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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)27号 判決

原告

戸所慶造

瀬戸定雄

岡本一雄

佐藤俊子

右四名訴訟代理人弁護士

木村和夫

林良二

被告

根本康明

右訴訟代理人弁護士

神崎正陳

被告

茅ヶ崎商工会議所

右代表者会頭

伊藤留治

右訴訟代理人弁護士

外池泰治

主文

一  被告らは、茅ヶ崎市に対し、各自金五四一万六二五〇円及びこれに対する昭和六三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、茅ヶ崎市長である被告根本康明が、職務専念義務を免除したうえ被告茅ヶ崎商工会議所に派遣した同市職員に対して、給与等の支払をしたことが違法であるとして、茅ヶ崎市の住民である原告らが、右派遣職員に支払われた給与等に相当する額の金銭を、損害賠償ないし不当利得として被告らに請求した事案である。

一1  当事者(争いがない。)

(一) 原告らは、いずれも茅ヶ崎市の住民である。

(二) 被告根本康明(被告根本)は、昭和五八年四月二八日から茅ヶ崎市長の職にある者である(以下、被告根本につき、そこの職務に関連した事項を述べるときは、単に「茅ヶ崎市長」ということがある。)。

(三) 被告茅ヶ崎商工会議所(被告商工会議所)は、茅ヶ崎市内の商工業者を会員として、同地区内における商工業の総合的な改善発達を図ること等を目的として設立された法人である。

2  茅ヶ崎市職員の派遣と給与等の支給(争いがない。)

(一) 被告根本は、茅ヶ崎市長として、昭和六三年三月二三日、被告商工会議所との間で、茅ヶ崎市職員を被告商工会議所に派遣するにあたり、次のような内容の協定(本件協定)を締結した(〈書証番号略〉)。

(1) 職員の派遣期間は、昭和六三年四月一日から同六六年三月三一日までとする。

(2) 商工会議所は、派遣職員を同法人の職員に併せて任命し、双方の身分を有せしめるものとする。

(3) 派遣職員に対する給与の支給、休暇、分限及び懲戒並びに福利厚生については、茅ヶ崎市の関係規程を適用して同市が行う。

(4) 派遣職員に対する出張旅費の支給、勤務時間、休日、服務及び労働者災害補償については、商工会議所の関係規程を適用して被告商工会議所が行う。

(二) 被告根本は、茅ヶ崎市長として、昭和六三年四月一日、本件協定に基づき、同市の市立病院事務長石橋久照の職務専念義務を免除し、被告商工会議所への派遣(本件派遣)を命じた。

その経緯は、次のとおりである。

(1) 茅ヶ崎市長は、昭和六三年四月一日、石橋久照(本件派遣職員)に対し、次のとおり発令した(〈書証番号略〉)。

理事を命ずる

市長公室付を命ずる

茅ヶ崎商工会議所へ派遣を命ずる

派遣期間は昭和六三年四月一日から昭和六六年三月三一日までとする

(2) 石橋久照は、昭和六三年四月一日、茅ヶ崎市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(本件免除条例)に基づき、同日から昭和六四年三月三一日までの期間につき、商工会議所専務理事の職務を執行することについて、職務専念義務の免除承認を申請し、即日、免除承認期間を申請どおりとする承認を得た(〈書証番号略〉)。

(3) 本件免除条例二条は、次のように規定している(〈書証番号略〉)。

職員は、次の各号の一に該当する場合においては、あらかじめ任命権者又はその委任を受けた者の承認を得て、その職務に専念する義務を免除されることができる。

① 研修を受ける場合

② 厚生に関する計画の実施に参加する場合

③ 前二号に規定する場合を除く外市長が定める場合

茅ヶ崎市長は、本件免除条例二条三号により、本件派遣職員の職務専念義務を免除した。

(三) 本件派遣職員は、昭和六三年四月一日、被告商工会議所により専務理事に任命され、同被告の職員としてその職務を行うこととなった。

(四) 茅ヶ崎市は、本件派遣職員に対し、同年四月一日から同年一〇月三一日までの間に、給与及び期末勤勉手当(給与等)として、合計五四一万六二五〇円を支給した(本件支出)。

