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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)22号 判決

横浜市中区福富町東通3番地の9

原告

大進建設株式会社

右代表者取締役

守屋新一

右訴訟代理人弁護士

関野昭治

福島啓充

新堀富士夫

河野孝之

谷口亨

同市同区山下町37番地9 横浜地方合同庁舎

被告

横浜中税務署長 山田康王

右訴訟代理人弁護士

川井重男

右指定代理人

門西栄一

時田敏彦

高瀬正毅

添田稔

越智敏夫

木村武義

安井和彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が昭和61年4月30日付けでした原告の昭和58年4月1日から同59年3月31日までの事業年度(本件事業年度)の法人税の更正のうち,所得金額29,082,208円,納付すべき税額7,215,300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし,いずれも異議決定により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は,約2,000,000,000円債権放棄を貸倒損失として損金に算入し,法人税を申告した原告が,これを寄付金と認定して更正を行った被告の措置を争い,更正処分等の取消しを求めたものである。

一  原告の債権放棄(争いがない。)

1  原告は,株式会社緑建(緑建)からゴルフ場の建設を請け負い,広島県山県郡豊平町吉木にゴルフ場(本件ゴルフ場)を完成させた。同ゴルフ場は,豊平カンツリークラブの名称で,昭和58年4月に仮オープンし,翌59年4月に正式オープンした。

2  緑建は,昭和59年3月27日解散した。

3  原告は,緑建が債務超過のため解散したとして,同社に対して有していた2,026,836,212円の債権(本件債権)を同月30日放棄した(本件債権放棄)。本件債権の内訳は,本件ゴルフ場の請負工事代金の未収債権1,958,457,225円及び貸付金68,378,987円である。

二  本件課税処分等の経緯(争いがない。)

原告は,本件債権放棄にかかる金額を貸倒損失として損金の額に算入して法人税を申告したが,被告は,これを寄付金と認定して更正及び過少申告加算税賦課決定(本件課税処分)をした。

原告の法人税申告及び被告の本件課税処分等の経緯は,別表一のとおりである(以下,同表の更正及び賦課決定(ただし,いずれも異議決定により一部取り消された後のもの。)を「本件更正」及び「本件賦課決定」という。)。原告は,昭和63年6月25日,審査請求を棄却する旨の裁決書謄本の送達を受けた。

三  本件課税処分の根拠に関する被告の主張

1  所得

原告の所得金額は,次のとおり原告の申告所得金額に一定の加算をし,更に一定の減算をして算出された1,955,277,412円である。

(一) 申告所得金額 29,082,208円(争いがない。)

(二) 加算 2,192,110,497円((6)を除き争いがない。)

(1) 工事原価過大計上 153,735,672円

(2) 工事収入計上もれ 35,747,895円

(3) 事務用品費過大計上 48,750円

(4) 雑費過大計上 331,000円

(5) 燃料費過大計上 520,260円

(6) 寄付金の損金不算入 2,001,726,920円

本件債権放棄により,原告は,緑建に対して経済的利益を供与したものであり,右経済的利益の供与は,法人税法37条の寄付金の支出に該当する。これに法人税法37条2項,同法施行令73条を適用して寄付金の損金不算入額を計算すると,別表二のとおり,2,001,726,920円である。

(三) 減算 265,915,293円(争いがない。)

(1) 工事収入過大計上 217,251,767円

(2) 雑収入過大計上 683,075円

(3) 給料計上もれ 32,180円

(4) 福利厚生費計上もれ 337,111円

(5) 貯蔵品費計上もれ 4,900,404円

(6) 貸倒損失計上もれ 10,500,000円

(7) 繰越欠損金の損金算入 32,210,756円

2  法人税額及び過少申告加算税額

右の金額に基づき計算した法人税額は816,217,200円であり,過少申告加算税は80,266,500円である。

四  原告の反論(原告の主張する違法事由)

本件債権放棄にかかる金額は,貸倒損失として損金に算入することが認められるものである(法人税基本通達9-6-1,同9-6-2)。また,本件債権放棄には相当な理由があるから,これによる原告の損失は,寄付金の額に該当しない(同9-4-1)。

五  争点

1  本件の争点は,本件債権放棄が寄付金に該当するか否かである。

2  争点に関する被告の主張

本件債権放棄にかかる金額は,法人税法37条の規定する寄付金に該当する。すなわち,本件債権放棄の時点において,本件債権は未だ全額が回収不能であるとはいえず,本件債権放棄にかかる金額は,貸倒損失にあたらない。また,同金額は,法人税基本通達9-4-1の認める損金にもあたらない。

(一) 緑建解散時の財産状態について

緑建の解散時の資産及び負債の状況は,別表三のとおりであり,総資産の額は4,126,631,772円,総負債の額は4,686,861,444円である(争いがない。)

緑建が債務の返済に充て得る資産の額は,総資産の額4,126,631,772円から,不渡手形の額4,244,600円及び開業費の額290,437,561円を控除した3,831,949,611円である。

総負債の額のうち,長期預り金1,287,657,738円は,本件ゴルフ場の会員からの預り保証金であって,開場の日(昭和58年4月)から10年間無利息で据え置かれ,据え置き期間経過後に会員から請求があった場合に返済すべきものである(争いがない。)。したがって,返済を要する負債の額は,総負債の額4,686,861,444円から,当面返済を要しない会員からの右預り保証金1,287,657,738円を控除した3,399,203,706円である。

よって,債務の返済に充て得る資産の額は,当面返済を要する負債の額より432,745,905円多く,本件債権放棄の時点で本件債権は未だ全額が回収不能であるとはいえなかったことが明らかである。

(二) 仮に,緑建の解散時の財産状態が原告主張(後記3(一))のとおりであるとしても,本件債権放棄にかかる金額は寄付金に該当する。

(1) 原告は,昭和56年,自己の投下資金の回収と緑建の倒産による社会不安の惹起を防ぐため,緑建の経営権を取得した(争いがない。)。原告は,営利を目的とするものであり,しかも昭和52年9月から本件ゴルフ場の建設に従事していたことにより,その地理的状況や完成の見込等について十分承知し,また,緑建の業務内容も認識していたというべきであるから,投下資金の回収という目的のために,追加的な資金投下を行うという決断をし,これを実行に移したということは,この時点において,原告が追加的に資金投下を行い,原告の経営力をもって緑建の経営を行うならば,緑建に対して有していた債権の回収が可能な状態にあったということを意味するものというべきである。

昭和56年当時と本件債権放棄当時の緑建の資産及び負債の状況を比較すると,別表四のとおりであり,土地勘定の2,770,498,830円増加,建設仮勘定の1,594,692,369円減少,未払金勘定の1,109,587,248円増加のほかは大きな変化がない。したがって,原告が緑建の経営を引き継いで以降,本件債権放棄の時までに,原告において当初予想しえなかったような特段の事情が存しない本件においては,本件債権放棄当時,原告の緑建に対する債権の回収可能性が昭和56年当時よりも減少し,あるいは全くなくなったとはいえない。

(2) 債権放棄が債権の回収不能により行われたものと判断されるためには,単に債務者が債務超過の状態にあるというだけで足りず,右状態が相当期間継続し,他から融資を受ける見込も再起の見通しもなく,事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至ったとか,会社更生などの手続をとってみたが債権の支払いを受けられなかったなど,債権の回収ができないことが客観的に確認できる場合でなければならない。右のような状況にない場合,法人が任意に債権を放棄したとしても,損金ではなく債務者への寄付金と解すべきである。

一般にゴルフ場の建設にあたっては,膨大な資金を必要とし,また,計画から開場までも長期間を要するので,ゴルフ場開場後も当分の間は債務超過の状態が継続するのが常態である。本件債権放棄は,昭和58年4月に本件ゴルフ場が仮オープンし,その営業が開始されてからほぼ1年後の極めて短期間のうちに行われ,しかも,正式開場の昭和59年4月より前に行われたことになるから,この時点で緑建が原告に対する債務を全く弁済できないものと断定するには未だ時期尚早というべきであり,本格的に収益の計上を開始する3年ないし5年後の収益状況を見なければ,その債務の弁済が不可能であるか否かは明らかにはならない。かくして本件債権放棄の時点で,緑建が債務超過の状態にあったと断定できないのみならず,その状態が相当期間継続していたということもできない。

(3) 法人税法上,貸倒損失とは,債権の全額につき回収が不能であることが明らかである場合をいい,債権償却特別勘定とは,債権の全額が回収不能であるとはいえないが,債権額の相当部分(概ね50%以上)の回収が不能である場合に認められるところ,原告から本件債権の処理について相談を受けた原告顧問税理士押田茂雄は,貸倒損失の計上の可否については問題にせず,専ら債権償却特別勘定の設定を検討しており,同人も全額が回収不能であるとは考えていなかったことが窺われる。

