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神戸地方裁判所 昭和57年(ワ)1243号 判決

原告

甲南機動開発株式会社

右代表者代表取締役

宮本正士

原告

宮本正士

右両名訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

谷口宗義

秀平吉朗

右中嶋訴訟復代理人弁護士

柳村幸宏

増田勝久

被告

株式会社中村組

右代表者代表取締役

中村信雄

右訴訟代理人弁護士

長尾悟

主文

一  原告らの各請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲南機動開発株式会社に対し、金五四三七万円、原告宮本正士に対し、金二八〇万円及び右各金員に対する昭和五六年二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告宮本正士は、榎敏男と共同で次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)の権利者であるが、原告甲南機動開発株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和五二年一〇月三〇日原告宮本及び榎との間で、本件発明につき独占的通常実施権設定契約を結び、実施権者となつた。

発明の名称 杭の埋設方法

出願 昭和四四年一一月二六日(出願番号昭和四四―九四八九四の分割)

公告 昭和五四年二月二一日(公告番号昭和五四―三二八三)

登録 昭和五七年一一月一二日(登録番号第一一二一二五四号)

特許請求の範囲

「ケーシング内にオーガースクリューの内嵌挿された掘進機で地中に削孔を行うに際し、そのスクリューの軸芯を利用してべントナイト溶液を注入しながら、前記ケーシングの周壁に設けられた貫窓よりそのべントナイト溶液を排出させて該削孔壁を崩壊防止の粘膜状に塗り上げると共に、回転するケーシングとスクリューでケーシング内の土壌を攪拌混練し、次いで削孔が支持層に達したのち、前記べントナイト溶液をセメントぺーストに切換え乍ら土壌をセメントモルタル泥土状のソイルセメントの練状物とし、その後に掘削機の抜取りで得られた削孔へ既製パイルを挿入する事を特徴とする杭の埋設方法。」

2(一)  本件発明は、次の各工程を構成要素とする。

(1) ケーシング内にオーガ―スクリューの内嵌挿された掘進機で地中へ削孔を行うに際し、そのスクリューの軸芯を利用してべントナイト溶液を注入しながら、前記ケーシングの周壁に設けられた貫窓よりそのべントナイト溶液を排出させて該削孔壁を崩壊防止の粘膜状に塗り上げるとともに、回転するケーシングとスクリューでケーシング内の土壌を攪拌混練する工程。

(2) 削孔が支持層に達したのち、前記べントナイト溶液をセメントペーストに切換えながら土壌をセメントモルタル泥土状のソイルセメントの練状物とする工程。

(3) その後に削孔機の抜取りで得られた削孔へ既製パイルを挿入する工程。

(二)  杭の無騒音、無振動埋設に関する従来のプレボーリング工法では、孔壁の崩壊によりパイルの挿入が円滑にできなかつたり、パイルの挿入により孔壁の粘土が崩落したりしてパイルの支持力を弱めたりする欠点があつたが、本件発明はこれらの欠点を除去し、円滑な無騒音、無振動埋設を可能にしたものである。すなわち、本件発明は、右の構成を採ることによつて次の作用効果を奏する。

(1) 削孔の直径とパイルの直径の差がわずかでかつ削孔が垂直であるから、パイルが斜入することがなく安全性が高い。

(2) パイル下端部のセメントモルタルが強力であるから、該パイルの下端開口の閉鎖が確実であり、またジョイント部文の腐食がない。

(3) ケーシングに貫窓が形成されているため、削孔時にべントナイト溶液が削孔周壁に浸潤してその周壁が粘膜状に塗られ、これにより孔壁の崩壊防止ができるから、パイル挿入時に支障をきたすことがない。

3  被告は、王子・富士・湊共同企業体から注文を受けて、昭和五五年一〇月二九日から同五六年二月二四日までの間、神戸市須磨区落合団地内において、落合中央公園多目的体育館建設工事に伴うACパイル打設工事(以下「本件工事」という。)を行つた。

4  被告は、本件工事を行うに際し、原告宮本が本件発明についていわゆる仮保護の権利を有すること及び原告会社がこれを独占的に実施しうる権利を有することを原告らから警告されたにもかかわらず、これを無視して本件工事で本件発明の工法を実施した。

