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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)768号 判決

兵庫県宝塚市弥生町三五八番地

原告

株式会社チボリ

右代表者代表取締役

中村一三

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

南聡

冨田浩也

右輔佐人弁理士

蔦田正人

岡山県倉敷市北浜町三番三号

被告

チボリ・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役

河合昭

右訴訟代理人弁護士

畑郁夫

石川正

池田裕彦

野上昌樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、「チボリ・ジャパン株式会社」との商号を使用してはならない。

2  被告は、岡山地方法務局倉敷支局平成二年二月二〇日受付の株式会社設立登記中の「チボリ・ジャパン株式会社」との商号の抹消登記手続をせよ。

3  被告は、遊園地の経営、飲食店、多目的ホールの営業について「倉敷チボリ公園」なる名称を使用してはならない。

4  被告は、「倉敷チボリ公園」における展示施設(ランドマークタワー及びアンデルセンホール)、グルメ施設及びアミューズメント施設での役務の提供について「チボリ」なる標章を使用してはならない。

5  被告は、原告に対して金一〇〇〇万円及び平成八年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の営業内容等

原告は、昭和三二年一〇月に「日建工業株式会社」との商号で設立された株式会社であり、当初は宅地の分譲販売を業としていたが、昭和四八年四月、商号を現在の「株式会社チボリ」に変更し、そのころ以降、兵庫県宝塚市において、ゴルフセンター、総合レジャープール、スイミングスクール、熱帯植物庭園レストラン、リゾートホテル、アイススケートリンク、フィットネスクラブ、多目的温泉保養施設といった各種施設を設け、これら施設において娯楽や飲食物の提供を行うという営業を行っている。

2  原告の営業表示及びその周知性

原告は、昭和四八年四月の商号変更の後、長年にわたり、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等を媒体とした営業の宣伝広告活動を行い、「株式会社チボリ」という商号、あるいは「チボリ」という字句を含む「チボリゴルフセンター」「宝塚チボリプール」「ホテル チボリ」「チボリフィットネスクラブ」といった施設名を西日本一帯に流布しており、例えば、平成六年度の宣伝広告費用は一億一五〇〇万円であり、平成七年度(同年一月から一二月まで)の来客数は約八〇万人である。

右の宣伝広告活動及びそれによる多数の来客により、「株式会社チボリ」、あるいは、その略語であり原告の営業施設の名称にも用いられている「チボリ」という名称は、原告の営業表示として、西日本一帯の需要者の間に広く認識されるに至ったものであり、右営業表示は、被告が設立された平成二年二月二〇日までに(そうでないとしても、遅くとも本訴提起時の平成八年四月一日までに)、西日本において周知性を獲得している。

なお、「Tivoli」(「ティボリ」又は「ティーボリ」と発音する。)という言葉は、イタリア中部ラツィオ州の都市の地名であるとともに、ヨーロッパでは遊園地・庭園劇場を意味する普通名詞として用いられることもあり、さらにはヨーロッパのホテル等の名称としても用いられているが、原告は、この外国語をもじって「チボリ」という造語を自己の商号や施設名に使用することにしたものである。

3  原告の商標権

原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。

(一) 出願日 平成四年九月三〇日

登録日 平成七年一〇月三一日

登録番号 第三〇九〇〇一七号

役務の区分 第四一類

指定役務 エアロビクスの教授、ビデオテープ映画・映画の上映、プールの提供、ゲーム機械器具を備えた遊技場の提供、ゴルフの教授、ゴルフ練習場の提供、水泳の教授、スケート場の提供、健康増進のためのトレーニング施設の提供(「アスレチッククラブ」「ヘルスクラブ」「フィットネスクラブ」が提供するもの)

商標の構成 別紙記載のとおり

(二) 出願日 平成四年九月三〇日

登録日 平成七年一月三一日

登録番号 第三〇二一八七一号

役務の区分 第四二類

指定役務 宿泊施設の提供、会席料理を主とする飲食物の提供、フランス料理及びイタリア料理を主とする飲食物の提供、広東料理を主とする飲食物の提供、アルコール飲料の提供、茶・コーヒー・清涼飲料及び果実飲料の提供、入浴施設の提供、マッサージ及び指圧の提供、温泉療養施設の提供、展示施設の貸与

