大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

津地方裁判所 平成5年(ワ)253号 判決

原告

吉田正昭

原告

吉田ミサヲ

右両名訴訟代理人弁護士

村田正人

石坂俊雄

福井正明

伊藤誠基

被告

吉田工業株式会社

右代表者代表取締役

吉田柄煥

被告

吉田建設こと

吉田柄煥

被告

吉田實

右三名訴訟代理人弁護士

杉岡治

室木徹亮

主文

一  被告らは、原告両名に対し、各自各金三〇万円及び右各金員に対する被告吉田工業株式会社、被告吉田實については平成五年一〇月二〇日から、被告吉田柄煥については平成五年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

被告らは、原告両名に対して、各自各金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告らの主張

1  当事者

(一) 原告らは、昭和六一年五月二一日から、上野ニュータウン内の肩書地に居住する夫婦である。

(二) 被告吉田工業株式会社(以下「被告会社」という)は、建物の解体工事、産業廃棄物・一般廃棄物の処理、土木工事の請負・建築請負、不動産の売買・賃貸・管理の斡旋、鉄スクラップ加工処理業等を目的として、平成二年七月五日に設立された株式会社である。被告吉田柄煥(以下「被告柄煥」という)は、「吉田建設」の名称で建物の解体工事等を業としており、被告会社の代表取締役でもある。

被告吉田實(以下「被告實」という)は、被告会社の専務取締役であり、三重県上野市大野木字山辻二六四九番雑種地四八三六平方メートル(以下「本件土地」という)の所有者である。

2  被告らの不法行為

(一) 被告らによる野焼き

被告柄煥及び被告實は「吉田建設」の屋号のもと、建物の解体業を営んでいるものであるが、昭和六二年頃から、建物解体の際に排出された建設廃棄物を本件土地に搬入して、そのうちの可燃性の産業廃棄物の野焼きを行うようになった。右野焼きは、当初はさして目立ったものではなかったが、平成元年頃から激しくなり、平成四年七月までの間におびただしい量の廃棄物が野焼きされた。「吉田建設」は、被告柄煥と被告實がそれぞれ社長及び専務として共同経営している組合類似の企業であり、本件野焼きも被告柄煥と被告實の双方が経営者の一員として行ったものである。

また、平成二年七月に被告会社が設立されて以降は、被告柄煥、被告實及び被告会社は、渾然一体となって操業を続け、平成四年七月まで本件土地において産業廃棄物の野焼きを続けた。被告会社における被告柄煥と被告實の役職は、「吉田建設」における右役職と同様であって、被告柄煥が代表取締役に、被告實が専務取締役になったものであり、家屋解体・産業廃棄物の処理業者としても「吉田建設」と同じような許可を受けており、両者は企業の実態として別個に存在するものではない。本件野焼きも、吉田建設の経営者である被告柄煥及び被告實と被告会社が、渾然一体となって行ったものである。

(二) 本件野焼きの違法性

原告らは、本件土地から約四七〇メートル離れた肩書住所地に生活しているが、本件野焼きによって生じる悪臭・煤煙によって、重大な健康被害・生活被害をうけた。右被害は原告らが社会生活上受忍すべき限度をはるかに超えており、本件野焼きは違法である。

(1) 加害行為の態様

被告らは、昭和六二年頃から本件土地において野焼きを始めたが、右野焼きは平成元年から激しくなり、おびただしい量の産業廃棄物が焼却されるようになった。被告らは、建物解体に伴って排出された木片、瓦、土、畳、建具、家具、電化製品、衛生陶器、基礎コンクリート、石、タイル、レンガ等の混合廃棄物(いわゆるミンチ)を選別することなく本件土地に搬入し、穴を掘って連日のように野焼きを行った。原告吉田ミサヲ(以下「原告ミサヲ」という)が現場を見に行くと、家を解体してきた畳や生活用品など一切合切を穴の中に放り込んで焼却しており、冷蔵庫・アスベスト・タイヤ・ガソリンスタンドのメーター・扇風機なども焼却されていた。また、塩化ビニールやプラスチックや材木に廃油をかけて燃やしていたこともあった。こうした野焼きの結果、本件土地からは連日のように煤煙が立ちのぼり、強い悪臭が発生した。悪臭の種類は灯油の腐ったような臭い・ゴムを燃やした後の臭い・人糞の臭い・ビニールが焦げたような臭いなど様々であった。

産業廃棄物の野焼きによる煙が有害であることは、平成四年七月の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という)の改正によって、野焼きが禁止されたことからも明らかである。野焼きにより発生する有毒ガスとしては、塩化水素、フッ化水素、クロロベンゼン、ベンゼン、ホルムアルデヒド、シアン化水素などが知られており、本件野焼きによっても、こうした有毒ガスが発生していたものと推定される。