5(一)  本件工事は、本件発明によることが施主側から要求されており、本件発明を独占的に実施しうる原告会社のみがこれを行うことができたものであるにもかかわらず、被告はこれを受注して本件工事を行つた。原告会社が本件工事を受注していれば、請負金額は二億〇七八四万九一五八円であり、その原価は一億五〇六一万二八五三円であつたから、その差額五七二三万六三〇五円の利益をあげることが可能であつたにもかかわらず、被告の右行為によりこれを失つた。そして原告会社は、前記実施権設定契約において原告宮本に対して五パーセントの実施料を支払う旨約束していたから、五七二三万六三〇五円の九五パーセントに当たる五四三七万四四八九円が原告会社の損害であり、その五パーセントに当たる二八六万一八一六円が原告宮本の損害である。

(二)  仮にそうでないとしても、被告は本件工事を九一九〇万円で請負い、その原価七八六八万八三九四円との差額一三二一万一六〇六円の利益をあげたから、特許法一〇二条一項の適用または類推適用により、その九五パーセントに当たる一二五五万一〇二五円が原告会社の損害であり、その五パーセントに当たる六六万〇五八一円が原告宮本の損害である。

よつて、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、前記損害金のうち、原告会社においては金五四三七万円(一万円未満切捨て)、原告宮本においては金二八〇万円及び右各金員に対する不法行為の後である昭和五六年二月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告宮本が榎敏男と共同で本件特許権の権利者であることは認めるが、その余は不知。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は否認する。

被告は本件工事に本件発明の工法を実施していない。すなわち、

(一) 本件工事を行うにあたつて被告が実施した工法(以下「被告工法」という。)は、被告代表者の中村信雄(以下「中村」という。)が権利者である次の特許権(以下「被告特許権」といい、その特許発明を「被告特許発明」という。)による工法である。

発明の名称 杭の無騒音、無振動埋設方法及びその装置

出願 昭和五〇年一二日(特願昭和五〇―五七五九五)

公告 昭和五二年九月二一日(特公昭和五二―三七二八一)

登録 昭和五三年八月一五日(第九一六九四〇号)

特許請求の範囲

「1 断面円弧状をなした数枚の縦長鈑の両側縁を帯輪及びレーシング或は帯状鈑等を以て適当間隔に環状に連結固定して、その連結環状体の径を上記縦長鈑の径より大ならしめるように構成した縦長籠体に中空軸を有する削孔機を内装し、削孔機と籠体とを相互に逆回転せしめながら、中空軸を通じてベントナイト溶液等のいわゆるのり状液を削孔機の先端噴出孔より噴出させつつ地中を削孔し、その間に上記溶液を孔壁面に回転下降する籠体の縦長鈑の湾曲面を以て摺擦し、所期の深さに削孔が完成した後、削孔機と共に籠体を孔内より引きあげて、該孔内に既成杭を挿入することを特徴とする杭の無騒音、無振動埋設方法。

2 断面円弧状をなした数枚の縦長鈑の両側縁を帯輪及びレーシング或は帯状鈑等を以つて適当間隔に環状に連結固定して、その連結環状体の径を、上記縦長鈑の径より大ならしめるように構成した縦長籠体に中空軸を有し、先端に噴出孔を有する削孔を機内装して、削孔機と籠体とを相互に逆転可能ならしめた杭の無騒音、無振動埋設装置。」

(二) 被告が本件工事で使用した装置、工法は次のとおりである。

(1) 装置は、直径五〇八ミリメートル、長さ一・五メートルの鋼鉄製帯輪一本、直径前同様の長さ一メートルの同帯輪三本、直径前同様の長さ一五メートルの同帯輪一本を五〇センチメートルの間隔をおいて並べて、両側より左右対称になるよう断面円弧状の縦長鈑を張りつけ、溶接して一体となし、先端に切刃をつけたケーシングである。(右の装置は一例を示したもので、削孔の深さにより使用する帯輪の本数は適宜加減される。)

(2) このケーシングの特徴は一見楕円型のケーシングで真円の孔を掘ることである。このケーシングに回転を与え、地中を削孔するとき、ケーシングと削孔面が接する箇所は、理論上は左右対称の位置(イ)、(ロ)の二点であり、ケーシングは細長い楕円筒であるため(イ)を延長すれば(イ)―(イ)′及び(ロ)―(ロ)′の線になる。すなわち(イ)―(イ)′及び(ロ)―(ロ)′の線で削孔壁を摺擦し、孔壁面を仕上げる。その際、地中において削孔壁面とケーシングが接触する面積は、断面円筒の三六〇分の二くらいにすぎず、摩擦抵抗が他の工法の数百分の一に減少される。これがこの装置の最大の特徴である。

(3) 右の装置を使用して所定の深さまで削孔し、根固めセメントミルクを注入、削孔完了後コンクリートパイル(杭)を挿入、パイルの自重で入らない部分をドロップハンマーで打撃を与え、削孔底まで叩き込み、抗打を完了する、プレーボーリング工法である。