(五) しかし、茅ヶ崎市は、昭和六三年一〇月三一日をもって本件派遣をとりやめた。

3  住民監査請求(争いがない。)。

原告らは、昭和六三年七月二九日及び同年八月一六日、茅ヶ崎市監査委員に対し、本件支出が違法な公金の支出であるとして住民監査請求を行ったが、監査委員は、同年九月二六日、右請求は理由がないとする通知をした。

二争点

本件派遣及び本件支出が違法なものであるか否かが主たる争点である(なお、被告商工会議所は、本件訴訟が住民訴訟になじまないものであると主張している。)。

1  争点に関する原告らの主張

(一) 本件派遣の違法

(1) 地方公共団体がその職員をして当該地方公共団体の本来の業務以外の業務に従事させることについて、法は、厳格な態度をとっているというべきである。その理由は、次のとおりである。

① 職員の派遣については、地方自治法二五二条の一七により、派遣の相手方、要件、身分、人件費負担等について特に規定されている。また、地方公共団体が他団体へ便宜供与をする場合については、地方公務員共済組合法一八条一項、地方公務員災害補償法一三条一項等に特に規定が設けられている。

② 職務専念義務を定めた地方公務員法三五条は、職員に対する行為規範を定めたものであるが、この規定の趣旨からすれば、地方公共団体もその職員にこれに反する行為をさせるべきではなく、ここに地方公共団体の行政の運営を制約する重要な原則(公務秩序の保持)が定められているというべきである。

③ 地方公共団体がその職員をして当該地方公共団体の本来の業務以外の業務に従事させる場合も、給与等これに対する公金の支出に直接結びつくから、そのための職員の派遣は、特に厳格に行われるべきである。

(2) したがって、地方公共団体から地方公共団体以外の団体への職員派遣は、当該地方公共団体の職務上の指揮命令が一般的に及ぶ範囲内での一時的暫定的な派遣に限られるべきであり、本件のように長期恒常的に他の団体等の指揮命令のもとにその職務に従事するような職員の派遣は、法の許容しないところである。

(3) また、本件派遣は、職務専念義務を免除して行われたが、条例上職務専念義務を免除すべき場合に該当しないものであり、違法である。

公務員の職務専念義務は、全体の奉仕者としての地位に基づく公法上の責務であり、高い倫理性を有するものであって、職員の核心的な行為規範として、任命権者といえども尊重しなければならないものである。したがって、職務専念義務の免除は、法律又は条例に特別の定めがある場合に限られ、しかも公務優先の大原則に鑑み、合理的理由がある場合に限られるものである。

ところが、地方公共団体の職員の他団体への派遣を目的とする職務専念義務の免除については、法律はもちろん、茅ヶ崎市条例にも直接の規定はない。もっとも、本件免除条例二条三号は、職務専念義務を免除できる場合として、「市長が定める場合」を認めているが、右にみたような職務専念義務の趣旨からすれば、いかなる場合でも市長の判断で職務専念義務を免除できるというのではなく、同条例二条一号及び二号に準ずる例外的な場合に限ってこれを免除することができるというべきである。行政実例においても、「任命権者が定める場合」は、例外的一時的な事由による場合に限られている。

然るに、本件協定は、派遣期間を三年とし、これを延長し得るものとしており、勤務時間及び服務等についても被告商工会議所の規程に従うなど、本件派遣職員をして被告商工会議所の専務理事としての職務に専念させることを目的としており、長期かつ全面的に職務専念義務を免除するものである。このような職務専念義務の免除は、右条例の予定しないところである。

(4) 本件派遣は、茅ヶ崎市の行政上の必要からなされたというより、被告商工会議所の要請に応じたものである。従前の被告商工会議所の専務理事の給与は、極めて低額であり(前任者難波直治の給与は、月額一三万五〇〇〇円程度であった。)、専従の統括責任者としての専務理事になり手がなかったところから、財政的な援助を行う目的で本件派遣を行ったと考えられる(本件派遣職員の給与は、月額平均七七万三七五〇円である。)。その給与の支払は、実質的には被告商工会議所への補助金の支出にほかならない。

(二) 本件支出の違法

(1) 本件派遣自体は財務会計上の行為ではないが、これと本件支出とは直接結びつくものであり、密接・不可分一体の関係にあるから、本件派遣が違法である以上、本件支出も違法である。