(2) 原告らの被害の内容・程度

原告宅・上野ニュータウン・本件土地の位置関係は、別紙添付図面のとおりであり、被告らの野焼きによって発生した煤煙や悪臭は、連日の様に西光寺池を越えて上野ニュータウンに押し寄せてきた。特に原告宅は、上野ニュータウンのなかでも本件土地に近く、本件土地との間には西光寺池とその東側の丘があるだけであったため、野焼きによる煙やにおいや粉塵は原告宅付近に直接押し寄せ、局所的な大気汚染を引き起こした。また、上野ニュータウン付近では、年間を通じて約半分の頻度で、本件土地からニュータウンに向けて風が吹いており、こうした風により、ニュータウンに飛来する煤煙・悪臭は一層ひどくなった。しかも、被告らの操業が終わっても廃棄物の不完全燃焼が続くため、夜になっても煤煙や悪臭の発生は止まず、一晩中ニュータウンに流入してきた。

その結果、原告らは、呼吸ができなくなるほど息苦しくなり、活性炭マスクを常用し、安眠できない日々が続いた。さらに、頭痛・眼痛・目の充血・喉の痛み・声のかすれ・息苦しさ等の健康被害を生じ、病院通いの日々が平成四年七月ころまで続いた。原告らは、このような大気汚染から自らを守るため、空気清浄機二台の購入を余儀なくされた。しかも原告らは、療養目的で肩書地に生活しており、仕事に出掛けることもなかったため、一日中、煤煙・悪臭による被害を受けた。

またこうした健康被害の他にも、原告らは、家屋に油煙が付着する、粉塵のために屋外に干した洗濯物が汚れる、油煙や粉塵のために樹木の葉が黒ずむなどの生活被害も被った。

(3) 公法上の規制違反

平成二年五月厚生省生活衛生局水道環境課産業廃棄物対策室長通知「建設工事等から生じる廃棄物の適正処理について」(建設廃棄物ガイドライン)によれば、都市開発や木造家屋の増改築によって生じる木くず等の野焼きは禁止されている。また、悪臭防止法一三条、三重県公害防止条例三四条、三重県公害防止条例施行規則一九条によれば、ゴム・廃油等の悪臭を発生する物質の野外焼却は禁止されている。本件野焼きは、これらのガイドライン、法令及び条例に違反しており違法である。

また、被告柄煥及び被告實は、平成三年八月八日に上野保健所長から、廃棄物処理法一四条五項の規定に基づき、産業廃棄物の野焼き及び焼却灰の埋立を中止するように文書で警告を受けており、同年九月二日には県の機動班から立入調査を受け、野焼きを中止するように指導されている。こうした三重県の行政指導の事実からも被告らの野焼きの違法性と被害の顕在性は明らかである。

(4) 野焼きの回避可能性

被告らは、野焼きを回避することが可能であったにもかかわらず、その費用と手間を惜しんで野焼きを敢行し、原告らに煙害被害を及ぼした。すなわち、上野市では、昭和五十七年頃から日量三〇〇トンの焼却炉を設置して操業しており、産業廃棄物であっても分別してある木くずは受け入れていた。したがって、被告らも、可燃性廃棄物に関しては上野市の焼却炉で焼却してもらうことが可能であったにもかかわらず、機械解体した後の混合廃棄物を可燃性廃棄物と不燃性廃棄物に分別する手間をかけなかったために、市営焼却炉に持ち込むことができなかった。また、被告らは、混合廃棄物を選別することができないのであれば、管理型の最終処分場を有している他の産業廃棄物処理業者に委託処理すべきであったにもかかわらず、その費用を惜しんで外部委託処理も行わなかった。本件野焼きは、被告らがこうした費用・手間を惜しんだために行われたものであって、本来回避可能だったものである。

(5) 先住性

上野ニュータウンは昭和五〇年頃から入居が始まった住宅地であって、先住性は上野ニュータウンの住民側にある。また、野焼きがひどくなったのは、平成元年頃からであり、昭和六一年五月二一日から居住している原告らに先住性があることは明白である。

(6) 地域性

原告吉田正昭(以下「原告正昭」という)は、肩書住所地の土地を、病気(脳卒中)療養のために購入したものであり、右購入時には、上野ニュータウン付近は静謐な自然環境に恵まれた、療養には最適な申し分のない環境であった。

(三) 被告らの共同不法行為性

前記(一)のとおり、被告柄煥、被告實及び被告会社は、渾然一帯となって操業を続け、本件野焼きを行ったものであるから、被告らには客観的共同関連性が認められ、被告ら全員が共同不法行為責任を免れない。

3  原告らの損害

被告らの違法操業の結果、原告らは、前記2(二)(2)のとおりの被害を被り、健康及び私生活の平穏を著しく害されたものであり、このことによる苦痛を慰藉するとすれば、各金一〇〇万円は下らない。

4  よって、原告らは被告ら各自に対し、民法七〇九条及び七一九条に基づく不法行為損害賠償請求として、また、被告会社の取締役である被告柄煥及び被告實に対しては商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償請求として、各金一〇〇万円及び不法行為の日の後となる訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの主張