(三)(1) 本件発明による工法と被告特許発明による工法との主たる相違点は、前者が「ケーシングの周壁に設けられた貫窓よりベンナイト溶液を排出させて該削孔壁を崩壊防止の粘膜状に塗り上げる」のに対し、後者は「籠体の円周より突出した縦長鈑の湾曲面の昇降回転により孔壁面を摺擦して″こて″作用を行わしめて孔壁並びに削孔機に損傷を与えない」ところにある。そこで、本件発明はケーシングに貫窓をあけるのに対し、被告特許発明では、これが籠体のものというのである。

(2) 本件発明のケーシングは一本の真円の円箇に貫窓をあけたもので、削孔中土砂に接する部分は全面である。すなわちケーシングの外周面は平面で削孔壁に密着し、ケーシングと削孔土砂とは間隙のできない構造である。従つて摩擦抵抗が大きいのでエネルギーのロスが大きい。

一方、被告特許発明では籠体と称しているが、これは製作上又は機能的な点に着眼した呼称であり、ケーシングは縦長鈑(摺擦鈑)と帯輪とレーシング或いは帯状鈑とからなり、半径の違う縦長鈑を帯輪及びレーシング或いは帯状鈑の複数の鋼鉄を接合して仕上げられるものである。この縦長鈑と帯輪の接合状態、又は形状により、すなわち帯輪(数十センチメートルから数メートルに及ぶものがあり、掘削の土壌にあわせて長さを変える。)が長い形状のものであれば、完成されたケーシングは、帯輪と帯輪の間隔が狭い構造の部分においては本件発明のケーシングの貫窓に似てくる。しかし、被告特許発明による工法は、この縦長鈑の凸面で削孔壁を摺擦するものであり、その接触面は、例えば縦長鈑が二本の場合は断面円筒の三六〇分の二にすぎず、摩擦抵抗が減少され、エネルギーのロスが少なくてすむところに独自の作用効果を奏するのである。

5  同5の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告宮本が榎敏男と共同で本件特許権の権利者であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告宮本が代表取締役を務める原告会社は、本件特許出願中の昭和五二年一〇月三〇日原告宮本及び榎との間で、原告宮本及び榎の特許出願にかかる本件発明について、原告会社が実施することのできる範囲は九州を除いた日本全域とすること等を内容とする本件発明の専用実施権許諾契約を締結したこと、右契約締結当時、原告宮本は右契約の締結により、九州を除いた日本全域において原告会社のみが本件発明を独占的に実施しうるものであると考えていたこと、さらに原告会社は、原告宮本ら本件特許権者と昭和五八年一月二一日本件発明の専用実施権設定契約を締結し、同年七月二二日その旨の登録をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、特許法九八条一項二号によれば、専用実施権の設定は、これを特許原簿に登録しなければその効力を生じないものとされ、それはいわゆる対抗要件ではなく効力要件であると解されるところ、前記認定によるも、そもそも本件発明が特許原簿に登録されたのは昭和五七年一一月一二日であり、原告会社の右専用実施権の登録がなされたのは、さらに遅れて同五八年七月二二日である。

したがつて、原告会社は、その登録がなされた昭和五八年七月二二日までの間においては専用実施権の効力を主張しえないといわなければならないが、通常、権利者と実施権者間で専用実施権の設定が約されたが、その登録に至らない間にもその実施が許諾されている場合には、実施権者は右実施につきいわゆる独占的通常実施権を付与されたものと同一視することができ、またそうみることが当事者の意思に合致するものと考えられる。もつとも、本件実施権設定契約が締結されたのは、特許出願中の間で本件発明が特許原簿に登録される以前であり、本件特許権自体その効力を生じていないのではあるが、しかし、出願公告があつたときは、特許出願人の原告宮本及び榎は本件発明の実施権を専有できるいわゆる出願公告に基づく仮保護の権利を有することになるのであるから(特許法五二条一項、)ここに原告会社との間で独占的通常実施権を設定することが可能となつて、本件実施権設定契約が効力を生じたものと解するのが相当である。

そうだとすれば、原告会社は、右実施権設定契約後その専用実施権の登録を受けるまでの間においても、原告宮本らの有する仮保護の権利に基づき、また、特許権が効力を生じたのちはその特許権に基づき、本件発明の独占的通常実施権の設定を受けたものであつて、本件発明につき権原のない者の権利侵害を理由とする損害賠償の関係においては、実質上専用実施権者と同視して差支えない独占的通常実施権者と解するのが相当である。そして、独占的通常実施権はその法的性質が債権であるからといつて権利侵害による損害賠償請求を否定されるいわれはない。

