大判例

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田川簡易裁判所 昭和38年(ろ)99号 判決

被告人 中村市治

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主文

被告人を判示第一の罪につき懲役四月、判示第二の罪につき懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右判示第二の罪の刑に算入する。

押収に係る「いこい」一九本入煙草ケース一個、竝びに現金のうち金一三五〇円は被害者後藤孝子に還付する。

訴訟費用中金一一三五円は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三五年一一月二〇日午前九時頃田川郡添田町庄宮城病院診療室において、三村ナツ所有の現金約八三〇〇円在中の編物手提一個を、

第二、(一) 昭和三七年二月七日午前一〇時三〇分頃、前同所において内海ミツエ所有の現金三〇〇〇円在中の手提一個を

(二) 同月二七日午前九時三〇分頃、頃、前同所において、後藤住恵所有の現金八〇〇円外三点在中の手提一個時価計金七〇〇円相当を、

(三) 同年三月一一日午前九時三〇分頃、前同所において、桜木カツ所有の現金二二〇〇円外二点在中の手提かばん一個時価計金五〇〇円相当を、

(四) 同年四月一七日午前一一時頃、前同所において、松岡武利所有の現金一一五〇円外一点在中の財布一個を、

(五) 同年五月二二日午前一〇時頃、前同所において、大野フジノ所有の現金五三七円外一点在中の手提袋時価計金一〇〇〇円相当及び藤山ユキ所有のハンカチ外一点在中の手提一個時価計金一〇〇〇円相当を、

(六) 同年一〇月一六日午前九時頃、前同所において、山崎スエノ所有の現金一四〇〇円在中のがま口一個を、

(七) 同年一一月一三日午前八時三〇分頃、前同所において、森田みよ子所有の現金一三五〇円外二点在中の手提袋一個を、

(八) 同月二七日午前一〇時頃、前同所において、大場ヨシエ所有の現金五二〇円外二点在中の手提袋一個を、

(九) 同年一二月七日午前九時三〇分頃、前同所において、関野笑子所有の現金七〇〇円在中のがま口一個を、

(一〇) 同月二九日午前九時三〇分頃、前同所において、藤田ソデ所有の現金三一〇〇円外三点在中の手提袋一個時価計金五〇〇円相当を

(一一) 昭和三八年二月三日午前一〇時一五分頃、前同所において竹山教所有の現金四〇〇円及びハガキ八枚在中の手提一個時価計金九〇円相当を、

(一二) 同月六日午前一〇時三〇分頃、前同所において、石丸与七所有の現金五七〇円在中の財布一個時価計金二〇〇円相当を、

(一三) 同年三月三日午前八時五〇分頃、前同所において、原口マサノ所有の現金三五〇円在中の手提一個を、

(一四) 同年四月二八日午前一〇時三〇分頃、前同所において、三宅ヒサノ所有の現金一六〇〇円外三点在中の手提一個時価計金一五〇円相当を、

(一五) 同年五月二四日午前一〇時頃、前同所において、亀川シズノ所有の現金一一〇〇円外一点在中のハンドバツク一個を、

(一六) 同年六月一八日午前九時五〇分頃、前同所において、後藤孝子所有の現金一三五〇円位入りがま口一個、「いこい」一九本入り煙草ケース一個外二点在中の風呂敷包み一個を

それぞれ窃取したものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯の原因となる前科)

被告人は昭和三二年一一月二九日小倉簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年六月、昭和三六年二月九日当裁判所で同罪により懲役一〇月に処せられ、いずれも当時その刑の執行を終つたものであることは、被告人に対する前科調書の記載並びに被告人の当公廷におけるその旨の供述により認められる。

(法律の適用)

