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神戸地方裁判所 平成8年(わ)483号 判決

本店所在地

兵庫県姫路市白浜町寺家二丁目九二番地

法人の名称

コスモエンタープライズ株式会社

(右代表者代表取締役 神澤政富)

本籍

兵庫県姫路市白浜町寺家二丁目九五番地

住居

右同

会社役員

神澤政富

昭和二二年三月七日生

本籍

兵庫県姫路市御立東二丁目五二六番地の八八

住居

同市東山二七六番地の二 パームコート東山三〇四号

会社員

村井洋介

昭和四一年四月一〇日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根薫、弁護人(私選)前田知克、麻田光弘、高島健、平井建志各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人コスモエンタープライズ株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人神澤政富を懲役一年に、被告人村井洋介を懲役一〇月にそれぞれ処する。

この裁判の確定した日から、被告人神澤政富及び村井洋介に対し、それぞれ三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人コスモエンタープライズ株式会社は、兵庫県姫路市白浜町寺家二丁目九二番地に本店を置き、衣料品販売等を目的とする法人、同神澤政富は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの、同村井洋介は、同会社の従業員として経費の支払い、資金管理等の業務に従事しているものであるが、被告人神澤政富及び同村井洋介は、共謀の上、同会社の業務に関し、不正の手段により法人税を免れようと企て、

第一  同会社の平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度における所得金額が五四〇〇万七三二四円で、これに対する法人税額が一九四九万二六〇〇円であるにもかかわらず、女性インストラクターに対する架空の販売促進費を計上する方法で、所得金額のうち四八六二万四〇七五円を秘匿した上、平成四年一一月三〇日、兵庫県姫路市北条字中道二五〇所在の所轄姫路税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五三八万三二四九円で、これに対する法人税額が一五〇万七二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額一九四九万二六〇〇円との差額一七九八万五四〇〇円を免れ、

第二  同会社の平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における所得金額が一億八八九六万四四三八円で、これに対する法人税額が六九六七万七〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の手段により、所得金額のうち一億三五七三万五五一五円を秘匿した上、平成五年一一月三〇日、前記姫路税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五三二二万八九二三円で、これに対する法人税額が一八七六万九七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額六九六七万七〇〇円との差額五〇九〇万一〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の漢数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人神澤政富の当公判廷における供述並びに第一回及び第四回公判調書中の同被告人の供述部分

一  被告人村井洋介の当公判廷における供述並びに第一回、第三回及び第四回公判調書中の同被告人の供述部分

一  被告人神澤政富の検察官に対する供述調書三通及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三〇、三四ないし三六)

一  被告人村井洋介の検察官に対する供述調書一一通(四二ないし五二)

一  金城ひとみ、花形栄子、岸裕子(二通)、福田祐子、久保典子、岩崎善四郎(二通)、林幾松、籠谷ツルエの検察官に対する各供述調書(一七ないし二六)

一  大蔵事務官作成の査察官調書(六ないし一六)

一  商業登記簿謄本(二八)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(二、四)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(三、五)

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、被告人コスモエンタープライズ株式会社(以下「被告人会社」という。)において、判示第一、第二の各事実にかかる事業年度の間、インストラクターと称する五名の女性説明・販売員名義の銀行預金口座(以下「本件各預金口座」という。)に、「コミッション料」の名目で継続的に一定金額を入金し、これを経費として控除したうえで右各事業年度にかかる法人税確定申告をしたこと、しかし、右コミッション料が実際に女性インストラクターらに支払われたことはなく、これをすべて被告人会社の簿外留保資金としていたこと(以下、これを「本件留保資金」という。)の各事実を認める一方、被告人神澤及び村井の両名(以下「被告人両名」という。)は、本件留保資金を、真実右インストラクターらのために使用する資金として留保していたものであって、本件各預金口座に入金された段階で被告人会社から経費として支出されたものと考えていたのであり、偽り又は不正の行為であることを認識していなかったのであるから、ほ脱の故意を欠き、無罪であると主張し、被告人両名も当公判廷においてこれに沿う供述をするので、以下検討する。

二  前掲各証拠によれば、以下の事実が認められる。

1  被告人会社は、女性向けのいわゆるエステ商品の販売を主たる業務としているものであるが、顧客に対する直接の商品販売は「特約店」、「代理店」等と称する販売店を通じて行う形態を採っており、各顧客に対する商品の説明・販売等を「インストラクター」と称する女性販売員に行わせていた。

