大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

浦和地方裁判所 昭和59年(ワ)768号 判決

原告

寺本正次

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

岩月史郎

被告

中田功

右訴訟代理人弁護士

神田洋司

弘中徹

溝辺克己

今井誠一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告各自に対し、それぞれ金二二一二万五七五七円及びこれらに対する昭和五七年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨の判決

第二  当事者の主張

一  請求の原因(原告ら)

1  事故状況

訴外亡寺本一也(以下「亡一也」という。)は、昭和五七年九月二八日午後九時三〇分ころ、自動二輪車大宮め四二二九号(以下「寺本車」という。)を運転して、埼玉県岩槻市大字岩槻五六五番地の三先の国道一六号線(以下「国道」という。)上を春日部市方面から大宮市方面に向けて走行していたところ、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が亡一也の進路前方道路を横断すべく岩槻市道(以下「市道」という。)から国道中央部分に急進入した。

そこで、亡一也は急制動の措置をとり自車と被告車との衝突を回避しようとしたが、避けきれず、右同所において寺本車は被告車の右側面に衝突した(以下この事故を「本件事故」といい、右事故の現場を「本件事故現場」という。)。そのため、亡一也は頭蓋骨骨折、脳挫傷等の障害を負い、翌二九日死亡した。また、本件事故により、寺本車は、大破した。

2  被告の責任

本件事故は、被告が、本件事故現場付近の道路の状況を注視することなく亡一也の進路前方道路を横断しようとして、寺本車が衝突を回避することができない地点に達しているのに、被告車を漫然と道路中央部分に進入させた不注意により起きたものである。

仮にそうでないとしても、本件事故当時は夜間で、現場は暗く、見通しが悪い状況であったのに、被告は亡一也の進行道路中央部よりの第二通行帯上に右折のため停車し、その第二通行帯を完全に塞いでいたから亡一也が右第二通行帯を進行してくることを認識したうえ、これとの衝突を避ける措置をとるべきであったのにこれをとらなかった過失により起きたものである。

さらに、被告は、本件事故当時被告車を保有しその使用に供していたものである。

従って、被告は、民法七〇九条または自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき本件事故により原告らに生じた損害につき賠償する義務がある。

3  損害

(一) 亡一也分

(1) 慰謝料 金二〇〇〇万円

(2) 逸失利益

金三六三七万四七一四円

ただし、逸失利益の計算の基礎として用いる数値及び金額は次のとおりである。

(イ) 年収  昭和五七年度賃金センサスによる男子労働者月額平均賃金二四万六一〇〇円の一二か月分二九五万三二〇〇円及び年間賞与金八四万二〇〇〇円を合算した金三七九万五二〇〇円に年五パーセントの割合の賃金上昇分を乗じて加算した金三九八万四九六〇円

(ロ) 生活費控除率 五〇パーセント

(ハ) 就労可能年数  五〇年

(ニ) 中間利息控除係数(新ライプニッツ)18.256計算式(3,984,960円×0.5×18.256=36,374,714円)

(3) 寺本車破損による損害金

金三一万六八〇〇円

寺本車(ヤマハXJ四〇〇D)は、購入当時新車価格が金四五万二〇〇〇円であったから、これに事故までの法定償却残存率0.681を乗じて原価償却した額に廃車費用九〇〇〇円を加えたもの。

(二) 相続

原告らは、亡一也の両親であり、亡一也にはほかに相続人はいない。従って、原告らは、右(一)、(1)ないし(3)記載の額の亡一也の損害賠償請求権につき、法定相続分に応じてそれぞれ二分の一の割合により金二八三四万五七五七円宛相続した。

(三) 原告ら固有の損害

(1) 葬儀費用 金三五六万円

原告らは、亡一也の葬儀費用として金三五六万円を等分に支払った。

(2) 弁護士費用 金四〇〇万円

原告らは、原告代理人に対し、本件訴訟の着手金及び報酬金として各金二〇〇万円の支払を約した。

よって、原告らは被告に対し、民法七〇九条または自賠法三条に基づき、本件事故による損害賠償金としてそれぞれ金三二一二万五七五七円の請求をなしうるところ、原告らが自動車損害賠償責任保険から支払を受けた各一〇〇〇万円を控訴した金二二一二万五七五七円とこれに対する事故発生日である昭和五七年九月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(事故状況)について

被告の運転する自動車が亡一也の進路前方道路を横断すべく国道中央部分に急進入したとの事実は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の事実(責任)について

