大判例

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横浜地方裁判所 昭和59年(ヨ)1258号 決定

債権者 横澤仁志

右代理人弁護士 石田省三郎

同 丸山輝久

債務者 全国電気通信労働組合

右代表者 山岸章

右代理人弁護士 水嶋晃

同 小池貞夫

主文

一  債務者は、債権者が債務者組合関東地方本部横浜支部中山分会において行われる役員選挙(立候補届出日昭和五九年八月一五日、投票日同月二〇日より同月二三日まで)に際し、右分会組合員に対し別紙1及び2の内容の選挙用チラシを配布するのを妨害してはならない。

二  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一債権者の申立及び主張

債権者は、主文と同旨の裁判を求め、その理由として大要「債権者は、債務者組合関東地方本部横浜支部(以下「横浜支部」という)中山分会(以下「中山分会」という)に所属する組合員であるところ、昭和五九年八月、中山分会において施行される同分会書記長、横浜支部大会代議員等の選挙(以下「本件選挙」という)に際し、同月一五日、同分会書記長及び横浜支部大会代議員の侯補者として立候補の届出をするとともに、中山分会選挙管理委員会(委員長荻久保登)に対し別紙1及び2の内容の選挙用チラシにつき検印を求めた。しかるに右選挙管理委員会は、右チラシに検印することを拒否してこれを債権者が中山分会の組合員らに配布することを妨害している。よって右チラシの配布を妨害してはならないことを求める。」旨を述べた。

第二当裁判所の判断

一  債務者が電気通信産業関係労働者らによって構成された労働組合であること、同組合には、中央本部のほか、地方組織として地方本部、支部及び分会があること、債権者が中山電報電話局(横浜市緑区中山町五三三番地一)電報課に勤務する日本電信電話公社の職員であり、中山分会に所属する組合員であること、債務者組合の代議員、役員及び各種委員等はいずれも同組合に所属する組合員による選挙によって選出されることになっており、組合員は、右代議員等を選挙し、選挙される権利を有していること、債権者が本件選挙(立候補届出日昭和五九年八月一五日、投票日同月二〇日より同月二三日まで)に際し、同月一五日、中山分会書記長及び横浜支部大会代議員の候補として立候補の届出をするとともに、中山分会選挙管理委員会に対し別紙1及び2の内容の選挙用チラシにつき検印を求めたところ、同委員会が右チラシに検印することを拒否したことは当事者間に争いがない。

二  債務者の全電通横浜支部選挙管理細則によると、同選挙管理細則は、全電通選挙規程、全電通関東地方選挙規程及び全電通横浜支部組織運営規程に基づくものであるが、支部大会代議員等の選挙に関し、「組織内選挙における選挙活動は、すべて全電通の団結を守り、さらに運動を発展させる目的にかなうものでなければならない。したがって、事実に反する主張や各級執行機関に対する中傷・ひぼうなどは、一切行ってはならない。」(第一四条)、選挙運動については、「明らかに事実と相違する内容をふくむ言動および文書であると認めた場合。」、「明らかに特定個人の中傷、ひぼうにわたる言動ならびに文書。」等を禁止する(第一七条)とし、チラシ等の配布による選挙運動について選管の検印を必要とする旨を規定していることが、また支部選挙管理細則分会準用規準によると、分会における各種組織内選挙に関し、「分会選挙管理委員会は、チラシの内容について事実に反しないか、または各級執行機関並びに個人に対する中傷・ひぼうにわたらないかを慎重に審査して検印するものとし、疑義がある場合は上級機関の指導を受けるものとする。」(第四条)と規定していることが一応認められる。

しかして、一件記録によれば、中山分会選挙管理委員会が債権者の前記チラシに検印することを拒否したのは、別紙1及び2の傍線部分の記載内容が事実に反すること等を理由とするものであることが一応認められる。

しかしながら、組合内においても言論の自由が保障されるべきことは当然であって、組合員が組合内において組合政策や組合執行部に関する言論・批判活動を行い得ることは組合民主主義のために不可欠ともいうべきことがらであり、殊に組合内の選挙に関連してチラシの内容が問題となっている本件にあっては、その重要性は言うまでもなく、その規制を行うにあたっては右の重要性に十分な配慮がなされるべきである。これを本件についてみると、別紙1及び2には「なれあい路線」等の記載があり、一見すると前記選挙管理細則第一四条に反するかのような印象を与えないわけではないが、これも組合民主主義の観点からみれば、一概に事実に反するとか、中傷・ひぼうであるとすることもできず、むしろこれも一個の評価の仕方であるとみて、これに対する判断は組合員たる選挙人に委ねるべきであると思料される。その他別紙1及び2の記載内容が前記選挙管理細則及び準用規準に違反することを疎明するに足る資料はない。

以上によると、債権者は、前記選挙管理細則及び準用基準によって選挙運動としてのチラシの配布が許される場合であるにもかかわらず、中山分会選挙管理委員会によって、検印を拒否することにより別紙1及び2の内容の選挙用チラシの配布を妨害されているのであるから、これが妨害の禁止を求める権利を有するというべきである。

三  次に保全の必要性について検討するに、一件記録によれば、債権者が前記内容のチラシを配布することは、債権者の主張を他の選挙人たる組合員に知らしめるための重要な選挙運動であり、しかも選挙運動期間が昭和五九年八月一五日から同月一九日までであることが一応認められることからして、これを肯定すべきである。

四  よって、本件仮処分申請は理由があるから保証を立てさせないでこれを認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 吉田徹)

〈以下省略〉

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