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浦和地方裁判所 平成6年(行ウ)4号 判決

東京都千代田区一番町二三番地二

原告

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井上励

和田元久

埼玉県越谷市赤山町五-七-四七

被告

越谷税務署長 内藤仁士

右指定代理人

小尾仁

渡辺進

高橋迫吉

武内信義

熊谷悦朗

飯山利男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成四年八月二七日付けでした、酒類販売業免許申請拒否処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件の概要

本件は、被告が原告の申請に対してした酒類販売業免許拒否処分(以下「本件処分」という。)につき、原告が、処分の理由となった酒税法一〇条一〇号の規定は憲法二二条一項に定める職業選択の自由を侵害するものであって違憲無効であり、また、原告には同号に定める事由は存しなかったなどとして、本件処分の取消しを求める抗告訴訟である。

二  酒類販売業免許制度の概要及び関係法令等

1  酒税法は、酒類の製造者を納税義務者として酒類に酒税を課し(一条、六条一項)、酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」という。)をしようとする者は、その販売場ごとに、所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならず(九条一項本文)、その際その人的、場所的要件及び需給均衡上の必要等に基づき税務署長が免許を与えないことができる場合を定めている(一〇条各号)。

2  酒税法一〇条一〇号は、右の税務署長が免許を与えないことができる要件の一つとして、酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合と定められている。

3  また、酒税法は、酒類の製造者についても右と同様の免許制を採用しており(同法七条一項本文)、販売業者とほぼ同様の免許要件を定めている(同法一〇条各号)。

4  なお、酒税の保全を目的とする法的規制については、酒税法の他に、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和二八年二月二八日号外法律第七号)が定められている。右法律は、酒類業組合の自主的な需給調整及び政府の措置により、酒税の確保等を図ることを目的としているものであり(同法一条)、酒類業組合は、組合員の販売する酒類の販売の競争が正常の程度を越えて行われていることにより、酒類の正常な取引の円滑な運行が阻害され、組合員の酒類販売業の経営が不健全となり、酒税の納付が困難となるおそれがあると認められる場合等において、酒類販売業者が購入、販売する酒類の数量、価格、購入方法、販売方法等について、公正取引委員会の同意を得たうえでの大蔵大臣の認可を受け、規制を行うことができるとしている(同法四二条五号、四三条、九四条一項)。また、右と同様の状況において、大蔵大臣は、公正取引委員会と協議し、右と同様の内容の勧告、命令をすることができる(同法八四条一項、三項、九四条一項)と定められている。

三  当事者間に争いのない事実

1  原告は酒類の販売を目的とする株式会社であり、被告は埼玉県北葛飾郡を管轄とする越谷税務署の署長で、酒類販売業の免許を交付する権限を有するものである。

2  原告は、被告に対し、平成三年九月三〇日、埼玉県葛飾郡吉川町に原告が有する販売場につき酒類販売業免許申請をしたところ(以下「本件免許申請」という。)、被告は、平成四年八月二七日、右申請に対し、原告は酒税法一〇条一〇号に該当することを理由として本件処分をした。

3  本件処分までの経緯

(一) 原告は、昭和五〇年に福島県東白河郡を本店所在地として設立された株式会社アド・コマが、商号及び本店所在地の変更を繰り返して現在に至っているものである。株式会社アド・コマは、昭和五九年にいったん解散したが、昭和六一年に商号を桃季出版株式会社に変更して会社を継続し、本店所在地に東京都千代田区九段北へ移転した。その後、平成三年八月一五日に本店所在地を現在地である東京都千代田区一番町に移転するとともに、商号を現在の商号である共立酒販株式会社に変更した。

(二) 原告は昭和五三年度の事業年度以降本件申請をするまでの各事業年度の法人税の確定申告書を所轄税務署長に提出していない。また、原告は、平成元年度の不動産取得税(一万五〇〇〇円)、平成二年度及び同三年度の固定資産税(それぞれ四七〇〇円)を滞納した。

(三) 本件免許調査及びその結果

(1) 被告の担当者は、原告の本件免許申請につき免許付与に関する調査を行うため、平成四年三月二三日に原告の本店所在地へ赴いた(以下、右の調査を「本件調査」といい、右の担当者を「本件担当者」という。)。原告の当時の代表取締役であった古市ふさ、取締役であった古市光子はいずれも入院していたために本件調査に立ち会わず、原告の筆頭株主である古市滝之助(なお、同人は、本件処分当時は役員でなかったが、平成六年五月三〇日に原告の代表取締役に就任した。)、取締役であった村田雅章及び監査役であった細井貞夫らが対応した。

本件調査において、本件担当者は、古市滝之助らに原告の帳簿書類等の提示を求めたが、同人らは帳簿は作成していない旨述べた。また、本件担当者は預金証書等による原告の資産状況の確認を求めたが、古市滝之助は、原告の資産状況は原告が本件免許申請書に添付した銀行の残高証明書によってわかる筈であるから預金証書等は提示できず、右残高証明書に記載されている二五〇〇万円の自由金利型定期預金(以下「本件定期預金」という。)は、同人が原告に貸し付けた金員を原資として設定したものであるが、その貸付けにかかる借用書等は作成していないと述べた。

(2) 本件担当者が原告の資産状況につき調査した結果、本件定期預金は平成三年九月一一日に原告名義の普通預金三〇〇万円と古市滝之助名義の普通預金二二〇〇万円を原資として設定されたものであり、右定期預金は同年一二月一六日に解約され、その後、原告の手形金返済、原告代表者古市滝之助名義の普通預金への入金、訴外人への送金等に費消されており、平成四年二月二八日には右銀行における原告名義の定期預金残高は〇円となり、本件処分時の右銀行における原告名義の預金残高は八一七円であったことが判明した。なお、原告は、本件処分当時、販売店舗を有していなかった。