商標の構成 別紙記載のとおり

4  被告の不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号該当行為)

(一) 被告は、平成二年二月二〇日、「チボリ・ジャパン株式会社」との商号(以下「被告商号」という。)で設立された株式会社であり、JR倉敷駅北側の約一二ヘクタールの広大な敷地に「倉敷チボリ公園」との名称(以下「被告標章」という。)が付された公園(以下「本件公園」という。)を建設しており、平成九年七月一八日の開業予定日以降、本件公園において、遊園地、飲食店、多目的ホール等の営業を行おうとしている。

(二) 被告商号及び被告標章は、普通名詞や固有名詞の部分を省略して「チボリ」などと略称されることが一般的であるから、被告商号及び被告標章は、既に周知の原告の営業表示と極めて類似しているということができる。

(三) また、被告が本件公園で行う営業内容は、近代的な遊園施設、娯楽施設あるいは飲食施設における役務の提供であり、原告の営業内容と競合している。

(四) したがって、被告が、被告商号及び被告標章を用いて本件公園での営業を行うことは、原告の顧客層である西日本の不特定多数人に対し、本件公園の営業主体が原告であるとの誤認混同を生じさせるものであり、原告は、このことにより、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある。

5  被告の商標権侵害行為

(一) 被告が本件公園内の施設で提供する予定の役務のうち、(1) 「ランドマークタワー」及び「アンデルセンホール」の展示施設における役務の提供は、本件登録商標に係る指定役務「展示施設の貸与」(第四二類)に、(2) グルメ施設における役務の提供は、本件登録商標に係る指定役務「会席料理を主とする飲食物の提供、フランス料理及びイタリア料理を主とする飲食物の提供、広東料理を主とする飲食物の提供、アルコール飲料の提供、茶・コーヒー・清涼飲料及び果実飲料の提供」(第四二類)に、(3) アミューズメント施設における「アンデルセンシアター」や「アニマルカルーセル」等の娯楽施設における役務の提供は、本件登録商標に係る指定役務「ビデオテープ映画の上映、プールの提供、ゲーム機械器具を備えた遊技場、健康増進のためのトレーニング施設の提供」(第四一類)に、それぞれ該当する。

(二) 本件登録商標のうち「宝塚」の文字は、地名であってそれ自体には営業主体の識別力はないうえ、「チボリ」の文字の約二分の一の大きさで表示されているから、本件登録商標は、単に「チボリ」の称呼・観念を生ずるものであり、この称呼・観念こそが営業主体の識別力を有するものであるということができる。

ところで、「倉敷チボリ公園」は「チボリ」という字句の前後に地名及び普通名詞を接続させただけの標章であり、単に「チボリ」との称呼・観念を生じさせるから、本件登録商標に類似しているということができ、同様に、「チボリ」という字句を含む標章はすべて本件登録商標に類似しているということができ、それら標章の使用は本件商標権の侵害にあたる。

そして、被告は、その商号が「チボリ・ジャパン株式会社」であるうえ、現に、本件公園の営業表示として「倉敷チボリ公園」という被告標章を使用しているから、右(一)の施設における役務の提供についても、「チボリ」という字句を含む標章を使用するおそれがある。

6  原告の損害

右4の不正競争行為及び右5の商標権侵害行為によって原告が被った損害は、一〇〇〇万円を下らない。

7  よって、原告は、不正競争防止法三条一項、二条一項一号に基づき、被告に対し、被告商号及び被告標章を使用することの差止め並びに設立登記中の商号の抹消登記手続を求めるとともに(請求の趣旨1ないし3項)、商標法三七条一号、三六条に基づき、本件公園内の展示施設(ランドマークタワー及びアンデルセンホール)、グルメ施設及びアミューズメント施設での役務の提供について「チボリ」の標章を使用することの差止めを求め(請求の趣旨4項)、あわせて、被告の不正競争行為及び商標権侵害行為による損害の賠償金一〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨5項)。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告が昭和三二年一〇月に設立され、昭和四八年四月に商号を「株式会社チボリ」に変更したことを認め、その余の事実は知らない。