二〈証拠〉によると、請求原因2の構成要件の分説及び作用効果に関する主張は相当である。

三請求原因3の事実は当事者間に争いがないところ、被告が本件工事において本件発明の工法を実施したか否かについて争いがあるので、以下この点を検討する。

1  〈証拠〉によると、被告代表者の中村は被告特許権の権利者であることが認められるところ、被告は本件工事においては被告特許発明の工法を実施したものであると主張する。

なるほど、本件発明は杭の埋設方法を、被告特許発明は杭の無騒音、無振動埋設工法及びその装置を、それぞれの発明内容とするものであるが、両者の工法は、まず地中を掘削或いは削孔するのに用いる装置、とりわけオーガースクリューといつた削孔機が内装されるケーシングの構造に重要な相違があるのであつて、〈証拠〉によれば、本件発明のケーシングは、周面に所要間隔をおいて段階的に貫窓を設けた裏円型の鋼管製ケーシングであり、右の貫窓はケーシングに直接切断機で穴をあけるのに対し、被告特許発明では、断面円弧状をなした数個の縦長鈑の両側縁を帯輪及びレーシング或いは帯状鈑等で適当間隔に環状に連結固定し、その連結環状体の径を右縦長鈑の径より大きくして構成する幾分楕円型となつた縦長籠体の形をとるケーシングであり、縦長鈑、帯輪及びレーシング等を組み合わせて適当な間隔で連結環状体を作つていくので、組み合わせの形から貫窓と名付けもてよい窓穴が設けられること、このように製作過程からして相違する両者のケーシングの特徴としては、もともとケーシングとその中に内装される削孔機は相互に逆回転しながら削孔機が地中を削孔していくのであるが、真円型鋼管製ケーシングは、地中にあつては土砂に接する部分が全面的で削孔土砂とは間隙のできない構造であるのに対し、籠体状のケーシングにあつては、形も幾分楕円形をなし、連結環状体の外周は凹凸ができるので、削孔土砂との接触面が小さく摩擦抵抗が減少されるといった作用効果があることが認められる。

2(一)  〈証拠〉によると、原告宮本は、被告が本件工事を実施していた期間中何回も工事現場に赴いて稼働中の被告の本件工事を見たが、被告は杭埋設の機械を二台持ち込んで仕事をしていたところ、杭埋設の工法は本件発明の工法であつて、使用するケーシングは貫窓を設けた真円型の鋼管製ケーシングであつた、このことは甲第六号証(第四号証の六)、第七号証(第四号証の四)の各写真に照らし、ケーシングに設けられている貫窓の状態を見ても明らかである、また甲第八号証(第四号証の八)の写真にも明らかなように、被告はその実施している工法にベントナイト溶液やセメントミルクを使用している、元来本件発明の工法では、削孔を行うに際し、スクリューの軸芯を利用してベントナイト溶液を注入しながら、ケーシングの周壁に設けられた貫窓よりベントナイト溶液を排出させて削孔壁を崩壊防止の粘膜状に塗り上げるところに特徴があるので、ベントナイト溶液を使用しておれば、たとえケーシングの形状に相違があつたところで本件発明の工法を用いているとみられる旨供述する。

(二)  他方、〈証拠〉によると、被告代表者中村は、本件工事で用いたケーシングは、前記の被告特許発明に従つて、断面円弧状の縦長鈑の両側縁を帯輪及びレーシングで環状に連結固定した縦長籠体の形をとつたケーシングであり、原告宮本の言うような真円型一本の鋼管製ケーシングとは異なる、もとより縦長鈑、帯輪及びレーシングの組み合わせの形から窓穴(排出土の穴)を設けるのは当然であつて、この窓穴はケーシングの周壁に設けられた貫窓と似た形状をとつているが、その製造過程は全く異なる。甲第七号証の写真は、ケーシングを引上げた状態で地中の泥が一杯付着しているのではつきりしないが、甲第六号証の写真を見れば被告のいう窓穴が縦長鈑、帯輪をもつて環状に連結した組み合わせの形からできていることがわかるし、〈証拠〉の各写真を見れば、より明瞭にケーシングの形が原告宮本の言うケーシングと異なつていることがわかる。また、被告は本件工事でベントナイト溶液を使用しているが、原告宮本のいう目的で使用したものではなく、杭周充填のために使用したものであつて、このことは甲第八号証の写真にもベントナイト溶液が杭周充填液として用いられていることが示されている。〈証拠〉の写真で撮影のケーシングは、本件工事で使用されたケーシングそのものではないが、同型のものであり、右写真を見れば被告のケーシングは縦長鈑、帯輪をもつて環状に連結した籠体であつて、真円型の一本の鋼管型ケーシングと異なることがわかる旨供述する。