4  審査請求

原告は、本件処分につき関東信越国税局長に対して審査請求をしたが、関東信越国税局長は二三か月後に右審査請求に対する裁決をした。

四  争点

1  酒類販売業免許制度及び酒税法一〇条一〇号の規定は憲法に違反するか。

2  原告には酒税法一〇条一〇号に規定する事由が存したのか。

3  本件処分が免許申請後一一か月経過してなされたことは、本件処分の取消事由となるか。

4  本件処分に対する審査請求の裁決が申請後二三か月経過してなされたことは、本件処分の取消事由となるか。

五  争点に対する当事者の主張

1  争点1について

(一) 原告の主張

(1) 法令違憲

〈1〉 憲法二二条一項違反

ア 審査基準

酒税法九条及び一〇条に定める酒類販売業免許制度は、狭義の職業選択の自由である酒類販売店の開業自体を直接的に制約する極めて徹底した規制であるから、これを合憲と認めるためには強い合理的根拠が必要である。

先ず、営業の自由に対する規制立法の合憲性の判断に当たっては、第一に、規制目的が公共の利益に適合する正当性を有すること(目的の正当性)、第二に、規制目的と規制手段との間に合理的な関連性が存在すること(必要性・合理性)、第三に、規制により失われる利益と得られる利益との間に均衡が成立すること(比較考量)の三要件を判定基準とすべきである。さらに、その立法目的が、社会・経済全般の適切な調整・発展を促すため主として経済的劣位に立つ者に対する保護政策を講じるという積極的規制の場合については、立法府による広範な裁量権が認められる「明白の原則」が、また、社会生活における安全の保障や秩序の維持等を図るという警察目的のための消極的規制の場合については、より緩やかな規制によってはその目的を達成できない場合に限るという「必要最小限の原則」がそれぞれ適用されると解するべきである。その際、右にいう明白の原則によるべき場合とは、その措置が直接に社会・経済政策上の積極目的を有する場合であって、その措置の反射的・間接的効果としてそのような目的が達せられる場合は含まないものというべきである。

そうして、憲法は納税を国民の義務とし、かつ、租税法律主義をとることを明らかにするにとどまるので、課税要件及び租税の賦課徴収手続について広範な裁量権を立法府に認めていると解されるが、他方、税収確保のためにどのような措置を採るかは、具体的に明らかになっている目的達成のための補助的制度としての手段の選択の問題にすぎないから、これについては、必要最小限の原則を違憲審査のための一般準則とすべきである。すなわち、酒類販売業免許制度は徴収制度における具体的手段の選択の問題に他ならないのであるから、右制度が納税義務者以外の第三者に対する間接的規制であることも考慮すれば、合憲性判断の基準としては、原則として、重要な公共の利益のために、かつ、合理的な措置であることを要するのであって、必要最小限の原則が妥当するものというべきである。

イ 目的の正当性の欠如

a 酒類販売業免許制度導入の目的

酒類販売業免許制度は、酒税法が改正され右制度が創設された昭和一三年当時、酒類販売業者の濫立により倒産が相次いで酒税の滞納が増加したことから、酒税の保全を目的として導入されたとされている。しかし、右当時は、酒税の滞納は既に減少傾向にあって、〇・一〇八パーセントにすぎず、右制度の導入前の時期に酒税滞納が増加したのは、酒類販売業者が濫立したためではなく、日本経済が昭和二年及び昭和六年の二度の恐慌により極度に疲弊して酒の消費が極端に減少したこと、右状況のもとで清酒の供給過剰状態が生じて廉売等が行われたこと、当時の酒類製造者の大半は中小の零細業者で経済的基盤が強固でなく景気変動の影響を受けやすかったこと、当時の販売代金の決済方法が盆と暮れの年二回の決済であったことによるものである。このように、右免許制度の導入時には酒税の滞納という状況は存在せず、酒類販売業免許制度の導入の真の目的は、庫出課税導入に伴う増税政策に対する酒類製造者の反対運動への懐柔策と経済の統制化にあり、裏からみれば酒類製造者の既得権の保護にあったものである。

したがって、酒類販売業免許制度には、営業権を規制する何ら正当な目的がなく、そもそも合憲性判定基準の第一要素である目的の正当性を欠くものである。

b 酒税保全という目的の正当性

職業選択の自由、営業の自由は、憲法規定の有無を問わず世界の市民社会を支払する普遍的原理であり、これは、自由な経済活動が拘束され、租税徴収の目的のために営業が許可制のもとに置かれてきた封建制への抵抗を通じて確立されたものである。もし、租税収入確保を目的とした営業許可制が許容されるとすると、国民の経済活動の殆ど全ての領域が課税対象とされている現代社会においては、殆ど全ての職業を許可制の下におくことも憲法上許容されることとなり、憲法二二条一項の保障は全く空文化される。

したがって、酒税収入安定のためという目的は、職業選択の自由に対する規制根拠として憲法上許容されないものであり、このような目的のための酒類販売業免許制度は憲法に違反する。

ウ 手段の必要性・合理性の欠如

納税義務者でない酒類販売業者に対して酒類販売業免許制度を存置する合理的根拠は全くなく、いわゆる「ゆるやかな規制」措置で十分足りるものであり、酒類販売業免許制度は、必要最小限の原則に反し、違憲である。

a 社会状況の変遷

現行法により酒類販売業が免許制となったのは昭和一三年四月であるが、そのほぼ同時期である昭和九年度ないし一一年度の酒税は国税収入のうちの一七・六パーセントを占めていた。これに対し、平成五年度においては、酒税が国税収入のうちに占める割合は、三・二パーセントにまで低下している。他方、平成五年度における消費税による収入は国税収入の八・五パーセントに及び、いわゆる石油三税の合計も同じく約三・五パーセントに及んでいる。

また、かつては、酒類販売店は蔵元から仕入れた原酒を混ぜ合わせたり、原酒に水を加えたりして販売していたため、酒類販売業者を酒類製造者と同様又はそれに準じて取り扱う必要があったが、現在においては小売店ではそうしたことを行っておらず、したがって、その点からも酒類販売業免許制度を採るべき理由は存しない。

平成四年一二月一五日の最高裁第三小法廷判決も、「その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお酒類販売業について免許制を存置しておくことの必要性と合理性については議論の余地があることは否定できないとしても、・・・」としているところ、右事案は昭和五一年の事件であり、また、右判示が行政当局の立場を積極的に支持するものではないことは明らかである。まして、その後消費税が導入され、その徴収者たる一般の八百屋・肉屋・魚屋等が免許制になっていないから、これら営業との均衡上も、今日なお酒類販売業者のみを免許制にしておく合理的な理由は見当たらない。