被告が、本件事故当時被告車を保有し、その使用に供していたとの事実は認め、その余の事実は否認する。

3  請求の原因3(損害)について

(一) 亡一也のうち(1)、(2)額は争い、その余は不知。

(二) 同(二)、(三)の事実は不知。

三  抗弁

1  免責

(一) 本件事故現場付近は、車道幅員14.1メートルの国道と幅員2.5メートルの市道の交差点であり、信号機による交通整理が行われていない場所である。

(二) 被告は、市道から国道に右折合流して春日部市方面に向かうべく国道に被告車を横断進入させた。

(三) 被告は、国道への進入に際し、市道上の一時停止線で停止し、国道の左右の安全を確認したうえ進行し、さらに、別紙交通事故現場図(以下「現場図」という。)①地点で停車して、国道の車両の動向をみたところ、春日部市方面から進行してくる車両がなかったので、同方面に右折すべく右向指示器を点滅させながら交差点内を徐行し道路中央部分まで進行した。

(四) このとき、国道の大宮市方面から春日部市方面への車線上を大宮市方面から進行して来る車両が認められたので、被告は、被告車の先端が道路中央部にかかる位置(運転席の位置は現場図②地点)で被告車をやや春日部市方面に向け、右折のため一時停止した。

(五) 被告が道路中央部分で一時停止したとき、大宮市方面からの進行車両は現場図地点にあったが、春日部市方面からの車両はなかった。

(六) 被告は、現場図②地点で一時停止を開始して一〇秒ないし一五秒経過した後、オートバイの暴走音を聞いたので、春日部市方面をみると、寺本車が同方面から大宮市方面に向けて時速約七〇ないし八〇キロメートルの高速度で現場図地点付近を走行してくるのが認められた。

(七) 右によれば、亡一也は、制限速度が時速五〇キロメートルと指定されている道路を時速七〇ないし八〇キロメートルの高速で進行し、かつ、前方を注視していれば停止中の被告車を発見してこれとの衝突を回避できたのに前方の注視を怠り、被告車の発見が遅れ(被告車を発見した地点は被告車から約五〇メートルの地点)、急制動の措置をとったが間に合わず、衝突に至ったものであって、本件事故は、亡一也の無謀な高速運転と前方不注視の過失が重なって発生したものであり、専ら、亡一也の過失によるものである。

(八) 被告は、本件事故現場の交差点への進入、右折のための停止態様において交通法規上なんらの違反をしておらず、亡一也との衝突を回避する方法はなかった。すなわち、被告が本件事故を回避するとしても、その方法は停止位置から前進するか後退するかしかない。前進の場合を想定しても、前進すべき道路には、大宮市方面から春日部市方面への進行車両があり、被告車を寺本車の進行車線から除くことは不可能であって、前方に進みえたとしても、せいぜい中央分離帯のはばと同程度の約一メートルであるが、被告車と寺本車の衝突部位が被告車の右側面中央部であるから、仮に一メートル前進したとしても衝突を回避することはできず、前進によっては事故の発生を回避することが不可能であったものである。また、後退の場合を考えてみても、事故当時、亡一也の進行左側を訴外小瀬哲生(以下「小瀬」という。)の運転するオートバイ(以下「小瀬車」という。)が進行してきていたのであるから、これも不可能の回避措置であった。

(九) 被告車には、構造上の欠陥及び機能の障害はなかった。

2  過失相殺

仮に、抗弁1記載のとおり、本件事故が専ら、亡一也の過失によるものであり、被告に過失がなかったこと及び抗弁1、(九)記載の事実が認められないとしても、本件事故は、右抗弁(一)ないし(七)記載のとおりの状況で発生したものであり、亡一也には本件事故発生の一因をなした重大な過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  免責について

(一) 抗弁1(一)、(二)の事実は認める。

(二) 同(三)の事実のうち一時停止の事実は知らず、その余の事実は否認する。

(三) 同(四)の事実は否認する。

(四) 同(五)の事実のうち被告が道路中央部分で一時停止したとき、大宮市方面からの進行車両は現場図地点にあったとの事実は知らず、春日部市方面からの車両は存しなかったとの事実は否認する。

(五) 同(六)の事実は否認する。

(六) 同(七)の事実のうち国道の制限速度が時速五〇キロメートルと指定されているとの事実は認め、その余の事実は否認する。

(七) 同(八)の事実のうち事故当時、亡一也の進行左側を訴外小瀬の運転するオートバイが進行してきていたとの事実は認め、その余の事実は否認する。被告の主張は争う。

被告は、現場図①地点の寺本車の進行してくる方向の安全を確認せず、漫然国道内に進入し、途中まできたところで反対方向を進行してくる車に気づき、一旦停止の措置をとった。この地点は衝突地点である。被告はここに停止して右方向をみたところ、一〇数メートルないし数一〇メートル手前に寺本車を発見したが、これを回避する措置を採らなかったため、停止したままの状況で、停止直後もしくはそれから2.3秒内に寺本車に衝突されたと考えられる。