2  被告人会社においては、インストラクターを被告人会社等の正社員とはせずに、各インストラクターが商品の企画・販売等に参加した際に右販売店等から日当、報酬等を支払ってもらうシステムを採っていたため、インストラクターらは、仕事がない場合には収入がなく不安定な立場にあった。そのため、インストラクターらが被告人会社に定着しなくなるおそれがあり、また、被告人神澤において、経済的に窮したインストラクターらに対し、個人的に金銭を与えたり貸与したりするなどの援助をすることがあった。

3  被告人神澤は、将来的にはインストラクターらの会社を設立し、独立させようと考えていたが、とりあえず、そのための資金やインストラクターに対する手当の支払いなどに当てるため、平成四年五月ころ、被告人村井に対し、チーフインストラクターと称する当時の主要なインストラクター五名に対し「コミッション」の名目で、被告人会社の一定の営業区域の売上げの数パーセントを支払ったことにし、これを被告人村井において管理するように指示した。

4  被告人村井は、これより先の平成四年一月、そのころ被告人神澤が右の構想を表明していたことから、そのための資金をプールする必要があると考え、インストラクターのうちの金城ひろみに全く事情を説明せずに、第一勧業銀行那覇支店に同人名義の普通預金口座を指示して開設させておいたところ、同年六月中旬、被告人神澤から右のような指示を受けたことから、更に同様に、岸裕子、福田裕子及び久保典子の三名に同銀行の岐阜、和歌山、高松の各支店にそれぞれ各人名義の普通預金口座を開設させ、同じころ、同銀行葛飾支店に同花形栄子名義の普通預金口座を同人に無断で開設したうえ、このようにして開設した本件各預金口座の預金通帳及び届出印を右花形を除く四名から預かり保管するようになった。そして、同被告人は、被告人神澤の前記指示に従って、同年六月以降、毎月、本件各預金口座に右五人のインストラクターの担当する各地区ごとの各月の売上げの三ないし七パーセントの金額を入金し、これを「コミッション料」の名目で経費として計上するようになった。

5  被告人村井は、右「コミッション料」の名目で本件預金口座に入金した金員をその当日又は数日のうちに、第一勧業銀行姫路支店又は同銀行神戸支店において一括して引き出し、その一部を右金城ひとみ、久保典子、花形栄子及び岸裕子の四名に対しチーフインストラクター手当てとして毎月各一〇万円を支給したが、同人らから受取証等は全く徴求しなかった。そして、右を除く預金のほとんどすべてを平成四年四月一三日に開設してあった但陽信用金庫姫路灘支店の「朝日火災海上保険村井洋介」名義の普通預金口座に入金し、さらに、これを同じく同日又は数日中に同支店の「村井洋介」名義の普通預金口座に振替え入金したうえ、「村井洋介」あるいは「神澤政富」名義の金額一〇〇〇万円から数千万円程度の数口の定期預金口座に分散して管理していた。

6  被告人会社において、コミッション料の名目(雑費、支払い手数料を除く。)で本件各預金口座に振込み入金した金額は、判示第一の事実にかかる平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度において、五二八九万一一五四円、同第二の事実にかかる同年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度において一億七三五二万四二五一円であり、平成四年六月にコミッション料名目の入金を開始し、平成六年四月にこれをやめるまでの総額は約三億円に達する。

7  被告人神澤は、同村井に指示して、本件留保資金の中から、前記チーフインストラクター四名に対する各月一〇万円の手当て、インストラクターやトレーナーと称する従業員らに対する販売促進助成金、各地で開催したセミナー等にインストラクターが参加した際の費用や手当て等など、インストラクターへの簿外手当や被告人会社の簿外経費の支払いに当てていたが、インストラクター及びその他の関係者に対する貸付金等など、被告人神澤の個人的用途と認められるものがあり、また、多額の使途不明金も存する。

本件留保資金の中から右インストラクターへの手当ての支払い等以外に用いられたと認められるもののうち主なものを例示すると次のとおりである。

(一) 平成五年八月三〇日、後記有限会社東邦コーポレーションの代表取締役で後に被告人会社の取締役となった友利正人のサラリーマン金融からの借金を肩代わりして、二一〇万六一〇七円を業者に振込み送金した。