したがって、立法時とは事情が大きく変化している今日において、酒類販売業免許制度を存置する合理的理由はない。

b 他の規制による目的の達成

酒税法には、酒類製造者に対し、酒税を納めることを義務付け、免許制度を採用して、移出に係る酒類についての課税標準及び税額の申告書の提出義務、製造、貯蔵に関する事実の記帳義務、製造場の位置、設備や毎月の酒類の移出数量等の申告義務、製造場での酒類の亡失等の場合の申告義務とその検査、容器の検定、質問等の受忍義務、酒税証紙貼付義務等を定め、極めて厳格な各種義務・規制並びに罰則の規定を設け、酒類販売業者に対しても、販売に関する事実の記帳義務、販売業の休止等の申告や購入販売数量の報告義務、貯蔵用の容器の検定、質問等の受忍義務、酒税証紙の貼付されていない容器の所持の禁止等の極めて厳格な各種義務・規制並びに罰則の規定を設け、また、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律にも、酒税確保のために、前記のように不況カルテルによる自主的供給調整措置や、大蔵大臣の勧告、命令等の制度が設けられている。したがって、これらの各種規制を総合的に機能させれば酒税保全の目的を達し得るのであって、納税義務者ではない酒類販売業者に免許制による規制を課すことの必要性、合理性は存在しない。

c 酒税保全の効果の間接性

酒類販売代金は、通常、消費者から小売業者に、小売業者から卸売業者に、卸売業者から酒類製造者にそれぞれ納入されることになる。したがって、酒類販売業免許制度によって小売業者の濫立が防止され、過当競争が防止されることによって酒税の保全の効果がもたらされるとしても、その効果は、小売業者、卸売業者が介在することにより反射的・間接的な関係が累積されるから、希薄なものである。また、酒類製造者は自己の債権確保のために卸売業者等の信用力の調査を行い、取引先を選択するものであり、販売業者自身も、自己の経営の維持のために消費者からの代金の回収と仕入れ代金の納入に努力を傾注するから、これらの相互の企業努力によって製造者の代金回収は保全される。したがって、酒類販売業免許制度を採用しないとしても、極端な経済的大変動でもない限り、酒類製造者が大量に倒産したり、支払不能になったりすることは社会通念上あり得ないことである。そして、酒税については納税義務者である酒類製造者が酒税を商品に転嫁することは法的に義務づけられていないから、免許制を採用することにより適正な利潤に税を上乗せした価格が製造者から小売業者までの流通の経路を通して維持されるということはできない。

実際に酒税の滞税率が低いのは、製造免許制度を採用して、製造者すなわち納税者を監督、監視した上、これを手厚く保護し、酒税の滞納を防いでいることによる。そして、平成四年度酒税一兆九六一〇億円のうち、ビール、ウイスキーを製造する巨大企業群が一兆六九八九億円(全体の八六パーセント)を納付し、これに清酒の上位企業数十社が納付する酒税額を加えると九五パーセントの税額が確保される状況にあることからも明らかなように、酒税の滞納率が低いのは、大企業による納税が酒税収入の大部分を占めることによるものであって、酒税の滞納率が低いことと酒類販売業者につき免許制が採用されていることとの間に因果関係はない。

d 被告は、酒類販売業免許制度に合理性がある根拠として酒税ほ脱の防止を挙げるが、比較的酒税の税率の高いビール・ウイスキーを密造するには、多額の資金ないしは長期の期間が必要であり、また、酒税の税率の低い日本酒や焼酎に関しては、税率が低ければほ脱の意味がないら、ほ脱を考える製造者は皆無であり、したがって、酒税ほ脱の危険性はない。

次に、被告は、酒類が致酔性飲料であるから酒類販売業を免許制にすることによって国民保健衛生に寄与すると主張するけれども、酒類が致酔性飲料であるということに起因する問題は、他の法律で担保すべきものである。酒類販売業免許制度が飲酒運転及び飲酒による交通事故等の防止、アルコール中毒者の発生・増加の防止並びに未成年者の飲酒の禁止に寄与しているという事実は全くなく、酒類は自動販売機で販売されているのが現状である。社会秩序の維持等については、その目的に直結した警察的規制立法を設けるべきである。

e 他業者との比較

被告は、酒類販売業免許制度が必要な理由として、酒税が租税収入中に重要な地位を占めていること、酒税の税率が高いこと、販売場当たりの年間酒税額が大きいこと等を挙げるが、これらは全く根拠がない。

すなわち、たばこについてみれば、各種のたばこ消費税の合計は小売価格の五六パーセントに上るが、たばこ小売店は免許制が採られず、自由競争を原則とし、かつ基本的には誰でも小売ができる状態が本来の姿であることを前提とした上で、暫定措置として指定制に代わる許可制が採用されている。

次に、揮発油税については、租税収入中に占める割合は、僅かながら酒税より多く、ガソリンスタンドは酒類販売業者の酒税よりも多額の販売場当たりの年税額を転嫁されているが、免許制は採用されていない。揮発油税の小売価格に占める税負担率は三八・四パーセントであるのに対し、酒税の単純平均税負担率は二五・五パーセントである。なお、酒屋もガソリンスタンドも開業資金は同程度であり、開業資金の多寡は免許制度の要否の判断根拠とはならない。

さらに、間接消費税である物品税のうち、酒税と同様に製造者を納税義務者とする第二種物品税の滞納率は、例えば昭和五三年度においては約〇・二パーセントにすぎなく、極めて低い。製造者を納税義務者とする間接税は、小売業者に免許制を導入しなくても、その滞納率は、元々低いのであって、小売店に販売免許を導入していることが酒税の滞納率の低下に寄与しているとはいえない。

f 酒類販売業免許制度は、むしろ有害な制度である。

酒類販売業免許制度は、価格操作の道具として悪用されており、営業活動の自由を阻害し、消費者の権利を一方的に侵害する有害な制度である。

〈2〉 憲法一四条違反

酒類販売業免許制度について、税収確保のために既存の販売業者の経営の安定を図ることは、憲法一四条に反する。

〈3〉 憲法三一条違反

酒類販売業の免許を与えないことができる場合を定めた酒税法一〇条一〇号の要件は、不利益規定であるから明確であることが必要であるが、右規定は明確性を欠き、憲法三一条に違反する。

