大判例

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甲府地方裁判所 昭和44年(レ)8号 判決

控訴人 河西貢

被控訴人 国

訴訟代理人 仙波英躬 外四名

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、民法の相隣関係規定の適用について

本件係争地が甲府少年鑑別所の敷地の一部であることは当事者間に争いがないので、国の事務に供される行政財産と解すべきことは明らかである。

ところで国有財産法一八条によると、行政財産についての私権の設定は無効とされているけれども、民法の相隣関係の規定は、隣接する土地相互の利用関係を調整するため、隣地所有者に消極的な受忍義務を負わせるにとどまるものであるから前記「私権の設定」にあたらないというべきである。

よつて本件袋地については、民法二一〇条以下の適用があると解するのが相当である(なお、行政財産につき取得時効が否定されるのは、当該財産の所有権が私人によつて取得されると、公の用に供されるなど行政財産の目的が達しえなくなるおそれがあるために外ならない。従つてこのことは行政財産につき相隣関係の規定の適用を排除する根拠にはならないものというべきである)。

二、民法第二一三条の通行権について

本件袋地は、その東が甲府少年鑑別所の外塀に遮られ、その余も他の土地に囲まれており、そのいずれかを通行しなければ公道に通じないことは、当事者間に争いがない。

ところで、〈証拠省略〉によると、本件袋地はもと同人の所有であつたこと、及び被控訴人は右訴外人より、本件袋地の東に接する畑(甲第四号証の二中「221丸山常蔵179,519坪」と記載されている部分)を買収したことが認められる。従つてこの部分については、民法二一三条に基づく通行権が生ずるか否かは別論として、〈証拠省略〉によれば、本件係争地は本件袋地の南西方向に連なるものであり、右丸山からの買収部分とは別の個所であることが認められるところ、法二一三条の趣旨を、同時に買収されたとはいえ他人の所有地にまで及ぼすことは根拠がないというべきである。

三、民法第二一〇条の通行権について

(一)  〈証拠省略〉によれば本件係争地の北及び東は甲府少年鑑別所の外塀に接し、西及び南は丸太杭を打込みこれに数条に亘り有刺鉄線を張つて立入を禁止していることが明らかであるが、右検証の結果に当審における証人小林亮太、同泉久義の証言を合わせ考えると、本件係争地中、本件袋地に近い部分は、東北方向へ屈曲しているため、係争地の南を東西に走る市道からは見通すことができず、仮に此処から鑑別所に収容されている少年に不正な接触を試みる者があつても、発見が容易ではないこと、本件係争地の西側には建築資材が放置されているので、本件係争地が開放されると、右資材を用いて鑑別所の外塀を乗り越えることはさして困難でない状況にあること、現在の鑑別所職員数をもつてしては、塀の外側を常時巡回視する余猶はないこと等が認められる。

ところで、少年鑑別所は家庭裁判所より送致された少年を収容し、審判及び保護処分の執行に資するため少年の資質鑑別をする施設であるから、収容少年の逃亡を防止することは勿論、少年と外部との不正な連絡を断つべきことを強く要請されることは当然である。

本件係争地を私人の通行に開放することによつて前述の如き施設管理上の危惧が生ずることは、公益上たやすく看過しえないものというべきである。

(二)  そこで更に検討するに、〈証拠省略〉によれば、本件袋地より公道に至る経路としては、本件係争地のほか、

(イ)  鑑別所の塀に沿つて北進し、路地を経て公道に至るもの(かつてこの経路が使われていた事実は、当審における証人丸山常蔵の証言及び控訴本人尋問の結果から認められる。)

(ロ)  本件袋地から西進して、現に南北に走る道路として使用されている部分に達するもの(別紙第二図面四番五一を経て、同番四〇三、四〇四、四〇二、三七六、四〇一、三九四、四〇〇の各土地をつなぐもの。もつともこれは現在東西方向に向けられているブロツク塀により遮られているが、〈証拠省略〉によれば、右ブロツク塀の南側の土地は、本訴原審で控訴人と共に原告であつた訴外赤池邦博が、子供の名義で所有しているものであるところ、同訴外人は原審判決後、控訴本人と協議して右土地と本件袋地との境界を定めたうえ、右ブロツク塀を構築し、控訴本人もこれに対し異議を述べずに黙認したと認められるので、右構築をもつて右部分に控訴人のための通行権が成立することを否定するのは妥当でないと言うべきである。)等が考えられ、しかもこれらの部分は、右ブロツク塀を除き工作物も設けられておらず、農耕その他の用に供されていない平担な空地であることは、〈証拠省略〉により明らかであつて、控訴人のため通行権を認めるにつき妨げとなる事情は何ら窺うことができない。

(三)  以上のとおり(一)、(二)の事実を合わせ考えると、本件袋地より公道に至る経路のうち、囲繞地にとつて最も損害の少いのは本件係争地であるとの心証は得るに至らない。

四、従つて控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので本件控訴を棄却すべく、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸俊彦 春日民雄 雛形要松)

別紙図面〈省略〉

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