1  当事者について

原告らの主張1項の事実のうち(一)の事実は不知、(二)の事実は認める。

2  被告らの不法行為について

(一) 被告らによる野焼きについて

原告らの主張2(一)の事実のうち、被告柄煥が、昭和五八年頃から平成四年七月三日まで、本件土地で、木くずなどの可燃性廃棄物の野焼きを行ったことは認める。被告会社及び被告實が本件野焼きを行ったとの事実は否認する。被告實は、「吉田建設」の被用者として本件野焼きを事実上指揮管理したという立場があるに過ぎない。

(二) 本件野焼きの違法性について

原告らの主張2(二)の事実は否認ないし争う。本件野焼きによって原告らが被害を被った事実は存在しないし、仮に被害が存在したとしても、右被害は次のとおり、社会生活上受忍すべき限度の範囲内である。

(1) 加害行為の態様について

被告柄煥は、建物解体の際に出る廃棄物のうち、コンクリートがら・ガラス片・かわら片などの燃えない物と木くずなどの燃える物を分別したうえで、木くずなどの燃える物についてのみ本件土地で野焼きをしていた。また、野焼きの方法としては、本件土地の地面に直径六メートル・深さ三メートル程度の穴を掘り、焼却をすべき物が出たときだけ、なるべく雨の日を選んで午前一〇時頃に点火をし、午後三時頃に木くずの投入を止めるなど、十分配慮した焼却方法をとっていた。原告らは本件野焼きによって有害物質が発生したかのような主張をするが、右主張を裏付ける証拠は何ら存在しないし、三重県が実施した大気検査の結果は「異常なし」であったのだから、原告らの右主張は失当である。

(2) 原告らの被害の程度・内容について

本件野焼きによって、原告らに健康被害・生活被害が発生したことはないし、仮に被害が存在したとしても決して重篤なものではない。すなわち、原告ミサヲが供述する被害には何ら客観的裏付けが存在せず信用できないし、上野ニュータウンにセカンドハウスを有している証人畠山光弘は、自分自身は野焼きのよる被害を受けていない旨証言している。また、原告らは平成元年から野焼きによる被害を受けていたと主張するが、原告らが初めて野焼きについてクレームを述べたのは平成三年七月である。以上の事実によれば、原告らの主張する被害が主観的なものであり、何ら重篤なものでないことは明らかである。

(3) 公法上の規制違反について

平成四年七月三日までは、本件のような野焼きを規制する法令上・条例上の規制は一切存在しなかった。原告らは、本件野焼きが悪臭防止法違反であると主張するが、原告ら肩書住所地は悪臭防止法が適用される規定地域に指定されていない。また、三重県が実施した二酸化窒素・硫黄化合物・浮遊粒子状物質についての大気検査によれば、本件野焼きによる周辺環境への汚染の状況は、いずれも環境庁が告示している環境基準を満足している。さらに、被告柄煥が市や県等の機関から煙等の発生について行政指導等を受けたこともない。以上によれば、本件野焼きは何ら公法上の規制に違反しておらず、本件野焼きが受忍限度を超えていなかったことは明白である。

(4) 野焼きの回避可能性について

上野市には、従前より市営の野焼場があり、被告柄煥ら解体業者は、解体現場から出た可燃性廃材をそこに搬入して、市職員の手で焼却してもらっていた。ところが、右市営野焼場における処理の方法が、昭和五八年頃から、木くずの長さを一メートル以下にして搬入することと改められた結果、市営焼却場に持ち込むには多大な時間と労力を裁断に掛けなければならないこととなり、市営焼却場への持ち込みは事実上不可能になった。そこで、被告柄煥は同年一〇月本件土地を購入し、翌年から自己の処理すべき木くずの焼却処理を始めたのであり、本件野焼きはやむを得ず行われたものである。

(5) 先住性について

被告が本件土地を購入して野焼きを始めたのが昭和五八年であり、原告らが上野ニュータウン内の肩書地を購入したのは昭和六〇年であるから、先住性については被告がこれを有する。

(6) 地域性について

昭和五八年までは、上野市自身が市街地で野焼きを行っていたこと、本件土地が人里離れた山林内であることを比較すれば、本件土地で野焼きを行うことが不適当ということは到底言えない。

(三) 被告らの共同不法行為性について

原告らの主張2(三)の主張は争う。前記(一)のとおり、被告会社及び被告實が野焼きを行ったことはないから、両者が共同不法行為責任を負うことはありえない。

3  原告らの被害について

原告らの主張3項の事実は否認する。

三  争点

1  本件野焼きの主体

2  本件野焼きは、社会生活上受忍すべき限度を超えたもので違法かどうか。

3  原告らの損害額

第三  争点に対する判断

一  本件野焼きの主体について

昭和五八年頃から平成四年七月三日まで、本件土地上において被告柄煥が「吉田建設」の屋号のもと、野焼きを行っていたことは当事者間に争いがない。そこで、被告實及び被告会社が、本件野焼きを行っていたかどうかについて、以下検討する。