(2) 適用違憲は、運用違憲

〈1〉 酒造業界及び酒類販売業界は、政治家、国税庁と三者一体となって酒類販売業免許制度を楯に価格協定や、新規参入者の排除、安売り業者に対する弾圧等を通じて価格操作、価格維持を行い、既得権(高利潤)を確保し続けてきた。このように酒類販売業免許制度は、既存業者の既得的利権保護のために、全く恣意的な運用がなされているから、酒類販売業免許制自体が、憲法二二条に反しているというべきである。

酒類販売業免許の申請については、本来免許の要件を具備している者に対しても、免許を拒否する運用がなされている。例えば高松市においては通達に定める基準で免許を付与すれば一万一〇〇〇件くらいの免許が付与できるにもかかわらず、年間二〇件ぐらいしか付与されていない。また、新規免許の付与に際して税務署により安売り制限等の指導がなされている。

昭和五一年には新規免許付与件数は、一七一九件であったが、昭和六二年には、二二九件に激減し、平成元年以降も新規免許付与件数は、減少しており、平成四年度の酒類販売業の免許は一六一件しか付与されておらず、申請者の大半は事前に断念あるいは取下げをしているのが実情である。

〈2〉 原告は、本件の免許申請と同時期に各税務署長に八件の免許付与申請をしたが、その全ての案件につき申請後長期間にわたり全く審理、調査、照会がなされていない。そして、そのうちの七件につき、平成四年七月三日から七日までの間に集中的に同一文で免許拒否の通知が、残る一件は一四か月後に免許拒否の通知がなされた。

〈3〉 このように、本件処分をはじめとする一連の免許拒否処分は、行政府により酒税法一〇条各号の運用が恣意的に行われ、新規業者の参入を不当に制限する目的で行われており、また、本件処分は、原告が酒の安売り業者である古市滝之助の関係する会社であることに起因するものであって、このような恣意的な運用実態からすると、憲法二二条一項に定める職業選択の自由を不当に制限するものとして、個々の具体的行政処分が処分違憲となる。

(二) 被告の主張

(1) 憲法二二条一項適合性の判断基準

職業の自由に対する規制措置は、事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法二二条一項の適合性を一律に論ずることはできす、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって規制される職業の自由の性質、内容及び規制の程度を検討し、これらを比較衡量して決定すべきであり、その司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、規制の具体的内容及び必要性と合理性は、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまると認められる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきである。

租税は、今日では国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正分配、景気の調節等の諸機能を有しているので、国民の租税負担を定めるについては、財政・経済・社会政策等の国税全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりではなく、課税要件等を定めるについて極めて専門技術的な判断を必要とする。したがって、租税に関する立法については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかなく、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものである。ゆえに、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制である酒類販売業免許制度については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理なものでない限りこれを憲法二二条一項の規定に違反するものとすることはできない。

(2) 酒類販売業免許制度の合憲性

〈1〉 酒税法の立法目的

酒類販売業免許制度は、右制度が導入された昭和一三年の時点において、酒類販売業者の濫立によって過当競争が生じ、酒類製造者は売掛代金の回収に多大の困難を来し、酒類製造者の倒産などを招いたため、この弊害を除去し、酒税保全を図る必要から導入されたものである。

酒税法は、酒類の消費を担税力の表れであると認め、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課するとともに、いわゆる庫出税方式によって酒類製造者を納税義務者とし、酒類販売業者を介した代金回収を通じてその税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みをとっている。このような間接消費性においては、税負担が課税対象たる譲渡資産ないし役務提供の対価に含められて最終的に消費者へ転嫁されることによってその徴収が実質的に完了するものであるから、庫出税方式においては、納税義務者と定められた製造者のみならず、製造者と消費者との中間に位置して製造者から消費者への税負担の転嫁を仲介するパイプ役である販売業者も、間接消費税の徴収確保にとって重要な役割を担っており、これらの製造者及び販売業者が一体となっていわば間接消費税の徴収機関ともいえる地位を占めている。そして、酒類販売業免許制度は、庫出税方式を採用する酒税制度において、酒類販売業者の経営の安定を図ることによって、酒類販売業者から酒類製造者への酒類代金の支払を円滑にし、もって酒類製造者がその納付した酒税相当額を消費者から回収するのを容易にさせ、酒税の負担を消費者へと円滑に転嫁させることによって酒税収入の安定的かつ効率的な確保を図ろうとするものである。

また、酒類販売業免許制度は、酒税のほ脱防止をも目的とした制度である。すなわち、酒税法は、免許申請者等が過去において法律違反の事実があったなど遵法精神に欠けるところがあると認められる場合(酒税法一〇条一号ないし五号、七号、八号)や取り締まり上不適当と認められる場所に販売場を設けようとする場合(同法一〇条九号)を消極要件とし、酒類販売業免許制度を通じて、酒税のほ脱に荷担する危険性が高い人物が酒類の販売に関与したり、そのような販売場が設置されたりするのを防止し、もって酒税の保全を目的とするものである。

このように、酒類販売業免許制度の目的は、酒類販売業者の濫立を防止して、酒類販売業者の経営の安定や酒類の需給の均衡維持を図るとともに、一定の身分的要素を欠く者を酒類販売業者から排除することにより、消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を阻害するおそれのある酒類販売業者を流通の過程から排除し、もって酒税のほ脱を防止し、適正かつ確実な賦課徴収を実現することにある。

〈2〉 酒類販売業免許制度の必要性と合理性

ア 酒税収入の国家財政上の重要性

酒税収入は、明治三〇年代から昭和の初期にかけて租税収入の首位を占め、昭和二六年度から同六三年度までは、所得税、法人税に次いでほぼ三位を占めてきた。平成元年度には、消費税が導入されたことにより、第五位の財源となったが、その金額は二兆円に近く、その後も増加傾向で推移している。また、酒税は法人税や相続税などと比較して景気の動向又は土地評価額などによって影響されにくい安定した収入をもたらしている上に、その収入額の約三二パーセント(平成四年度)が地方交付税交付金の財源にあてられており、地方財源に大きく寄与している。