(三) 次のような事情からも,緑建解散当時,本件債権が回収不能であったということはできない。

(1) 緑建の解散は,株主総会の決議に基づく任意の解散であり,右解散に至るまで,同社について,商法,和議法,会社更生法及び破産法に基づく倒産手続が行われたことはなく,また,同社は,債権者から民事執行法上の強制執行を受けたこともなく(争いがない。)

(2) 緑建に対する原告以外の大口債権者である広島銀行は,その貸金債権(元金1,223,473,000円)を放棄していない(争いがない。)。また,本件ゴルフ場の敷地に同銀行のために極度額1,270,000,000円の根抵当権が設定されているが(争いがない。),同銀行は,本件債権放棄のころにその実行による債権回収の手続を講じたこともない。

(四) 仮に本件債権放棄の時点で,本件債権の回収が全く不可能であったとしても,その全額が貸倒損失になるわけではない。

債権放棄が貸倒損失として法人税法上の損金になるためには,債権放棄の時に,放棄した債権全額の回収が明らかに不可能であることを要するが,右要件が充足されれば常に貸倒損失として損金になるものではなく,債権者の行為によって取得した債権については,その債権を取得した時に,債権者において当該債権の回収が可能であることを前提に債権を取得していることが必要であるというべきである。債権回収が不可能であることを認識しつつ債権を取得し,その後当該債権の回収が不能であるとしてこれを放棄した場合,これを全体として考察すれば,債権者から債務者に対する贈与が行われたと評価するほかなく,これが貸倒損失として法人税法上の損金になることはない。

本件債権放棄は,本件ゴルフ場の正式な営業の開始を目前にして行われた。このような時にあっても緑建が原告に対する債務を弁済する見込が全くないから,原告が緑建の経営を引き継いだ昭和56年の時点において既に債権の回収が不可能であることが明らかであるといわざるを得ず,右時点以後に原告が取得した債権は,回収不可能であることを知って取得したものであるから,昭和56年に緑建の経営権を取得した当時の債権額890,000,000円と本件債権放棄額2,026,836,212円との差額分は,原告から緑建に対する贈与であり,法人税法37条に規定する寄付金にあたる。

(五) 法人税基本通達9-4-1と本件債権放棄

(1) 通達の趣旨

法人が第三者に対する回収可能な債権を放棄した場合,原則として右債権放棄は,当該第三者に対する経済的利益の供与であるから,法人税法37条の寄付金に該当する。このことは,親子関係にある法人でも同様である。しかし,親会社が子会社に対し,回収可能な債権を放棄した場合のすべてが寄付金に該当するのではなく,このことを明らかにしたのが法人税基本通達9-4-1である。

同通達9-4-1にいう損失負担又は債権放棄は,親会社の支配下から子会社を離脱させ,親会社が今後より大きな損失を被ることを回避するための撤退費用の性質を有し,かような親会社の緊急事態を避けるためやむを得ずなされた損失負担又は債権放棄については,相当な理由があると認め,寄付金に該当しないものとして取り扱うこととしたのである。そして,外見的には右通達に該当するかのような事実が存在しても,当該事実が全体として,預金,貯金,貸付金,売掛金,その他の債権について評価損の計上を認めない旨規定した法人税法33条を潜脱するための行為であると評価される場合には,通達にいう「相当な理由」は存在しないといわざるを得ない。

(2) 本件の通達該当性

本件においては,本件債権放棄をしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであるとはいえず,また,仮に右通達に該当するかのような事実が形式的に存在するとしても「相当な理由」がない。

すなわち,本件ゴルフ場は,昭和59年9月29日,緑建から豊平カンツリー倶楽部株式会社(豊平カンツリー倶楽部)に譲渡されたが(争いがない。),それ以降も原告以外の債権者の緑建に対する債権はそのまま緑建に残存しており,緑建は清算未了であって,原告の子会社たる緑建が原告の支配下から完全に離脱したとはいえない状況にあること,原告は,債権放棄通知書(乙13)において,本件債権放棄が寄付金と認定された場合は,これを撤回する旨記載しており,その記載からすれば,本件債権放棄の目的はこれを損金とすることにあり,当初から緑建の経営から撤退する確実な意思がないとみられること,本件ゴルフ場の譲渡により実質的に緑建の経営を継承した豊平カンツリー倶楽部は,緑建と同様原告の子会社(原告が株式の80%を保有)であり,原告はこれに対する経営支配を確保しているから,実質的にみれば,原告が子会社を通じたゴルフ場経営という事業から撤退したという事実はなく,原告の支配下から緑建を離脱させたとはいえないこと等の事情があり,これらの事情に鑑みれば,原告が本件債権放棄をしたのは,これをしなければ原告が今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであったためではなく,原告が本件債権の評価損の計上と同一の効果を企図していたためである。

本件債権放棄が貸倒損失になれば,原告における所得金額の計算上,2,101,206,025円にのぼる多額の所得金額を貸倒損失の金額だけ縮減でき,その分にかかる法人税,住民税,事業税の負担を免れることができる。そして,その部分をゴルフ場の建設資金に回すことが可能になる。これが本件債権放棄の意図・目的であり,かような債権放棄は,法人税法33条の規定する金銭債権の評価減の禁止を潜脱して右各税の負担を回避する行為以外のなにものでもなく,法人税基本通達9-4-1の「相当な理由」がない。

原告は,本件債権を放棄しなくても,緑建に対する債権の履行を猶予し,これに対する利息を免除しさえすれば,緑建にとって,原告が債権を放棄したのと同様の資金繰りの状態が得られるのであり,それを超えてあえて本件債権放棄までも行う必要はない。

(六) 更に,本件において次のような事情がみられる。

原告は,本件事業年度の確定申告において,当期純利益を20,328,325円としている(争いがない。)。右事業年度においては,原告に不動産譲渡による多額の収入及び利益が発生しており(原告に約3,600,000,000円の利益が発生していることに争いはない。),本件債権放棄を貸倒損失として計上しない場合には,当期純利益が2,047,164,537円となり,原告の本件事業年度より前の三事業年度の各純利益に比較して著しく高額になるところ,本件債権放棄は,本件事業年度が終了する1日前の昭和59年3月30日に行われ,原告が本件債権放棄にかかる金額を貸倒損失として計上したことにより,当期純利益が20,328,325円となったものである。

他方,緑建においては,解散後,原告の広島支店長水野光次が代表清算人となって清算事務が行われたが,昭和59年3月28日から同年9月30日までの清算事業年度の予納申告において,本件債権放棄による債務免除益2,026,836,212円を特別利益として計上する一方,右清算事業年度終了の直前である昭和59年9月29日に,帳簿価額3,759,583,547円の本件ゴルフ場を,原告の鑑定評価価額(甲2)2,136,000,000円で豊平カンツリー倶楽部に譲渡し,その差額1,623,583,547円を特別損失に計上した(争いがない。)。そして,清算事業年度の申告所得金額は0円となっている(乙3)。

豊平カンツリー倶楽部は,緑建が長期間にわたり費用を投下して完成させた本件ゴルフ場を,その開場後,緑建の帳簿価額をはるかに下回る価額で譲渡を受けることにより,少なくても緑建が本件ゴルフ場を保有している場合に比べて極めて好条件で会員募集等本件ゴルフ場の経営を営むことができるようになったのである。このことは豊平カンツリー倶楽部の大口株主である原告にとって,本件債権放棄を行っても実質的に右放棄額を将来同倶楽部を通じて回収できることを意味する。実際,同倶楽部の収入は年々増加している(収入が増加していることについては争いがない。)。

原告は,緑建及び豊平カンツリー倶楽部が原告と代表取締役を共通にし,原告の資本的支配下にあることを利用して,原告及び緑建の税負担を回避するとともに,豊平カンツリー倶楽部から本件債権放棄にかかる金額の回収を図る目的で,原告の主導の下に,緑建の解散から,本件債権放棄,緑建から豊平カンツリー倶楽部への本件ゴルフ場の譲渡に至るまで,計画的に一連の処理をしたものである。

かような事情に鑑みれば,本件債権放棄は,客観的に回収不能の状況においてなされたものではなく,実質は,原告の緑建に対する経済的利益の供与にすぎず,寄付金の支出と解すべきである。

(七) 以上によれば,原告による本件債権の回収は不可能ではなく,また,緑建の解散に伴って原告が本件債権を放棄しなければならない理由があったとはいえないから,本件債権放棄が法人税基本通達9-6-1,9-6-2及び9-4-1に該当すると解する余地はない。原告は,本件債権の回収が不可能ではなかったにもかかわらずこれを放棄したものであり,これにより緑建に対して経済的利益を供与したことになる。かような経済的利益の供与は,法人税法37条に規定する寄付金の支出に該当するものとして,損金の額に算入されないというべきである。

