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神戸地方裁判所 昭和51年(わ)397号 判決

本店所在地

神戸市垂水区伊川谷町別府字水皆二〇一二番地

神戸樹脂工業

株式会社

(右代表者代表取締役 落勝之)

本籍

神戸市長田区蓮宮通三丁目一番地

住居

兵庫県芦屋市翆ケ丘一一番三九号

会社役員

落勝之

昭和二年一一月一八日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官遠藤太嘉男出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人神戸樹脂工業株式会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人落勝之を懲役一年に処する。

被告人落勝之に対しこの裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人両名の連帯負担する。

理由

一、罪となるべき事実

被告人神戸樹脂工業株式会社(以下、被告会社と言う。)は、神戸市垂水区伊川谷町別府字水皆二〇一二番地に本店を置き、樹脂製品の製造、加工及び販売等を営業するものであり、被告人落勝之は昭和三九年四月被告会社の設立以来現在に至るまで引き続いて被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括してきたものであるが被告人落勝之は、被告会社の業務に関し、その昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度の法人税の額につき法人税を免れようと企て、昭和四九年五月三〇日、兵庫県明石市中崎一丁目六番一六号所在の明石税務署において、所轄の同税務署長に対し、被告会社の右事業年度における実際の所得金額が二億九、三八一万四、八四一円で、これに対する法人税額が一億六三二万七、八〇〇円であるのに、材料の架空仕入費、機械工具の架空減価償却費等架空の損金を計上するとともに、製品等棚卸資産の期末棚卸高を一部除外する等の不正の方法により右所得金額の一部を秘匿して、右事業年度における被告会社の所得金額が二、六四四万三、八八三円で、これに対する法人税額が八一〇万七〇〇円である旨虚偽の内容の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右事業年度の被告会社の法人税額九、八二二万七、一〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一、被告人落勝之の当公判廷における供述

一、第二、四回公判調書中の被告人落勝之の各供述部分

一、被告人落勝之の検察官に対する供述調書六通及び大蔵事務官による質問てん末書七通

一、証人殿岡宏の当公判廷における供述

一、第五回公判調書中の証人渡辺篤志、第六及び第八回公判調書中の証人中村一夫、第九回公判調書中の証人槇下忠男、第九及び第一〇回公判調書中の証人松井寛太郎並びに第一一回公判調書中の証人寺本幸雄及び藤田幸二の各供述部分

一、司馬節夫、スワーツ初江(旧姓荒木)及び竹腰英雄の大蔵事務官による各質問てん末書

一、明石税務署長松本晴雄作成の証明書三通(昭和五一年四月二日付の分については被告人落勝之作成の法人税確定申告書の写添付)

一、被告人落勝之作成の法人税確定修正申告書の写

一、大和銀行京阪京橋支店長岡本七三、同銀行八重洲口支店長小宮山則雄、三井銀行梅田支店次長児嶋明及び川口鉄工株式会社大阪支店長殿岡宏作成の各確認書

一、国税査察官池田基一郎作成の調査報告書

一、試算表の写二通(弁第一及び第二号証)

一、大蔵事務官池田基一郎作成の脱税額計算書、脱税額計算書説明資料(損益)及び脱税額計算書説明資料付表

一、昭和四八年六月四日及び昭和五〇年六月一九日各閉鎖の被告会社役員欄の商業登記簿謄本

一、押収してある総勘定元帳一綴(昭和五二年押第二一号の一)、資掛帳一綴(同号の二)、振替伝票一二綴(同号の三)、領収書一綴(同号の四)、金型履歴簿一綴(同号の五)、製造工場設備台帳一綴(同号の六)、原料関係書類一綴(同号の七)、申告書控綴一綴(同号の八)、契約書綴一綴(同号の九)、金型一覧表一綴(同号の一一)、決算関係書類一綴(同号の一二)、及び在庫表一綴(同号の一三)

(弁護人の主張に対する判断)