2  同2のうち、原告の宣伝広告活動については知らず、「株式会社チボリ」あるいは「チボリ」という表示が、原告の営業表示として西日本で周知であるとの点は否認する。

原告は、「宝塚チボリ」又は「カラカラテルメ」という施設名を宣伝広告して営業を行ってはいるが、「株式会社チボリ」という商号を営業表示として宣伝広告しているわけではないし、その宣伝広告地域も宝塚市周辺が中心であるから、「株式会社チボリ」あるいは単に「チボリ」という名称が原告の営業表示として西日本において周知になっているとはいえない。

そもそも「チボリ」との字句は、デンマークのコペンハーゲンに古くから存在する国際的に著名な「チボリ公園」を指すものとして内外で広く認識されているのであるから、原告が「株式会社チボリ」あるいは「チボリ」との名称を使用して営業していたとしても、その名称使用は、外国の著名な営業表示に便乗するものであるか、その識別力の希薄化を引き起こすだけであるということができる。

したがって、「チボリ」あるいはその字句に株式会社を冠したにすぎない「株式会社チボリ」との名称は、原告の営業を他人の営業と識別・想起させるものと評価することはできないし、不正競争防止法二条一項一号に規定する「他人の商品等表示」に該当するともいえない。

3  同3の事実は認める。

4(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同4(二)の事実は否認する。被告標章及び被告商号は、「倉敷」とか「ジャパン」という表記とデンマークの著名公園を想起させる「チボリ」という表記を一体として使用することにより、初めて被告の営業を他から識別・想起させるものであり、「チボリ」という三文字の名称それ自体が、わが国における被告の営業や原告の営業を識別・想起させるものということはできない。

(三)  同4(三)の事実は否認する。

本件公園は、デンマークの「チボリ公園」をイメージしたもので、花と緑と水辺にあふれた園内の劇場や音楽堂で文化性・芸術性の高い行事が開催され、老若男女が憩いの場所として楽しめる「都市型公園」であり、公園内の修景施設(花壇、噴水、湖、園路等)及び教養文化施設が敷地全体の六〇パーセントに及び、樹木の被覆率も公園全体の四五パーセントにも達する公共性の強い施設であって、単なる娯楽施設ではなく、娯楽施設における役務の提供を内容とする原告の営業との競合はない。

(四)  同4(四)は争う。

被告が、原告のような純民間会社ではなく、岡山県や倉敷市などの地方公共団体が四分の一近くを出資する第三セクターであることは広く報道されており、原告と被告とでは営業地が約一五〇キロメートルも離れているうえ、本件公園での営業内容と原告の営業内容との競合もないのであるから、被告商号や被告標章を使用しての本件公園の営業が、原告主張のような誤認混同を招来するということはできない。

5(一)  同5(一)の事実は否認する。

被告が本件公園で提供する役務は、公共性に富んだ都市型公園としての役務の提供であり、これが社会通念上本件登録商標に係る指定役務と同一又は類似であるとはいえない。

(二)  同5(二)は争う。

「チボリ」という三文字の名称それ自体は、コペンハーゲンに所在する著名な「チボリ公園」を指すものとして広く認識されているから、本件登録商標は、「宝塚」という地名と結合し一体となって初めて、一定の役務を提供する原告の営業についての識別力を有するものである(ちなみに、「倉敷チボリ公園」という標章も、「倉敷」という地名と結合することによって初めて被告の営業についての識別力を有するものである。)。したがって、「チボリ」という字句を含む標章が直ちに本件登録商標との間で、称呼・外観・観念において類似しているということにはならない。

なお、本件公園内における個別の役務の提供は、「倉敷チボリ公園」なる標章で行うのではなく、各施設の個別名称で行うものである(例えば、デンマーク料理の提供について「ウォーターミルクリーク」との名称で行う。)。

6  同6の事実は否認する。

7  同7は争う。

三  抗弁

1  先使用(商標法三二条一項前段)