3  争点に関する原告の主張・反論

本件債権放棄が法人税基本通達9-6-1,9-6-2及び9-4-1により,損金として処理できるか,あるいは寄付金の額に該当しないことになるか否かは,債務者の債務超過の状態,債務者の資産・負債の状況,支払能力,債権放棄に至った事情,法人と子会社の資産・負債の状況,債権放棄をしなければ法人が被ったであろう損失等について詳細に検討し,実質的に判断されなければならず,単に貸借対照表等の数字によって形式的に判断されるものではない。

本件債権放棄は,原告の緑建に対する工事代金債権の回収が不可能と判断される状況下において,親会社である原告が倒産の危機を回避するために行われたものであり,前記通達に該当することは明らかである。

(一) 緑建解散時の財産状態について

(1) 資産

緑建の解散時の貸借対照表によると,緑建の総資産のうち,最も金額が大きいのは有形固定資産(本件ゴルフ場)であり,その内訳は,土地勘定及び建設仮勘定である。被告は,緑建の債務の返済能力を判断するにあたって,貸借対照表上の有形固定資産の数額を本件ゴルフ場の評価額(時価)とし,その数額をそのまま緑建の負債の返済に充てうる資産の金額に加算しているが,有形固定資産の金額(本件ゴルフ場の帳簿価格)は,本件ゴルフ場の建設に要した総費用を単純に合算した金額にすぎず(土地勘定は,本件ゴルフ場の土地買入額,コース建設費,コース造成費の合計額であり,建設仮勘定は,本件ゴルフ場の未成工事支出金である。),この中には,本件ゴルフ場の時価を評価する際には控除すべき項目や金額が多数含まれている。

すなわち,土地買入額の中の立木代などの中には,コースや進入路の部分の立木等の取得費等も含まれているが,これらコースや進入路の部分の立木は,その建設の際にすべて伐採され,現存していないから,これらの立木取得費等は土地を時価評価する際には控除して計算しなければならない。また,土地代についても,本件ゴルフ場は冬季期間中積雪が多くクローズの期間が長いので相当額の評価減を生じているから,土地の取得費から右評価減を控除しなければ,土地の評価額(時価)は算定ではない。更に,コース造成費は,工事開始前の見積額を1,000,000,000円以上超過しているところ,この超過分は,本件ゴルフ場の造成期間中,豪雨等のため土砂崩れや土砂の流出などの被害が生じたことに伴って費やした復旧工事,補強工事,重複工事などの費用や,これらの工事のために工事期間が大幅に超過したことなどに伴って発生した費用である。したがって,本件ゴルフ場の時価を評価する場合には,これらの費用は控除されなければならない。

然るに被告は,これらを全く考慮に入れず,形式的に本件ゴルフ場の帳簿価額をもって直ちに本件ゴルフ場の評価額(時価)としている。昭和59年3月当時の本件ゴルフ場の時価は,緑建が不動産鑑定士に依頼して作成した鑑定評価書(甲2)により,2,136,000,000円とすべきである。

(2) 負債

緑建の貸借対照表に計上されている長期借入金の項目には,広島銀行からの長期借入金に対する既発生未払利息が計上されておらず,右利息は,当時869,428,276円にのぼっていたから,緑建の総負債額は,これを加えた5,556,289,720円である。

また,被告は,緑建の債務の返済能力を判断するに際して,総負債額から長期預り金(会員からの預り保証金)を控除しているが,会員からの預り保証金は,時期がくれば返済しなければならないのであり,これを予測して返済計画を立てなければならないから,これを資本と同視し,負債から控除するのは誤りである。緑建は,預り金の返済に備えて,開業10年目までの間に右長期預り金以外の負債を返済すべく返済計画案を立てていたのであるが(甲3),これによると,これらの債務を10年間で返済するには,最低月420,000,000円以上の返済が必要であり,本件ゴルフ場を正常に運営していっても,このような返済は到底不可能と判断された。

(3) 以上によれば,本件債権放棄当時,緑建が負債の返済に充てうる資産の額は,別表三の貸借対照表の総資産額から,不渡り手形及び開業費を控除し,更に本件ゴルフ場の帳簿価額3,759,583,547円と本件ゴルフ場の評価額(前記鑑定書記載の金額)2,136,000,000円との差額1,623,583,547円を控除した2,208,366,064円にすぎない。これに対し,負債の額は,右貸借対照表の総負債の金額に広島銀行に対する既発生未払利息を加えた5,556,289,720円である。

したがって,当時,緑建は,3,347,900,000円程度の債務超過になっていたものであり,原告の緑建に対する本件債権の回収が不可能であったことは明らかである。

(二) 被告は,ゴルフ場開場後も通常当分の間は債務超過の状態が継続するから,この時点で債務の弁済が不可能であるとするのは時期尚早であるとするが,本件債権放棄の時点で,緑建には5,500,000,000円以上の債務があり,いかなる計算をしても将来にわたって債務超過が解消することはあり得ず,いわば債務超過が永続的であったといえる。

(三) 被告は,緑建において法的倒産処理手続が行われていないこと及び緑建の大口債権者である広島銀行が債権放棄や担保権の実行をしていないことを債権回収可能な事情とする。

確かに緑建については法的倒産処理手続が行われていないが,法令に基づく整理手続が行われる場合と同様の事情が存在しており,実質的にみれば,かような整理手続が行われた場合と差異がない。

また,広島銀行は本件ゴルフ場に根抵当権を有するため債権放棄を拒んだにすぎず,また,担保権者が担保権を実行をしない限り債権回収が不能でないとするのは,実態に即さない形式的主張である。

(四) 被告は,原告主張のとおり本件債権放棄の時点においてその回収が不能であるとすれば,原告が緑建の経営を引き継いだ昭和56年の時点において既に債権の回収が不可能であることが明らかであったはずであるとするが,原告としては,当時緑建の経営を引き継いでも投下資本を回収できる見込があったのであり,その後,入会金(預り保証金)が当初の予想を大幅に下回るなど,特段の事情が生じたのである。

(五) 法人税基本通達9-4-1と本件債権放棄

(1) 通達の趣旨

同通達は,親会社が子会社に対する損失負担や債権放棄をしないと経営不振の子会社のために親会社までが犠牲になることを防止するために定められたものであり,その適用を撤退費用の場合に限定する必要はない。

(2) 本件の通達該当性

本件債権放棄を行わなかった場合には,原告が連鎖倒産の危機に追いやられたほか,ゴルフ場倒産による社会的責任問題すら発生する虞があり,原告は,このような危機を回避するためやむを得ず本件債権放棄を行ったのである。

(六) 本件債権放棄に至る経緯

(1) 本件ゴルフ場の造成中,何回か豪雨にみまわれ,建設予定地内で大量の土砂の流出や土砂崩れが生じ,原告は,これらの被害のたびに大量の土砂の除去作業等の復旧工事や補強工事を施工しなければならなかった。また,豪雨のために流出した土砂が,本件ゴルフ場建設予定地を流れる西宗川に流入し,河川を汚染するという事態を引き起こしたため,地域住民からゴルフ場建設に対する反対運動も起こり,工事を中断せざるを得ないこともあった。

このようなトラブルのため,本件ゴルフ場の建設工事は当初の計画どおり進まず,長期化し,緑建の財政状態を圧迫するとともに,工事の遅延等によって緑建に対する社会的信用が著しく低下し,会員募集もはかどらず,緑建は,工事を続行していく目処も立たないほどの深刻な事態に陥り,このままでは,緑建と原告とが共倒れになる危険も生じてきた。

(2) 社会的な信用を喪失し,資金繰りの目処もつかず,深刻な経営危機に直面した緑建は,事業の継続が不可能になったので,当時の代表取締役渡邉三郎(当時,緑建の代表取締役が渡邉三郎であったことについては争いがない。)は,最も大口の債権者である原告に対し,緑建の経営権を委譲し,原告の力で工事を完成してもらうほか方法がないと考え,その旨申し入れた。

原告が右申し入れを拒否した場合には,緑建は,多額の負債を抱えて倒産し,本件ゴルフ場建設もストップしてしまうことになるが,原告は,本件ゴルフ場建設のために既に10数億円の資金を投下しており,これらの債権はほとんど未回収の状況にあったため(かような資金の投下とそれが未回収の状況にあったことは争いがない。),緑建が倒産した場合は,右投下資金をほとんど回収できず,多大な損害を被り,経営が危うくなるものと思われた。また,既に大規模に山林を伐採していたため,本件ゴルフ場の建設工事をストップし,未完成の状態で放置した場合は,風水害の際に大規模な被害が発生する危険があり,かような事態になれば,工事請負業者である原告に対し,莫大な損害賠償の請求がされることが予想され,県の担当部局からも早急に工事を完成させるよう指導されていた。更に,緑建は,既に会員募集を行っており,入会金を支払った会員も多数いたから(緑建が会員募集を行い,入会金を支払った者がいたことは争いがない。),本件ゴルフ場が未完成のまま放置されると大きな社会問題になり,原告に対する責任追求の虞があり,会員の期待を裏切ることにもなると予想された。