被告人の判示所為はいずれも刑法第二三五条に該当するところ、判示第一の所為と同第二の所為との間には前記のような確定裁判があるので、刑法第四五条後段、第五〇条により未だ裁判を経ない判示第一の罪について処断すべく、その所定刑期範囲内において被告人を懲役四月に処し、判示第二の罪については、被告人には前示再犯加重の原因となる前科があるので、同法第五六第一項第、五九条、第五七条に従い再犯加重をし、なお判示第二の各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条に則り犯情の最も重い判示第二の(一〇)の罪の刑に法定の加重を為し、刑法第一四条前段の制限に従つた刑期範囲内において被告人を懲役一年二月に処し、同法第二一条により未決勾留日数中三〇日を右判示第二の罪の刑に算入するものとする。なお押収に係る現金二四八五円中少くとも金一三五〇円は判示第二の(一六)の被告人の犯罪行為による賍物であることは証人後藤孝子の供述により明らかであり、ただそのうちの何れの紙弊又は硬貨が本件における賍物であるかを特定することができないのであるが、通貨は高度の代替性を有するものであるから、押収金のうちどの紙弊又は硬貨を被害者に還付しても、被告人その他の関係人の利害に何の影響もない。従つてその特定が不能でも被害者に還付すべき理由が明らかであると言い得ないことはないから、押収金中金一三五〇円を、並びに押収に係る「いこい」一九本入煙草ケース一個を刑事訴訟法第三四七条第一項に従い被害者に還付すべく、訴訟費用は被告人が貧困のため納付することができないことが明らかであるが、前示押収金のうち被害者に還付した残金一一三五円は、差出人である被告人に還付される金員であるのでその限度において被告人に納付能力ありと認め、同法第一八一条第一項を適用して訴訟費用中金一一三五円を被告人に負担させ、その余は負担させない。

(被告人の弁解について)

被告人は判示第二の(一六)の罪について、事件当日、添田町畑川の製材所附近に居住している佐々木重一なる者を訪ねて添田駅に午前九時五〇分頃到着したが、当時今にも雨が降りそうであつたので、駅の待合室でフクニチスポーツを買いそれを見ている時に、警察官に同行を求められたもので、被害場所である同町庄の宮城病院には行つていない。又押収の「いこい」一九本入り煙草ケースについて、ケースは一年半位前に西鉄博多駅売店で買つた物、煙草は前夜右同駅の売店で買つたものである旨弁解するのである。そこで右弁解の真偽について考えるに、

一、被告人の当公廷における供述によると、

被告人は添田駅に行つたのは始めてであり、到着後特に畑川部落の所在場所、距離並びに佐々木重一の住所の附近にあると言う製材所の位置などを尋ねず、スポーツ新聞を見ていたと言うのであるが、通常未知の場所に居住する人を訪ねるため目的地駅に下車した人は、直ちに訪問先の方向、距離、居住の有無などを他人に尋ねるものであるのに、被告人はこのことをしていない事実。

二、田川気象通報所長作成の天候照会の回答書によると、

当日午前一〇時前後において今にも雨が降りそうな空模様であつたとは認められない事実。

三、証人岩崎豊の供述によると、

畑川部落は添田駅から遠い所で三〇〇メートル位で徒歩一〇分は要しないのであるから、仮りに雨が降り出しそうにあつても、真に被告人が佐々木重一宅又はその附近にあると言う製材所を尋ねて行く意思があれば、駅舎を出て行つても大して雨にぬれることはないに拘らず訪問先を尋ねていない事実。

四、添田警察署高須警部補作成の所在調査方についてと題する書面二通(いずれも電話聞取書)によると、

添田町畑川には佐々木重一なる人物は居住していない事実。

五、証人後藤孝子、同弥永育生の供述によると、

本事件発生当時被告人が宮城病院の待合室に居た事実。

六、被告人の司法警察員に対する供述調書によると、

押収のケースに入つていた煙草について、被告人は逮捕された直後司法警察員に対し「ケースの中味は「新生」で値段は四〇円であつて、一本喫いました。私は「ピース」やら「新生」を主に買います。」旨供述しているが、当公廷において押収品を示された後はケースの中味は「いこい」であると供述を変更している点。

などを綜合すると被告人の弁解は信用することができず又その弁解を真実であると認められる資料はない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉松卯博)

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