(三)  右のように、被告が本件工事で使用したケーシングの構造について、原告宮本と被告代表中村の供述はまつたく対立する。そこで、原告宮本の前記供述の信用性はさておき、原告らは本件工事で被告が使用したケーシングを撮影した〈証拠〉の写真から、右ケーシングは本件発明の工法に基づく構造のケーシングと主張するのであるが、なるほど、〈証拠〉の写真によると、ケーシングは、一見原告ら主張の構造のケーシングと受け取られる状況が窺えるけれども、一方、〈証拠〉の写真に見られるケーシング(このケーシングを被告が本件工事で使用したことは明らかである。)は、一見して原告ら主張の構造のケーシングと異なる構造のケーシングであることが認められるので(原告宮本自身も甲第七号証の写真に写つているケーシングと〈証拠〉に写つているケーシングとは異なる機械であることを認める供述をしている。)、両者の写真を対比すると、被告代表者中村の供述するように、甲第七号証の写真はケーシングに泥が一杯付着しているのでケーシングの構造がはつきり写つていないとみることができるのであつて、そうすると、甲第七号証の写真をもつて被告が本件工事で使用したケーシングを原告ら主張の構造のケーシングと認定する資料にはできない。

また、被告が本件工事でベントナイト溶液を使用していることは前記のとおりであるが、被告特許発明の工法においても、縦長籠体に中空軸を有する削孔機を内装し、削孔機と籠体とを相互に逆回転せしめながら、中空軸を通じてベントナイト溶液等のいわゆるのり状液を削孔機の先端噴出孔より噴出させつつ地中を削孔するのであるから(特許請求の範囲参照)、もともとベントナイト溶液の使用は予定されているのであつて、被告がベントナイト溶液を使用していたからといつて、被告が本件発明の工法を実施したことの証左とすることはできない(もつとも、被告のベントナイト溶液の使用は杭周充填液としての使用と窺えるのであつて、原告ら主張の目的のために使用されたものとはいえない。)。

ところで一方、〈証拠〉によると、本件工事が王子・富士・湊共同企業体からいわゆる下請に出され、競争入札によつて本件工事を受注する下請業者が決定される運びとなり、実際に競争入札に参加したのは被告とコスモ商事株式会社の両社であつたが、被告は、競争相手のコスモ商事が本件工事を受注した場合には実際の工事は原告会社が実施するといつた情報を得ていたこと、そして、原告会社も本件工事の受注に参加する意向を有し本件工事の見積りを提出していたことが認められるところ、結局本件工事は被告が受注してこれを実施することになつたものの、受注をめぐり右認定の事情が伏在し、この情報を知つている被告において本件工事を実施するに際し、杭の埋設についてすでに自らの被告特許発明に基づく工法を使用できるのに、本件工事の受注をめぐりいわば競争相手でもあつた原告会社の有する本件発明の工法を、あえて特許権侵害の問題が発生する虞を犯してまで使用しなければならない事情があるとみるのは困難である。

さらに、〈証拠〉によると、被告代表者の中村は、本件工事で使用したというケーシング改良型につき、昭和五五年一二月二七日杭の無騒音、無振動埋設装置として実用新案を出願し、同五七年七月一六日公開、同五九年七月一〇日に出願公告が行われ、これが実用新案権の登録を経て実用新案権を有するに至っていることが認められる。

(四)  右(三)で認定の事実を考え併せると、本件工事で被告が原告ら主張のケーシングを用い本件発明の工法を実施していたとの原告宮本の前記供述は信用性に乏しくそのまま採用することはできないし、また、原告ら主張の趣旨に副う証人藤木孝之の証言も採ることはできない。

結局、本件工事において被告が使用したケーシングが本件発明のケーシングであることを認めるに足る証拠はない。

3  以上の次第であるから、被告が本件工事において本件発明の工法を実施したとの原告らの主張は、これを認めるに足る証拠がなく、失当といわなければならない。

四右のとおり、被告が本件工事において本件発明の工法を実施したとの原告ら主張を認めることはできないのであるから、これを前提とする原告らの本訴請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がないというべきである。

よつて、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂詰幸次郎 裁判官萩尾保繁 裁判官石原稚也)

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