そのため,本件ゴルフ場建設をそのまま放置することはできず,昭和56年8月ころ,緑建の利害関係者が150名くらい集まって緑建の再建策を協議した際,本件ゴルフ場の建設を続行するか否かは原告の判断に任せられることになった。そこで,原告は,原告の社会的責任として,自己の投下資金の回収と社会不安の惹起を防ぐため,あえて緑建の経営を引き継ぐこととしたのである。

(3) 緑建の経営権を譲り受けた原告は,本件ゴルフ場の開設に全力を傾け,既に社会的信用を喪失し,会員募集ができない緑建に替わって会員募集等の業務に当たらせるため,昭和56年11月豊平カンツリー倶楽部を設立し,これにゴルフ場の経営を委任するとともに,ゴルフ場の建設工事も続行し,昭和58年4月に本件ゴルフ場の仮オープンまでこぎつけた(昭和56年11月の豊平カンツリー倶楽部の設立,これに対するゴルフ場経営の委任,建設工事の続行,昭和58年4月の仮オープンについては争いがない。)。

しかし,その後も緑建の経営状態は好転せず,昭和59年3月ころには,大口債権者の広島銀行と原告に対する負債だけでも4,000,000,000円に達するまでになっており,金利負担も相当な金額になった。他方,場所的な関係から広島以外の顧客がほとんど見込めないことや,山岳地帯に位置し,冬季期間中雪のためにクローズとなることが多いこと(本件ゴルフ場が山岳地帯に位置し,冬季期間中雪のためにクローズとなることがあることについては争いがない。)などの理由から,売上の大幅な増加は見込めず,緑建がその負債を返済することは到底不可能な状態であった。

(4) 原告も,本件ゴルフ場建設にあたっては,多額の資金の借入をなして工事の進行をさせてきた一方,緑建からの工事代金の回収が思うようにいかず,通常の金融機関は融資の申込に応じてくれないという状況であり,その財政状態が極度に逼迫し,高利貸しにまで手を出さざるを得ない状況であった。そのため,このまま続けば,緑建のみならず原告までも連鎖的に倒産するという危機的な状況に追い込まれた。

仮に,緑建を破産させた場合,その資産は本件ゴルフ場の土地等だけであり,そこには広島銀行のために根抵当権が設定されているから(本件ゴルフ場の土地に広島銀行のため根抵当権が設定されていることについては争いがない。),同銀行が債権回収をなしうるだけであり,本件ゴルフ場の会員に対しては,プレーを行わせることができないだけでなく,預り金の返還もできないこととなり,大きな社会問題になることは必至であるのみならず,会員等が親会社である原告に対し,事実的ないし法的措置をとる可能性もあった。

(5) かくして,原告の緑建に対する債権の回収は不可能な状況であっただけでなく,そのまま放置すれば原告まで連鎖倒産する深刻な危機を迎えたため,原告は,もともとやむなく子会社とした緑建に対する本件債権を貸倒損失として償却する以外には,その危機的状況を打開する手段はないと判断するに至った。

そこで,昭和59年2月3日,原告代表取締役守屋が顧問税理士押田茂雄とともに横浜中税務署を訪問し,国税調査官矢崎剛一に面会し,緑建に対する債権を償却した場合の税務上の諸問題について指導を受けたところ(昭和59年2月3日,守屋及び押田が横浜中税務署を訪問し,矢崎に面会し,指導を受けたことについては争いがない。),法人税基本通達9-6-2及び9-4-1により,原告の緑建に対する債権について損金経理することは可能であり,経営不振の緑建の解散に伴い債権の放棄を行った場合の損失は,相当な理由があると認められる限り寄付金の額には該当しない旨の助言を得た(緑建の解散に伴い債権の放棄を行った場合の損失が,相当な理由があると認められる限り寄付金の額に該当しない旨の助言をしたことについては争いがない。),そこで,緑建は,昭和59年3月27日付けで任意解散し(争いがない。),同月30日,原告は,本件債権放棄をしたものである。

守屋及び押田は,債権償却特別勘定の設定について相談したが,矢崎は,押田が思いつかなかった法人税基本通達9-4-1による損金処理につき積極的に助言・指導し,これによれば金額の多寡に関係なく損金計上ができ,寄付金の認定もされないと助言したのである。原告は,かような税務指導に基づき税務処理を行ったのであり,後に被告自身がこれを覆して課税処分をすることは信義に反する。

4  被告の再反論

(一) 緑建解散時の財産状態について

(1) 資産

① 立木の取得費

原告は,ゴルフコースや進入路の部分の立木の取得費等を控除すべきだとする。

しかし,ゴルフ場の土地は,立木とともに購入されることが多く,その立木はゴルフコース等の造成工事にあたり大部分が伐採されるのが通例である。本件ゴルフ場の建設に際して伐採された立木も,立木そのものの経済的有用性ないしその商品価値に着目してこれを育成したり,売却したりすることを目的として取得されたものではなく,本件ゴルフ場の造成に際し,伐採されることを前提として取得されたものであり,これに資産価値があったものとは認められない。仮に立木に資産価値が存するとしても,これはゴルフコース造成のために立木の処分権も併せて取得しておくことが必要不可欠であるとの理由から取得されたにすぎない。

すなわち,立木は,その大部分が伐採されて初めてゴルフコースとして有用な土地となるのであり,土地をゴルフ場として活用するためにやむを得ず取得されるにすぎないものであるから,その取得費は,ゴルフコース等の造成にあたり必要不可欠な支出であって,これを土地の取得価額に含めて評価すべきことは当然である。したがって,立木の取得費用は,本件ゴルフ場の建設のために直接要した費用として,その帳簿価額(取得価額)に含めるべきものであり,立木が伐採され,現存していないとしても,その取得費用を帳簿価格から控除すべき理由はない(法人税法施行令54条,法人税基本通達7-3-16の2)。

② 土地の取得費

原告は,本件ゴルフ場は冬季の積雪が多く,クローズの期間が長いため,相当額の評価減を生じているから,土地の取得費から右評価減を控除しなければ,土地の評価額(時価)を算定できないとする。

しかし,このような事情は,緑建がゴルフ場造成地を取得する以前から存在し,予想されたものであるから,取得価額の決定の際に既に考慮されたはずの問題であって,殊更取得後に論ずべきことではない。また,広島県の昭和59年における林地の地価は,昭和53年の地価と比べ値上がりしており,本件ゴルフ場の用地に限り値下がりしているということはないから,評価減の必要はない。

③ コース造成費

原告は,コース造成費は,工事開始前の見積額を1,000,000,000円以上超過しているところ,この超過分は,本件ゴルフ場の造成期間中,豪雨等のため土砂崩れや土砂の流出などの被害が生じたことに伴って費やした復旧工事,補強工事,重複工事などの費用や,これらの工事のために工事期間が大幅に超過したことなどに伴って発生した費用であるから,これを控除すべきだとする。

しかし,これらの費用は,いずれも本件ゴルフ場の建設中の段階で生じた費用であり,また,本件ゴルフ場の固有の地理的条件に伴うものであるから,本件ゴルフ場の建設のために必要不可欠な費用としてその帳簿価額(取得価額)に含むべきものである。また,原告は,964,077,571円を災害による復旧作業費及び物損の補填費用としているが(甲1参照),これはコース造成費の約37%を占めるものであり,かような多額の金額がすべて災害の発生に伴って要した復旧工事等の費用とは考えられない。そもそも復旧工事,補強工事,重複工事等の具体的内容・金額が不明である。

④ 鑑定評価書(甲2)

原告は,鑑定評価書により,昭和59年3月当時の本件ゴルフ場の時価を2,136,000,000円であるとするが,その作成にあたり評価を担当した志岐秀三に対し一定額を示した評価依頼があったこと,造成工事費算定にあたり参考にされたゴルフコースが不適切であり,他により類似性の高いゴルフコースが存在すること等,鑑定評価書には疑問がある。

(2) 負債

原告は,緑建の総負債額から長期預り金(会員からの預り保証金)を控除すべきでないとする。

会員からの預り保証金は,返済不要の金員ではないが,本件ゴルフ場の開場の日から10年間据え置かれ,据え置き期間経過後に会員から請求があった場合に限り返済すべきこととなる金員であるから,被告は,緑建解散時における債務の返済能力を判断するにあたり,当面返済を要しない債務として控除したのである。一般に事業者が資金借入をする場合,借入から返済期日までの間いつでも返済できるように準備しておくということはなく,返済期日に至るまでの間に借入資金を使って収益をあげうるのである。その意味で預り保証金も返済期日に至るまでは返済しなくてよく,その限りでは返済期日まで資本と同視することができる。

