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盛岡地方裁判所 昭和28年(行)14号 判決

原告 阿部長蔵

被告 花巻市長 外二名

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

(一)  花巻市に合併以前の宮野目村が、昭和二五年八月一日被告松田忠雄、松田政蔵に支払つた金九七五、四三五円及び同日被告松田政蔵に支払つた金一七三、三一〇円の支払は無効であることを確認する。

(二)  被告花巻市長に対し、被告松田忠雄、松田政蔵は連帯して金九七五、四三五円、被告松田政蔵は金一七三、三一〇円及びそれぞれこれに対する昭和二五年八月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告花巻市長は前項の金員を、被告松田忠雄松田政蔵の両名から収納の手続をなせ。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする

二、被告らは、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、旧宮野目村長瀬川壱三は、昭和二五年七月三一日被告松田両名との間に別紙目録記載の山林原野及び工場その他の建物機械設備等を代金を別紙目録記載(1)の七四番の二山林は一七三、三一〇円、同(2)の六九番の一原野は五一、二五五円、同(3)の工場その他の建物機械設備は九七五、四三五円合計二二〇万円、その代金支払方法内一二〇万円は契約と同時、残額一〇〇万円は同年一二月二〇日土地所有権移転登記と同時と定めて、買受けることの契約をなし、翌八月一日一二〇万円を支払つた。

二、右一二〇万円のうち一七三、三一〇円は右(1)の七四番の二山林の売買代金として被告松田政蔵に支払われたものであるが、右山林は政府が旧自作農創設特別措置法によつて未墾地買収した国の所有地であるから旧宮野目村長は右山林を国から直接売払を受けることにより一、八〇〇円でこれを手に入れることができ、何ら右山林に関係のない被告松田政蔵に売買代金として前記多額の村公金を支払うべき理由はなかつたのである。

すなわち同村長は被告松田政蔵に右売買代金を支払つたが、右山林を入手することができず、国から賃料を支払つて賃借して同村中学校敷地に使用していたのであり、その後昭和二九年に至つて国から売払いを受けたのである。同村長が松田政蔵に支払つた右山林代金は、全く理由のない違法な支出である。

三、また前記一二〇万円のうち九七五、四三五円は被告松田両名に支払つたものであるがこれは全然名目のない支払であつて違法なものである。

右九七五、四三五円は真実は別紙目録記載(3)の工場その他の建物機械設備の代金として支払つたのでもない。そのようなものが中学校校庭取得に必要ではない。現にその後昭和二五年一二月三〇日この部分の売買は合意解除されているのである。また前記(1)の七四番の二の整地、取除、賠償費として支払われたものであるとしても、それは必要のない支払である。

四、よつて旧宮野目村長が被告松田政蔵に支払つた国所有の山林代金一七三、三一〇円及び被告松田両名に支払つた支払名目不明の九七五、四三五円、合計一、一四八、七四五円は同村公金の違法な支出である。

原告は旧宮野目村の住民であるが、昭和二八年六月一〇日同村監査委員に対し適式に右違法支出の有無の監査及び違法支出につき禁止措置を請求したが、監査委員は何らの措置をしない。

五、旧宮野目村は昭和二十九年四月一日町村合併促進法により合併されて花巻市となつたから、被告花巻市長において旧宮野目村長の地位を承継すべきである。

原告はここに被告らに対し前記旧宮野目村長が被告松田らに対してなした同村公金の支払の無効であることの確認を求め、被告松田らに対しそれぞれの受領した前記各金員の返還支払と被告花巻市長のこれが収納手続をなすべきことを求める。

第三、被告の答弁

一、請求原因事実のうち

第一項は認める。

第二項のうち、一七三、三一〇円は原告主張の七四番の二山林の売買代金として被告松田政蔵が支払を受けたものであること及び右山林が当時未墾地買収により政府の所有になつていたことは認めるが、その他は否認する。右売買代金は旧宮野目村が右山林を不用地処分の方法により、または用途変更により国から所有権を取得することに対する旧地主松田忠雄の弟被告松田政蔵の承諾の対価である。

第三項のうち、九七五、四三五円は被告松田両名が支払を受けたものであることは認めるが、その他は否認する。右金員は七四番の一の地上にある原告主張の物件の撤去に関する整地費及び取払建物の補償費である。

第四項のうち原告が旧宮野目村の住民であり、原告から同村監査委員が監査の請求を受けたことは認める

第五項のうちその主張の合併事実は認める。

二、前記支出は、旧宮野目村長が同村中学校々舎敷地及び校庭敷地を取得するため、予め村議会全員協議会の大多数の同意の下に支出をし、追加更正予算として昭和二五年八月八日村議会の議決を以て承認を得てなされたものである。

またその支出後昭和二七年三月二九日の同村議会において決算の承認を得たものである。

よつて右支出は原告主張のような違法なものではない。

第四、(証拠省略)

理由

被告らは原告主張の旧宮野目村長の支出は同村議会の議決を経、決算の承認を得ているから違法ではない旨争うので考えてみるに、地方自治法第二四三条の二によれば、公金の違法若しくは不当な支出があると認められるときは、監査の請求ができるのであるから、その支出がただ単に議会の議決に基づくものであり、かつ議会の決算承認がなされているからといつて、直ちに違法の支出でないと解することはできないのである。

同法第一七六条によれば、普通地方公共団体の長は、議会の議決がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、理由を示して、これを再議に付させなければならないのであり、再度の議決がなおその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、議会を被告として裁判所に出訴することができるのである。このような長の権限は苟しくも地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理することのなからんことを期する地方自治法の根本精神に由来するものであり、長に単なる執行機関たる地位以上の権限を与え責任を帰せしめたものと解することができる。長が右の再議等の措置を講ずることなく、違法な支出命令を発した場合には長の行為として違法であり、法第二四三条の二の監査の対照たるを失わないのである。

