同条による特別控除の適用はないものと解すべきである。

三  本件処分の適法性

1  本件土地建物の譲渡に係る短期譲渡所得の金額が、収入金額九六五万円から、本件土地取得費一七八万円、本件建物取得費二二〇万八〇〇〇円、譲渡費用三〇万円の合計四二万八〇〇〇円を控除した五三六万二〇〇〇円であることは当事者間に争いがなく、前記説示のとおり、措置法三五条一項の規定による特別控除の適用はないから、同法三二条一項により課税短期譲渡所得金額は五三六万二〇〇〇円となり、右譲渡所得の金額に原告が確定申告した総所得金額(給与所得の金額)を加えてなした被告の本件更正処分には、原告主張の違法はなく、右更正処分は適法である。

2  以上の事実によれば、被告が国税通則法六五条一項に基づき、本件更正処分により納付すべき所得税額二一四万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する一〇万七二〇〇円の過少申告加算税を賦課したのは適法である。

四  よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 三宅純一 裁判官 桐ケ谷敬三)

目録

横浜市神奈川区羽沢町九四七番地一所在

日本住宅公団分譲住宅第四街区八号棟第四〇一号室及び右住宅に係る敷地の持分。

以上。

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