他方、寺本車の制動痕が衝突地点の手前三〇メートルの地点から一五メートルの長さで付いていること、制動措置をとってから制動効果が生じるまでに一ないし1.5秒間の空走があることから、亡一也が被告車を発見した地点は、衝突地点の手前四〇数メートルないし五〇数メートルの地点ということになる。このときの寺本車の速度は、時速六〇キロメートルであった。しかも、被告車との衝突地点では、被告車は第二通行帯をほぼ完全に塞ぐ状態であったことからすると、亡一也は、被告車が衝突地点に停止しているのを発見して制動措置をとったものではなく、被告車が本件事故現場の道路へ進入してくるのを発見して急制動の措置をとったが、前記速度と発見地点・衝突地点間の距離との関係から被告車との衝突を回避できなかったものである。

事故当時は夜間であり、見通しは必ずしも良くない状況であったから、前記の状況をも考えると、亡一也が前方不注視で走行していたことは認められず、被告車を発見して制動措置をとっても衝突は回避できなかったものであり、事故の原因は、被告車が寺本車の進路を妨害していたことによるものである。

(八) 同(九)の事実は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求の原因1の事実のうち被告の運転する自動車が亡一也の進路前方道路を横断すべく道路中央部分に急進入したとの事実を除く事実及び請求の原因2の事実のうち被告は本件事故当時被告車を保有し、その使用に供していたとの事実は当事者間に争いがない。

二そこで、まず、自賠法三条但書の免責の抗弁について判断する。

1  被告車には本件事故当時構造上の欠陥及び機能上の障害がなかったとの事実については当事者間に争いがない。

2  次に、被告の無過失について、国道への進入態様、本件衝突地点における停車状況、停車状態から前進または後退することにより衝突を回避しなかったことの順に順次判断するが、その前提として、本件事故時の具体的状況について検討する。

(一)  〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

(1) 被告は、本件事故当時、市道から国道一六号線に入り、これに右折合流して春日部市方面に向うべく本件事故現場にさしかかったが、その際、右国道に進入する手前の地点(現場図①の地点)で一時停止をした。なお現場図は乙第六号証(実況見分調書)添付の交通事故現場図と同一である。

(2) このとき、被告は一時停止の後、右折する旨の方向指示をしながら徐々に国道の左右方向が見通せる地点まで進行し、その場で国道の春日部市方面からの車両の進行状況を確認したところ、同方面は直近の信号機まで見通すことができ、その道路上にはオートバイを含め車両の進行は認められなかった。

(3) 被告が右のとおり、一時停止等をした地点から右直近信号機までの距離は約三〇〇メートルを下まわらない。

(4) 被告は、前記のとおり、一時停止の直後、右地点付近で国道上の大宮市方面からの車両の進行状況も確認したが、同方向直近の信号機は赤色を表示していたので国道上を安全に右折進行できるものと考え、国道中央部手前の現場図②の地点に被告車の運転席が達する位置まで時速約五ないし一〇キロメートルの速度で徐々に進行した。ところが、被告車がこの地点に達した際、大宮市方面からの車線には車両が連続して進行してきており(先頭車は現場図の地点、なお、②地点から地点までの距離は約四七メートルである。)、被告は、そのまま右折進行すれば、右車両と衝突する危険を感じたため、右②地点に停車し、大宮市方面からの進行車両の切れ間が生じるのを待った。このとき被告は、車体をやや春日部市方面に向け、国道中央分離帯切れ間の中央部分に被告車の先端部がほぼ達し、後尾部は春日部市方面から大宮市方面への車線の第二通行帯をほぼ直角に塞ぐ位置に被告車を停車させていた。

(5) 被告は、右の状態のまま停止して大宮方面からの車両の切れ間が生じるのを待っていたところ、寺本車が被告車の右側面中央部に衝突した。

以上の事実が認められ、〈証拠〉は前掲各証拠に照らして信用することができず、また、前記認定に反する〈証拠〉は採用できず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。なお、原告寺本正次は、現場図①地点の停止線位置では国道の左右方向は双方とも見通すことができず、右の位置で安全確認をしたとする被告の供述には誤りがある旨供述するが、被告のこの点に関する供述は、①地点で一時停止した後、徐々に前進して左右の見通しができる地点に至ったとき両方向の安全を確認したとの趣旨に解すべきであり(原告寺本正次の供述がその前掲事実において正しいとしても、前掲現場図によれば、①地点と左右両方向が見通せる位置との間の距離は数メートルでしかないものと認められる。)、このように解すれば、被告の供述が誤りであるとまではいえない。