このように、我が国の酒税は、現在でも国、地方公共団体の財政において極めて重要な財源となっている。

イ 庫出課税制度

酒税が庫出課税制度として立法化されたことにより、国は税収を確保し、徴税手続を簡便にし、その費用と労力を節約しうるのみならず、担税者たる消費者も納税に関する煩雑な事務から逃れることができる。その反面、ビールを含めアルコール類の酒税負担率は高率で推移していることから、もともと担税者ではない酒類製造者は多額の酒税の納付義務を負担することになる。したがって、酒類製造者の税負担が円滑に消費者に転嫁されなければ、高率な酒税の安定的かつ効率的な確保が困難となり、制度上の納税義務者である酒類製造者に加重な負担をかけることとなる。酒類販売業免許制度は、このような構造を持つ酒税制度において、酒類販売業者の経営の安定を通じて酒税の転嫁を円滑にし、間接消費税としての酒税制度全体を有効に機能させ、もって、高率かつ重要な財源である酒税の安定的かつ効率的な確保を図ろうとしているものであり、庫出課税制度と相まって全体として必要かつ合理的な制度ということができる。

ウ ほ脱防止制度としての必要性と合理性

酒類は簿外の製品を生み出すのが比較的容易な製品であり、酒類製造者のほ脱に荷担する販売業者があれば酒税のほ脱行為は容易に行われ、それを認知することは困難である。すなわち、種類は同種の原料を国内で容易に入手でき、その製造も容易であるところ、例えば、酒類は貯蔵中に蒸発等によって自然に欠減を生ずるものであるが、その欠減割合は貯蔵場所や貯蔵容器により差異があるので、この点を利用し、実際に生じた欠減よりも多額の欠減を生じたごとく装い、簿外の酒類を生み出すことも可能であり、また、酒類製造場においては、酒類を容器に充填する前に、酒類に水を加えて所定のアルコール分にするのが通常であるが、アルコール分について一度未満の許容範囲があることを利用し、製造場から移出する際に、最低限度のアルコール分を下回らない程度に水を加え、その結果帳簿上の数量を超えることとなった分を簿外として処理することも可能である。

酒類はその税率が極めて高いので、そのほ脱自体による国の損失額も重大なものとなり、しかも、酒税を含まないほ脱酒にあっては、酒税を含んだ酒類に比較し、小売価格を低減できるため流通性が高いから、ほ脱が多発した場合に市場が混乱する危険性は高く、ひいては酒税制度の崩壊を招く虞もあって、酒税の国家収入において占める重要性を考えると、酒税のほ脱が国家財政に与える影響は極めて大きい。そこで、酒類販売業免許制度は、酒類の販売体制を健全化し、それによってほ脱防止のために酒類製造者に課している記帳義務などの各種の義務が的確に履行されることを担保しようとするものであるから、ほ脱防止制度としても必要かつ合理的な制度である。

エ 規制される職業の性質・内容

酒類販売業免許制度によって制限されるのは、そもそも致酔性を有する嗜好品である酒類の販売の自由である。そして、酒類は飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の社会問題を引き起こすものであることから、販売秩序が保たれることが社会的に要請されている。したがって、酒類の販売の自由については、何らかの規制が行われてもやむを得ないものであり、生活必需品等の販売の自由とは異なった保障の在り方が考慮されてしかるべきである。

なお、従前から酒類業界は、適正飲酒の見地から酒類の宣伝・広告等について自主的な見直しを行っており、酒類の販売形態、特に酒類の自動販売機について規制を行っている。

オ 間接消費税を負担する他業種との比較

a 揮発油税との比較

揮発油税の対象となるガソリン等の販売業者であるガソリンスタンドについては、揮発油販売業法による事前登録制を採用し、販売場に一定の有資格者(危険物保安監督者)を置く必要がある上、揮発油の製造者である石油精製業者は少数の大企業に限られ、製品の卸や出資によって各ガソリンスタンドが系列化されて製造者と密接な関係を持っており、ガソリンスタンドを新規に出店するためには、用地、設備等に多額の資金を要し、確実な資金的基礎を要するなど、その産業構造を異にしている。また、揮発油業界の元売り会社とガソリンスタンドの結びつきは、各ガソリンスタンドの取扱いブランドが単一であって密接なものであり、酒類販売店とは異なる。揮発油業界においては、石油精製業者が土地及び建物等の設備を提供し、その営業のみを第三者に行わせる例が散見されるが、酒類業界においてはそのような製造者と販売業者が密接な関係にあることを示す例はない。

したがって、右両業界は産業構造を異にし、売掛代金の回収について両業界を同一視することはできず、それぞれの業態に応じた制度が採用されてしかるべきである。

b たばこ税との比較

たばこ税の納税義務者は、日本たばこ産業株式会社一社であり、酒類業界における中小企業と比較される存在ではない。たばこ小売業者と日本たばこ産業株式会社との結びつきは、歴史的経緯もあって酒類業者の小売販売業者と酒類製造者との結びつきよりも強固であり、また、たばこ事業法により大蔵大臣の認可を受けた小売定価以外による販売が禁止されていることから、酒類に比して販売・流通面からの影響を受けにくい。

したがって、酒税とたばこ税とを単純に同列に比較することはできない。

c このようにひとしく間接消費税といっても、課税対象としている商品の内容及び性質並びにその製造、流通、販売の態様及びこれらを担う業者の数、規模等に差異があるのであるから、これらの差異に応じてどのような賦課徴収の仕組みを採用するかは、立法府の専門的、技術的裁量に委ねられているところであり、各間接消費税間の差異を無視して、他の間接消費税において異なる賦課徴収の仕組みが採られていることをもって、直ちに酒類販売業免許制度が著しく不合理であるとはいえない。

カ 以上の諸点を考慮すると、酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断がその政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとはいい得ないことが明らかである。

〈1〉 酒税法一〇条一〇号の明確性について

酒税法一〇条一〇号の免許基準は、免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他経営の基盤が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めるものであって、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられるもっとも典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類の販売免許制度を採用した立法目的からして合理的なものということができ、かつ、右基準の内容は明確である。そして、酒税法基本通達は、同号に規定する「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」とは、「事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品又は販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当の欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合をいう」と定めており(基本通達第一〇条免許の要件の5)、さらに、平成元年六月一〇日付間酒3-295「酒類の販売業免許等の取扱いについて」別冊「酒類販売業免許取扱要領」は、右の点を具体化し、「第三 一般酒類小売業免許」の「1 免許の要件」の規定を設け、酒類販売業免許等事務の運用方針及び法令の解釈適用基準を明らかにしている。

