大判例

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神戸地方裁判所姫路支部 昭和34年(わ)316号 判決

被告人 原田秀一

明三八・一・一〇生 文具雑貨商

主文

被告人に対する本件公訴はこれを棄却する。

理由

被告人に対する本件起訴状を検討するに、右起訴状には公訴事実として、被告人は昭和三四年四月二三日施行せられた兵庫県会議員選挙に際し、兵庫県相生市より立候補した栗尾謙一の出納責任者であつたことが記載されているのみであつて、被告人栗尾謙一等五名に対する合計十三の訴因中、被告人原田秀一に関する罪となるべき事実は全然記載されていないのである。そこで検察官は昭和三四年一〇月二日の本件第一回公判期日において、右起訴状訴因第二の被告人栗尾謙一同大角俊太郎は共謀の上、(一)昭和三四年四月二九日頃相生市南荒神町二三八〇番地宮崎好信方において同人に対し、選挙運動をした報酬として現金九、五〇〇円を供与し(二)同年同月三〇日頃相生市南荒神町三三九三番地高畑昌英方において同人に対し、選挙運動をした報酬として現金七、〇〇〇円を供与したとの事実の冒頭を「被告人栗尾謙一同原田秀一同大角俊太郎は共謀の上」と補正する旨申し立て、右被告人の弁護人は右補正に異議なき旨の意見を述べた。よつて右補正の可否を考究するに、公訴の提起は起訴状を提出してしなければならないこと、起訴状には公訴事実を記載しなければならないこと、公訴事実は訴因を明示し、日時場所及び方法をもつて罪となるべき事実を特定してしなければならないこと、刑事訴訟法第二五六条の命ずるところである。従つて起訴状に公訴事実を記載することは公訴の有効要件であるから、これを欠く公訴状は無効であるといわなければならない。そこで右の如き無効の起訴状を補正して有効なものとなし得るかの問題を生ずるのであるが、無効の起訴状も冒頭手続までに補正追完され、被告人がこれに同意したときは、訴訟経済上その追完を許すべきであるとの見解(平野竜一教授、法律学全集刑事訴訟法一三四頁一四六頁参照、もつとも同教授の右見解がすべての無効を含む意味かどうか必ずしも明かでない)があるけれども、しかし右の如き便宜な解釈を是認することにより、刑事訴訟法第二五六条が、憲法第三一条第三九条等の人権保障規定を基盤とし、刑事被告人の権利を保護するため、公訴の提起につき、公訴状に被告人を特定し、訴訟の物体を明確にする等、厳格なる方式を視定した法意が軽視され、若しくはその法律効果が減殺されるが如きことがあつては、刑事被告人となるべき者全体に関する重大な問題である(公訴の提起を受けた被告人は、公訴の無効を主張して一度公訴棄却を得ても、再提訴されれば結局実体判決を受けなければならない弱い立場にあるのであるから、いきおい右の如き補正にも同意するの外なきに至るであろう。万が一そのことから公訴方式の厳格性が軽視されるようなことがあつてはことは重大である)から、右見解には更に検討を要するものがあり、当裁判所のにわかに採用しがたいところである。従つて起訴状の補正追完は起訴状の記載に絶対無効(絶対不可欠の要件欠除)とならない程度の不明確が存する場合に、それを明確にする限度においてこれを許容すべきものと解する。次に本件起訴状の欠陥が絶対無効にあたるかどうかを検討するに、本件起訴状の記載と検察官申立の補正事項とを照合すると、検察官は訴因第二事実を記載の際その冒頭に「被告人原田秀一」の七字を脱落したものであることが窺われるけれども、しかし本件起訴状の公訴事実の記載自体からみれば、結局、被告人に関する公訴事実の記載は全然欠除しておるものと認めるのほかないから、右公訴状は公訴事実の記載を欠き絶対無効というべく、従つて右公訴事実に七字を挿入することは、単に不明確な訴因を明確にするという性質のものではなくて、前記訴因第二(一)(二)事実全文を被告人のため書き加える行為であるといわなければならないから、検察官申立の右補正は、被告人又は弁護人の同意の有無に拘らず、これを許容しがたいものと認め、刑事訴訟法第三三八条第四号により主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎)

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