さらに、被告車が前記(4)の位置で停止していた秒数についても、被告が作成した甲第一七号証では五ないし一五秒と記載され、被告は本人尋問において一〇秒か一五秒である旨供述し、被告車に同乗していた証人石山英樹、同加藤浩之はいずれも三〇秒くらいと証言していて、今となってはこれを明確にすることはできないが、前認定のとおり、被告が国道の春日部方面を見て直近の信号機の赤色表示を確認しえてから停止位置に至るまでに要する秒数はたかだか三ないし五秒を上まわらない(国道の片側の幅員は約七メートル、横断する被告車の速度は時速五ないし一〇キロメートルである。)から、被告が右信号機の赤色表示を確認した直後にこれが青に変ったとしても、亡一也が右信号機のところを発進したおそくとも五秒後には被告車は前記(4)の位置に達したうえここに停止していたものといわざるをえず、亡一也は発進後遅くとも五秒後から、距離にすれば数十メートル進行した後から衝突までの少なくとも二百メートル位を進行する間、すでに停止している被告車と相対する関係にあったものといわざるをえないのである。

右は、証人小瀬哲生の、自分は亡一也の約二〇メートル後の第一通行帯を亡一也と同様の速度で進行していたが、自車の前方を車両が横断して進入してきたことには気づかなかった旨の証言内容とも付合する。

(二)  他方、本件事故時及びその直前の亡一也の運転状況、これと併進していた小瀬の運転状況についてみると、〈証拠〉によれば、次の事実を認定することができる。すなわち、

(1) 亡一也は、本件事故直前、後部座席に友人原田良一を同乗させ、寺本車を運転して国道を春日部市方面から大宮市方面に向けて第二通行帯(中央分離帯よりの車線)を進行してきたが、衝突地点の手前にある前記(一)、(3)の信号機の手前で停止した後、小瀬車とともに(但し、小瀬車は第一通行帯を進行していた。)発進した。

(2) 寺本車は、その後加速し、本件衝突地点の手前約三〇メートルの地点における同車の速度は時速約七〇ないし八〇キロメートルを超えるものであった。

(3) 寺本車とともに発進した小瀬車は、発進時におけるクラッチ操作の遅れから、寺本車に二〇メートル程遅れて第一通行帯上を寺本車とほぼ同一の速度でこれを追尾していた。

(4) 亡一也は、被告車との衝突を避けようとして急制動の措置をとり、これによる寺本車の制動痕は衝突地点の手前約30.8メートルの地点からほぼ直線状の約14.8メートルの長さで印象されているが、その後制動措置は解除され、その後約一六メートル走行して被告車に衝突した。なお、亡一也は制動から衝突までの間ハンドル操作による衝突回避の措置はとっていない。寺本車が被告車に衝突したときの速度は時速約65.8キロメートルであった。

(5) 小瀬は、寺本車とほぼ同様の速度で走行していたが、亡一也が前記のとおり制動措置をとったことを寺本車の制動灯で確認し、自らも徐々に制動・減速の措置をとり、寺本車の衝突を知った直後に衝突地点から約五メートル通過した第一通行帯上で停車した。小瀬車の制動による制動痕は印象されていない。