1  被告實について

甲六号証、甲八八、八九号証及び被告實本人尋問の結果によれば、被告柄煥と被告實は兄弟であること、「吉田建設」では被告柄煥が社長と称し被告實が専務と称していたこと、被告實は三重県知事に対する産業廃棄物処理業許可申請書において自ら「吉田建設代表者吉田實」と名乗っていること、被告柄煥も「吉田建設代表者吉田柄煥」として産業廃棄物処理業の許可申請をしているが、その事務所所在地と被告實の右申請の事務所所在地は同じであること、本件野焼きの行われた土地は被告實の所有であることが認められ、以上の事実を総合すれば、被告實は被告柄煥とともに、「吉田建設」を共同して経営していたものと認めるのが相当である。被告實は、被告本人尋問において、自らは被告柄煥の従業員である旨供述しているが、右認定事実によれば被告柄煥と被告實との間に使用従属関係があったことは窺われず、関係各証拠を精査しても右供述を裏付ける証拠は存在しないから、右供述を直ちに信用することはできない。

したがって、本件野焼きは「吉田建設」の屋号の下で、被告柄煥と被告實が共同して行ったものと認めるのが相当である。

2  被告会社について

甲五九号証、甲七二号証の二、甲七三号証の一、被告實本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社と「吉田建設」は主たる事業内容が同一であること、産業廃棄物処理業者としても同じような内容の許可を得ていること、被告会社では「吉田建設」の社長と専務という役職をそのままに、被告柄煥が代表取締役となり被告實が専務取締役となっていること、本件土地上では被告会社の重機と「吉田建設」の重機が混在して稼働していること、本件野焼きに代わって計画された焼却炉設置は被告会社の名前で行われていること、被告らは平成五年九月に上野保健所長から、被告会社と「吉田建設」との事業形態及び本件土地上における境界を明確に区分するように指示されたことが認められる。この認定事実を総合すれば、「吉田建設」と被告会社は実態としては同一の事業であり、事業形態を明確に区分しないままに渾然一体として操業を行っているものと認められる。被告實は、被告本人尋問において、被告会社と「吉田建設」は全く別の存在であって本件野焼きに被告会社は関与していない旨供述しているが、右認定事実に照らせば、たやすく信用することができないものである。

したがって、平成二年七月五日以降の本件野焼きは、「吉田建設」と被告会社が渾然一体となって行ったものと認めるのが相当である。

二  本件野焼きは、社会生活上受忍限度を超えるもので違法かどうか。

被告らが、昭和五八年頃から平成四年七月三日までの間、本件土地上において、建設廃棄物の野焼きを行ったことは、前記一に説示したとおりである。そして、被告らによる右野焼きが違法かどうかについては、加害行為の性質・程度、被害の内容・程度、公法上の規制違反の有無、加害者側の被害回避可能性、地域状況、その他の諸般の事情を考慮して、被害者において、一般的に社会生活上、受忍すべき限度を超えていると評価しうるかどうかによって判断すべきである。そこで以下、その前提たる事情について検討する。

1  加害行為の性質・程度

(一) 甲九号証の一、二及び甲四三号証並びに証人新田元子の証言、原告ミサヲ本人尋問の結果及び被告實本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

被告柄煥及び被告實は、「吉田建設」の屋号のもと、建物建設や建設解体等を営んでいるものである。建物解体に際しては、大量の建設廃棄物(木くず・畳・家具・コンクリートがら、タイル等)が排出されるところ、被告柄煥らは従前、木くず等の可燃性廃棄物に関しては、上野市営焼却場に持ち込んで職員の手で焼却してもらっていた。ところが昭和五八年頃、上野市営焼却場の焼却方法が野焼きから焼却炉へ変更されたことを機に、被告柄煥らは市営焼却場に廃棄物を持ち込むのを止め、本件土地を購入して、同年ないしその翌年頃から本件土地上で建設廃棄物の野焼きを行うようになった。

被告らの野焼きは、当初は持ち込んだ角材を燃やしている程度の小規模なものであったが、平成元年頃から激しくなり、平成三年頃には連日のように大量の廃棄物を焼却するようになった。被告らは、本件土地に、建物の解体現場で排出された畳・建具・家具・電化製品・衛生陶器・木くず・瓦・土・コンクリート・石・タイル・レンガなどの混合廃棄物を次々と搬入し、直径六メートル・深さ四メートルほどの穴を掘ってこうした廃棄物を焼却した。本件土地上で野焼きされたのは、木くずが主であったが、塩化ビニール・プラスティックなどの難燃性廃棄物やコンクリートがらなどの不燃性廃棄物も混在しており、また、こうした廃棄物に廃油をかけて焼却していることもあった。このため、本件土地から野焼きに伴って大量の煤煙が立ち上り、強い悪臭(廃油を燃やす臭いやビニールやプラスティックの焼ける臭いなど)が連日のように発生するようになった。被告らは通常、朝九時頃に廃棄物を穴に投入して点火し、午後三時には投入をやめていたが、廃棄物の上から薄く土をかぶせて放置するという消火方法であったため、被告らの操業終了後も廃棄物の不完全燃焼は続き、夜になっても悪臭の発生は止まなかった。