(二) 同年九月二四日、本件留保資金の中から約八〇〇〇万円を引き出し、被告人神澤の個人資金約二〇〇〇万円を加えて予防医学総合研究所名義の金額一億円の定期預金を開設した。

(三) 平成六年五月一三日、有限会社東峰コーポレーションに対し、同社が、株式会社ケイエフ総合教育アカデミーの主催するヘア・ショーに協賛した際の協賛金に使用するため、本件留保資金の中から一五〇〇万円を貸し付けた。

(四) 同年六月三日及び同月二〇日、インストラクターの花形政恵に対し、同人の債務整理のため、合計一五〇〇万円を貸し付けた。

(五) 同月二〇日、有限会社インターナショナルバイオに対し、浄水器の代金として三五五〇万円を支払った。

(六) 同月二七日、インストラクターの中務に対し、サラリーマン金融からの借金を肩代わりするため、九六万七八三三円を支払った。

(七) 同年七月二六日、インストラクターの毛利春香に二四三万六〇〇〇円を貸し付けた。

以上認定の事実は、右4及び6を除き、被告人及び弁護人ともその大部分を争っておらず、前掲の各証拠により容易にこれを認めることができる。

一方、右認定の事実に対し、弁護人は、まず、前記インストラクター五名に本件預金口座を開設させた点につき、その開設に当たってはインストラクターのために使用する口座であることを事前に説明した旨主張し、被告人両名もこれに沿う供述をし、証人金城ひとみ、同花形栄子及び同岸裕子の証言中にも同旨の部分が存する。しかし、右三名及び久保典子の各検察官調書(一七ないし二二)には、同人らがどのような事件で事情聴取されているのか十分認識したうえで、いずれもそのような説明を事前には全く受けなかったし、その後の使途についてもその都度あるいは事後においても全く説明はなかった旨明確に供述した記載部分が存するが、同人らが事前に打合わせをした等の形跡がないのに各人の供述内容がよく一致し、殊に金城ひとみについては供述録取後も詳細な訂正申立てがなされており、それらの信用性が高いのに対し、公判供述は、証人となった金城らは現在では被告人会社においてチーフインストラクターという重要な地位にあって生活の基盤を被告人会社に依存しているうえに、被告人神澤を尊敬していることから、同被告人の面前では同被告人に不利益な供述をすることはできなかったと思われること、被告人らは互いにあるいは被告人両名との間で口裏を合わせた可能性がうかがわれること、供述を変遷させた点についても急に思い出したなどと不自然不合理な説明に終始していることにかんがみるならば、信用することができない。前掲各証拠によれば、各預金口座の名義人である前記インストラクター五名は、本件各預金口座の開設目的及びその入出金状況について、全く知らなかったと認定するのが相当である。

また、弁護人は、本件留保資金はすべてインストラクターのために使用したものであり、被告人神澤の個人的用途や被告人会社の他の簿外費用に使用したことはなく、右6の(一)ないし(七)等の支出についても間接的にはインストラクターのためになる支出であると主張し、被告人両名もその理由をるる供述する。しかし、右(一)ないし(三)の支出については間接的にもせよインストラクターのための支出とはいえず、また、たとえ何らかの形で支出目的にインストラクターが関係していたとしても、それらは結局は被告人神澤がインストラクターから信頼を厚くし、一方、インストラクターは更に被告人会社の売上増のために努力するという最終的には被告人会社の利益を増やすためのものというべきであるから、右主張はいずれも到底採用することができない。また、被告人神澤は、インストラクターに対する貸付け等をもって「援助」と称し、正当な支出であるかのように供述しているが、被告人らの主張するように本件留保資金がインストラクターのために社外流出しているとするならば、本件留保資金はインストラクターに合有的に帰属していることになるから、被告人会社あるいは被告人神澤がこれをインストラクターに貸し付けるということは背理といわざるを得ず、被告人会社がインストラクターに貸し付けた旨の被告人神澤の供述は同被告人において本件留保資金は依然として被告人会社に帰属しているとの認識を有していたことの証左というべきである。

さらに、弁護人は、当時、インストラクターの組織が経理主体としての体裁が整っていないなどのため、本件各預金口座名義人たるチーフインストラクター各自が管理運用するだけの余裕がなかったので、被告人村井が同神澤の指示を受けて管理していたにすぎない旨主張し、被告人両名も同様の供述をしているが、当時、インストラクターは個人事業者として全くばらばらに稼働していたものであり、被告人会社に対する外部団体としてのインストラクターを構成員とする組織は全く存在していなかったことは明らかであって、弁護人の主張は採用できない。