(一) 被告(平成二年二月二〇日設立)の前身である「株式会社センチュリーパークチボリ」はチボリ公園誘致業務を行うため、「岡山チボリ公園」なる標章を使用して営業しており、世界的に著名なデンマークの「チボリ公園」のコンセプトを受け継ぐ都市型公園が岡山県に誘致されるというニュースは、テレビ、新聞をはじめとするマスコミによって大きく取り上げられた。

被告は、誘致決定後に、本件公園を管理運営する会社として、平成四年一月二三日に同社からその営業全部の譲渡を受け、これを承継したものであり、デンマークの「チボリ公園」を運営するチボリ・インターナショナル社との契約により、「チボリ公園」の名称及び公園運営のノウハウの使用につき許諾を得て被告標章を使用しているのである。

被告標章である「倉敷チボリ公園」という標章は、「岡山チボリ公園」あるいは「チボリ公園」という被告標章と同一性がある。

また、被告は、設立後「チボリ公園」なる標章を使用したパンフレットを作成、交付してきているのであって、本件商標登録出願時には、被告が使用していた「チボリ公園」という標章は全国的に周知となっていた。

(二) 右のとおりであるから、被告標章の使用が本件商標権の侵害行為に該当するとしても、被告は、本件商標登録出願(平成四年九月三〇日)よりも前に、不正競争の目的ではなく、一般に広く認識された本件商標登録と同一の標章を使用していたから、商標法三二条一項前段(先使用権)に基づいて被告標章を適法に使用することができる。

そうでないとしても、被告は、平成三年法律第六五号による改正後の商標法施行の日(平成四年四月一日)から六月を経過する前から被告の事業を指称する標章として「チボリ公園」なる標章を使用していたから、少なくとも、平成三年改正商標法附則三条一項(継続的使用権)に基づいて被告商標を適法に使用することができる。

(三) また、右のとおりであるから、不正競争防止法一一条一項三号により、被告商号及び被告標章の使用は不正競争行為に該当しない。

2  権利の濫用

仮に、原告に不正競争行為及び商標権侵害行為に該当する行為があったとしても、これに基づく原告の本訴請求は権利の濫用として許されない。

すなわち、「チボリ」なる標章は、本件登録商標に係る出願時(平成四年九月三〇日)既に、デンマークの世界的に著名な「チボリ公園」を指す標章として、日本においても広く知られており、被告は、多大な努力を払い、多額の費用を支出してデンマークの「チボリ公園」を経営するチボリ・インターナショナル社から名称使用等の許諾を得て被告商号や被告標章を使用している。

これに対し、「チボリ」という名称を使用する原告の商号あるいは施設名による営業は、「チボリ公園」の著名性を無償で利用しようとする不当なものであり、しかも、原告の本件商標権の取得は、平成三年の商標法改正に伴う施行規則に基づくいわゆる特例出願による「駆け込み取得」ともいうべきものである。

したがって、原告がその主張に係る営業表示や本件商標権に基づき、多額の費用を投じて周到に計画された被告の事業計画を挫折させるような権利行使をすることは、公平の見地から許されるものではない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて争う。被告は、本訴提起時においてさえ本件公園を造成中であって、被告標章の先使用の事実はない。「岡山チボリ公園」あるいは「倉敷チボリ公園」については、その公共性に疑問を投げかけたり、不明朗な公金支出を問題にする報道がされたにすぎず、本件公園の営業に関する報道によって被告商号や被告標章が宣伝広告された事実はない。

また、原告は、商標法の改正によって役務商標が認められるようになって直ちに商標登録出願をしたもので、本件商標権の取得につき、「駆け込み取得」などとして非難される理由はない。

原告の存在を知悉しながら敢えて「チボリ・ジャパン株式会社」との商号の被告が設立され、その被告が「倉敷チボリ公園」との名称の本件公園を建設しようとすることこそ、公正な競争秩序に違反するものである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  不正競争防止法に基づく原告の請求について