(二) 被告本人實は、本件土地で野焼きしたのは木くずと畳のみで塩化ビニール等を燃やしたことはなく、木くずに廃油をかけて燃やしたこともない旨供述する。しかし、甲二号証、甲七号証、甲六二号証の一ないし一六及び甲一一〇号証並びに証人新井元子の証言及び原告ミサヲ本人尋問の結果によれば、本件土地の焼却跡からは塩化ビニールやコンクリートがらと思われる燃えかすが見つかっていること、被告實は原告ミサヲに対して廃油をかけて燃やしていることを自認していること、原告ミサヲのみならず証人新井も本件土地で塩化ビニールやプラスティックが焼却されているのを目撃していることが認められ、以上の認定事実によれば被告實の右供述は信用することができない。

2  原告らの被害の内容・程度

(一) 原告宅と本件土地の位置関係

甲四号証、証人新井元子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告らは昭和六〇年一二月に上野ニュータウンの一画にある肩書住所地に土地を購入し、昭和六一年五月から同地に居住していること、原告宅・上野ニュータウン・本件土地の位置関係は別紙添附図面のとおりであり、原告宅と本件土地の直線距離は約四七〇メートル程度であること、原告宅と本件土地の間には西光寺池とその東側の丘が存在するのみであること、原告宅は上野ニュータウンを北東から南西へ峰のように伸びるメイン道路の東側(本件土地側)に位置し、標高も低いため、特に本件土地方向から流入してくる大気の影響を受けやすいことが認められる。

(二) 野焼きによる燃焼ガスの飛来状況

甲二八号証、甲三〇号証、甲三二、三三号証、甲三七号証、甲四一号証及び証人畠山光弘の証言によれば、以下の事実が認められる。

畠山光弘は上野ニュータウンにセカンドハウスを持つものであるが、平成四年春、上野ニュータウン自治会に依頼されて、ニュータウン付近の大気汚染の状況について実験を行った。同人は、実験の方法として、物を燃やしたときに必ず発生する二酸化窒素の濃度を測定して燃焼ガスの影響を調べるという方法を採用することにし、二酸化窒素を捕捉した簡易捕集管にザルツマン試薬を入れてその濃度を測定した。右実験の結果、原告宅前では最も二酸化窒素の濃度の低かった平成四年三月一九日と最も濃度の高かった同月一七日との間に一〇倍以上の開きが見られ、原告宅付近で汚染大気が局所的に滞留していることが推認された。また、同年三月二七日から二八日にかけて上野ニュータウン内の各地点で二酸化窒素濃度を測定した結果でも、原告宅付近では特に高い濃度が測定され、やはり汚染が強いことが判明した。風との関係では、本件土地方向から風が吹くときは二酸化窒素の濃度が高く、風向きが逆になると濃度が低くなるという変化が見られ、ニュータウンに飛来している二酸化窒素の発生源が本件土地であることが推認された。また、コンピューターを使って上野ニュータウン内の風向・風速を一五分間に一回測定したところ、ニュータウン付近では、一年の約半数の日が、無風ないし本件土地からニュータウン方向に吹く風であることが判明した。

以上の畠山光弘の実験結果によれば、被告らの野焼きによって発生した燃焼ガスは、大気の流れに乗って、上野ニュータウンに流入すること、風の条件から考えると一年間の約半数の日は燃焼ガスがニュータウン方向に流れる可能性があること、ニュータウン方向に流れた燃焼ガスは特に原告宅付近に強い影響を及ぼすことが認められる。

なお、証人畠山の右実験は専門家による正式な実験ではないため、その正確性が問題となるところであるが、甲二九号証及び証人畠山光弘の証言によれば、同証人は大阪大学薬学部薬学科修了・摂南大学薬学部非常勤講師の経験を持っていること、同証人の実験は化学的根拠に基づいていること、右実験結果は三重県の行った公害測定結果ともおよそ符合することが認められるのであるから、細かい数値はともかくとしても、右に認定した範囲においては十分信用しうるものというべきである。

(三) 原告らの被害の内容と本件訴訟に至る経緯

(1) 甲二、三号証、甲七号証、甲一一号証、甲一八号証、甲四四号証及び甲一〇八号証並びに証人新井元子の証言及び原告ミサヲ本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

原告らは、現住所に移転するまで奈良県橿原市に住んでいたものであるが、昭和六一年に、脳卒中を患った原告正昭の自宅療養を目的として肩書住所地に転居してきた。原告らが居住を開始した当時は、野焼きによる被害はなく、原告らも被告らの野焼きには気がつかなかった。平成元年頃、原告ミサヲは変な匂いが漂っているのに気づき、原因を確かめに行くと、本件土地上に木材の端くれ、瓦礫、古紙といったものがばらけており、木材や衣類を燃やした黒い焦げ跡があった。不審に思った原告ミサヲは、直ちに上野市の法律相談に赴いて悪臭の被害を訴えたが、「産業廃棄物を燃やしているが自分の土地で三〇〇〇平方メートル以内であるから取締りは出来ない」との回答しか得られなかった。上野ニュータウンでは、この問題を話し合うために住民が集会を開いたが、法的規制がないなら諦めざるを得ないという結論になり、それ以上の行動を起こすには至らなかった。