三1  以上の認定事実に基づいて検討するに、なるほど本件留保資金は、インストラクターの指導、養成のための費用や手当ての支払い等のために支出されたものも少なくないが、他方、そのすべてがインストラクターのための支出というわけではなく、むしろ、被告人会社の簿外経費又は被告人神澤らの個人的支出が相当部分含まれていることが明らかである。また、本件留保資金は、被告人村井の完全な管理下におかれ、インストラクターに対する支出要件・基準は全く設けられておらず被告人神澤の意のままに支出されているのであって、被告人会社が被告人神澤の名実ともにワンマン会社であることにも照らすと、本件留保資金が本件預金口座に振り込まれた段階において、これが被告人会社から社外に流出した実体は全く存せず、その段階においては、依然として被告人会社の簿外資産にとどまっていたものといわなければならない。そして、被告人会社において、このように当初からインストラクターに対するコミッション料支払いの意思もなくまたその事実もなく、これが被告人会社から流出した実体もないのに、これを経費に計上していた結果、判示のとおり被告人会社が法人税を免脱することとなったこともまた明らかである。そうすると、右のようなコミッション料の経費計上が、法人税法一五九条所定の偽りまたは不正の行為にあたることは明らかであり、被告人両名は、後にも述べるとおり、その経緯を十分に知悉していたのであるから、右偽りまたは不正の行為の認識も存したものというべきである。

2  もっとも、被告人両名は、本件留保資金をインストラクターのために支出する目的で形成したのであるから、正当な支出であると思っていた旨弁解し、偽りまたは不正の行為であることの認識がなかった旨主張する。しかしながら、本件留保資金がコミッションとして計上されているのにインストラクターに対するコミッションとして使用された実体が存しないことは前記認定のとおりであるから、右弁解は既に失当といわなければならないが、さらに、前記認定事実によれば、被告人村井は、本件留保資金を、被告人会社からいったん前記五名のインストラクターの住居地に所在する各支店の本件各預金口座に振り込んだ後、これをその日かせいぜい数日のうちに再び一括して引き出して、被告人会社とは全く無関係の但陽信金姫路灘支店の「朝日火災海上保険村井洋介」名義の口座に一本化して入金し、さらに同支店の「村井洋介」名義口座に入金した上、「村井洋介」名義あるいは「神澤政富」名義の定期預金に取り組んだりするなど口座を転々と通過させており、資金の流れが不自然であることが認められ、これらの事実からすれば、被告人両名において、意図的に簿外資金を形成したとしか考えられず、このことは、とりもなおさず本件留保資金の形成が法人税を免れることとなる不正の行為であること、すなわち、ほ脱の故意があったことの証左といわなければならない。

右本件留保資金を口座間で移動させた点につき、被告人村井は、本件預金口座から一括して出金したのはキャッシュカードのある口座に多額の金員を預金することは危険だからとか、「朝日火災海上保険村井洋介」名義に入金したのはたまたまあった口座を利用したにすぎないとか、「村井洋介」名義口座に入金したのは、キャッシュカードを作るためであるなどとるる供述するが、いずれも明らかに不合理な弁解であって、到底信用することができない。また、被告人らは、実名を用いた口座を利用したことなどから、資金隠しの目的でないことは明白であると主張するが、まず、被告人会社の社員ではない被告人会社の所在地と異なる地域に居住するインストラクター個人名義口座を利用すること自体、その所在を追跡、把握することを極めて困難ならしめるものであるのに、いったん右口座を経由させたうえ、さらに異なる銀行の間あるいは口座の間で資金を移動することは、一層、その追跡・把握を困難ならしめるものであることは明らかであり、現に、所轄税務署の調査においてこれを把握できなかった経緯も認められるのであるから、被告人らの右主張は失当である。

3  なお、被告人神澤は、同村井に本件留保資金の管理を任せており、同村井がどのような形で本件留保資金を管理していたかは知らなかった旨供述しており、同村井もこれに沿う供述をするが、仮に被告人両名の供述のとおりであるとしても、前掲証拠によれば、被告人村井は、本件留保資金算出の方法としていくらのコミッション率をかけるかについて同神澤に報告して指示を仰いでいたこと、そして、被告人神澤も、インストラクターに対するコミッション料の名目の資金が留保されていること、自己の指示に基づき同村井が本件留保資金を管理していること、これらの資金については経費であるコミッションとして経理処理していること等の各事実については当然認識していたのであるから、被告人神澤にはほ脱の故意に欠けるところはなく、被告人神澤において本件留保資金の具体的な管理方法を知らなかったとしても、右認定を何ら左右するものではないといわなければならない。