一  原告が昭和三二年一〇月に設立され、昭和四八年四月に商号を「株式会社チボリ」に変更したことは当事者間に争いがないところ、甲第六号証、第七号証、第八ないし第一六六号証、第一六七号証の一ないし六、第一八八号証、第一九一号証、第一九九ないし第二〇三号証、第二〇四号証の一ないし七、第二〇五号証の一ないし四、第二〇六ないし第二一二号証、検甲第五号証の一ないし四、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし三、第八ないし第一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一ないし四、第一四ないし第三二号証、第三三号証ないし第七七号証によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和四八年六月、「宝塚チボリプール」という名称のレジャープールを、昭和五四年六月、「ビーバークラブ」という名称のスイミングスクールを、同年一二月、「レストランイグアス」という名称の熱帯植物庭園レストランを、昭和六〇年七月、「ホテルチボリ」という名称のリゾートホテルを、同年一一月、「アイススケート」という名称のオープンアイススケートリンクを、平成元年五月、「チボリフィットネスクラブ」という名称のフィットネスクラブを、同年一一月、「カラカラテルメ」という名称の多目的温泉保養施設を、それぞれ開業し、現在もこれら各種娯楽施設での営業を行っている。

原告の現在の資本金は二四〇〇万円で平成八年一月二〇日当時の従業員数は二二七人である。

2  原告は、「株式会社チボリ」の表示が入ったカレンダーを発行したり、その営業を総称する表示として「チボリ」の表示を使用していることもあるが、主に施設の名称を営業表示に用いて自己の営業を不特定多数の需要者に広く認識させるという宣伝広告活動を展開しており、平成元年ころ以降、営業施設のうち、多目的温泉保養施設について、「カラカラテルメ」「チボリカラカラテルメ」及び「宝塚チボリ」の営業表示を使用し、レジャープールについて、主として「宝塚チボリ」の営業表示を使用して、テレビ・ラジオのコマーシャル、一般新聞・スポーツ新聞・週刊誌の広告欄、折込広告、駅構内等のポスター・看板、パンフレット、ダイレクトメール等を通じて阪神地区を中心に活発に宣伝広告活動を行っている。

原告が支出した宣伝広告費は、開業翌年の昭和四九年以降ほぼ毎年六〇〇〇万円ないし一億円程度で推移し、平成元年に約三億円を記録して以降は毎年一億円以上となっている。

3  原告の多目的温泉保養施設は、平成二年二月から平成九年五月までの間、雑誌「TVぴあ」(関西版)、「こどもぴあ」(関西版)、「ぴあ関西新発見」、「関西遊ぼマガジン」、「JTBるるぶ情報版神戸六甲宝塚姫路」、「JTBるるぶ情報版るるぶ兵庫」、「ピーウィー」、「旅の手帖」、「週刊現代」、「フライデー」「クレア」「リー」「ブルーガイド情報版αこだわりの温泉」、「MONIQUE」という各種雑誌・情報誌に各一回、「Hanako WEST」、「ぴあ」(関西版)、「オール関西」という雑誌・情報誌に各二回掲載されており、関西地区のみならず全国でその営業が宣伝広告されている。

4  原告営業に係る各種娯楽施設の年間来場者数は、昭和四八年の開業当時で約一六万人であったが、その後年々増加し、平成元年以降は、ほぼ毎年七〇万人ないし八〇万人程度で推移している。

各施設のうち最も来場者数が多いのは多目的温泉保養施設で、年間約三〇万人の来場者があり、次いでゴルフセンターが約二〇万人、スイミングスクールが約一〇万人、レジャープールが七万人程度となっているが、その来場者のほとんどは、近郊からの日帰り客である。

二  右認定の事実に照らせば、「宝塚チボリ」は、原告が行うレジャープール及び多目的温泉保養施設の営業を表示する名称として、阪神地区を中心とした近畿地方において需要者に周知されているものということができるし、「カラカラテルメ」及び「チボリカラカラテルメ」は、原告が行う多目的温泉保養施設の営業を表示する名称として、近畿地方及びその周辺の県(本件公園の存する岡山県を含む。)において需要者に周知されていると評価することができるが、「株式会社チボリ」という原告の商号自体が、原告の営業表示として需要者に周知されていることを裏付ける事実関係については、これを認めるに足りる証拠は十分ではない。