(2) 仮に本件派遣がそれ自体としては違法でないとしても、なお本件支出は違法である。

① 地方公共団体相互間の派遣の場合であっても、給与等は受入側が負担するのであるから(地方自治法二五二条の一七第三項)、本件においても、派遣を受けた被告商工会議所が給与等を支払うのが当然であって、茅ヶ崎市がこれを支給することは違法である。

② 地方自治法二〇四条は、常勤の職員に対し給料、手当等を支給すべきものとしており、地方公務員法二四条一項は、職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならないとしている。同条六項に基づき、茅ヶ崎市においては、茅ヶ崎市一般職員の給与に関する条例(本件給与条例、丙一)等により給与が支給されているが、同条例等にいう職員も、常時勤務に服する職員を前提としている。

然るに、本件派遣職員は、職務専念義務を免除されて専ら派遣先の職務にのみ専念し、市長の指揮監督を受けず、市の職員として市の職務に従事しているのではないから、かような派遣職員に対する給与支給については、条例上何らの定めもないことになる(派遣職員に対する給与の支給について、茅ヶ崎市の給与条例上規定がないことは争いがない。)。したがって、本件派遣職員に給与を支給することは、地方自治法二〇四条の二及び地方公務員法二五条一項に違反するというべきである。

(三) 被告らの責任

被告根本は、故意又は過失により、違法な本件派遣ないし本件支出をして、茅ヶ崎市に対し、総額五四一万六二五〇円の損害を与えた。また、被告商工会議所は、本件協定が無効であって法律上の原因がないのに、本件派遣職員の労務により利益を受けながら、茅ヶ崎市にその給与等を支給させ、その金額に相当する損失を与えた。

2  争点に関する被告らの主張

(一) 地方自治法二五二条の一七は、普通地方公共団体相互間の協力援助に関する措置として職員の派遣の制度を法定化することにより、派遣される職員の身分を保障し、積極的に職員の派遣を促進して普通地方公共団体相互間の事務処理の能率化、合理化に資することを立法趣旨とするものである。職員の派遣は同条によらなくても可能であり、また、この規定以外には職員の派遣を認めない趣旨ではない。

(二) 地方公共団体は、地方自治法二条三項五号により勧業に関する事務を、同項一三号により発明改良又は特産物等の保護奨励その他産業の振興に関する事務を、それぞれ処理するものとされている。また、商工会議所は、商工会議所法四条において、営利を目的としてはならず、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として事業を行ってはならないとされ、公益性・公共性の高い公共的団体であって、その行う事務からみても、市の商工行政と密接に関連する団体である。

したがって、このような性格を有する被告商工会議所に対し、市が商工業振興の目的で職員を派遣することには、一定の合理性と公益的理由が認められる。

(三) 本件派遣においては、次のとおり、市の施策上重要な業務を遂行する目的があった。

茅ヶ崎市においては、昭和六一年から同六五年までの間の茅ヶ崎市総合計画後期基本計画が設定され、商工業政策に関する目標を定めたが、同市は、公益性・公共性が高い公共的団体であって、市の商工行政と密接に関連する団体である被告商工会議所との緊密な協調関係を促進し、市の商工業の振興を図る必要があった。また、昭和六二年に中小企業庁が昭和六二年度商業近代化地域計画策定等の地域として茅ヶ崎市を指定したことにより、同市は、被告商工会議所との間でより連携を強化し、被告商工会議所を通じて積極的に商工業振興策を推進する必要を生じた。本件派遣は、このような茅ヶ崎市の施策の実行の重要な一環をなすものであり、それゆえ理事クラスの幹部職員の派遣が決定されたのである(茅ヶ崎市における基本計画の存在及び同市が商業近代化地域計画策定等の地域に指定されたことは争いがない。)。

地方公共団体において、他の団体等を支援することが公益のために特別に必要であることが客観的に明らかな場合は、職務専念義務免除方式による派遣は適法であり、本件はかような場合である。

(四) 本件派遣職員は、昭和六三年四月一日付けで茅ヶ崎市の理事に任ぜられており、同市の政策会議(市政の運営方針及び重要施策等を審議協議する庁内機関)には理事として精勤していた。