しかし、その後も被告らの野焼きは続き、平成三年頃には、連日のように悪臭や煙が原告宅を襲うようになった。悪臭は、ゴムやナイロンを燃やしている臭いや石油のような臭いなどの強い刺激臭であり、原告らは息苦しくて気持ちが悪くなる日が続いた。また、悪臭のために眠れないことも多く、喉の痛み・眼痛・目の充血・声のかすれ等の症状に悩まされるようになった。原告らは、悪臭や煙を避けるため外出を控えざるをえず、原告正昭のリハビリを兼ねて行っていた散歩も中止した。また、家にいても窓を開けることもできず、平成三年九月には自衛のために空気清浄機二台を購入した。空気清浄機は、汚れた空気をキャッチすると赤いランプが点灯して稼働する構造になっていたが、原告宅では空気清浄機のスイッチを入れると赤いランプが三つ全て点灯してフル稼働する状態であった。さらに原告らは、野焼きによる煤煙により、建物が黒ずむなどの被害も被った。原告ミサヲは、こうした悪臭や煙の被害に耐えかねて、何回となく保健所・市民生活部長・消防署・警察などに掛け合い、行政による指導を求めたが、法律上の規制が存在しないことがネックとなって、事態は改善されなかった。

平成三年七月一〇日、被告實が、本件土地上の焼却炉設置に対する付近住民の同意を得るために原告宅を訪れ、そのとき初めて原告らは本件野焼きが被告らによるものであることを知った。原告ミサヲは訪れた被告實に対して、自分たちが野焼きによって多大な被害を被っていることを説明し苦情を述べたが、その後も野焼きには変化はなかった。同年七月二〇日、原告ら上野ニュータウンの住民は再び集会を持ち、上野ニュータウン自治会として本件野焼きを中止させるべく活動することを決めた。原告ら住民は、三重県知事、県議会議長、上野市長、上野市議会に対して野焼きに反対する陳情書を提出し、消防署や警察署に対しては被害を訴え指導を求めるなどして反対活動を展開したが、事態はなかなか改善されなかった。原告らは、平成四年二月二九日に三重県知事に対して、三重県公害防止条例に基づく公害状況調査請求を行い、同年六月には、被告らの実質的な本社である亀山市中庄町の営業所を訪れ、被告柄煥に野焼きの中止を求める抗議文を渡そうとしたが、受取りを拒否された。さらに、原告らは、同年七月に、被告らに対して公害紛争処理法に基づき公害調停を起こし、野焼きを止めること等を求めたが調停成立には至らなかった。そして、原告らは平成五年一〇月一二日に、本件訴訟を提起した。

(2) 右認定に関し被告らは、原告らと同じく上野ニュータウンに居住する証人畠山光弘は、自分自身は被害を感じたことがない旨供述しているのだから、これと矛盾する原告ミサヲの供述は信用することができないと主張する。そこで検討するに、甲四号証並びに証人畠山光弘の証言及び原告ミサヲ本人尋問の結果によれば、同証人は大阪府羽曳野市に自宅を有し上野ニュータウンへは週末しか訪れないこと、同人宅はニュータウン内の峰のように走っているメイン道路の西側(本件土地と反対側)に位置し標高も原告宅より高いので、燃焼ガスの影響は原告宅付近より少ないと考えられること、畠山光弘が行った実験結果でも、同人宅付近の二酸化窒素濃度は原告宅付近のそれよりかなり低かったことが認められるのであるから、畠山光弘の右供述は原告ミサヲの供述と必ずしも矛盾するとはいえない。したがって、証人畠山光弘の右証言をもって原告ミサヲの供述の信用性を否定することはできず、被告らの右主張は採用できない。

また、被告らは、原告ミサヲの供述には客観的な裏付けが何ら存在せず、およそ信用することができないと主張する。しかし、原告ミサヲが野焼きによる被害を克明に綴った測定表及び日記(甲二号証及び甲七号証)、証人新井元子の証言、前記(二)の証人畠山光弘の実験結果、原告らが現実に空気清浄機を購入している事実(上野ニュータウンは後記6のとおり自然環境に恵まれた地域であって野焼きと無関係に空気清浄機が必要になったとは考えられない)、野焼きによる被害を訴えて原告らが行政等に対して具体的な行動を起こしている事実等によれば、原告ミサヲの供述には十分な裏付けがあるというべきであり、被告らの右主張は採用することができない。