そこで進んで旧宮野目村長の右支出の命令が違法なものであるか否かを検討することにする。

原告は、別紙目録記載(1)の七四番の二山林は未墾地買収によつて政府の所有するところであるから、旧宮野目村は右山林を国から直接売払を受けることができるのであり、また事実昭和二九年国から売払を受けてその所有権を取得したのである。してみれば旧宮野目村が松田政蔵に支払つた右山林代金は、全く理由のない違法な支出であると主張する。

右山林は元被告松田忠雄の所有であつたが未墾地買収により当時国の所有に属していたことは当事者間に争ない。証人五内川藤次郎、瀬川壱三(一、二回)、斎藤義祐、阿部謁郎の各証言に、成立に争ない甲第一ないし四号証及び公文書であつて成立の認められる甲第九ないし一二号証を併せ考えれば、旧宮野目村が本件山林等を入手するに至つた経緯は、本件七四番の二の山林は宮野目中学校に隣接する土地で、同村当局が従来から中学校敷地として入手したい計画を持つていたのであるが、たまたま昭和二五年六月頃その所有者であつた松田忠雄が自己の経営する旅館を焼失して建築資金獲得のために、右山林を売却したい意向を持つておることを、村当局が聞きつけ、急きよ村議会全員協議会を開き、これが買取方を協議したところ、右山林は未墾地買収により国の所有に属しておるが、入植予定者の松田忠雄の弟松田政蔵が入植を希望しないために近く不用処分として旧所有者である松田忠雄に戻されることになつておることが判明し、また村が右山林を入手する方法として、旧所有者の承諾を得れば公共用地として用途変更の手続により直接国から村が売払を受けられることも判つたので、松田忠雄と交渉した結果、同人が旅館建築のため二二〇万円以下にはまけられないが、他の土地を付けてやつてもよいとの回答をえたので、同年七月二七日議員殆んど全員が出席した村議会全員協議会は、右山林のほかに別紙目録記載(2)(3)の六九番の一の原野及び七四番の一の地上にある瓦工場、附属建物、機械等を合計二二〇万円で買取ることを決議し、同村長が右の決議に従つて同月三一日松田忠雄、その弟松田政蔵との間に、右山林を村が国から用途変更の手続により売払を受けることを旧所有者松田忠雄の弟の入植予定者の松田政蔵において承諾し、その他の物件は村に売渡すこととし、それらの対価として村が右両名に対し二二〇万円を支払うこととする旨の契約を締結し、翌八月一日うち一二〇万円を支払つたが、右代金の支払については同月八日村議会の議決を得ており、その後昭和二六年九月二五日に至り、村議会の議決に基づき、右契約を一部変更し、工場、附属建物、機械等の部分を解除し、代金を七五万円減額し、代金は結局合計一四五万円とすることとし、残代金二五万円は六九番の一の原野の移転登記完了と同時に支払う旨の合意が両当事者間に成立し、その後右残代金も支払われたことが認められる。原告提出の各証拠によつても右認定を左右することができない。してみれば旧宮野目村長がなした本件に関する支出命令は村議会全員協議会の了承のもとになされ、かつ遅滞なく村議会の正式の議決を経ておるから、議会の議決なき支出命令と解することはできない。

さて、原告は、旧宮野目村は国所有の右山林を国から直接売払を受けられたものである旨主張するが、昭和二五年七月本件取引が行われた当時施行されていた旧自作農創設特別措置法、同施行規則によれば、国が一旦買収した未墾地は農業に精進する見込のある者その他に売渡すことを建前とし、売残りあるときは国が直接管理し、或は他の者に管理させることを定めるのみで、不用処分等により旧所有者に戻すことは法の予想しないところであつたが、売残り等のため実際の必要上不用地処分と称せられる方法により旧所有者にこれを戻す方法がとられたり、また用途変更の手続により、買収した未墾地を耕作以外の公共の目的等のために売払うことのあつたことは前記各証人の証言によりこれを窺知し得られる。しかしこのように耕作以外の目的のため無制限に売払うことは、旧自作農創設特別措置法本来の目的を逸脱し、延いては、憲法が保障する私所有権の保障にも抵触するおそれのあるものであるから、少くとも旧所有者の承諾なくして、このようなことを行うことは許されないものと解するのを相当とする。してみれば本件山林の旧所有者である松田忠雄の弟で入植予定者の松田政蔵はこの点に関して国の所有に属する本件山林に対して特別の関係を有する者であつて、原告主張のように何らの関係がない者ではない。なおまた五内川藤次郎、阿部謁郎の各証言によれば、本件山林等は本件取引当時八十数万円の取引価値のあつたことが認められ、右認定に反する証人桜田昌一、鎌田善八の各証言は採用しない。他に右認定を左右する証拠がなく、また証人藤村権次郎の証言によれば、被告松田忠雄は解除になつた瓦工場、機械等の撤去移転に人夫賃一七万五千円を支払つておることが認められ、右認定を左右するに足る証拠がないから、本件山林原野そのものの代価としては一二七万五千円を受領したことになる。

以上の諸事実を併せ考えるときは、旧宮野目村長が本件に関してなした金一四五万円の支出命令は、その当否はともかく、必ずしも違法又は権限を超える支出と解することはできない。してみれば原告の主張は採用するを得ない。

従つて旧宮野目村長の支出命令が、違法又は権限を超える支出命令であることを前提とする原告の本訴請求はいずれも失当である。よつて原告の請求を棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 瀬戸正二 中平健吉)

(別紙省略)

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