(五) 条例に基づいて職務専念義務を免除した職員に対する給与の支給については、条例上明確な規定が存在しない。しかし、本件給与条例には、①専従休職者及び育児休務の許可を受けた職員については給与を支給しない、②公務上の負傷や疾病等による休職の場合は給与の全額を支給し、それ以外の疾病等による休職の場合は給与等の一〇〇分の八〇を支給することができる、③刑事事件に関し起訴された場合の休職の場合は給与等の一〇〇分の六〇以内を支給することができる、④職員が勤務しないときは、勤務しないことにつき任命権者の承認があった場合を除き、給与を減額して支給する等の規定がある。これらの規定をみると、本件給与条例は、全く職務を遂行しない者であっても、職員である者には給与を支給することを原則としており、給与を支給しない場合又は減給する場合は、それを制限的に明文化しているということができる。また、職員が勤務しないときの減給も、任命権者の承認があったときを除外しており、本件免除条例に基づいて職務専念義務を免除した場合も、任命権者の承認に含まれることが明らかである。

したがって、職務専念義務を免除された職員に対し、給与を減額し又は支給しないという明文の規定に該当しない限り、任命権者は、その職員に給与を支給しなければならず、任意に給与の支給を停止したり、減額したりすることはできない。

3  争点に関する被告商工会議所の主張(2以外のもの)

(一) 本件は住民訴訟の対象にならず、訴えは却下を免れない。

(二) 商工会議所は様々な事務の委託を受けているが、これを適切に行うためには各事業に精通した市職員の派遣を必要とした。

また、分裂した茅ヶ崎市の一七商店街の統一、正常化のために、理事クラスの市職員の派遣が必要であり、被告商工会議所は、昭和六二年六月ころから、市に対し、理事クラスの職員の派遣を要請していた(被告商工会議所が市に対して理事クラスの職員の派遣を要請していたことについては、争いがない。)。

第三争点に対する判断

一被告商工会議所の本案前の主張について

原告らは、本件派遣の違法それ自体を問題とするのではなく、それを前提として、その派遣に直接結び付く本件支出を違法な公金の支出であるとし、あるいは、本件支出自体の違法性に着目して、本件支出を違法な公金の支出であると主張していると解されるから、住民訴訟としての適法性に欠けるところはなく、被告商工会議所のこの点に関する主張は採用しない。

二本件派遣について

1  地方公共団体の職員の他団体等への派遣は、実際には、公共性のある業務を援助・補助するため、派遣先において地方公共団体職員の専門的知識・能力を活用するため、あるいは職員の研修・能力開発のため等、かなり広く行われているようである(〈書証番号略〉)。地域住民に対する行政サービスの効率的な提供、あるいは地域の振興・活性化等の行政目的達成のため、地方公共団体が公共性の高い業務を行う団体に対して職員を派遣することは、住民の福祉の向上という観点から一定の意義をもつものと考えられる。

2  しかし、他方において、地方公共団体の職員には、その職務に専念する義務(職務専念義務)があり、原則としてその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用いなければならず、また、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない(地方公務員法三五条)。

職務専念義務は、全体の奉仕者としての地位に基づく公法上の責務であり、公務員としての最も基本的な義務のひとつである。公務は、国民・住民の信託に基づくものであり、その費用も国民・住民の租税負担によって賄われているものであるから、職員が勤務時間中全力をあげて職務に専念すべきことは当然のことであり、職務専念義務のこのような性質に鑑みれば、任命権者といえどもみだりにその例外を認めることは許されないというべきである。

地方公共団体が職員の派遣を行う場合、派遣先の業務が地方公共団体の事務と同一視できるもので、派遣される職員が派遣先においても地方公共団体がなすべき責を有する職務を行う限り、職務専念義務との関係では問題を生ずることは一応ないものといえる。しかし、派遣先の業務が地方公共団体の事務と同一視できるものではなく、派遣により当該職員が地方公共団体がなすべき責を有する職務以外の職務に従事する場合は、職務専念義務との抵触を生じ、同義務に違反する虞が生ずるから、かような派遣には極めて慎重でなければならない。

実際の職員派遣の例をみると、職務専念義務を免除して職員を派遣することが相当行われているようであるが(〈書証番号略〉)、職務専念義務との抵触を避けるためにみだりにこれを免除して職員を派遣するようなことがあってはならないと解される。