3  公法上の規制違反の有無

(一) 甲一号証、甲一〇四号証及び甲一〇五号証によれば、厚生省は平成二年六月二〇日、建設廃棄物の適正な処理を目的とした建設廃棄物処理ガイドラインをとりまとめ、「木くず等の焼却は焼却施設を用いて行う。」旨を定めて野焼きを禁止していること、また三重県では、昭和四六年に制定された三重県公害防止条例三四条及び同施行規則一九条で、「何人も、ゴム、ピッチ、皮革、合成樹脂、油類、塗料等の燃焼の際ばい煙又は悪臭を発生する物質を大量に燃焼させてはならない」旨を定めて悪臭源となる物質の野外焼却を禁止していることが認められる。したがって、被告らによる野焼きは三重県公害防止条例に違反しており、かつ、平成二年六月二〇日以降の野焼きについては、厚生省の建設廃棄物処理ガイドラインにも違反していたことが認められる。

また、甲八七号証、甲九〇号証及び甲一〇七号証によれば、被告柄煥及び被告實は、平成三年八月八日に上野保健所長から廃棄物処理法第一四条第五項の規定に基づき、産業廃棄物の野焼き及び焼却灰の埋立を中止するように文書で警告されたこと、同年九月二日には県の機動隊が上野市を訪れ、市職員が同行のうえ被告会社に立入調査を行い野焼きを中止するように注意したこと、しかしこうした行政指導にもかかわらず、被告らは本件野焼きを中止しなかったことが認められる。

(二) なお、弁論の全趣旨によれば、野焼きが法律上禁止されたのは平成四年七月の廃棄物処理法の改正以後であり、それ以前に野焼きを直接規制する法律は存在しなかったことが認められ、被告らは、右事実を根拠に、自分たちには野焼きを行う正当な権利があったと主張する。

しかし、産業廃棄物の野焼きによって、ダイオキシン・塩化水素・フッ化水素等の有害物質が排出される可能性があることは周知の事実であり、厚生省も野焼きのこうした危険性を踏まえて、平成二年六月の時点から野焼きの禁止を指導していたのだから、これらの背景事情を合わせ考えれば、当時未だ法律上の規制が整備されていなかったことの一事をもって、本件野焼きが私法上も適法であったと推認することはできないというべきである。よって、右事実をもって被告らに特に有利に斟酌することはできず、被告らの右主張は採用することができない。

(三) また、乙一〇号証によれば、三重県が平成四年三月二五日から同年四月二七日までの間に行った公害状況調査では、原告宅付近の測定地における降下ばいじん量は「他地域と比較して差異はない」、硫黄酸化物・浮遊粒子状物質は「環境基準を満たしている」、塩化水素は「検出されなかった」との結果であったことが認められ、被告らは右調査結果を根拠に、本件野焼きによる被害が受忍限度を超えていないことは明白であると主張する。

そこで検討するに、右公害状況調査のうち、硫黄酸化物・降下ばいじん量・塩化水素は大気汚染防止法による規制項目である「ばい煙」であり、浮遊粒子状物質は「粉じん」のことであるから、右調査は原告宅に飛来する「ばい煙」「粉塵」のみを測定したものと考えられ、右調査結果から、原告らが被った悪臭被害の内容・限度まで推認することはできない。また右調査結果は、煤煙被害については一つの資料となりうるものであるが、調査期間が約一か月間に過ぎないことや、調査期間中の煤煙の量が比較的少なかったこと(原告ミサヲ本人尋問の結果及び原告ミサヲの観測表)に照らせば、右結果をもって直ちに、平成元年から三年間にわたって継続した煤煙被害の全てが、受忍限度を超えない軽微なものであったと推認することもできないというべきである

したがって、右公害状況調査のみをもって、直ちに野焼きによる煤煙・悪臭の被害の全てが、受忍限度を超えない適正なものであると推認することはできず、被告らの右主張は採用することができない。

4  野焼きの回避可能性

被告らが、上野市営焼却場での焼却方法が野焼きから焼却炉へ変更されたのを機に、本件野焼きを始めたことは前記1(一)記載のとおりである。そこで、本件野焼きが回避可能であったかどうかについて検討するに、甲一〇号証、甲九〇、九一号証によれば、市営焼却場は焼却方法が変更された後も二メートル以下の産業廃棄物は受け入れていたこと、上野市としても被告らに市営焼却場の利用を勧め、野焼きを行わないよう指導していたことが認められ、以上の事実によれば、被告らは市営焼却場を利用することにより本件野焼きを回避することが十分可能であったというべきである。

この点につき被告實は、被告本人尋問において、全ての木くずを裁断して持ち込むことはコスト的に不可能であった旨供述しているが、他方で同人は、柱や梁などの大きな木は四日市のチップ業者に引き取ってもらっており、本件土地上で燃やしていたのは残りの細かいもののみであったことを認めているのだから、持ち込みが事実上不可能であったとの被告實の右供述は信用することができない。そして他に右認定を覆すに足りる証拠もない。

5  先住性

被告らは、自分たちが本件野焼きを始めたのは昭和五八年頃であり、原告らが上野ニュータウンに土地を購入したのは昭和六〇年であるから、先住性は被告らが有していると主張する。