また,ゴルフ場の会員権の権利者は,退会に際し,会員権を譲渡して投下資金を回収するのが通常であり,ゴルフ場に対して預り保証金の返還請求をするのは極めて稀であるところ,会員権の譲渡による場合は,ゴルフ場が預り保証金を返還することはない。

(二) 本件債権放棄に至る経緯について

(1) 原告は,本件債権放棄のひとつの理由として,緑建が倒産し,本件ゴルフ場が完成しない場合に生ずる様々な社会的影響等をあげている。

しかし,原告の債権放棄通知書(乙13)には,「ただし,上記債権放棄が法人税法第37条にいう寄付金にあたると認定された場合には,上記放棄を撤回します。」と記載されており,原告が緑建を破産させた場合の社会的影響等が本件債権放棄をする真の理由であったとはいえない。

(2) 原告は,その財政状態が極度に逼迫し,高利貸しにまで手を出さざるを得ない状況であったとする。

しかし,本件事業年度において,原告には多額の不動産譲渡収入及び同利益(約3,600,000,000円)が発生しており,少なくとも右利益発生後は,原告の資金繰りの状況が好転していたと考えられる。

また,原告の取引金融機関である第一勧業銀行及び横浜信用金庫の原告に対する貸付(融資)金額は,昭和57年3月期以降年々増加しており(争いがない。),原告はいずれに対しても担保権を設定している(乙17なし21)。北陸銀行からの借入金は減少しているが,これは,同行が原告の預金の範囲内で融資をしていたところ,原告が同行の預金を第一勧銀及び横浜信金に振り替えた(シフトした)ため(争いがない。),預金が減少したことによるものである。

更に,債権放棄によって債権者の資金繰りが好転することは通常ないというべきであり,自社の倒産の危機を回避するためには,その有する債権の回収に務めるのが通常であって,連鎖的倒産の危機を回避するために本件債権を放棄したとする原告の主張は理解し難い。しかも本件債権は,本件ゴルフ場の造成工事代金の未収債権であり,遅延損害金を除いて既に確定した債権であるから,これを放棄することによって損失を回避しうるとは認められない。

(3) 原告は,横浜中税務署において,本件債権放棄について指導を受けたとする。

しかし,税務署の指導担当職員は,事実関係が明確でない場合には個別的な判断を示さず,一般的な法令の解釈又は税務上の取り扱いについて説明し,必要に応じて参考文献等を渡すなどして,納税者が自己の判断と責任において適正に申告するよう指導している。本件において,調査官矢崎も税務上の一般的な取り扱いを説明したにすぎない。面接時間も約30分であり,わずか30分の間に原告の主張するような助言指導はできない。

5  原告の再反論

(一) 被告は,本件事業年度において,原告に多額の不動産譲渡収入及び同利益(約3,600,000,000円)が発生していたこと及び銀行との取引状況から,原告の資金繰りの状況が好転していたとする。

しかし,右利益は,原告が昭和54年ころ,横須賀市佐原地区の宅地造成事業にあたり,三井不動産等から借り入れた金員への返済に充てられ,原告の手元に残らなかった。

第一勧銀や横浜信金からの借入が増加したのは,北陸銀行の預金担保を振り替えたことを主たる原因としていた。しかも,担保のない融資は見込めず,新規の融資につき,これらの銀行は極めて消極的であった。しかし,原告は,本件ゴルフ場の建設工事のため多額の工事費の出捐を余儀なくされており,従来どおりの融資だけでは経常的な経費を賄うのが精一杯であり,本件ゴルフ場の莫大な工事費用を賄うことは不可能であった。

(二) また,被告は,原告が連鎖的倒産の危機を回避するために本件債権を放棄したことを理解し難いと主張するが,かような主張は,法人税基本通達9-4-1の存在理由を否定するものである。

第三争点に対する判断

一  本件においては,次の事実が認められる。

1  原告及び原告の関連会社

原告は,原告代表取締役である守屋新一が土木建築の請負業等を目的として,昭和40年6月11日設立した株式会社で,本店を横浜市に,支店を札幌市と広島市に置き,神奈川県内を中心に土木・建築請負業を営んでいる(甲9,32)。

緑建は,ゴルフ場の建設・経営等を目的として,昭和47年12月26日設立された株式会社であり,当初渡邉三郎が代表取締役をしていた(争いがない。)。その後,昭和57年2月27日,守屋が代表取締役に就任し(乙7),その解散時(昭和59年3月27日)においては,原告が発行済株式総数の100%を保有する原告の子会社であった(争いがない。)。

豊平カンツリー倶楽部は,昭和56年11月6日,守屋が中心となって資本金1,000,000円で広島市に設立した株式会社で,その代表取締役も守屋である。同倶楽部は,昭和58年2月18日に資本金を4,000,000円に増資した後は,原告がその発行済株式総数の80%を保有する原告の子会社となっている。その後,昭和62年3月27日,同倶楽部は,株式会社中国ゴルフ倶楽部に商号を変更し,引き続き守屋が代表取締役を務めている(争いがない。)。

2  本件ゴルフ場の請負契約締結以降の経緯等

原告は,昭和52年9月22日,緑建との間で,請負代金1,650,000,000円,出来高払い(毎月末締め切り,翌々月20日に現金払い),工期昭和52年10月1日から同55年9月30日までとする本件ゴルフ場の建設請負契約を締結した(甲23の1,37)。しかし,ゴルフ場建設に伴う災害や環境汚染の防止に関して,原告,緑建及び加計町西宗川公害対策協議会による協定が昭和53年5月に,緑建及び太田川漁業協同組合による協定等が同年7月に,それぞれ締結され,また,未買収の土地の存在及びそれに伴う設計の変更等があったため,実際に原告が工事を開始したのは同年9月ころであった(甲32,33の1,2,34,原告代表者)。

昭和54年5月17日,本件ゴルフ場の請負契約に関し,原告と緑建との間で覚書による合意がなされ,請負代金については,契約書の文言にかかわらず,当分の間,注文者の会員募集の入金状況によって支払額を協議する等の定めがされた(甲37)。

昭和54年から56年まで,毎年6月あるいは7月に本件ゴルフ場の地域が集中豪雨に襲われ,建設予定地内で大量の土砂の流出や土砂崩れが生じ,原告は,そのたびに大量の土砂の除去作業等の復旧工事や補強工事等を施工しなければならなかった。また,豪雨のために流出した土砂が本件ゴルフ場建設予定地を流れる西宗川に流入し,河川を汚染するという事態を引き起こしたため,太田川漁協等の抗議や地域住民のゴルフ場建設に対する反対運動により,工事が中断・遅延し,本件ゴルフ場が完成しないという風評も流れた(甲8の5,同号証の7,同号証の9,同号証の10,同号証の13ないし15,甲32,原告代表者)。この間,原告は,昭和54年10月15日付けで,緑建に対し,工事出来高に応じた請負代金の支払を催告している(甲36)。

昭和56年に至り,緑建の代表取締役渡邉は,自己の資金力のみではゴルフ場を完成することが困難であると判断し,原告に緑建の経営権の委譲を申し入れた。この時,原告は,本件ゴルフ場建設のために既に10数億円の資金を投下しており,これらの債権はほとんど未回収の状況にあったが,右申し出を承諾し,同年10月緑建の経営権を譲り受け,同年11月豊平カンツリー倶楽部を設立して守屋がその代表取締役となり,これに本件ゴルフ場の経営を委託した(争いがない。)。

原告は,緑建の経営権の譲り受けとともに緑建の全株式を譲り受け(原告代表者),守屋は,翌57年2月,緑建の代表取締役に就任した(乙7)。原告が緑建の経営権を譲り受けた当時,緑建の広島銀行に対する借入金は,元本だけで約1,240,000,000円であった(原告代表者)。

昭和58年4月,本件ゴルフ場は仮オープンした(争いがない。)。

昭和59年2月3日,守屋は,税理士押田茂雄とともに横浜中税務署を訪問し,国税調査官矢崎剛一に面会し,緑建に対する債権を償却した場合の税務上の諸問題について指導を受けたところ,矢崎は,緑建の解散に伴い債権の放棄を行った場合の損失が,相当な理由があると認められる限り寄付金の額に該当しない旨の助言をした(争いがない。)。すなわち,この間の面接時間は約30分であり(乙15,証人押田),矢崎は,守屋らから,債権放棄をした場合の税務上の処理を問われたので,法人税基本通達9-4-1の適用が問題になりうるとして参考文献のコピーを渡したが,具体的事案について明確な回答はしなかった(証人矢崎)(この点については,争いのあるところであり,甲第7号証には,矢崎が本件債権放棄にかかる金額が損金として認められる旨明確な回答をしたとする税理士押田茂雄による記載があるが,同税理士の作成した乙第15号証には,矢崎調査官の回答内容として一般的な答えが書かれているにすぎず,また,貸倒損失ないし寄付金への該当性についての判断には困難なものが多く,矢崎が具体的事案について明な回答をしたとは到底考えられない。また,乙第13号証には,本件債権放棄が寄付金にあたると認定された場合にはこれを撤回する旨記載されているが矢崎から明確な回答があったなら,このような撤回を留保する必要はないはずである。したがって,この点に関する原告の右主張に沿う右証拠は採用できず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。