検察官主張の所得金額は、損益法によって算定されたものであるが、弁護人は次の各点につき右所得金額の算定を争うので、以下その各争点について検討する。

一、期首材料棚卸高

弁護人は、検察官主張の期首材料棚卸高六、八〇一、八四八円は被告会社の公表額に従ったものと推測されるところ、被告会社では判示事業年度前の各決算において利益調整のため各棚卸高の操作を繰り返し行ってきており、右公表棚卸高も実地調査に基づくものではなく、前年度の操作された期末棚卸高を引き継いだものに過ぎず、判示事業年度の売上高等からしても、右検察官主張の棚卸高は実際より少くとも一、〇〇〇万円は過少である旨主張する。ところで、被告人落も当公判廷において弁護人の右主張にそう供述をしているが、前指の関係を各証拠によると、なるほど、検察官主張の右期首材料棚卸高は被告会社の公表額に一致しているけれども経理上の算出による昭和四八年五月以降の各月末ごとの材料棚卸高は、五月末で五、七八四、二〇〇円であり、六月末では一〇、五九三、五七五円に増加しているものの、七月から九月の各月末ではいずれも七〇〇万円台にとどまり、一〇月以降から毎月ごとに増加し、昭和四九年二月当時の試算で同月三月末には、四七、九七九、五五三円にまで高騰する経過をたどっていて、その間の各月ごとの材料棚卸高の変動に応じて変化してきたこと、また、被告会社の対外的信用を保持するために無理に利益の捻出計上を図った昭和四六年三月末決算の試算においても、同期末材料棚卸高は六、六九八、二九九円と計上され、同様の昭和四七年三月末決算の試算においても同期末材料棚卸高は五、六九三、一一三円と計上されているのに過ぎないこと、そして、被告人落自身が本件査察段階においては一貫して昭和四八年三月末決算及びこれに基づく法人税確定申告は正確である旨供述していることが認められ、以上の事実に照せば、右検察官主張の期首材料棚卸高は正当なものと認めるのが相当である。もっとも前掲の関係証拠によれば、判示営業年度の製品売上高は九九三、四三四、九八四円、期末製品棚卸高は五一、六五二、九二五円であって、右製品売上高に右期末製品棚卸高を加えた合計金額は一、〇四五、〇八七、九〇九円(以下、製品売上高等合計金額と言う。)となるのに対し、材料仕入高は三七六、五〇二、五〇三円、期末材料棚卸高は五〇、二七九、五〇三円、期首半製品棚卸高は二、四二二、一九四円、期末半製品棚卸高は一、六〇一、五一四円であって、右材料仕入高に右期首半製品棚卸高及び右検察官主張の期首材料棚卸高六、八〇一、八四八円を加えた合計金額から右期末材料棚卸高及び期末半製品棚卸高を差し引いた金額は三三三、八四五、五二八円(以下、材料仕入高等合計金額と言う。)となることが認められ、右製品売上高等合計金額と材料仕入高等合計金額を対比してみると、前指の関係各証拠上認められるその他の現実に支出された製造原価、一般管理費及び販売費並びに現実に生じた損失金を考慮しても、右製品売上等合計金額が右材料仕入高等合計金額に対して相当過大であると言えるが、前掲の関係各証拠によれば、判示事業年度中特にその後半において製品の市場状況から製品価格が異常に高騰したことにより、製品売上高も非常に上昇したことが認められるのであるから、右製品売上高等合計金額と材料仕入高等合計金額の対比によって前記認定を覆すのは困難である。

二、減価償却費

(一)  弁護人は、被告会社は昭和四八年一〇月初旬に伊藤忠化工機株式会社から川口鉄工株式会社製造の射出成型機二台(KS四四〇E及びKS六〇〇E)を即納で購入することにして、その売買契約を締結したところ、その後、その納入時期が機械の一部仕様変更により同年内に変更されたものの、結局、右射出成型機二台は被告会社の督促にもかかわらず右川口鉄工株式会社の一方的な事情によって昭和四九年五月に被告会社に完納されたのであるが、被告会社ではかかる場合の業界の慣習に従い通常の経理処理として判示事業年度において右射出型機二台の減価償却費一三、五六七、六六六円を損金に算入計上したのであって、その経理処理は客観的に正当であるばかりか、この点につき被告人落に脱税の犯意もないので、検察官が右減価償却費の計上を租税ほ脱の手段とみて否認することは失当である旨主張する。ところで、前掲の関係各証拠によると、前記弁護人主張の射出成型機二台の購入契約の締結、その納入時の約定関係及びその納入の遅れた事情がほぼ認められるが、現実に右射出成型二台が被告会社に完納されたのは昭和四九年五月一〇日であることが認められるのであって、法人税法二条、同法施行令一三条により減価償却の対象資産は現に事業の用に供されているものに限定されるから、前記認定のとおり判示事業年度後に完納された右射出成型機二台については、同法上判示事業年度においてはその減価償却費を計上することが許されず、また、このことは同法施行令一三条に明記されていることでもあるばかりか、前掲の関係各証拠によれば、被告人落において判示事業年度の被告会社の利益圧縮のため故意に右射出成型機二台を昭和四八年一二月に現実に取得したものとしてその減価償却費の計上を図ったことが明らかであるから、被告人落に右減価償却費の計上による脱税の犯意があったことも明らかである。従って、検察官の右減価償却費の否認は正当である。