4  一方、被告人村井は、被告人会社の経理処理及び資金管理等を担当していたことを否認し、同神澤の指示に基づいて本件留保資金の管理をしていたにすぎないから、同神澤との間に本件法人税ほ脱の共同正犯は成立しないと主張する。

しかし、前掲各証拠によれば、被告人村井は、平成元年ころ、同神澤に誘われて被告人会社に入社し、平成三年から社長秘書、平成四年九月から社長室長の肩書を得て、同神澤を全面的に補佐してその秘書的な仕事を継続的に行っていたこと、日常、売上げの集計や販売店に対するコミッションの計算等を行い、従業員に指示をして帳簿の記載等の業務を行わせていたこと、平成四年一月ころ、被告人神澤が将来的にはインストラクターの会社を設立し、独立させるとの構想を表明するや、そのための資金をプールする必要があると考え、間もなく自らの判断で金城ひとみに第一勧業銀行那覇支店に同人名義の普通預金口座を指示して開設させたこと、被告人会社の売上代金の一部が本件留保資金の原資となっており、本件留保資金が被告人会社から経費として社外に流出された形をとっているものの、真実は預金の形で管理されていることを認識していたこと、本件留保資金の管理につき他の事務員らに任せることなく直接自己が手続き等を行っており、その本件預金口座の開設、通帳印鑑の管理、そして、三億円もの大金を被告人神澤から全面的に任されて管理するといった重要な行為を担当していることが認められ、これらの事実に照らすならば、被告人村井において、本件留保資金が確定申告書には反映されないことについて認識していたものと認められ、これらの事実に照らすならば、被告人村井についても、同被告人が確定申告書作成あるいはその提出に直接関与することがなかったとしても、ほ脱の故意及び実行行為を優に認めることができ、そして、同神澤との共同正犯の成立が認められる。

四  以上より、被告人神澤、同村井は、いずれも本件のほ脱の故意に欠けるところはないから、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人神澤政富及び被告人村井洋介の判示各所為はいずれも平成七年法律九一号による改正前の刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は前記改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人神澤政富を懲役一年に、同村井洋介を懲役一〇月にそれぞれ処し、また、被告人神澤政富及び被告人村井洋介の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が処せられるべきところ、いずれも情状により同法一五九条二項を適用し、以上は前記改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により右各罪の合算額の範囲内で被告人会社を罰金二〇〇〇万円に処し、被告人神澤政富及び被告人村井洋介の両名については、情状により同法二五条一項を適用して、いずれもこの裁判の確定した日からそれぞれ三年間右各刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役である被告人神澤及び同社の資金管理を統括する立場にあった同村井が、被告人会社に関し、二事業年度にわたり合計一億八〇〇〇万円余りの過少申告を行って、合計六八八八万円余の法人税を免れた事案である。ほ脱額は右のとおり多額であり、ほ脱率も高いことに加えて、その方法も巧妙であって、脱税事犯が国民の租税負担の公平を害する重大犯罪であることを考えれば、被告人らの責任は決して軽いとはいえない。

しかしながら、被告人両名は個人的利益を図ったり個人的費消に使用したりするつもりで脱税を行ったわけではないこと、修正申告により既に本税を納付済みであり、重加算税についても今後支払う用意がある旨述べていること。犯意こそ否認するものの結果的に脱税をしたことについては反省の情を示し、今後は同じ過ちを繰り返さない旨誓っていること、被告人両名とも古い罰金前科があるものの他に前科前歴はないこと、被告人村井は被告人神澤の指示に従って行ったもので従属的であること等被告人らにとってそれぞれ有利な事情も認められるので、被告人神澤及び同村井に対しては、右各事情を考慮してその刑の執行をいずれも猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告人会社につき罰金二五〇〇万円、被告人神澤政富につき懲役一年、被告人村井洋介につき懲役一〇月)

(裁判長裁判官 江藤正也 裁判官 畑山靖 裁判官中川綾子は休暇のため署名押印できない。裁判長裁判官 江藤正也)

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