緑建の税理士船本進は,昭和59年2月初旬か中旬ころ,不動産鑑定士田尻正春に対し,ゴルフ場の経営が思わしくないので整理したいとして本件ゴルフ場の評価を依頼した。このとき船本は,長くかかって(工事を)やり直したり,いろいろなことをやっているので,見積よりもオーバーして帳簿価格が非常に高くなり,適当でない価格になっているという趣旨のことを田尻に対して述べた(証人田尻)。

昭和59年2月18日付けで,原告広島支店支店長水野光次から守屋あての文書が作成され,この中で緑建の解散に関する諸問題が検討された。この中には,緑建が解散し,債務免除益と資産譲渡損を計上することによって損益0となり,非課税となること,本件ゴルフ場の譲渡価格が大きく損益を左右すること等の記載がある。守屋は,右日付より後にこの文書をみた(乙26,30,原告代表者)。

緑建は,同年3月27日解散した。緑建の解散は,株主総会の決議に基づく任意の解散であり,右解散に至るまで,同社について,商法,和議法,会社更生法及び破産法に基づく倒産手続が行われたことはなく,また,同社は,債権者から民事執行法上の強制執行を受けたこともなかった(争いがない。)。

同年3月30日,原告は本件債権を放棄した(争いがない。)。このときの債権放棄の通知には,債権放棄が法人税法37条にいう寄付金にあたると認定された場合には,債権放棄を撤回する旨記載されている(乙13)。

同年4月,本件ゴルフ場は,正式にオープンした(争いがない。)。

同年9月29日,緑建は,本件ゴルフ場を2,100,003,600円で豊平カンツリー倶楽部へ譲渡した。本件ゴルフ場は,その後,同倶楽部によって経営が継続されている(争いがない。)。

3  緑建の経理状況等

(一) 緑建は,

(1) 昭和57年10月1日から翌58年9月30日までの事業年度(昭和58年9月期。以下,事業年度を示すときにこのように表すことがある。)において,

当期利益 18,181,041円

前期繰越損失 543,167,071円

当期未処理損失 524,986,030円を(乙1の1),

(2) 昭和58年10月1日から翌59年3月27日までの事業年度(解散事業年度)において,

当期損失 45,243,642円

前期繰越損失 524,986,030円

当期未処理損失 570,229,672円を(乙2),

(3) 昭和59年3月28日から同年9月30日までの事業年度(清算事業年度)において,

当期利益 137,597,310円

前期繰越損失 570,229,672円

当期未処理損失 432,632,362円を(乙3),

それぞれ計上している。

(二) また,緑建は,

(1) 昭和58年9月期において,売上高(賃貸収入)25,833,300円を(乙1の1),

(2) 解散事業年度において,売上高(賃貸収入)29,354,838円を(乙2),

(3) 清算事業年度において,ゴルフコース使用に係る使用料収入30,478,495円(乙3)を,

それぞれ計上しており,豊平カンツリー倶楽部は,これに対応する支払地代を計上している(乙4の1,乙5)。

(三) 緑建の解散時(昭和59年3月27日)の資産及び負債の状況は,別表三のとおりであり,総資産の額は4,126,631,772円,総負債の額は4,686,861,444円である(争いがない。)。

総負債の額のうち,長期預り金1,287,657,738円は,本件ゴルフ場の会員からの預り保証金であって,開場の日(昭和58年4月)から10年間無利息で据え置かれ,据え置き期間経過後に会員から請求があった場合に返済すべきものである(争いがない。)。

(四) 緑建においては,解散後,原告の広島支店長水野光次が代表清算人となって清算事務が行われた(争いがない。)。

緑建は,昭和59年3月28日から同59年9月30日までの清算事業年度の予納申告において,本件債権放棄による債務免除益2,026,836,212円を特別利益として計上する一方,右清算事業年度終了の直前である同年9月29日になされた本件ゴルフ場の豊平カンツリー倶楽部への譲渡につき,その帳簿価額3,759,583,547円と原告の鑑定評価額2,100,003,600円(甲2参照)との差額1,623,583,547円を特別損失に計上した(争いがない。)。その結果,清算事業年度の緑建の申告所得金額は0円となっている(乙3)。

4  原告の経理状況等

(一) 原告は,

(1) 昭和56年3月期において,

当期純利益金 4,077,838円

繰越利益金 67,133,083円

当期末未処分利益剰余金 71,210,921円を(乙12),

(2) 昭和57年3月期において,

当期純利益金 51,876,675円

繰越利益金 71,210,921円

当期末未処分利益剰余金 123,087,596円を(乙11),

(3) 昭和58年3月期において,当期純利益11,978,053円を(乙10),

(4) 昭和59年3月期において,

当期純利益金 20,328,325円

繰越利益金 135,065,649円

当期末未処分利益剰余金 155,393,974円を(乙9),

それぞれ計上している。

(二) 原告は,本件事業年度の確定申告において,当期純利益を20,328,325円としている(争いがない。)。右事業年度において,原告には不動産譲渡による多額の収入及び利益が発生しているが,本件債権放棄にかかる金額を貸倒損失として計上したことにより,当期純利益が20,328,325円となった(原告代表者)。

本件事業年度及びこれに先行する三事業年度の原告の貸倒損失計上前の当期純利益の金額は,別表五のとおりであり(乙9ないし12),本件事業年度のそれは前三事業年度に比べて著しく高額であるところ,本件債権放棄にかかる金額を貸倒損失として計上したため,本件事業年度の当期純利益が前記のとおり,前三事業年度と比較して突出しない程度におさまっている。

広島銀行行員横田二朗は,守屋から,本件債権放棄につき,昭和59年3月期に約2,000,000,000円の利益の計上が見込まれることから,同期に放棄するものとした旨聞いた(乙25。なお,原告代表者は,同人の尋問においてこれを否定するが,横田二朗は,緑建に対する原告以外の大口債権者である広島銀行の行員であるにすぎず,原告と特別の利害関係を有するものでないから,その供述録取の内容は十分信用できる。)。

5  豊平カンツリー倶楽部の経理状況等

(一) 豊平カンツリー倶楽部の収入の状況は,別表六のとおりであり,年々増加している(争いがない。)ただし,昭和58年9月期及び昭和59年9月期には営業損失及び経常損失を生じ,昭和60年9月期において営業利益及び経常利益を計上している(乙4の1,5,6)。

(二) 豊平カンツリー倶楽部は,

(1) 昭和58年9月期において,

当期利益 807,398円

前期繰越損失 619,100円

当期未処分利益 188,298円を(乙4の1),

(2) 昭和59年9月期において,

当期損失 53,840,063円

前期繰越利益 188,298円

当期未処理損失 53,651,765円を(乙5),

(3) 昭和60年9月期において,

当期利益 14,799,278円

前期繰越損失 53,651,765円

当期未処理損失 38,852,487円を(乙6),

それぞれ計上している。

6  広島銀行と緑建の関係等

(一) 緑建に対する大口債権者である広島銀行は,その貸金債権(元金1,223,473,000円)を放棄していない(争いがない。)。また,本件ゴルフ場の敷地に同銀行のために極度額1,270,000,000円の根抵当権が設定されているが,同銀行は,本件債権放棄のころにその実行による債権回収の手続を講じたこともない(争いがない。)。

同銀行行員横田二朗は,本件債権放棄当時の緑建の財政状態について,昭和58年4月に本件ゴルフ場がオープンして,まあまあの評判だったので,同銀行としては特別に緑建が危険な状況になったとは考えていなかった旨述べている(乙25)。

(二) 広島銀行の緑建に対する貸付残高は,平成2年11月現在で約400,000,000円である。本件債権放棄当時より減少しているのは,緑建の親会社である原告と債権回収について折衝し,調停を経て,原告が平成2年2月に800,000,000円を緑建に代位して弁済したためである(乙25)。

7  本件ゴルフ場の会員数及び入会預り金(甲38,39,43,乙2,31,原告代表者)

(一) 本件ゴルフ場の会員口数は,昭和59年3月27日現在までで,1,154口であった。現在(平成4年6月)は,約1,800名である。

(二) 同じく入会預り金は,昭和59年3月31日現在で,1,287,657,738円,平成3年9月30日現在で4,428,234,500円である。

二  原告は,本件債権放棄に係る金額を貸倒損失として計上し,被告は,これを寄付金であるとして本件更正及び本件賦課決定を行った。

1  貸倒損失は,損金の額に算入されるが(法人税法22条3項3号),貸倒れの判定に関する一般的な基準として,法人税基本通達9-6-1及び9-6-2の規定がある。

同通達9-6-1(4)(同規定の(1)ないし(3)が本件に該当しないことは明らかであるから,以下(4)についてのみ述べる。)は,債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において,その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を損金の額に算入する旨規定し,同通達9-6-2は,法人の有する貸金等につき,その債務者の資産状況,支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には,その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる旨規定する。

