大判例

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盛岡地方裁判所 昭和61年(わ)161号 判決

本籍

岩手県盛岡市住吉町二八番地

住居

同県同市南仙北一丁目二二番六八号

会社役員

吉田軍治

昭和一七年八月二八日生

主文

被告人を判示第一の罪につき懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円に、判示第二、三の罪につき懲役四月及び罰金一〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岩手県盛岡市中野二丁目二番二〇号に事務所を設けワールドマシンの名称でゲーム機械のリース及び販売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、売上金の一部を除外し架空人名義で預金するなどの不正手段によって所得を秘匿した上

第一  昭和五七年中における総所得金額は一億六、〇九五万三、八四六円でこれに対する所得税額は一億五〇二万八、二〇〇円であるにもかかわらず、昭和五八年二月二二日、同市本町通三丁目八番三七号所在の盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は五五八万二、五〇〇円であって、これに対する所得税額は六二万四、九〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税一億四四〇万三、三〇〇円を免れ

第二  昭和五八年中における総所得金額は八、二二三万五、九七五円でこれに対する所得税額は四、四八七万三、〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年三月一五日、前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は三一三万七、四七九円であって、これに対する所得税額は六万六、九〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税四、四八〇万六、一〇〇円を免れ

第三  昭和五九年中における総所得金額は二、六一一万三、二五九円でこれに対する所得税額は八〇四万二、四〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月一五日、前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は二七五万一、三三八円であって、これに対する所得税額は二万三、三〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税八〇一万九、一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述及び大蔵事務官、検察官に対する各供述調書

一  被告人作成の各上申書

一  五十嵐博見、菊池則夫、大森敏、中野利夫の検察官に対する各供述調書

一  佐藤ヨ子、千葉光一、千葉美加子、庄司芳則の大蔵事務官に対する各供述調書

一  検察官、検察事務官作成の各捜査報告書

一  盛岡信用金庫店長、同金庫東支店長、東北銀行南大通支店長各作成の証明書

一  大蔵事務官作成の銀行調査書、売上調査書、雑収入調査書、国税の納付状況照会に対する回答書、必要経費調査書、各調査報告書、未納事業税調査書、利子所得調査書、雑所得調査書、譲渡所得調査書、預金調査書、割引商工債券調査書、貸付金調査書、建物調査書、競走馬調査書、各脱税額計算書、各修正申告書謄本、各領収済通知書謄本

一  盛岡県税事務所長各作成の回答書

一  山縣宗夫、高嶋哲、福田龍雄、松下清、清水湧三各作成の回答書

一  川本吉美作成の上申書

一  押収してある現金出納帳一冊(昭和六一年押第五三号1)、出納帳一冊(同号2)、申告関係ファイル一綴(同号3)、五七・五八・五九年度分所得税の各確定申告書(一般用)三枚(同号4、7、8)、五七年分の所得税の修正申告書一枚(同号5)、同年分の所得税の再修正申告書一枚(同号6)、五八年分収支計算書一綴(同号9)、昭和五九年分収支内訳書(一般用)一綴(同号10)

(確定裁判)

一  盛岡地方裁判所昭和五八年九月二三日確定懲役一年執行猶予三年の常習賭博罪(検察事務官作成の前科調書により認める)

(法令の適用)

一  被告人の各所為 いずれも所得税法二三八条一項、二項(罰金刑併料)、一二〇条一項三号

一  併合罪の処理 第一の罪につき前記確定裁判との関係で刑法四五条後段、五〇条

一  併合罪加重 第二、三の罪につき同法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により重い第二の罪の刑に法定の加重、罰金刑につき同法四八条二項により合算

一  換刑処分 同法一八条

(量刑の事情)

本件は、前示認定のとおり、個人企業を営む被告人が三年間つまり三期の納税期にわたり、売上の一部を除外し、これを自己又は他人名義でいわゆる隠し預金するなどの不正手段により所得を隠し、税務当局に過少申告をすることにより、三期合計で一億五七二二万円余にのぼる所得税を免れ、その逋脱率はなんと九九・九九五パーセントにのぼる脱税事犯である。そして、その動機も結局は自己の事業経営の将来のためということであって、特に酌むべき何物もない。しかも被告人は、昭和五八年九月本件事業にかかるゲーム機が常習賭博罪にあたるとして起訴され、執行猶予付懲役刑を受けたにもかかわらず、その前後を通じて本件脱税をなしたものであって、たとえ別種の事件であるとはいえ、いったん刑事事件に問われたならば自重自戒すべきであるのに、被告人は何らそのようなことを意に介さなかったものである点からも、本件はきわめて悪質であるといわなければならない。

脱税事犯は、一頃は国家の租税収入を確保することを目的とする行政罰であるから、後に所定の加算税等を支払えばそれほど重い罪ではないと認識されていたのであるが、昨今においては、税の不公平問題が政治的にも社会的にも多く論議されるようになって来て、右のような認識は薄れ、脱税事犯に対する世間の評価はきわめて厳しいものになり、結局この罪は国民全体の犠牲において莫大な利得をするものであって、納税に対する国民の不公平感を増長し、国民の納税意欲或は納税倫理を低下させ、おいてはわが国税制の根幹である申告納税制度を危うくする重大な反社会性を有する自然犯と評価されて来ているのであり、罰金刑のみならず自由刑の実刑が科せられる例も多く見受けられるようになって来ている。たしかに本件を見ても、前記のように、その逋脱率は九九・九九五パーセントであるから、この三年間全く納税をしていないに等しく、このことは、正直に納税申告をしている者或はその所得を一〇〇パーセント捕捉されて源泉徴収をされている勤労者いわゆるサラリーマンと比べていかに不公平であるかが明らかである。まことに「正直者は馬鹿を見る」という結果になっているのである。このようなことから、脱税事犯は国民全体の犠牲において莫大な利益をあげる犯罪であって、法律的には形式犯であっても、実質的には国民全体特に前記のような正直に納税申告している者やサラリーマン階層がその被害者であるといっても過言ではない。このようなことから、脱税事犯の評価にあたっては、重税にあえいでいるかかる者の気持を汲むことが肝要であるといわなければならない。

さらに過少申告による脱税が多かれ少なかれ事業経営につきものであって、皆がやっているという意識が事業者の間には存在し、このことが被告人をして脱税に対する抵抗感が弱めていたことも事実であるが、しかし、このことをもって人間的な弱さとして被告人に同情することはできない。このような被告人の心情に同情することは、むしろ法が脱税を助長する結果になりかねず、申告納税制度を否定するものといわなければならない。むしろ、このような意識に支えられて、この種事犯が容易に伝播することこそ問題であって、一般予防の見地からもきびしく処断されなければならない。

以上の諸事情を斟酌すれば、本件の手段が必ずしも悪質巧妙なものではなく、どちらかといえば単純であること、本件についての反省の態度も顕著であること、既に本税の支払いを了し、重加算税等所定の制裁的納税の支払いに目下苦しんでいること等被告人に有利な情状を考慮しても、なお被告人を二つの主文を合わせて懲役一年二月及び罰金三五〇〇万円に処するのが相当と判断した。

(検察官漆原明夫、弁護人岩崎康彌出席)

(裁判官 穴澤成巳)

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