大判例

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熊本地方裁判所 昭和30年(行モ)2号 決定

申請人 磯崎熊蔵 外五名

被申請人 清里村

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

理由

申請代理人は「被申請村議会が昭和三十年一月二十日議決した清里村を廃し荒尾市に編入の件並びに市村廃置分合に伴う村有財産処分の件の執行は申請人等の被申請村に対する熊本地方裁判所昭和三十年(行)第四号村議会決議無効確認請求事件の判決確定に至るまでこれを停止する」旨の裁判を求めその申請理由として主張する要旨は、

「被申請村はかねて熊本県知事の町村合併試案に基き玉名郡長洲町六栄村腹赤村の三ケ町村と合併すべき方針を決定し関係各町村議会の間でこれが実現方を申合せその調印を了していたに拘らず其の後被申請村議会議員中十名は右申合せを無視し村執行部と共に被申請村を荒尾市に編入せんとする方針に転ずるに至り荒尾市長同市議会議長と結んでその実現を企図し昭和三十年一月九日及び同月十四日の二回に亘り数を頼んで村議会を招集し被申請村の荒尾市編入議決を強行せんとしたが村民の約半数を占める有識層千四百余名の反対に遭い所期の目的を達し得なかつたところから同月二十日不法にも反対派村民の来集傍聴を妨ぐるため村外数キロを距てた荒尾市日出区二百四十一番地大菩提寺において反対派議員欠席の侭自派議員のみを以て議会を開会し「清里村を廃し荒尾市に編入の件」「市村の廃置分合に伴う村有財産処分の件」の二議案を可決するに至つた。抑々地方自治法は村議会開催の場所として特別の規定を設けていないが、会議公開の原則からしても之を村内に於て開くべきことは法の解釈上当然のことであるに拘らず被申請村長及び之に同調する議員等が殊更村外に於て議会を開催した所以のものは編入反対派村民が多数傍聴することを恐れたためであつて、其のことは県及県警察本部よりの「村議会に於ける編入決議は県議会には上程しないから傍聴は差し控へられたい」との反対派に対する説得と相俟ち同議会は傍聴者のないまま傍聴を禁止したと同一の状況下に開かれたのである。以上の次第で同日の議会の議事手続は地方自治法の定める公開の原則に全く相反する違法のものであるから同議会により議決された後申請村の荒尾市編入決議は当然無効というべきところ、既に受入側の荒尾市においてもこれが編入承認決議を為し熊本県知事に対し荒尾市及び被申請村より合併申請が為され同申請については現に熊本県議会に附議提案せられる運びに立到つて居り、これが可決せられて熊本県知事により一旦被申請村の荒尾市編入の処分が為されるときは申請人等村民一同は償うことのできない損害を蒙ることとなりこれを避けるため前記編入決議の執行停止を求むべき緊急の必要があるので本申請に及んだ」

と謂うにある。

仍て按ずるに地方自治法第七条に基く市町村廃置処分合に関する市町村議会の議決は都道府県知事の為すべき廃置分合処分の前提をなす当該市町村自体の意思決定であつて、事の性質上関係市町村の自治行政の運営に重大且つ広汎な影響を及ぼすものであるからその効力を不安定の状態に置くべからざるものとする公益上の要請は一般行政処分に比し特に高度のものがあると謂うべくこれに反し本件議決が県議会において支持せられ知事の処分となり所期の目的を達したとしても申請人等の蒙る影響は申請人等がいずれも清里村民としての資格を喪失して新たに荒尾市民となることでありまた申請人寺田を除く五申請人が清里村議会議員の地位を失うに至るということであつて、これらのことはすべて本件議決が執行された場合の間接的な結果に外ならずしかもそのため申請人等が租税負担において或は議員手当の支給等に関し何らかの損害を蒙るとしてもこれらは何れも償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合とは認められない。

申請人等は執行停止を求める理由として一旦被申請村の荒尾市編入の処分が為されるに於ては申請人等村民一同償うことのできない損害を蒙ると主張して居るのみでその損害についての具体的の主張がないが恐らくは被申請村を荒尾市に編入することの行政処分としての事の重大性及び右編入の結果村民一同が受ける綜合的利害得失と申請人等個人の損失とを彼此混同しての論と謂うの外なくその理由のないことは前叙の通りであるので本件申請を却下することとし申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 浦野憲雄 下門祥人 蓑田速夫)

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