2  法人税法にいう寄付金とは,寄付金,きょ出金,見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず,金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合の金額であり(法人税法37条6項),利益処分をもって寄付金を支出した場合を除き,一定額を超える部分の金額は損金に算入されない(同条2項)。

一般的に,債権を相手方から回収できるのにこれを放棄した場合は,経済的利益を無償で供与したものということができるが,本件債権放棄は,原告の子会社である緑建に対して行われており,親子会社間での債権放棄については,法人税基本通達9-4-1が寄付金に算入しない場合について規定している。すなわち,同通達は,法人がその子会社等の解散,経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受その他の損失の負担をし,又は当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても,その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは,その負担又は放棄をしたことにより生ずる損失の額は,寄付金の額に該当しないものとすると規定している。

三  そこで,まず緑建の損益計算書及び貸借対照表について検討する。

1  緑建は,昭和58年10月1日から翌59年3月27までの解散事業年度において約570,000,000円,同年3月28日から同年9月30日までの清算事業年度において約430,000,000円の当期未処理損失を計上しており(乙1,2),また,その解散時(昭和59年3月27日)の資産及び負債の状況は,別表三のとおり,総資産の額が4,126,631,772円,総負債の額が4,686,861,444円である。

2  資産

緑建解散時の貸借対照表(別表三,乙2)の資産額から,不渡手形及び開業費の額を控除すると,3,831,949,611円である。

有形固定資産のうち,土地勘定は,土地代,コース建設費及びコース造成費の合計である(甲1)。土地代金中には,立木の取得費が含まれているが,立木の取得費用は,本件ゴルフ場建設用地取得のために必要不可欠な費用であり,このことは原告も認めるところであって,これを控除すべき理由はない。また,冬季期間中積雪のため本件ゴルフ場のクローズ期間が長いことについては争いがないが,このような事情は,緑建がゴルフ場造成地を取得する以前から存在し,予想されたものであるから,取得価額決定の際既に折り込みずみの問題であって,土地の評価額を減額すべき理由たりえない。更に,本件ゴルフ場の工事期間中たびたび豪雨等に見舞われ,コース造成費は工事開始前の見積額を1,000,000,000円以上超過しているところ(甲1,23の1),このような金額中には土地勘定の評価に加えることが適当でない部分もあると考えられないではないが,その範囲は必ずしも明らかではない。

3  負債

緑建解散時の貸借対照表の負債額は前記のとおりであるが,税理士船本進が作成した債務決済予定額の一覧表には,緑建解散時の債務総合計として5,556,289,720円の記載がある(甲3。ただし,この債務総合計の個々の項目の数額は,緑建解散時の貸借対照表の負債の項目の数額と若干の食い違いがある。)。

また,総負債の額のうち,長期預り金1,287,657,738円は,本件ゴルフ場の会員からの預り保証金であって,開場の日(昭和58年4月)から10年間無利息で据え置かれ,据え置き期間経過後に会員から請求があった場合に返済すべきものであることは争いがないところ,その保証金の回収が会員権の譲渡によるのが通常で,返還請求が稀であるとまでは断定できないとしても,この預り保証金が当面返済を要しないものであることは明らかである。

5  本件ゴルフ場の鑑定評価書

本件ゴルフ場の鑑定評価書は,本件ゴルフ場の鑑定評価額を2,136,000,000円であるとし(甲2),緑建の解散時における貸借対照表の有形固定資産の額3,759,583,547円より低い評価をしている。

右鑑定書作成にあたり,評価額の指示があったとする志岐秀三の質問てん末書(乙16)があるが,同人は,奥村組に長く勤め,ゴルフ場の建設にも多くかかわっていたことから,右鑑定書の作成者である不動産鑑定士田尻正春に鑑定資料の提供を依頼されたにとどまり,実際に鑑定を行ったわけではないから(甲4,証人田尻),右質問てん末書の記載には不自然な部分がないではなく,評価額の指示を否定する志岐自身による上申書(甲4)も存在する。しかし,同てん末書が公文書であること,供述者である志岐が誤りのないことを認め,署名指印していること,供述録取者である荒川政明は,指値があったという供述について記憶していること(証人荒川),税理士船本が,田尻に対し,ゴルフ場の帳簿価格が適当でない価格になっている旨述べたこと等を考え合わせると,志岐本人が死亡している現在(証人田尻),断定はできないものの,評価額につき指示があったのではないかとの疑いを否定することはできない。

また,本件ゴルフ場の鑑定をするにあたり,奈良県の八重桜カントリークラブ及び兵庫県の関西クラシックゴルフコースが参考にされている。これらは奥村組が建設に携わったものであり,鑑定にあたり,志岐がその資料を提供したものであるが,同じく奥村組が建設した鳥取県の日本海カントリークラブは,より本件ゴルフ場に類似しているとみられるのに,考慮の対象とされていない(乙16,29,証人田尻)。

5  ところで,債務超過とは,マイナス財産(負債)がプラス財産(資産)を超過することであるところ,法人税基本通達9-6-1によれば,債権額が貸倒れとして損金の額に算入されるためには,債務超過の状態が相当期間継続し,その貸金等の弁済を受けることができないと認められることが必要であるから,特定時点の計算書類の数額が債務超過の状態を示していることのみをもって,直ちに同規定に該当するということはできない。また,同通達9-6-2にいう債務者の資産状況の判断にあたっても,計算書類の数額はひとつの判断資料になるが,それが決定的な意味を持つものではないと解され,同規定の支払能力を判断するについても,その財産のみならず,信用や労力を考慮すべきである。

したがって,特定時点の計算書類上の数額から直ちに右各通達への該当性が決せられるわけではなく,右2ないし4においてみたような緑建の貸借対照表の数額の当否に関する問題が直ちに本件の結論を左右するわけではない。

四  そこで,次に別の観点から,緑建の経営ないし財産状況を検討する。

1  一般にゴルフ場の建設にあたっては,膨大な資金を必要とすることが経験則上明らかである。また,昭和48年,49年のオイルショックの後約12年間くらいはゴルフ場低迷の時期であり,その建設にあたっては会員からの預り金で工事を進めていたが,それでも普通のところでは1,000,000,000円くらい不足したということである(原告代表者)。

したがって,ゴルフ場開場後も当分の間は債務超過の状態が継続するのが通常であるといえ,本格的に収益の計上を開始する3年ないし5年後の状況を見なければ,債務超過の状況が相当期間継続し,当該債務の弁済が不可能であるか否か(法人税基本通達9-6-1)及び債務者の資産状況,支払能力等からみて,債権の全額が回収できないものか否か(同通達9-6-2)は明らかにならないというべきである。開場後相当の期間債務超過の状況が継続するであろうことは,本件ゴルフ場についても同様であり,その建設に相当額の費用を投じた原告も当然これを予定していたものと考えられる。

2  本件ゴルフ場は,緑建解散の2年5か月前である昭和56年11月にその経営権を取得した原告及びその経営を委託された豊平カンツリー倶楽部によって開場され,緑建解散の半年後である昭和59年9月に豊平カンツリー倶楽部に譲渡されて経営が続けられているところ,その会員数の増加の度合いは,同倶楽部が経営を引き継いだ当初は必ずしもはかばかしくなかったものの(甲38,原告代表者),平成3年9月30日現在の入会預り金の額は,本件債権放棄時に比べ3,100,000,000円以上増加するなど,その後かなりの業績をあげている。そして,たび重なる豪雨等にもかかわらず,相当な支出をしながら本件ゴルフ場の建設を続け,そのオープンにまでこぎつけられたのは,原告代表取締役守屋個人の熱意と決断によるところが大きかったと思われ(甲8の16,17,原告代表者及び弁論の全趣旨),その守屋が原告,緑建及び豊平カンツリー倶楽部の代表取締役であることを考慮すると,緑建が解散しないで存続していれば,本件ゴルフ場を通じて順調に利益をあげることができたことが十分に考えられるところである。

五  原告は,昭和52年に本件ゴルフ場の請負契約を締結し,その開場に至るまで,相当の出費をしながら建設を続けてきたものである。この間,原告の緑建に対する完成工事未収入金の額は,

昭和54年3月末 136,725,600円

昭和55年3月末 762,426,916円

昭和56年3月末 892,660,060円

昭和56年10月末 825,699,465円

昭和57年3月末 760,691,618円

昭和58年3月末 1,855,696,255円

昭和59年3月27日 1,958,457,225円となっている(甲35,原告代表者)。

原告は,これら工事代金につき支払催告をしており(原告代表者),昭和54年10月15日には内容証明郵便をもって工事出来高に応じた支払を催告している(甲36)。しかし,その額が極めて巨額であるにもかかわらず,右昭和54年の時を除き書面による催告をした形跡はみられず,また,工事を中止したり,債権回収の法的手段をとったりすることもなく,本件ゴルフ場の開場まで工事費用を立て替えて本件ゴルフ場の建設を進めてきたものである(甲8の16,同号証の17,原告代表者)。