以上の事実を認定することができ、証人小瀬哲生の証言中寺本車及び小瀬車の速度に関する部分は前掲各証拠に照らして信用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  また、〈証拠〉によれば、被告が進行してきた市道から国道に入る部分には「右折」を禁止する旨の道路標識は設置されておらず、右折することが禁じられていなかったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(四) 以上認定の事実によれば、被告は市道から国道への進入に際し、春日部市方面からの車両の進行がなく安全に国道中央部分まで進行できることを確認し、国道中央分離帯の切れ目付近に被告車の先端が達する位置までほぼ直進したうえ同位置で停止したものであり、寺本車が右停止位置から約三〇〇メートルはなれた信号機のところを発進した遅くとも五秒後から寺本車が衝突するまでの間(すなわち、寺本車が少なくとも約二百メートル進む)同位置で国道大宮市方面からの車両の切れ間が生ずるのを待っていたものであって、寺本車が進行してきていて、同車が本件衝突地点までに制動停止すること若しくはハンドル操作により衝突を回避することがいずれもできない地点に達していたにも拘らず国道に急進入したものではないと認められる。ところで、被告が右折のため進入した本件事故現場は、前記のとおり右折が禁止されていない信号機による交通整理の行なわれていない交差点である(信号機による交通整理が行なわれていない交差点であることについては当事者間に争いがない。)が、このような交差点で右折進行しようとする場合には、まず、右方向からの進行車両との関係で安全に道路中央部手前まで進行できることを確認し、道路中央部手前まで進行して一旦停止したうえ、同所で左方向からの車両との関係で安全に右折合流することができるかどうかをさらに確認した後右折合流するべきであるが、道路中央部手前で左方向からの進行車両があって右折合流することができないときには、一旦停止したまま、右折合流することができるまで、その位置で停車して待てば足るものというべきである。一見これと相反するかに読める道路交通法(昭和三五年法律第一〇五号)三六条二項の趣旨も、相拮抗する車両相互においては、劣後道路または明らかに幅員の狭い道路からの通行車両は、優先道路または明らかに幅員の広い道路を通行する車両の通行を妨害してはならないということにあるのであって、同条項は、一旦優先道路または明らかに幅員の広い道路右方向からの他の車両の通行を妨害することなく交差道路に進入した車両が、交差道路中央部で左方向からの通行車両に進路を譲って停止するが如き場合には適用されないものと解されるから、右の理は、右法条に反するものとはいえない。この理によるときは、被告は、前記認定のとおり、国道に進入するに際し、右方向(春日部市方面)からの車両の進行がないことを確認して道路中央部手前の位置まで進行し、同所で一旦停止をしたまま、左方向(大宮市方面)を見たところ、現場図点を進行して来る車両を認め、その後にも後続車が進行してきているのを認めたため、同方面からくる車両の流れの切れ間を待っていたというのであるから、進入態様において被告に過失はなかったというべきである。

(五) 次に、被告が国道第二通行帯をほぼ塞ぐ状況で大宮市方面からの車両の切れ間を待って被告車を停止させていたことについて検討する。

前記のとおり、被告は、国道を右折進行するにあたり国道中央部手前の位置まで進行して大宮市方面からの車両の進行を確認したところ、同方面からは現場図の位置を進行する車両を先頭に後続車両があったのでこれらとの衝突を避けるため、中央分離帯の切れ間の中央部に被告車の先端が達する位置で停車していたのであるから、この停車により被告車が第二通行帯をほぼ塞ぐ状況を作り出していたとしても、このことは前記のごとき信号機による交通整理の行なわれていない交差点での右折進行にあってはやむを得ないことであり、右のような状態で停止していたことをもって被告の過失とすることもまたできないというべきである。

(六) 次に、被告が寺本車の進行を発見したのち、被告車を前進もしくは後退させて寺本車との衝突を回避しなかったことについて判断するに、被告が、寺本車を発見した後に被告車を前進させて寺本車との衝突を回避することは、前記認定のとおり、被告車が現場図②の位置に停車していた目的からこれを期待できないところであり、更に、後退して衝突を回避することも前記認定のとおり後退すべき第一通行帯には小瀬車が寺本車の直後を進行していたのであるからこれまたできないところであるばかりか、被告としては、亡一也がハンドルの操作により衝突を回避することもありうることを考えると、安易に被告車を後退させることは、却って亡一也にとって、衝突回避の措置をとることがより困難なものとなることが容易に推測されるところであり、これもすべきことではないのである。

右によれば、被告が、現場図②の位置から被告車を前進若しくは後退させて寺本車との衝突を回避しなかったことをもって被告の過失とは評しえない。

(七) 反対に、前記認定のとおり、寺本車は被告車を発見した地点での速度が時速七〇ないし八〇キロメートルを超える高速度であったこと、右と同様の高速度で進行していた小瀬車は急制動の措置をとることもなく衝突地点から約五メートル通過した地点で停止しえていること、小瀬は寺本車に遅れること約二〇メートルでこれに追尾していたものであることを併せて考えると、本件衝突は、亡一也が被告車を発見することが遅れたこと、または、亡一也が被告車を発見できる距離内で停止もしくは進路変更することが可能な速度を超える速度で寺本車を運転していたことに起因するものというほかない。なお、以上認定の事実に照らせば、衝突現場の明るさ、寺本車の前照灯の照射距離並びに現場図の位置にトラックが停止していたかどうかの点は本件事故に関する被告の過失の有無には消長をきたさないと解される。

従って、被告の免責の抗弁は理由がある。

三次に、原告ら主張の被告の過失に基づく不法行為責任については、前認定のとおり、本件事故に関し被告には過失がなかったものと認められるから原告のこの点に関する主張も理由がない。

四結局、右によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官平林慶一)

別紙事故現場図〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com