したがって、同号の規定が、不明確で行政庁の恣意的判断を許すようなものであるということはできない。

2  争点2について

(一) 原告の主張

原告には酒税法一〇条一〇号に規定する事由は存しなかったのであるから、本件処分は違法である。

(1) 本件処分の経緯

原告は、国税庁長官から免許申請に対しては六〇日以内に処理するよう通達が出されている上に審理順位が一番であることから、直ちに処理がなされると考え、本件免許申請に当たり、地主及び建設業者と契約を交わして販売場を確保する手筈を整え、所要資金も用意していた。しかし、原告に対する審査がいつまで経ってもなされないことから、原告は、賃料を払い続け、及び銀行に預金を凍結し続けることが負担となり、平成三年一二月末に土地の賃貸借契約と店舗の建築請負契約を解除した。

被告の本件担当者は、申請の六か月後である平成四年三月二二日に原告本店を訪れたが、原告は既に土地の賃貸借契約を解除し、預金や解約した後であったことから、免許は不要である旨回答した。しかし、右担当者が直ちに処理をする旨述べたので、原告は一か月で決裁されることを条件として、地主と交渉することを約した。ところが、本件担当者が原告に関し調査を開始したのは、更に二か月後である平成四年五月末であり、原告が地主との契約を打ち切った後であった。

原告代表者は、昭和三九年に東菱酒造株式会社の代表取締役に就任して以来、酒類販売業免許制度に異議を唱え、酒類販売の自由化を目指し、酒の安売り等を行ったところ、酒造業界や国税庁等との間に軋轢を生じ、国税庁は右会社及び古市滝之助の経営する会社に対してその壊滅を図り、苛烈な弾圧をしてきた。そこで、被告は原告の本件免許申請に対しても、当初から許可を拒否する方針であって、故意に右のような経緯を経て、平成四年八月二八日、販売場が存在せず経営の基盤が薄弱であるとして原告に対する免許を拒否した。

(2) しかし、酒類販売業免許申請において、申請者の経営基盤が薄弱であるか否かの判断の時期は、申請後二か月が限度である。それ以上の長期間を要すると、その間に酒類販売業の免許申請者が経済的に疲弊し経営基盤が薄弱となり得る。

本件においては、右のように原告に資金的欠陥を故意に作り上げたのは被告自身であり、経営基盤の薄弱を演出させたのも、被告をおいて他にないのであるから、これをもって本件免許申請に対する拒否理由とすることは違法である。なお、原告は、当時事実上休業しており、本件免許申請に基づき免許を取得して、営業を行う計画であったから、従前帳簿類を作成せず、また所得もなかったものである。

(二) 被告の主張

(1) 本件調査によれば、原告は帳簿を作成していないことから、原告の役員が原告法人に対する運営、管理等の責任を認識していないものと認められた。しかも、原告の代表取締役が入院中であることに加え、原告が昭和五三年度の事業年度以降、法人税の確定申告書を提出していなかったことから、原告については本件処分当時、人的要素に相当の欠陥があるものと認められた。また、原告は本件処分当時において預金を有していなかったのであるから資金の欠亡は明白であった。原告は、不動産取得税及び固定資産税を滞納しており、このことは仮に一時的な税金の滞納としても、資力の欠如の典型的徴表と見られてもやむを得ず、単なる原告の遵法精神の欠如を超えて、原告の役員の経営者としての資質ないし姿勢の問題としても、たやすく見過ごすことができない事実であった。

(2) 以上から明らかなように、原告は、本件処分当時、その人的要素に相当な欠陥があり、また、原告の資金の状況は、原告が今後安定した経営を行っていくための所要資金としては極めて不十分であって、資金的要素にも相当な欠陥があったものと認められる。したがって、被告が原告に対し、本件免許申請は酒税法一〇条一〇号後段の経営の基礎が薄弱であると認められる場合に該当するとして行った本件処分は適法である。

3  争点3について

(一) 原告の主張

(1) 被告は免許の調査を春日部税務署長に委託しており、春日部税務署には三人の調査員がいた。平成三年当時に被告の管内で酒類販売業免許申請の審査順位の抽選に当選した申請者は一一人であり、一件を調査するためには通常三日で十分であるから、本件免許申請に対する調査期間は、長くとも一か月半あれば足りる。なお、国税庁発行の内部通達では、酒類販売業免許等については申請の受理後二か月以内に処理するように定められている。

しかし、被告は原告の本件免許申請から八か月を経過した平成四年六月ころから調査を始め、申請から一一か月後の同年八月二八日に処分をした。すなわち、被告は、本件免許申請の調査につき、故意に不当に長期間処分をしなかったのであるから、本件処分は違法である。

(二) 被告の主張

(1) 一般に、処分が相当期間内になされないときは、不作為違法確認の訴えを提起することによる救済措置が設けられている。処分の遅延を理由に本件処分を取り消したところで原告の救済にはならず、処分の遅延は違法、取消しの理由とはならない。

また、本件処分が、取扱要領の定めた期間を経過した後になされたとしても、そのことから直ちに本件処分が違法な処分として取り消されるべきものではない。

(2) 本件処分は申請から一一か月後になしたものであるが、これは、調査内容が複雑、多岐に渡り、調査先が福島県白河郡等も含め広範囲に及んだことから長期間を要したものである。

被告は、誠実に本件申請にかかる複雑かつ広範囲な調査事務を行い、その結果に基づき本件処分を行ったのであるから、違法はない。

4  争点4について

(一) 原告の主張

免許拒否の処分に対して不服がある場合は六〇日以内に管轄の国税局長に審査請求できるとされており、それに対する裁決も請求の受理後二か月以内にするよう通達が出されている。それにもかかわらず、関東信越国税局長は、原告の審査請求に対し、審査請求後二三か月を経過して裁決をしたから、右裁決は違法であり、本件処分も違法である。