そこで検討するに、なるほど被告らは前記1及び2に記載のとおり、原告らが上野ニュータウンに土地を購入するより以前から本件土地上で野焼きを行っていたものである。しかし、本件野焼きが原告らに被害を及ぼすようになったのは原告らが肩書住所地を購入した後である平成元年頃からであることが認められるのであるから、本件において被告らの先住性(原告らの危険への接近)を問題にする余地はなく、右事実を被告らに有利に考えることはできない。

6  地域性

証人新井元子の証言、証人畠山光弘の証言及び原告ミサヲ本人尋問の結果によれば、上野ニュータウンは上野市郊外の山あいに開発された十数世帯の住宅地であること、同ニュータウンは自然環境に恵まれた静謐な住宅地であることを特徴としており、多くの住民もこうした自然環境に着目してニュータウン内にセカンドハウスを購入していること、付近に幹線道路や工場など大気の汚染源となるようなものは特に存在しないことが認められる。

以上の事実からすると、上野ニュータウンは空気のきれいな静謐な自然環境を特徴とした住宅地なのであって、上野ニュータウンと本件土地との位置関係を考えれば、本件土地上で大規模な野焼きを行うことは、地域性にそぐわない行為であるといわざるをえない。

7 以上の1から6で判示した各事情に基き、被告らによる本件野焼きの被害が、社会生活上、受忍すべき限度を超えていたかどうかについて判断する。

(一)  現代社会においては、各個人や企業が、自らの利益や利便を求めて行動する結果、互いに近隣住民に対して様々な影響を及ぼすことは不可避であり、他の者の行為によって自らの利益が影響を受けることも一定の限度ではこれを受忍せざるをえない場合もある。しかし、こうした場合であっても、各住民の健康及び日常生活の平穏の維持は、人として最も重要かつ基本的な利益なのであるから、最大限尊重されることが要求されているというべきである。

これを本件について考えるに、被告らが野焼きを行っていた当時、野焼きを直接禁止する法律は未だ整備されていなかったものの、産業廃棄物の野焼きが有害物質を排出する危険性を有していることは周知の事実であり、厚生省としても平成二年六月当時から野焼きの禁止を指導していたのであるから、野焼きを行う者としては当然に、野焼きが付近住民の健康及び日常生活の平穏を不当に侵害することのないよう配慮することが要求されていたというべきである。しかも、本件で問題となっている上野ニュータウンは元来、空気がきれいで自然環境に恵まれた静謐な住宅地であり、原告らを初めとする住民は、その自然環境を求めてニュータウン内に土地を購入しているのだから、このような住宅地の付近で野焼きを行おうとする被告らは、特に付近住民に不当な被害を及ぼさないよう相応な配慮が求められていたものである。

(二)  しかるに、被告らは、上野ニュータウンにほど近い本件土地上で、連日のように塩化ビニールやプラスティックなどの難燃性廃棄物やコンクリートがらなどの不燃性廃棄物の混在する建設廃棄物を大量に焼却し、煤煙や強い悪臭を大量に発生させて、原告らに頭痛・眼痛・喉の痛み・息苦しさ・不眠等の健康被害を生じさせたのであり、特に原告らが被告らに対して初めて苦情を申入れた平成三年七月一〇日以降は、野焼きが原告ら付近住民の健康・生活に重大な影響を与えていることを知りながら、野焼きを継続したものである。被告らは、原告らの被害の実態を知った後も、上野市営焼却場に可燃性廃棄物を持ち込む等の回避措置を取ることもせず、平成三年八月及び九月に二度にわたって行われた行政指導にも従わずに野焼きを続行したのであり、その結果、原告らが平成四年七月三日までの間連日のように煤煙や悪臭にさらされて右のような健康被害を被ったことを考えれば、平成三年七月一〇日以降の本件野焼きは、社会生活上、受忍すべき限度を超えた違法なものであるというべきである。そして、被告らの野焼きと原告らの被害との間には、相当因果関係が認められるから、被告らは民法七〇九条及び七一九条に基づいて、連帯して、原告らが被った精神的苦痛に対する損害賠償責任を負担すべきである。

三  原告らの損害額

原告らが被告らの野焼きによって、頭痛・眼痛・喉の痛み・不眠・息苦しさ等の健康被害や建物が煙で黒ずむ等の生活被害を被ったことは前記二(二)(3)のとおりである。そして、原告らの精神的損害を算定するにあたっては、前記二において認定した各事実に加え、原告らが被害を訴えてから一年以内には野焼きが終了していること、原告らの被害内容としても具体的な病気の発生等までは認められないことを考慮し、その精神的損害に対する慰藉料としては、原告それぞれについて各金三〇万円が相当であるというべきである。

四  結論

以上のとおりであるから、原告両名の本訴請求は、被告ら各自に対し、主文一項の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言について、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大津卓也 裁判官新堀亮一 裁判官渡邉千恵子)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com