3  ところで、本件については、既にみた当事者間に争いのない事実及び証拠により認定した事実に加え、次の事実が認められる。

(一) 本件派遣が行われた背景には、次のような事情があった(〈書証番号略〉、証人八代)。

(1) 被告商工会議所への補助金等が他市に比べそう多くなく、市の産業振興や観光客の誘致等について、他市では市が行っている事業についても、被告商工会議所が主になって行っており、市にももっと応援してもらいたい等の意見があり、茅ヶ崎市がそれへの理解を示したこと

(2) 茅ヶ崎市の商工業が近隣市に比べて相当落ち込んでおり、市としても今後の重要な課題として商工業振興にあたらなければならないとの認識があり、職員派遣が市の商工業の進展、町の活性化につながると考えられたこと

(3) 相互に職員を研修しあうということがあってもよいと考えられたこと

(4) 被告商工会議所から、高齢のため専務理事を辞した難波直治の後任が必要であるとの要望があったこと

(二) 本件協定は、将来的な職員の派遣を見通して作成されたものではなく、当面本件派遣のために作成されたものである(証人八代)。

(三) 本件協定には、要旨次のような規定がある(〈書証番号略〉)。

(1) 派遣期間は三年とするが、協議のうえこれを延長又は短縮し得る。

(2) 派遣職員の服務については、被告商工会議所の定款を適用する。

(3) 派遣職員の分限・懲戒については、茅ヶ崎市の規程を適用するが、被告商工会議所の服務に関する義務違反等があった場合は、その定款を適用する。

(四) 本件派遣職員は、茅ヶ崎市理事として、昭和六三年四月から九月までの間、毎月一回(五月は二回)市の政策会議に出席した(〈書証番号略〉)。

(五) 被告商工会議所は、地区内における商工業者の共同社会を基盤とし、商工業の総合的な改善発達を図り、兼ねて社会一般の福祉の増進に資し、もってわが国商工業の発展に寄与することを目的とする、商工会議所法の規定に基づく法人であり、営利を目的とせず、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として事業を行うものではない。

その会員となることができるのは、原則として、同商工会議所の地区内において引き続き六月以上営業所、事務所、工場又は事業所を有する商工業者、協同組合、信用金庫又は経済関係団体である。

専務理事は商工会議所の役員であり、会頭及び副会頭を補佐して所務を掌理し、会頭及び副会頭に事故があるときはその職務を代行し、会頭及び副会頭が欠員のときはその職務を行う。任期は三年である(〈書証番号略〉)。

4 商工会議所は、地域総合経済団体としての性格を有する法人であり、その性格は私法人であるが、公法人的性格を合わせ持つものである。しかし、これが地方公共団体の行政組織に属するものでないことは明らかである。また、その行う事業は多岐にわたり(商工会議所法九条、〈書証番号略〉)、その事業が地方公共団体の事務と同一視できるものでないことも明らかである。そして、商工会議所の専務理事としての職務もその事業に応じて広範なものであると解されるから、本件派遣職員が被告商工会議所において行う職務をもって、地方公共団体がなすべき責を有する職務であるということはできない。

したがって、本件派遣は、本件派遣職員の職務専念義務との抵触を生じさせることになる。

5 職務専念義務は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除いて職員に課せられるものであるが、茅ヶ崎市においては、本件免除条例により、職務専念義務の免除について定められている。本件派遣も、同条例に基づき職務専念義務が免除されたうえで行われている。

ところで、同条例によれば、職務専念義務は、職員が任命権者等の承認を得て免除されることができる旨規定されており、職員からの申出が前提となっている。本件派遣職員も、職務専念義務の免除承認を申請し、それに対する承認を得て派遣されたものである。しかし、地方公共団体の職員を、さきに認定したような性格の商工会議所に長期にわたり派遣するための方法として、このような職員の申出による職務専念義務の免除の方法が本来予定されているとは考え難い。また、職務専念義務の性質及び同条例二条一号及び二号に定められた事由との対比からして、同条三号の規定が、長期間地方公共団体の職務に従事しないこととなるような職務専念義務の免除を許すものと解することはできない。