(二) 被告の主張

本件処分についての審査請求に対する裁決は、本件処分とは別個独立の行政処分であるから、仮に右裁決に原告主張のような違法があったとしても、そのことから直ちに本件処分が違法とはならない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  憲法二二条一項についての合憲性

(一) 憲法二二条一項は、職業選択の自由を保障しているが、職業は、経済的な活動であり、社会的相互関連性が大きいものであるから、精神的自由等に比較して公権力による規制の要請が強く、このことは、憲法の右規定が特に公共の福祉に反しない限り、という留保も付していることからもうかがわれる。そして、職業に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その合憲性を判断するに際しては、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討、比較考量した上で慎重に決定されなければならないといえる。しかし、この場合、右のような検討と考量をするのは、一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、当該規制措置の合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきである。もっとも、右合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得るから、裁判所としては、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものである。

ところで、憲法二二条一項は、職業の開始、継続、廃止という狭義の職業選択の自由のみならず、職業活動の内容、態様についての自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが、職業の許可制は、法定の条件をみたした者のみにその職業の遂行を許し、それ以外の者に対してはこれを禁止するものであって、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するものであるということができる。このような許可制が設けられる理由は多種多様であり、それが憲法上是認されるかどうかも一律の基準をもって論じがたいことは先述と同様であるが、右のような厳格な規制であることにかんがみると、その合憲性を肯定するためには、原則として重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである。そして、この要件は、許可制そのものについてのみならず、その内容についても要求されるものであって、許可制の採用自体が是認される場合であっても、個々の許可条件について、更に個別の右の要件に照らしてその適否を判断しなければならない。

次に、憲法は、租税の賦課について、国民が法律に定めるところにより納税の義務を負うことを定め(三〇条)、あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(八四条)に止どまり、その余の規定は置いていない。すなわち、租税については、納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等について、全て法律又は法律の定める条件によることを必要とするが、その具体的内容は、憲法自体に定めることはせずに、これを法律の定めるところに委ねているのである。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担や課税要件等を定めるについては、国政全般からの総合的な政策的判断や極めて専門技術的な判断を必要とする。したがって、租税法の定立については、これらの政策的、技術的判断を可能にする正確な資料を有する立法府に委ねる他はなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

以上のとおりであるから、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために採用された職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできないというべきである(最高裁判所平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁参照)。

(二) 本件処分の根拠となった酒税法は、酒類に租税を課することとし(一条)、酒類製造者を納税義務者とし(六条一項)、酒類製造者及び酒類販売業者につき免許制、すなわち許可制を採用している(七条ないし一〇条)。これは、酒類の消費を担税力の表れと認め、酒税をいわゆる間接消費税として課することとしたもので、同法が、本来の担税者ではなく、いわゆる庫出税法式により酒類製造者を納税義務者として酒税を賦課していることからすると、酒類販売業者を介した酒類の販売代金の回収を通じて、その税負担を最終的な担税者たる消費者に転嫁することを企図しているものと解される。そして、酒類販売業の免許の要件として、酒類販売業者の人的、資金的、場所的要件や需給均衡の必要性などが消極要件として定められていることからすると、酒類販売業免許制度は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保するために採用された制度であり、このような目的を阻害する虞のある酒類販売業者をあらかじめ酒類の流通過程から排除し、又は酒税の確保が困難となるような状況が生じるのをあらかじめ回避しようとするものであるということができる。

成立に争いがない甲第七号証及び乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、酒類販売業者免許制度が導入される直前の時期である昭和九年から同一一年の酒税の国税収入に占める割合は、一七・六パーセントであり、酒類販売業免許制度が導入された昭和一三年当時から、酒税は、国税において占める割合が高い税目で、酒類の販売代金に占める割合も高率であり、また、酒類製造者は酒税の納税義務者であることから、その負担する税額は高額に及んでいたことが認められる。したがって、酒類製造者の酒類の販売代金の回収が滞ると、酒税の円滑な転嫁が阻害され、酒類製造者の経営状態を圧迫し、酒税滞納が増加する虞があったといいうるから、実際にも、酒類販売業免許制度を採用する必要性と合理性があったと認められる。

(三) もっとも、前掲甲第七号証及び乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、酒税の国税収入に占める割合は、近年においては、社会状況や租税法体系の変遷に伴って徐々に低下し、消費税導入とも相俟って、平成元年度以降平成四年度までの酒税が国税に占める割合は三・二ないし三・六パーセントにまで低下していることが認められる。このような国税における酒税の位置づけの変化に加え、酒類販売業免許制度が納税義務者である酒類製造者ではなく、実質的な担税者たる消費者へ酒税を転嫁する仲介をするに過ぎない酒類販売業者に対する規制であり、酒税保全への効果は間接的なものにならざるを得ないこと、酒税法は酒税保全のために酒類製造者に免許制を採用した上これに対し種々の規制をし、また、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律には、不況カルテル等酒税保全の目的のために別途の制度が設けられていること、酒類販売業免許制度がいわゆる許可制で、狭義の職業選択の自由を制限する強度の規制であることなどは、原告主張のとおりであって、このような事情に照らすと、今日においても酒類販売業免許制度を存置する必要性及び合理性があるかどうかについて疑問が生じうることは、否定できない。

しかしながら、酒税はその国税において占める割合が相対的に低下したといっても、前掲甲第七号証及び乙第五号証によれば、酒税は、本件処分当時の平成四年度においても、未だなお所得税、法人税、消費税、相続税に次ぐ第五位の財源であり、その総額は二兆円に近い金額に上ることが認められる。したがって、酒税がなお国家財政において重要な比重を占めていることは否定できず、酒税法の構造がそもそも本来の担税者ではない酒類製造者に納税義務を課し、卸売業者、小売業者、消費者へと順次転嫁されていくことを予定しているものであることに加え、右制度が租税の賦課徴収の制度構造の一部であり、立法府の広範な裁量が認められる分野のものであることを考え併せると、本件処分時においても、酒税保全の目的のために酒類販売業免許制度を採用し存置している立法府の判断が著しく合理性を欠くものとして違憲無効であるとまでいうことはできない。