三  次に、周知性の認められる「宝塚チボリ」又は「チボリカラカラテルメ」という営業表示のうち、単に「チボリ」という三文字の称呼が、それらの略語として、同様に原告の営業を表示する名称として需要者に周知されているかどうかについて検討するに、甲第一六九ないし一八〇号証、第一八二ないし一八五号証、第一八九号証、第一九〇号証の一、二、乙第一号証の一、二、第三二ないし第六四号証、第六九ないし第七二号証、第一三三の一、二、第一三四ないし第一三六号証、第一三七号証の一、二によれば、次の事実が認められる。

1  デンマークのコペンハーゲンには、一八四三年八月一五日、ジャーナリストであるゲオ・カーステンセンの進言により、面積八万二七〇〇平方メートルの広大なデンマーク王家の庭園に開設された世界的に有名な都市型遊園地「TIVOLI」が存在する。

2  「TIVOLI」は、ディズニーランドに代表される今日の都市型遊園地の先駆け的な存在であり、その遊園地内には各種レストラン約三〇店、コンサートホール(シーズン中一五〇以上のコンサートが開かれる。)、屋外ステージ、パントマイム劇場、子供劇場、ジェットコースターや観覧車などの遊戯施設、噴水・池・花壇による庭園がある。

3  「TIVOLI」は、コペンハーゲンの気候の関係で、一九五五年以来、四月下旬(一九九六年は五月一日)から九月中旬の夏のみの開園となっているが、営業期間中には、様々なショー、コンサート、少年衛兵隊による行進、花火等の催しが繰り広げられ、毎年約四〇〇から五〇〇万人を集客し(平成七年は約二四〇万人に激減した。)、開園以来の来客数は一九九五年当時で二億七四〇〇万人を超えている。入場者の約半数は外国人であり、日本人観光客も相当数訪れている。

4  「Tivoli」という単語は、固有名詞としてはイタリアの地名を指すこともあり、フランスのホテルの名称としても使用されているが、コペンハーゲンの「TIVOLI」は、日本で発行されている北欧、デンマークの旅行ガイド、雑誌、書籍等において、デンマークを代表する世界的に有名な遊園地として、多くは、単に「チボリ」という表記により、そうでない場合には「チボリ公園」との表記により広く紹介されている。

四  右認定事実に照らせば、「チボリ」という称呼は、世界的に有名なコペンハーゲンの都市型遊園地を指すものとして、わが国においても広く認識されているものといわなければならない。

そして、原告自身が「チボリ」という三文字の表記によって原告の各種娯楽施設を指し示す略語として広く宣伝広告活動を行っていたとはいえないことにも鑑みれば、単に「チボリ」という称呼が、直ちに原告の各種娯楽施設の営業を他人の営業と識別する性質を有する称呼であるとか、原告の営業を表示する称呼として需要者に周知されているとか評価することはできない。

五  右のとおりであって、「株式会社チボリ」及び「チボリ」の名称が、原告の営業表示として西日本において周知性を獲得しているとの原告主張事実は認められないから、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法三条一項、二条一項一号に基づく原告の本件請求は理由がない。

第二  商標法に基づく原告の請求について

一  甲第二号証の二、第四号証の二によれば、本件登録商標は、左右に長い長方形のなかに左から右へやや小さく「宝塚」、その右にこれより大きく丸みを帯びた字で「チボリ」と記し、全体を赤地、文字を白抜きにしたものであることが認められる。

二  前記のとおり、「チボリ」のいう三文字の表記がコペンハーゲンに存在する世界的に有名な都市型遊園地「TIVOLI」を想起するものとしてわが国においても周知であることに照らせば、本件登録商標のうち「チボリ」という部分が、それだけで、本件商標権に係る指定役務についての原告の営業を、他人の営業から識別・想起させる識別力を有するということはできないのであって、本件登録商標は、「宝塚」という地名と「チボリ」という称呼が一体となって初めて、この商標によって示される指定役務に係る原告の営業を識別・想起させるものというべきである。

三  したがって、被告標章である「倉敷チボリ公園」のように「チボリ」という称呼を含む標章が、直ちに、本件登録商標に類似するということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、商標法三七条一項、三六条に基づく原告の請求は理由がない。

第三  結論

以上の次第で、本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 島田佳子)

別紙

〈省略〉

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