6 本件派遣に至った事情をみると、茅ヶ崎市が被告商工会議所を通じて商工業の振興をはかろうとしたことが認められないではないが、同時に、被告商工会議所の活動を財政的に援助する目的が全く無かったとも断定できない。また、本件において、職務専念義務の免除は、期間を一年間として申請され、承認されたものであるが、本件派遣の期間は、被告商工会議所の専務理事の任期と等しく三年間であり、この間、職務専念義務の免除が繰り返されることが当然予定されていたと考えられるところ、その期間は、職務専念義務を免除するには長期にすぎるというべきである。加えて、職務専念義務の前記のとおりの性質、職務専念義務の免除が職員派遣の方法として予定されたものでないこと等もあわせ考慮すれば、被告商工会議所の公共性等を考慮しても、本件派遣にあたり職務専念義務を免除したこと及びかような手段をもってなされた本件派遣には、地方公務員法三五条、本件免除条例二条に違反する違法があるというべきである。

三本件支出について

本件支出は、茅ヶ崎市長又はその権限の委任を受けた者の支出命令に基づき、同市職員である本件派遣職員に対して行われた給与等の支払であり、この点のみをみれば、市の職員に市が給与等を支払ったというだけで、何ら問題がないようにみえる。すなわち、本件派遣職員が市の職員である限り、これに対して市が給与等を支払うのは当然のこととみえなくもない。

しかし、本件派遣職員は、違法な職務専念義務の免除により被告商工会議所に派遣され、派遣期間中主として被告商工会議所の職員として職務を行っていたものであって、本件支出は、かような職員に対してなされた給与等の支払である。地方自治法二〇四条一項は、常勤の職員に対して給料を支払う旨規定し、また、地方公務員法二四条一項は、職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならないと規定しているところ、本件派遣職員は、派遣期間中も市職員としての身分を有し、月一回程度市の政策会議に出席していた事実はあるものの、主として被告商工会議所の専務理事として職務を行っており、これを常勤の職員ということはできず、また、本件派遣が違法である以上、その間、市の職務に従事しなかったことを正当化する根拠もなかったのであるから、右各規定の存在に照らし、また、一般的なノーワーク・ノーペイの原則により、本件派遣職員に給与等を支給することはできないというべきである。確かに本件給与条例には、被告が指摘するような規定があるが(〈書証番号略〉)、これらの規定も常勤の職員への職務と責任に応じた給与の支給あるいはノーワーク・ノーペイの原則を当然の前提としつつ、職務に従事しない者に対する給与等の不支給については注意的に規定し、職務に従事しない場合の給与等の支給については特に規定を設けたものと解され、また、職務専念義務の免除が違法である以上、本件において任命権者の承認があったということもできないから、結局本件給与条例にもかような職員に給与等を支給することを認める規定がないというべきである。

したがって、職務専念義務の免除及び派遣の発令がいずれも茅ヶ崎市長たる被告根本によって行われ、これらがいずれも違法と評価された本件においては、被告根本又はその権限の委任を受けた者が行った支出命令及びそれに伴う本件支出は、地方自治法二〇四条、二〇四条の二、地方公務員法二四条、二五条に反する違法な公金の支出にあたるというべきである。

また、観点を変えてこれをみれば、被告根本は、茅ヶ崎市長として、被告商工会議所との間で、派遣職員に対する給与の支給は茅ヶ崎市が行う旨の条項を含む本件協定を締結したうえ、その目的を達成するために、本件派遣職員に対し職務専念義務を免除して被告商工会議所に派遣を命じたものであり、本件派遣職員に対する給与の支給と、職務専念義務を免除する方法による被告商工会議所への派遣命令とは、密接不可分、相即不離の関係にあるということができるから、後者が違法である以上、前者もまた違法というべきである。

四被告らの責任

茅ヶ崎市は、本件支出により、本件派遣職員に支払った給与等に相当する損害を被ったものであり、また、既に確定した事実によれば、被告根本は、本件支出が違法であることを知り、又はこれを知らなかったことにつき過失があったものというべきであるから、これを賠償する責任がある。また、本件協定は、さきに掲げた強行法規に反し無効ということができるから、被告商工会議所は、法律上の原因なくして本件派遣職員から労務の提供を受け、これに相当する利得をし、茅ヶ崎市は本件支出によりこれに相当する損害を被ったものであって、被告商工会議所の利得は、茅ヶ崎市が負担した給与等の額と同額とみるのが相当であるから、これを返還すべきである。

(裁判長裁判官佐久間重吉 裁判官辻次郎 裁判官伊藤敏孝)

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