六  原告とならんで緑建の大口債権者であった広島銀行は,緑建に対し,約1,200,000,000円の貸金債権を有していたが,緑建に対して担保権を実行する等の手段に出ていない。また,本件債権放棄当時において,その財産状況が危険だと考えていなかった。

七  原告代表者は,その供述及び陳述書(甲32)において,原告は,本件ゴルフ場の建設を開始したものの豪雨等により建設費用等が当初の予定より大幅に超過し,また,緑建の本件ゴルフ場の会員募集がはかどらないため,緑建からその工事費用の弁済を受けることができなかったところ,そのままでは原告も緑建も共倒れとなる危険が生じ,ともかく本件ゴルフ場を完成させれば代金の回収が可能であると考えたこと,工事を中止すれば風水害等の大規模な災害が発生する虞があること,ゴルフ場が完成しなければ会員の期待を裏切って社会問題にもなること,緑建の渡邉社長や会員の懇請を受けたこと等の理由から,工事費用等を立て替えて本件ゴルフ場の建設を続けてきたが,その費用については銀行からの融資が受けられなくなったため,高利金融機関から資金を調達せざるをえなくなったものの,高利の融資を受け続けているとゆくゆくは原告が倒産してしまうので,緑建に対して有する不良債権の額を減らして経理内容を良くし,再び銀行から融資を受けられるようにするため,不良債権の一部でも貸倒の処理ができないかと考え,税務署に相談したところ,矢崎から債権放棄の方法を指導され,本件債権放棄をした旨述べている。また,税理士押田も,債権償却特別勘定の可否について税務署に相談に行ったところ,矢崎から法人税基本通達9-4-1を示された旨供述する。そして,右の事情を窺わせる証拠(甲8の7,同号証の9,同号証12,同号証の13,同号証の15ないし17,甲12の1,同号証の2)もないではない。

しかし,前記一2のとおり,矢崎が本件債権放棄について具体的に指導したということはできない。

また,原告は,昭和58年8月及び翌59年1月に土地を売却して約3,600,000,000円の利益をあげているため(甲19ないし22,利益の額については争いがない。),59年3月期(本件事業年度)に本件債権放棄を貸倒損失として計上しない場合には,同事業年度における当期純利益が2,047,164,537円となり,それより前の三事業年度の各純利益に比較して著しく高額になるところ,本件債権放棄は,本件事業年度が終了する1日前の昭和59年3月30日に行われ,原告が本件債権放棄にかかる金額を貸倒損失として計上したことにより,当期純利益が20,328,325円となったものである(この点に関し,原告は,一方で土地売却益があり,他方で債権放棄をした場合の決算についても,矢崎に相談した旨述べるが,矢崎は,土地売買契約書を見た記憶がなく(証人矢崎),このような相談がされたということはできない。また,原告は,右土地売却による利益に関し,これが横須賀市佐原における宅地造成のため三井不動産等からの借入金の返済に充てられた旨述べるが(前記第二,五,5(一),原告準備書面10),別の個所においては,ゴルフ場の建設費を使途とする融資につき,取引銀行から融資を拒否され,やむなく本件ゴルフ場の建設費を賄うため,所有不動産を売却処分し,その結果約3,600,000,000円の不動産譲渡益を得たが,そのほとんどを本件ゴルフ場の建設費用に費やし,取引銀行等への返済に充てなかったため,取引銀行からの新規の融資を拒否されるとともに,ゴルフ場建設から手を引くよう求められたと述べており(原告準備書面6),この間の事情の主張が必ずしも一貫していない。)。

更に,緑建は,昭和59年3月28日から同59年9月30日までの清算事業年度の予納申告において,本件債権放棄による債務免除益2,026,836,212円を特別利益として計上する一方,右清算事業年度終了の直前である同年9月29日になされた本件ゴルフ場の豊平カンツリー倶楽部への譲渡につき,その帳簿価額3,759,583,547円と原告の鑑定評価額2,136,000,000円との差額1,623,583,547円を特別損失に計上し,その結果,清算事業年度の緑建の申告所得金額0円としている。

これらの点を考慮すると,原告が本件債権放棄をした意図が前記のようなものであったとは,にわかに信じ難いといわざるを得ない。

八  法人税基本通達9-4-1は,子会社の整理等の場合において,親会社が株主有限責任の原理を理由にその責任を回避することが社会的に許されないという状況が生じる場合があり(例えば,子会社の解散にあたり,その雇用者の退職金の支給ができない状態であれば,親会社が退職金の源資を援助しなければならない状況が生じうる。),その責任を果たすために親会社が損失の負担(右の例でいえば,退職金の源資の援助がこれにあたる。)をしたとすれば,これをもって,任意の,事業上の必要と離れて行われる単純な贈与等とは同視できないから,親会社自らが生き残るために必要不可欠なものとして負担した損失については,それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり,それが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情にあるときは,これを寄付金の額に該当しないものとするのである。

ところで,原告は,本件債権放棄の通知にあたり,本件債権放棄が寄付金にあたると認定された場合にはこれを撤回する旨を同通知書に記載しているが(乙13),これは本件債権放棄による損金処理によって親会社たる原告が得る利益にのみ着目した措置であって,本件債権放棄によってその子会社に対する親会社の責任を果たすとともに自らの危機を回避するという法人税基本通達9-4-1の趣旨に沿うものではない。

また,原告は,昭和56年10月ころに緑建の全株式を譲り受け,緑建を子会社としたのであるが,このころ原告の緑建に対する工事未収入金の額は,既に約800,000,000円にのぼっており,広島銀行の緑建に対する貸金は,元本だけで約1,240,000,000円になっていたところ,原告は,このような状況において,緑建に対する工事代金を立替えながら本件ゴルフ場の建設を続け,その工事未収入金が増加したのである。そして,守屋は,緑建を存続させたのは,緑建に対しておろされていたゴルフ場の許可権を維持するためであるとの供述をするが,本件ゴルフ場のオープンにこぎつけた以上,原告の緑建に対する債権が今後格段に増加するという事情はなく,仮オープンの後,正式オープンの直前という時点で緑建を解散させる理由は特にみられないというべきである。また,緑建は,解散事業年度末期に至って豊平カンツリー倶楽部にゴルフ場及びその入会者を引き継いでいるが,同倶楽部の代表取締役も守屋であるから,結局,本件ゴルフ場の経営の実態には何ら変更がない。

更に,本件債権放棄は,昭和58年4月に本件ゴルフ場が仮オープンし,その営業が開始されてからほぼ1年後という極めて短期間のうちに行われ,しかも,正式開場の昭和59年4月より前に行われたものであるが,緑建のために原告がとりうる措置としては,履行の猶予や利息の免除等の手段も考慮に値するところ,右のような時期に突如として債権放棄をする理由も十分ではない。

九  これまでみた事情を総合考慮すれば,本件において,債務超過の状態が相当期間継続し,当該債務の弁済を受けることができないとし,あるいは,資産状況,支払能力等からみて,債権全額が回収できないことが明らかであるということはできず,また,債権放棄について相当な理由があるということもできない。したがって,本件債権放棄にかかる金額を寄付金と認定したことは相当である。

第四本件課税処分の根拠等

一  本件更正

昭和63年法律第109号による改正前の法人税法66条に基づき,課税所得金額1,955,277,412円のうち,年8,000,000円以下の金額については30/100を,これを超える金額については42/100をそれぞれ乗じて計算した金額は,820,256,340円である。これに原告の確定申告額と同額の土地譲渡益重課税額1,415,000円(租税特別措置法63条)を加え,原告の確定申告額と同額の所得税控除額を控除した差引法人税額は,816,217,200円である(国税通則法119条1項により100円未満の端数切り捨て)。

右金額は,本件更正にかかる法人税額と同額であるから,本件更正は適法である。

二  本件賦課決定

昭和62年法律第96号による改正前の国税通則法65条1項及び2項に基づき,本件更正により納付すべき本税の額809,000,000円(同法118条3項により10,000円未満切り捨て)に5/100の割合を乗じて計算した金額と,右本税の額の10,000円未満切り捨て前の金額809,001,900円のうち期限内申告税額12,669,440円を超える部分の金額(10,000円未満切り捨て)に5/100の割合を乗じて計算した金額とを合計した金額は,80,266,500円である。

右金額は,本件賦課決定にかかる過少申告加算税額と同額であるから,本件賦課決定は適法である。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻次郎 裁判官 伊藤敏孝)

〈以下省略〉

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