(四) 酒税法一〇条一〇号は、破産で復権を得ていない者その他経営の基盤が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業を営もうとする者に免許を与えないことができると定めているところ、右は酒類製造者が酒類販売業者から酒類代金を回収できない事態が生じる危険性がある典型的な場合を定めたものであるということができるから、右要件が著しく合理性を欠くものと解することはできない。

(五) 運用ないし適用の合憲性について

酒類販売業免許制度は酒税の保全を目的とした制度であるから、右制度の運用に当たって酒類の安売りを防止したり、既存の酒類製造者や酒類販売業者の権益の保護を図ることが許されないことはいうまでもなく、仮に酒類販売業免許の申請に対し、右のような理由で免許拒否処分がなされた場合には、当該処分は酒税法の定める免許拒否の要件を遵守しないものとして違法と評価されるということができる。もっとも、酒税法一〇条一一号は、税務署長は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるときは酒類販売業免許を与えないことができると定めているのであって、甲第八号証及び第二三号証によっても、酒類販売業免許制度が、酒税法一〇条各号に反して、一般にあるいは専ら酒類の安売り防止あるいは既存の酒類製造者や酒類販売業者の権益の保護を図る目的で運用されているとまでは認めることができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、酒類販売業免許制度がその運用において違憲であるということはできない。

(六) 酒類販売業免許制度が憲法二二条一項に違反するかどうかの判定基準及び同制度並びにその適用・運用が同条同項に違反するとまではいえないことは、以上説示のとおりである。したがって、これと異なり、酒類販売業免許制度が憲法二二条一項に違反するとの原告の主張は、採用することができない。

2  憲法一四条についての合憲性

原告は、税収の確保の図るために既存の販売業者の経営の安定を図ることは憲法一四条に違反する旨主張するが、本件処分の理由とされた酒税法一〇条一〇号は、免許取得の際に経営の基礎が薄弱であることを免許付与の消極要件とするにとどまり、原告主張のような目的も、効果も有していないことは明らかである。また、本件処分の理由とされていない同条一〇号以外の各号については、本件処分の効力に関係がないから、本訴においては、これら各号の合憲性は問題とする余地はない。

3  憲法三一条についての合憲性

憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、その全てが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。

しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とおのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、いかなる手続がいかなる程度保障されるかは、各行政手続において、当該行政処分の個別的事情を総合考慮して決定されるべきものである。

酒税法一〇条一〇号の規定は、酒税保全のために採用された酒類販売業免許制度において、酒類販売業を営もうとする者につきその開業に際しての欠格事由の一つを定めたものであるから、右営業を開始しようとする者がその要件に該当するか否かを判断できる程度に具体的であれば足りると解するのが相当である。

そして、同号は、破産者で復権を得ていないものその他経営の基礎が薄弱であると認められる者に対して免許を与えないことができると規定しているものであり、右法条の目的が酒税の保全のためにあることを考えると、右の経営の基礎が薄弱であると認められる場合とは、酒類販売業の開業に際して、申請者に、事業経営の物的、人的、資金的要素に相当の欠陥があって、酒類販売業事業の継続的遂行を可能ならしめる程度の条件が備わっていないことを指すと解することができる。そして、右のような諸要素は、その当時の経済状況、販売場を開設する場所、事業の規模などに影響されるものであり、あらかじめ定型的にその内容を定めることになじまないものであり、他方において、免許申請の段階では、当該事業との関係において、申請者が右要件に該当するかは、相当程度客観的に定まるものということができる。

したがって、酒税法一〇条一〇号の規定は、その規定の仕方が不合理とはいえないとともに、行政庁の恣意的な判断を許す程に不明確であるということはできないから、同号の規定が憲法三一条の規定に違反すると解することはできない。

4  よって、本件処分の根拠となった酒税法が憲法に違反するとの原告の主張は、いずれもこれを採用することができない。

二  争点2について

1  前記のように、本件処分当時、原告の取引先銀行における預金残高は八一七円で、また、定期預金残高は〇円であったこと、及び原告が販売店舗を有しなかったことは争いがない。原告がその他特段の資産を有していたと認めるに足りる証拠はなく、原告も、このことについては明らかに争わないところである。

2  もっとも、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は前記本件免許申請をした約二週間前である平成三年九月一七日から同年一二月二五日まで、富士銀行に対して二五〇〇万円の定期預金を有していたことが認められるけれども、前記のように酒税法一〇条一〇号の趣旨は、酒税を保全する観点から、申請者に酒類販売業を経営するための物的、人的、資金的要素に相当の欠陥があって、酒類販売業の継続的遂行を可能ならしめる程度の条件が備わっていないときは、免許を与えないことができるとするものであるから、同号の要件の存否は、酒類販売業の免許を付与するか否かを決定する時、すなわち処分時を基準に判断すべきことは、蓋し当然である。したがって、仮に申請時には右要件に該当しなかった場合においても、処分時において右要件に当たれば、免許の付与の可否に関する限り、その間の経緯如何にかかわらず、免許拒否処分がなされることもやむを得ないところである。

3  そこで、前記のような原告の経済的状況に照らすと、本件処分時における原告の経営の基礎は脆弱であると認められるから、原告は酒税法一〇条一〇号に該当するとした被告の本件処分が違法であるということはできない。

三  争点3について

行政事件訴訟法三条五項によれば、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分をすべきにもかかわらず、これをしない場合には、右申請をした者は、不作為の違法確認を求める訴訟を提起することができる。しかしながら、行政庁が相当の期間内に何らかの処分を行わないことが違法であるかどうかの問題と処分自体の適法性は別個の問題であり、処分の適法要件は、通常その根拠となる法規に定められているところ、本件においても、酒税法上、仮に税務署長が相当の期間の経過後に何らかの処分をした場合に、右期間の経過のみが当該処分の違法をもたらすとの規定はなく、またこのように解すべき法律上の根拠もない。したがって、本件処分が本件免許申請後一一か月経過後なされたことが違法事由となる旨の原告の主張は、採用することができない。

四  争点4について

裁決の遅延についても、争点3において説示したところと同様である上、仮に裁決の遅延が違法と評価される場合であっても、それは裁決固有の瑕疵であり、原処分たる被告の本件処分の違法事由となるものではい。

したがって、原告の主張はそれ自体失当である。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 小島浩 裁判官 水上周)

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