(二)  弁護人は、検察官は被告会社の青色申告承認取消を理由に被告会社が判示事業年度に中小企業者等の機械の初年度五分の一特別償却費として計上した減価償却費一八、八六〇、〇〇〇円の損金勘定算入を否認しているが、右青色申告承認取消は判示法人税の確定申告後になされたものであるから、右確定申告当時を基準にして考察する以上、右減価償却費の計上は正当であるし、これについて被告人落に脱税の犯意もなかった旨主張する。なるほど、前掲の関係各証拠によれば、被告会社は、判示法人税確定申告を青色申告制度によって行ったが、その後の昭和五一年五月三一日に所轄明石税務署長から昭和四八年四月一日以降の事業年度について青色申告承認を取消されたこと、そして、被告会社は判示事業年度において右(一)記載の射出成型機二台以外に取得した機械、装置につき当時の租税特別措置法四五条の二に基づく前記減価償却費一八、八六〇、〇〇〇円を計上したことが認められる。しかし、前掲の関係各証拠によると、被告人落は被告会社の経理関係帳簿の仮装等の方法により本件法人税の虚偽過少申告に及んだことが明らかで、このような被告会社の代表者たる被告人落の脱税行為は、青色申告承認制度と根本的に相容れないものであって、も早や被告会社が右制度による税法上の特典を享受する余地はなく、被告人落自身においても前記虚偽過少申告の結果として後に青色申告承認の取消を受けるであろうことは右申告当時において当然認識できることであるから、検察官の右減価償却費の否認は正当である(昭和四九年九月二〇日最判、同年同月二六日最判、同年一〇月二二日最判参照)

固定資産廃棄損

弁護人は、被告会社が昭和四二年に購入した射出成型機HS五〇〇・一台及び昭和四六年に購入した射出成型機RS六五〇-一〇〇・一台はいずれも欠陥機で昭和四七年頃から極度に稼働能率の低下を来たし、昭和四八年秋頃には完全に使用されなくなって廃物化したが、その廃棄処分につき採算が合わなかったため被告会社の工場内に放置されていたものであるから、被告人落が判示事業年度において右射出成型機二台の廃棄損合計六、四六〇、一二一円を損金計上したことは、客観的にも正当であり、また、この点につき被告人落に脱税の犯意もないので、検察官が右射出成型機二台の廃棄損の計上を租税ほ脱の手段とみて否認するのは失当である旨主張する。ところで、前掲の関係証拠によれば、右射出成型機二台は、いずれも故障を頻発する等欠陥機械で、既に被告会社内で廃棄処分に付する話も出ていたものではあるが、昭和四八年秋頃までは曲りなりにも使用されてきたし、昭和四九年三月末当時なお被告会社の工場内に据え置かれていたことが認められるのであるから、右射出成型機二台については、法人税法三三条二項、同法施行令六八条三号により評価損を計上できるかも疑問であるばかりか、同法上弁護人主張のように廃棄損の計上までは到底認められない。また、前掲の関係各証拠によると、被告人落は判示事業年度の被告会社の利益圧縮手段として特に機械設備につき資産額の操作を図っていることが認められるのであって、右廃棄損の計上につき被告人落に脱税の犯意があったものとも認められる。

四、簿外支出

(一)  弁護人は、被告会社は判示事業年度中に塩ビ継手の金型製造業者河井金型(代表者河井某)から金型一〇面を八〇〇万円で購入したが、右河井の要請により右金型の購入を簿外取引としてその代金八〇〇万円を四、五回に分割して簿外現金で支払っているので、右代金を損金として利益額から控除すべきである旨主張する。ところで、本件全証拠によっても、右弁護人主張の事実を確実に認定し難いばかりか、たとえ弁護人主張の事実があったとしても、前掲の関係各証拠によれば、右金型は工具として減価償却資産に該当するところ、前記認定の所得算定上判示事業年度中に被告会社に現存した金型については、全部にわたって減価償却費の損金計上のなされていることが認められるから、弁護人主張の右金型一〇面の購入に関しては改めて損金の追加計上を認めるべき理由はない。

(二)  弁護人は、被告会社では判示事業年度中に従業員の求人のため沖縄等まで出向いた旅費等の諸費用約一五〇万円及び右求人に関係した接待、進物等の費用約一五〇万円の合計約三〇〇万円を簿外で支出したので、これを損金として利益額から控除すべきである旨主張する。ところで、前掲の関係各証拠によれば、被告人落が判示事業年度中に被告会社の従業員の求人のため沖縄方面等にまで何回か出向いたことが認められなくもないが、地方、前記認定の所得算定において既に旅費交通費として三、八八三、九七二円、接待交際費として損金計上分四、六一〇、一二五円、損金不算入分五九二、九八八円が計上されており、しかも、被告人落は捜査段階において被告会社では簿外経費がなかった旨供述していることが認められるのであって、これらの事実に徴すると、被告人落が右のように求人に出向いたとしても、その関係諸費用は右認定の旅費交通費及び接待交際費でまかなわれたものと認めるのが相当である。

以上のとおりで、弁護人の各争点についての主張はいずれも採用し難い。

(法令の適用)

被告人等の判示所為は、法人税法一五九条一、二項(同法七四条一項二号。なお、被告会社については更に同法一六四条一項を適用)に該当するところ、被告人落勝之に対しては所定刑中罰金刑を併科せずに懲役刑のみを選択し、その所定刑期又は罰金額の範囲内で被告会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人落勝之を懲役一年に処し、被告人落勝之に対しては情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文、一八二条によりこれを被告人両名に連帯負担させることにする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒石利雄 裁判官 米田俊昭 裁判官 能勢顕男)

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